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ヤーレン号に乗ってⅡ by 佐藤勝 (OST 『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』より その1)
タイトル
ヤーレン号に乗ってⅡ
アーティスト
佐藤勝(OST)
ライター
佐藤勝
収録アルバム
『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』 (OST)
リリース年
1966年
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今日7月22日は未明からずっと雨で、10時すぎにやっと雨音がしなくなりました。それが11時ごろになってまた暗くなってきたので、やれやれ、まだ降るのかよ、と思ってから、ああ、今日は日蝕だっけな、と思いなおしました。

というわけで、南関東の当地では、75パーセントほどの部分日蝕も、ただの雨模様ていどに終わってしまいましたが、皆さまのところはどうでしたでしょうか。当家のお客さんのなかに、皆既日蝕が見られる地域にお住まいの方がいらっしゃる可能性はあまり高くありませんが、南のほうでは、晴天のもと、「太陽の死と再生」を観察できた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

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なんだか小学校のときに、日蝕、日蝕と大騒ぎして、ささやかな工作物(穴を開けたボール紙とか、黒く塗った紙とか)を手に、みなが校庭に出てワイワイやった記憶がかすかにあります。今回は46年ぶりだそうなので、その46年前の出来事なのでしょう。残念ながら、むしばまれていく太陽の記憶はないのですが、空は晴れていたことだけは覚えています。いや、虫眼鏡で黒い紙に火をつける実験したときのことと、記憶がまだらになっているのかもしれませんが……。

昔は多くの文化が蝕を不吉なこととみなし、たとえば中国では、日蝕のあいだじゅう、派手に銅鑼を叩いて、魔物を追い払おうとしたそうです。それがいまでは馬鹿騒ぎのダシにされているわけで、まったくもってけっこうなことだと思います。科学は幸福をもたらしはしませんが、迷信にもとづく不幸を防ぐ役には立つのかもしれません。

◆ 南へ、南へ ◆◆
ゴジラはたいてい南からやってくることになっています。どの映画だったか、シリーズの終盤の作品で、登場人物がその点にふれて、太平洋戦争の犠牲者の復讐、といった解釈を提示していました。たしかに、南方戦線で斃れた人がたくさんいらっしゃるいっぽうで、戦場にされたほうでも多くの犠牲者を出しています。

f0147840_21182771.jpgなぜ日本は南方に出て行かねばならなかったか、昔のことばでいうなら「南進する」必要があったかといえば、これはもうエネルギー問題しかありません。「満蒙」のみならず、南方もまた「日本の生命線」であり、つねに「作戦行動地域」だったのです(しいていえば、「日本にいたる回廊」という、戦略拠点としての側面もあるが、こちらのほうは重要性が低いと思う)。

「南方」ということば自体が軍事用語だそうで、百科事典には「日本軍の作戦区域は、当時、イギリス領ビルマおよびマラヤ、フランス領インドシナ、オランダ領東インド、アメリカ領フィリピンという4植民地と、タイ王国に分かれており、それを包括する呼称はなかった。そこで日本軍は総称として〈南方〉という呼称を採用したが、連合軍はこの地域に〈東南アジア〉という呼称を与えた」とあります。

調べていて、へへえ、と思ったのは、南方のことより、「東南アジア」のことのほうです。Southeast Asiaというのは、連合軍側がつくったこの作戦行動地域の呼称だったとは驚きです。子どものころから当たり前のように使ってきたので、軍事用語だなどとは思ってもみませんでした。

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それはともかく、「南方」と東南アジアは、すくなくともイメージのなかでは等号で結ぶことはできないように思います。マラヤ(マレーシア)、インドシナ(ヴェトナム)、東インド(インドネシア)はもちろん「南方」です。その心臓部の外側に広がる、いわゆる「南洋諸島」(マリアナ諸島、カロリン諸島、マーシャル諸島)も、前線基地、重要拠点としての「南方」に入れていいのだろうと思います。

もちろん、わたしはリアルタイムで読んだわけではありませんが、『のらくろ』や『冒険ダン吉』が描いたのも、東南アジアというより、南洋諸島のほうだったという印象があります。大昔に『吼える密林』しか読んだことがなく、ほとんどなにも知りませんが、南洋一郎の『緑の無人島』や『南海の秘密境』といった子ども向け冒険小説も、やはり、「南方」を扱ったものなのだろうと思います。

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東宝特撮映画、とりわけ怪獣ものを見るのに、現代史の知識が必要なわけではありません。ただ、「南から来る悪夢」もこう繰り返されると、やはり「どこ」から来るのか、追求したくなってくるだけです。80年代以降のシリーズはともかくとして、70年代までの第一シリーズに関しては、やはり製作者側はなんらかの意味および深さで、太平洋戦争を意識していたのだろうと思います。だからゴジラは、地から涌いたり(ラドン)、天から降ってきたり(キングギドラ)することはなく、つねに海を渡ってやってくるのでしょう。

◆ 南進策の果て ◆◆
そういう意味で、今日の『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』は、微妙な設定のゴジラものです。ジェイムズ・ボンド映画、とくにジャマイカを舞台にした一作目の『殺しの番号』、マイアミを舞台にした第四作の『サンダーボール作戦』の影響を受けたと思われるストーリーで、ボンド・シリーズの「スペクター」のような、世界制覇をもくろむ秘密組織〈赤イ竹〉が登場します。一味はみな日本語をしゃべるのですが、名前から連想するのは中国です。

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『海底軍艦』のときにも、南方のどこかの島に秘密基地を建設した田崎潤が、こんどは悪玉のボスになって、やはり南洋のどこかにある〈レッチ島〉(ボートでも行けるほどの近くにモスラの故郷〈インファント島〉がある)に秘密基地を建設します。田崎潤はドクター・ノーに相当する役どころですが、あのようなケレンはなしで、平田昭彦を右腕としてストレートに演じています。『海底軍艦』の神宮司大佐はいろいろ演じようがあったでしょうが、こちらは「やりがいなし」というところでは?

