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レッチ島 by 佐藤勝 (OST 『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』より その2)
タイトル
レッチ島(Lech Island)
アーティスト
佐藤勝(OST)
ライター
佐藤勝
収録アルバム
『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(Godzilla vs. the Sea Monster)
リリース年
1966年
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このところ、まともな更新がなく、新ブログのご案内やら、しょーもないジョークやら、妙なことばかりやっていますが、今日はレギュラーな更新です。

新ブログのほうは、第一の目的は冗談でもなんでもなく猫の餌代なのですが、当家のミラーないしはアーカイヴにしようかという考えもあって、その線もまだ抹消していません。

丸ごと引っ越しも考えたのですが、膨大なテキストの蓄積というのは、つまるところ、もっとも効果的なSEO対策らしく、その種の努力をまったくしていないにもかかわらず、当家の記事は販売サイトを抑えこんでグーグルで上位にくることが多く、ここを捨てるのは現実的ではないのです。

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〈赤イ竹〉レッチ島基地の桟橋とクルーザー(キャプテンは天本英世!)。このあたりにもジェイムズ・ボンド・シリーズの影響を感じる。

ということで、新家のほうに重心を移す予定ですが、こちらもときおり更新しつつ、新家への入口として使っていこう、というのが目下の考えです。あるいは、こちらは昔のように純粋に音楽を扱うことにし、映画と映画音楽は新家のほうで、という考えもあります。どうなるかはわかりませんが、体力の限界も厳としてあるので、落ち着くところに落ち着くでしょう。

当面は、当家の記事の引き写しで新家を更新した場合は口をつぐみ、当家のアーカイヴとはあまり重ならない記事であったり、当家ですでに扱ったものでも、視点を変え、切り口を新しくしたものならば、更新のお知らせをする、というような形でいくつもりです。

それでは、なかなかケリをつけられなかったエビラをば、今日こそ活け作りにしてくれます。

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◆ 不自然なプロット ◆◆
『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』のプロットが不自然なのは(自然なプロットのゴジラものなんていうのがあるのか、といわれると言葉に詰まるが!)、これはもともとゴジラものではなく、キング・コングものとしてつくられたせいなのかもしれません。それが端的にあらわれたのが、このゴジラが日本本土を襲撃しないことです。全部を見たわけではないのですが、そういうゴジラはこれだけではないでしょうか(ただし、このつぎにあたる『ゴジラの息子』も南洋ものかもしれない)。

『南海の大決闘』というタイトルどおり(いや、南海電鉄の「南海」は紀州を指すが!)、冒頭の日本でのシークェンスをのぞけば、話はどことも知れぬ南海の島々に終始します。ゴジラが暴れる「ストンピン・グラウンド」は、実態のよくわからない秘密組織〈赤イ竹〉の基地がある〈レッチ島〉とその周辺の海だけですし、あとは近傍にあるという〈インファント島〉しか出てきません。

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モスラとインファント島島民。以前より人口が減少したように感じるのはこちらのひが目か?

どちらの島も人口稀薄で、町といえるようなものはなく、レッチ島のほうに目的不明の構築物があるくらいで、ゴジラはしかたなくそれを壊してはみるものの、居眠りをしたり、人間の女(水野久美)に色目を使ってみたり(種がちがうじゃネーか!)、加山雄三の物真似をしたり、ろくなことをしません。

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赤イ竹秘密基地の地上施設。なんだかわからないが、はじめからゴジラに踏みつぶされる予定だから、気にしなくていいのである。ゴジラはいつも、よろめいてビルにもたれかかりながら壊すのを楽しみにしているふしがあるが、こういう平屋状態では、よろめくわけにもいかず、いかにも物足りなさそうに踏みつぶす。

この映画を見たとき、わたしは中学一年生でしたが、こういうシャレのキツいゴジラがどうも気に入らず、なんだか子ども向け、いや、つまり、幼児向けのような気がしたものです。このあたりから、ゴジラ映画はきびしい時代に入るのでしょう。

◆ さらにエキゾティカ ◆◆
それでもなおかつ、音楽は面白く、その1でご紹介した〈ヤーレン号に乗ってⅡ〉以外にも、興味深い曲があります。残ったトラックのなかでエキゾティカに分類できるのは、〈レッチ島〉という曲です。これはもうタイトルからして「島」とくるのだから、エキゾティカのにおいは文字からも漂っちゃっています。

