- タイトル
- The High and the Mighty
- アーティスト
- The Shadows
- ライター
- Dimitri Tiomkin, Ned Washington
- 収録アルバム
- Dance with the Shadows
- リリース年
- 1964年
- 他のヴァージョン
- Dimitri Tiomkin, Les Baxter, Los Indios Tabajaras, Victor Young, Mantovani, Perez Prado, 101 Strings, Muzzy Marcellino, LeRoy Holmes

前回に引きつづき、本日もThe High and the Mighty、すなわち『紅の翼』のテーマです。今回はカヴァー・ヴァージョンを見ていきます。
前回もふれましたが、子どものころから聴いていたシャドウズ盤が、わたしにとってはこの曲のベスト・ヴァージョンです。
サンプル
じつにいいムードがあって、かつてサベージがコピーしたくなったのもよくわかるようなサウンドです。ハンク・マーヴィンは、とりたててファイン・プレイをするわけではなく、ていねいに、一音一音をだいじに弾いているのですが、プレイをなぞってみると、こういうムードをつくるのは、じつはすごくむずかしいことを思い知らされます。

これまたシャドウズのトラックではよくあることですが、ブルース・ウェルチのコード・ワークがこの曲でもおおいに魅力的です。ウェルチがときおり使う技ですが、ストロークをしたり、アルペジオを弾いたり、そのあいまにカッティング気味にアクセントをつけたりと、変化に富んだ楽しいプレイをしています。しかも、いつものように、行き当たりばったりではなく、きちんとアレンジされているところが、いかにもウェルチ、いかにもシャドウズらしい味わいです。
YouTubeにはちょっと変なシャドウズ盤がありましたた。
画面でギターを弾いている人はアマチュアですが、うしろで流れているのはシャドウズ盤The High and the Mightyです。よぶんなスネアの音が聞こえますが、これはMIDIかなにかをかぶせたのでしょう。つまり、指の動きを完全コピーし、音に合わせて運指、ピッキング、そしてアーム操作までやってみせたインストラクション・クリップのつもりなのだと思われます。
コピーして自分で弾き、音も自分のものでやったクリップはよくありますが、こういうのははじめてでした。この人はシャドウズのコピーをいくつかアップしているので、ご興味のある方は関連動画をご覧になってみてください(Bossa Rooではちゃんとバーンズのギターにもちかえている。よほどの好き者と見た)。それにしても、指が長くてうらやましくなります。わたしなんか最後のEmaj7はかなりつらく、きれいに音が出ないですが、この人は余裕でやっています。
◆ ロス・インディオス・タバハラス ◆◆
もう一種のギターもの、ロス・インディオス・タバハラス盤も非常に魅力的です。
タバハラス
こういうものに出合うたびに、タイムがいいの悪いのという言い方は、おいそれとは使えないのかもしれない、と感じます。リズム・ギター、ベース、ブラシは一定のタイムでプレイしているのですが、リードはきわめて自由にタイムを前後しつつプレイしています。このタイムの操作が、ロス・インディオス・タバハラス盤The High and the Mightyの最大の特徴といいたくなるほどです。

やはりタイトルからそういう気分になったのではないかと思いますが、シャドウズ同様、タバハラス盤も非常に高い音域を使っていますし、最後はハーモニクスで弾いています。いろいろやるものですなあ。
◆ 競作ヴァージョン群 ◆◆
この曲は、映画の公開とともに複数のカヴァーが生まれています。もっともヒットしたのは1954年のレス・バクスター盤で、ビルボード4位までいっています。このヴァージョンですでに、OSTよりかなりテンポを落としていて、それもヒットの理由のひとつになったのではないでしょうか。OSTは映像とのコンビネーションを配慮したアレンジ、テンポで、それはそれでいいのですが、楽曲を単独で取り出した場合、やはりすこし遅いほうがメロディー・ラインの美しさを引き出せると感じます。
レス・バクスター
ただし、テンポは落としたものの、レス・バクスター盤は、後年のシャドウズ盤のように、ムーディー路線へと突っ走ったわけでもありません。イントロはソフトですが、すぐにティンパニーがアクセントを入れていて、このあたりはOSTの方向性を踏襲したのでしょう。また、OSTではオーケストラと口笛はべつでしたが、レス・バクスター盤はイントロに口笛を入れています。後半の女声コーラスはけっこうなのですが、またティンパニーが入り、ハリウッド的ハッタリともいうべきフォルテシモがあるのは、どうもこの曲には合わないと感じます。

やはり1954年のリロイ・ホームズ・ヴァージョンも口笛でスタートしています。アクセントは控えめで、フォルテシモのないところや、弦のソフトなアレンジやフレンチ・ホルンの使い方は好ましく、なかなか悪くないヴァージョンです。
◆ スペシャリストたち ◆◆
The High and the Mightyの歌詞を書いたネッド・ワシントンのページによると、ヴィクター・ヤング盤で口笛を吹いたのはマジー・マルチェリーノだそうですが、マルチェリーノ自身も自己名義でこの曲のカヴァーをリリースしています。
夕まぐれのそぞろ歩きのような心地よいサウンドで、シャドウズ盤同様、コンボでやっても悪くない曲だということを証明しています。それにしても、どうしたら、こんなにみごとな口笛が吹けるようになるのかと思います。
このポストの説明には、映画のほうでもマルチェリーノがジョン・ウェインの口笛のスタンドインをやったとあります。マルチェリーノについてはスペース・エイジ・ポップのページが参考になるでしょう。どんな分野にもスペシャリストがいて、舞台裏で八面六臂の活躍をしていた、ということを痛感します。

サンプル トミー・モーガンのThe High and the Mighty
このモーガンのTropicaleというアルバムでオーケストラを指揮したのはウォーレン・バーカー(当家では「サンセット77」のときに取り上げている)だそうですが、バッキングも好ましいサウンドです。
トミー・モーガンのキャリアについてはオフィシャル・サイトのバイオやRecordsなどのページが参考になるでしょう。サントラもたくさんやっているので、いずれ再登場の運びになるはずです。
◆ 他のヴァージョン ◆◆
マントヴァーニは当然、流麗なストリングスを中心としたアレンジで、こういう曲はお手のものという感じです。とりわけ、冒頭のヴァイオリンがけっこうな響きかと思います。あくまでも中音域以上の楽器が中心で、ほとんど低音部がないことも賞美に値します。この曲には重い低音は無用です。
101ストリングスはもともと厚い弦が売り物のオーケストラですが、この曲では大人数のコーラスまで入れています。マントヴァーニ同様、こういうタイプの音楽、ポップ・オーケストラがお好きな方ならお気に召すでしょう。The High and the Mightyは流麗な弦の合う曲なのです。

最後に残ったのはとんでもない変わり種ヴァージョン、ペレス・プラード盤です。いやあ、なんと申しましょうか、ラテン・アレンジでもそこそこ楽しめるのだから、いかにいい曲かということがわかろうというものだ、なんてんじゃダメでしょうかね。べつにラテンでやってはいけないというわけではないのですが、マンボよりはポップ・オーケストラで聴くほうが、気分が出るのではないかと思うのでした。