平田昭彦のほうは、『ゴジラ』第一作の芹沢博士のように、片目は眼帯で隠して登場します。芹沢博士は沈鬱なキャラクターで、純粋な善玉とはニュアンスが異なりましたが、こちらは純粋な悪玉。でも、この人の面白いところは、善玉、悪玉、両方を演じられるばかりでなく、どちらをやっても、白でも黒でもない、灰色の領域がほの見えることです。得がたい味のある俳優でした。

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平田昭彦(左)と田崎潤

それにしても、『海底軍艦』を強く連想させる設定で、なんとなく、苦しまぎれの雰囲気が感じられます。あちこちから流用してきたつぎはぎのように見えるのです(まあ、それをいうなら、時代の下ったゴジラ・シリーズはつねにシーン単位では流用、借用、引用が目だつのだが)。そろそろ日本映画全体も頽勢が目だち、ゴジラ・シリーズも観客が離れはじめたのではないでしょうか。わたしは、この年、中学一年生になったこともあって、この作品をもって、ゴジラ・シリーズとは縁が切れてしまい、以後はテレビで放映されたものを三つ四つ見ただけというありさまになってしまいます。

しいて太平洋戦争のメタファーをもちだすと、〈赤イ竹〉はいわば「南進」した旧帝国軍であり、拉致され、重労働に従事させられたインファント島の住民は、南方諸島、東南アジア諸国の人びとということになるのかもしれません。製作された順序とは逆に、これを第一作『ゴジラ』以前の出来事とするなら、ゴジラが「北進」する原因を描いた作品ということになるでしょう。と書きつつ、自分で「よくいうぜ。それほどのもんじゃネーだろーに」と自分の脇腹をつついています!

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◆ オーセンティックなエキゾティカ ◆◆
わたしにとっては「最後のゴジラ」になっただけあって、『南海の大決闘』というのは、言葉に詰まってしまう映画です。ゴジラの敵役のエビラというのが、姿はエビそのまま、名前はエビにラをつけただけという、ひどい手抜きですし、巨大コンドルにいたっては、そんなものが登場したことすら忘れてしまったほど印象稀薄でした。大人の目ではなく、子どもの目でいっても、『三大怪獣地球最大の決戦』までは楽しんでいましたが、これがピークで、あとは関心が薄れていきました。

そういう映画なので、ゴジラを再見するといっても、この『南海の大決闘』はあまり見たくなかった作品のひとつです。それなのになぜ見たかといえば、タイトルに「南」の字があり、そっちの音楽が出てくる可能性が高いと思ったからです。そして、これが期待通りのジャックポットでした。

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どういうわけか、日本の作曲家というのは、エキゾティカというか、南方的な曲を得意としているように思われます。当家で過去に取り上げたものとしては、『ガス人間第一号』に登場した〈ドラゴン〉という曲が典型ですが、『マタンゴ』のなかの〈漂流〉という曲などもエキゾティカに分類できます。まだ取り上げていない東宝特撮ものにも、エキゾティカないしはそのサブジャンルである「ジャングル・エキゾティカ」(南洋的というより、アフリカ的なテイストのあるもので、パーカッションの扱いに特徴がある)に属する音楽の登場するものもあります。

しかし、どれか一曲というのなら、いまの段階ではわたしは、この佐藤勝作曲の〈ヤーレン号に乗ってⅡ〉を最上のものとします。『ベスト・オヴ・ワールズ・エキゾティカ』なんていう盤が編集されるなら、日本製としてはこの曲を入れれば、それで十分だろうと思います。

サンプル 〈ヤーレン号に乗ってⅠ〉
サンプル 〈ヤーレン号に乗ってⅡ〉

〈Ⅱ〉があるのだからして、当然、〈ヤーレン号に乗ってⅠ〉もあります。こちらもエキゾティカに分類できますが、30秒足らずの断片で、ひとつの楽曲としての独立性があるとはいいかねます。

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ヤーレン号。ディンギー、セイル・ボートではなく、正真正銘の「ヨット」のサイズ。このショットでは〈ヤーレン号に乗ってⅡ〉が流れる。

〈ヤーレン号に乗ってⅡ〉は、冒頭を聴いただけで、いいなあ、と思いました。ピアノとベースとパーカッションを中心とした低音部の作り方も、メロディーラインを担当する弦も、どちらもすばらしいサウンドです。

あれこれやっているうちに時間切れになってしまったので、『南海の大決闘』は次回へと延長させていただきます。

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by songsf4s | 2009-07-22 23:52 | 映画・TV音楽