サンプル 〈レッチ島〉

パーカッションの扱いからいうと、ややジャングル・エキゾティカ寄りではありますが、もちろん、子ども向け映画なので、佐藤勝は官能的なほうには向かわず、品のよいところに収めています。

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また、メイン・タイトルの変奏曲である〈レッチ島への脱出〉という曲は、エキゾティカ的なアレンジ、サウンドになっています。メイン・タイトルよりこちらのヴァージョンのサウンドのほうがいいと思います。メイン・タイトルにはもっとゴジラらしい曲のほうがよかったのではないでしょうか(キング・コングのつもりでつくってしまったために、ゴジラ的ではなくなったのかもしれないが)。

〈赤イ竹の基地へ〉という30秒ほどの短い断片も、やはりエキゾティカ的な味わいのあるサウンドになっています。もうすこし長くて、まとまった曲ならよかったのに、惜しいなあ、と思います。まあ、映画スコアではよくあることで、しかたがないのですが。

モスラが登場するものには、古関裕而作のオリジナルをはじめ、かならずなんらかのモスラの歌が使われていますが、『南海の大決闘』にも、佐藤勝作の新しいモスラの歌が出てきます。もちろん、古関裕而版オリジナルを凌駕することがなかったのは歴史が証明していますが、これはこれで悪くないモスラの歌だと思います。〈ジャングル・エキゾティカ歌謡〉とでもいうか、折衷的、中間的、ゴタマゼ的なところが楽しめます。

モスラの歌2 南海の大決闘


この映画では、双子の小妖精はザ・ピーナツではなく、「ペア・バンビ」というデュオが演じています。もの知らずで、どういうことをしていたのか記憶がないのですが、おそらくはシンギング・デュオで、このモスラの歌も彼女たち自身が歌ったのでしょう。

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◆ ロッキン・ゴジラ ◆◆
なんだかひどく堕落して、人間的になってしまったこの作品のゴジラ像に合わせたのか、佐藤勝は音楽も軽めの方向にシフトさせたように感じます。いや、1966年の製作、公開(暮れ)だから、時代も時代で、ロックンロールないしはエレクトリック・ギターのソロをスコアに取り入れるのは、英米の映画ではよく見られるようになってきていたので、そういう趨勢に合わせたと受け取るべきかもしれません。

『南海の大決闘』では、ギター・コンボによるスコアも使われています。しかも8ビートかつ3コード、ブルース・コード進行なのです。OSTには入っていなくて、タイトルがわからなかったのですが、『ゴジラ・サウンドトラック・パーフェクトコレクションBOX2』のトラック・リスティングを見てみたら、〈ゴジラ対戦闘機隊〉となっていました。

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どこかの国がスポンサーになっているのか、赤イ竹の財政基盤はかなり堅固のようで、ジェット戦闘機小隊までもっている。レッチ島のプラントや軍事力を詳細に分析、試算したところ、スペクターやスラッシュと五分で渡り合える組織であることが判明した……なんて幼児退行はさておき、このシーンの音楽がロックンロールなのである。ゴジラも変われば変わるものだ。

これはもう、じつにもってストレートなロックンロール・インストで、複数(2本だと思うが、ひょっとしたらもう1本出入りしているかもしれない)のギターのからませ方に工夫があり、しかも、目だつことはしていないものの、なかなかいいプレイヤーで、遅ればせながら感心してしまいました。

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レッチ島の地下プラント。なにをつくっているのかよくわからないが、世界の安全を脅かすものであることはまちがいない。こういうショットもジェイムズ・ボンド・シリーズを想起させるのだが、考えてみると、東宝特撮映画は007よりずっと早くからこの手の構築物をデザインしてきたわけで(たとえば『地球防衛軍』)、本家は東宝、ジェイムズ・ボンドのほうが東宝を見習ったのかもしれない。

ただボックスの表記は「ゴジラ対戦闘機隊(「天国と地獄」M14本番の5)」となっていて、おっと、黒澤明の『天国と地獄』に出てきたんだっけ、というので、そちらのOSTを聴くと、〈酒場の音楽Ⅱ〉とほぼ同じもの、別テイクないしは別エディットでした。横浜歓楽街彷徨のシークェンスに出てくるもののようです。って、いうことが頼りないのですが、あのあたりはつぎつぎといろいろな「俗曲」(佐藤勝はポップ・ミュージックをこう呼んでいる)が出てくるので、細かくは覚えていないのです。

