人気ブログランキング |
Mission Impossible by Lalo Schifrin (TV OST 『スパイ大作戦』より)
タイトル
Mission Impossible
アーティスト
Lalo Schifrin (OST)
ライター
Lalo Schifrin
収録アルバム
The Best of Mission: Impossible
リリース年
1966年
他のヴァージョン
Billy May, Henry Mancini, Roland Shaw & His Orchestra, Jimmy Smith
f0147840_21135172.jpg

当家の記事も400件を超えましたが、それだけの数になると、なかにはひどくマヌケなことをやってしまったものもあります。古いものは(ありがたいことに)忘れましたが、前回の『グッバイ・ガール』ともなると、まだ忘れるには早すぎます。

そもそも、YouTubeにあるだろうと多寡をくくったのが第一のミスなのですが、ふだんなら、あらかじめクリップを見てから書きはじめるのに、なにを思ったか、前回は一度記事をアップしたあとで、YouTubeをチェックしていなかったことを思いだすという、とんでもなくマヌケなことをやってしまったのです。

f0147840_21432432.jpg
このルーシーという少女のセリフがじつにうまい。子どものセリフを書けるのは一流の証明である。しかし、ひとつ間違うと、こましゃくれたイヤな子どもになってしまうセリフの連続で、ルーシーを演じたクイン・カミングスもすばらしかった。アカデミー助演女優賞ノミネーになったのは当然のことだろう。

いや、それでも、テーマ曲のクリップが見つかれば事なきを得たはずなのですが、間が悪いときはしようのないもので、見つからないとわかったときには、もうシンデレラ・タイム、どうにもならず、予告篇のクリップだけ貼りつけて終わりにしてしまいました。

というわけで、デイヴィッド・ゲイツ歌うGoodbye Girlがどのようなものか気になっていた方は以下をどうぞ。もちろん、『グッバイ・ガール』の記事のほうにもこのサンプルは追加しておきましたが、修正以前にご訪問をいただいた120人の方は、サンプルが追加されたことをご存知ないはずです。

サンプル

◆ お早ようフェルプスくん、またはコピー大作戦 ◆◆
Mission Impossibleは、去年の夏にテレビのテーマ曲をたくさん取り上げたときにやろうとして果たせず、この二月に再開したときにもリストの筆頭にあったのですが、なかなか踏ん切りがつきませんでした(さらにいうなら、この曲のドラマーはアール・パーマーなのに、彼の特集のときにはオミットしたため、できるだけ早くやりたいと思っていた)。遅れた理由はいろいろありますが、なによりも、メロディー・ラインのコピーが面倒で、先送りにしてしまいました。

オリジナルのテレビ・シリーズ、80年代の新シリーズ、さらにブライアン・デ・パーマ、ジョン・ウーなどが監督した本編が3本と、この曲にはいろいろなヴァージョンがあるのですが、ここではもちろん、60年代のオリジナルTVシリーズのテーマを中心に話を進めさせていただきます。



まず、どなたもご存知の有名なリックから。これはむずかしいことはなにもなく、3秒でわかります。

G-G-Bb-C-G-F-F#

コードがGm7のあいだはこれを繰り返すだけなので、このリックを弾くプレイヤー、たとえばベースなどは、ちょっと退屈するかもしれません。オリジナル・ヴァージョンでフェンダー・ベースを弾いたのはキャロル・ケイで、彼女を紹介するヴィデオでは、しばしばこの曲が使われます。

面倒なのはフルートのフレーズですが、前半はシンプルで問題なし。

G-F#-D-G-F#-Db-G-F#-C-Bb-C

シンプルとはいっても、このコードからこのラインは出てきそうもない、というか、そもそも、コードがどうこうとは関係のない次元で変なメロディーなのですが、そこがラロ・シフリン、頭の構造がかなりエイリアンなのです。アルゼンチン生まれで、十代のときはジャズを愛し、パリでクラシックを学び、アメリカで仕事をした、という、この人の複雑なバックグラウンドから来ることなのかもしれませんし、そういう次元の話ではなく、もって生まれた特性なのかもしれません。

f0147840_21462938.jpg

コードはリックに合わせて動いてもオーケイですし、Gm7のままでいてもオーケイです。たいていのヴァージョンは、インプロヴに入るとシンプルなマイナー・ブルーズでやっています。

ギターで弾くとプリング・オフで半音下げる箇所が、どれもよくわからず、往生するのですが、たぶん、同じ場所で動かないのだと思います。上記の場合でいえば、三つともG-F#でいいのでしょう。でも、この部分を半音ずつ下げていっても、それはそれで正しいような気がしてくるところが、この曲の変なところなのです。いや、ウェブ上で発見した譜面の断片は、やはり動かしていないので、迷いを振り切り、動かないパターンで押し通します。

f0147840_21464686.jpg

2番目のリックは、

D-Db-G-Db-C-F-C-B-E-Eb-D

でいいのではないでしょうか。ここも、D-Dbのパターンを半音ずつ下げてみたのですが、これはあまり合っているようには聞こえませんでした。いやまったく、メロディーがこれほどよくわからない曲もめずらしいのじゃないでしょうかね。迷いに迷ってしまいました。

残りのメロディーもいちおう書いておくと、ブラスがやるパートは、

C-B-G-C-B-F#-C-B-F-Eb-F

と、これまでに出てこなかったパターンですが、つぎのトランペットのパートは、D-Dbではじまる2番目のパターンと同じでしょう。

ギターで弾くとプリング・オフばかりで、ただひたすら面倒なだけの、面白くもなんともない曲ですが、これがお立ち会い、あら不思議、フルートでやるとじつに印象的で、一聴忘れがたい印象を残します。MI:3にはディストーション・ギター・ヴァージョンが何度か出てきますが、どこからどう見てもギターには不向きな曲なので、管楽器系アレンジが先行作品で出尽くしてしまったあげくの、苦しまぎれのやけっぱちアレンジというべきで、くっだらねー、と呆れてしまいました。

第5シーズンのテーマ


この最悪ヴァージョンの、フィルインで突っ込みまくる気色の悪いドラマーを、わたしはよく知っているような気がします。ジョン・グェランでしょう。こうしてグルーヴ面で極度に不出来なヴァージョンと比較すると、アール・パーマーとキャロル・ケイが、懐の深い、すぐれたグルーヴをつくっていたことが手に取るようによくわかります。

◆ カヴァー ◆◆
つくられた時期も接近している同系統のテレビ・ドラマのテーマで、同じように奇妙な構造をとっている、ジェリー・ゴールドスミスのナポレオン・ソロのテーマは、無数のカヴァーが生まれ、その多くはオリジナルをしのぐ出来でした。つまり、曲としてよくできているが、オリジナルのアレンジ、サウンドは不出来で、カヴァー盤のつけいる余地が十分にあった、ということです。

しかし、「ナポレオン・ソロ」の一年後につくられた「スパイ大作戦」のほうには、たいしたカヴァーはありません。つまり、オリジナルは曲としてよく出来ていたばかりでなく、アレンジ、サウンドも申し分なかったということです。世の中に楽曲は無数にあれど、ギターで弾くと史上最悪というくらいに退屈なメロディー・ラインだったおかげで、インストの最大勢力であるギターものの餌食にならなかったため、いいカヴァーが生まれなかったということもいえるでしょう。ギターでコピーしていて、つまんねえ曲だなあ、と泣きが入りました。Mission Impossibleは、聴くと最高、弾くと最低の曲です。

スパイものでは何度か登場したローランド・ショウ盤Mission Impossibleは、まあまあの出来です。どのラインも二度繰り返しているので、コピーには向いています、って、そんなことを気にする人はめったにいないでしょうが! インプロヴに入ると、「ワイルドなハープシコード・ソロ」という、世にもめずらしいものが聴けます。ワイルドだろうとナイス&イージーだろうと、ハープシコードっていうのは、インプロヴに使う楽器じゃないような気がしますが……。

f0147840_22104249.jpg
f0147840_22105897.jpg

アレンジ、サウンドのバランスがきれいなのはビリー・メイ盤。でも、ニュアンスはオリジナルと同じで、なんのためにカヴァーしたのかよくわからないようにも思います。オリジナルにあるラフ・エッジをきれいにブラッシュ・アップした、いかにもハリウッドらしい洗練された音ではあると思いますが……。