サンプル 〈酒場の音楽2〉(『天国と地獄』より)

映画のスコアリングというのは、自分の欲求を満たすためではなく、映画が要求する音楽をつくる仕事なのだからして、佐藤勝も、66年になって突然、こういう方向の音をスコアに取り込んでみようと思ったわけではなく、63年の『天国と地獄』のときにはすでにやっていたわけです。

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ジェイムズ・ボンド・シリーズ第一作『ドクター・ノオ』に登場する〈ドラゴン〉。火炎放射器を搭載した装甲車にすぎないのだが、やや子どもっぽいデザインで、ゴジラものを見ているような気分になる。

よく考えると、これはかなり尖端的なことだったような気もします。映画音楽は、ジャンルとジャンルのすき間にはまりこんでしまうことが多いのですが、ことはロックンロール、われわれの側から積極的に再評価を推し進めるべきのような気がします。

また、ひどく日本的なバイアスがかかったものですが、サーフ・ギター・インストに聞こえなくもない曲もあります。開巻まもなく、いにしえのアメリカの「マラソン・ダンス」のゴーゴー版のようなものが登場し、そのダンス音楽として、リヴァーブをきかせたギターをフィーチャーした曲が出てくるのです。

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そういう「現実音」、劇中に流れる音楽ばかりではなく、純粋なスコアの部分でも、エレクトリック・ギターのグリサンドや、低音弦のリックがしばしば使われています。さらにいうと、やはりリヴァーブをきかせたフェンダー・ベースもしばしば登場します。

はじめからすべて、細かく検討したわけではありませんが、ゴジラ映画にフェンダー・ベースが大々的に利用されたのは、この『南海の大決闘』が最初のことではないかと思います。ビッグバンドやオーケストラにフェンダー・ベースを使うのは、やがて圧倒的多数派になるのですが、この時期、とりわけ日本ではまだめずらしかったのではないでしょうか。

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〈赤イ竹〉のボスと幹部。左から平田昭彦、田崎潤、天本英世。いやもうじつにシビれるような東宝特撮男優陣の揃い踏み!

◆ ゴジラは南から、エキゾティカはどこから? ◆◆
80年代以降のゴジラは極端に引用が多くなりますが(たとえば、だれが見ても『エイリアン』だったり『レイダース』だったりする場面が出てくる。そして、あろうことか、ハリウッド版ゴジラまで、後半は『ジュラシック・パーク』のコピーになってしまう)、ゴジラには時代を映す鏡のような側面がもともと強くあったのかもしれません。

『南海の大決闘』の音楽、とくに冒頭の日本国内のシークェンスは、あの時代を反映したサウンドになっています。同じ東宝の看板シリーズで、しばしば怪獣ものとセットで上映された、若大将ものを意識していたのかもしれませんが。

しかし、さまざまな東宝特撮映画のあちこちに顔をのぞかせる、エキゾティカ的音楽の源流はなにか、という点になると、「時代を映す鏡」だったのかどうかは判断しかねます。

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佐藤勝 film-composer Satoh Masaru

映画および映画音楽はとほうもない雑食性をもっているので、佐藤勝のように、映画スコアを専門とする作曲家は、外国映画やラジオや町で耳にする音楽につねに注意を払っていたにちがいありません。そして、レス・バクスターやマーティン・デニーの音楽は、当時すでに国内でリリースされてもいました。だから、佐藤勝がそういう音楽を聴いていた可能性はあります。でも、たんなる蓋然性と事実のあいだには無限の距離がありますからねえ……。

妥当な着地点を探すと、佐藤勝はそういうタイプの音楽を何度か耳にしたことがあり、南洋的なサウンドというものを認識していたが、その作り手がレス・バクスターであったり、アクスル・ストーダールであったり、マーティン・デニーであったり、ということは知らなかった、というあたりでしょう。毒にも薬にもならない、まったくもって当たり障りのない、つまらない推測ですが!

ゴジラ・シリーズでは、ほかに、あの作品も音楽が面白かった、などと煽る方がいらっしゃることですし、根が嫌いではないので、あと何本か、ゴジラを含む東宝特撮映画を取り上げるつもりです。しかし、次回はちょっと箸休めで、タイプの違う映画をやろうかと思っています。

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by songsf4s | 2009-07-27 10:24 | 映画・TV音楽