ジミー・スミスは管と弦を加えたアレンジで、メロディーはそちらにまかせています。つまり、ジミー・スミスのプレイに関するかぎり、ただの5/4のマイナー・ブルーズにすぎません。ジャズでは毎度のことながら、べつにこの曲じゃなくたっていいじゃん、適当なテーマを自分でつくれば、他人に印税を払う必要もなく、坊主丸儲けなのに、というパターンです。わたしがジャズ・プレイヤーなら、他人の曲なんかぜったいにやりませんね。どうせインプロヴに突入するまでの間借りなんだから、そんなもん、自分でつくりますよ。

f0147840_22123474.jpg
f0147840_22124593.jpg

ヘンリー・マンシーニは、すでに何度かけなしたThe Big Latin Band Of Henry Manciniというアルバムに収録されたもので、やはりこの曲もいけません。このアルバムは、マンシーニとしては例外的に、アレンジも失敗し、グルーヴも悪く、聴きどころのない凡作という以外にないと思います。

ここには取り上げなかった3種のカヴァーまでふくめて、いろいろ聴いたあげく、なぜだ? と首をかしげた不思議な現象があります。どのヴァージョンもキーがオリジナルと同じGだということです。ふつう、こういうことはありません。多くのカヴァー・ヴァージョンはオリジナルと異なるキーを使うものなのです。考えられる理由は、管楽器の譜面にはこのキーがいちばん都合がよい、ということですが、それにしたって、他の曲では、管楽器に不都合でもキーを移動しています。なんだって、どのヴァージョンもキーをそろえたのか、まったく謎です。

f0147840_22165190.jpg

80年代の再開新シリーズや、3作ある本編のシリーズなど、ほかにもヴァリアントやカヴァーがたくさんあるのですが、どれも好みではありません。80年代の新シリーズのテーマは、あの機械っぽいスネアのサウンドになってしまい、あのときもマヌケだなあと思いましたが、いまになると問題外の3乗ぐらいです。本編のものも、ただビートが強いだけで、アレンジ、サウンドとして冴えの感じられるものはありません。

◆ ドラマ主題曲のターニング・ポイント ◆◆
1965、6年というのは、テレビのテーマ曲の歴史における大きなターニング・ポイントだったとわたしは考えています。すでにふれましたが、「ナポレオン・ソロ」はサウンドとしては弱く、多くのロック系カヴァーが生まれました。これはなにを意味するか? リスナーの嗜好が強いビートへとシフトしていたのに、テレビは旧態依然たるオーケストラ・サウンドを使ったため、大きなズレが生じ、そのズレを補正するために大量のカヴァーが生まれた、ということです。

f0147840_22284367.jpgいっぽう、その一年あまりのちにつくられた「スパイ大作戦」のテーマは、おおいに人口に膾炙したにもかかわらず、カヴァーの数は微少、しかも、ロック系、ギター・インスト系は皆無(いや、正確にはヴェンチャーズ盤があるが、ひどい出来なので、存在しないものとみなしてよい!)、というのは、「ナポレオン・ソロ」のテーマと鋭い対照をなしています。

これがなにを示すかは明白です。「スパイ大作戦」のテーマのアレンジ、サウンドは、カヴァーを必要としないほど完成度が高く、しかも、ロック的ニュアンスの「強い」サウンドだった、ということです。いや、この曲は5/4であって、8ビートではないので、あくまでも「強いサウンド」にすぎず、ロック・ビートではありません。しかし、オリジナル・ヴァージョンのリズム隊、アール・パーマーとキャロル・ケイのコンビがモータウン・サウンドのバックボーンであったことを考えれば、この「強いグルーヴ」が生まれるべくして生まれたものであることは明らかです。

プレイした映画の多さからいったら、アール・パーマーやキャロル・ケイより、トミー・テデスコのほうが上でしょう。テデスコはすばらしいプレイヤーでしたが、映画スコアに関しては、極論するなら、彼でなくてもできるものばかりのように感じます。テデスコは無数の映画スコアでプレイしたけれど、映画スコアの本質にはなんの影響もあたえませんでした。

この点が、アール・パーマーとキャロル・ケイのコンビが異なっているところです。観客の好みが変化した結果として、彼らのもっている強いグルーヴが必要とされ、逆に、彼らの強いグルーヴが観客の好みを変化させていったのです。そして、その結果として、保守的な映画やテレビのスコアも、音楽の世界で起きた巨大な地殻変動に追随していくことになったのです。その変化の波頭にあったのが、「バットマン」のテーマであり、「モンキーズ」のテーマであり、そしてこの「スパイ大作戦」のテーマでした。

f0147840_22301522.jpg

by songsf4s | 2009-05-17 22:55 | 映画・TV音楽