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Hang'em High(OST 『奴らを高く吊るせ!』より)
タイトル
Hang'em High
アーティスト
OST
ライター
Dominic Frontiere
収録アルバム
Hang'em High (OST)
リリース年
1968年
他のヴァージョン
Hugo Montengro, Billy Strange, Henry Mancini, Enoch Light, Leroy Holmes, Booker T. & the MG's, the Meters
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行きがかり、といってはなんですが、クリント・イーストウッド主演のイタロ・ウェスタンをつづけてやったので、今回はその延長線上にあるアメリカ製ウェスタン、『奴らを高く吊るせ』です。

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自分で「アメリカ製ウェスタン」と書いて、なんとも落ち着きが悪いな、と思いました。西部劇というのはすぐれてアメリカ的ジャンルで、わざわざ「アメリカ製」と断らなければならない状況そのものがねじれています。まるで「日本製時代劇」とか「日本製歌舞伎」といっているようなものです。イタロ・ウェスタンというのは、じつに奇妙な存在だったのだなあ、と改めて思います。

『奴らを高く吊るせ!』(原題の意味を変えずに、そのままタイトルとして落ち着きのある日本語にしてあるというのは、じつに気持がいい!)は、イタロ・ウェスタンを大前提として成立したアメリカ製西部劇です。本日は、そのイタリアとハリウッドの隙間について見ることにします。

◆ 借用は借用 ◆◆
Hang'em Highの作曲者は、マーケッツのOut of Limitsでちらりと言及した、ドラマ『アウター・リミッツ』の音楽を書いたドミニク・フロンティアです。あちらはかなりアヴァンギャルドでしたが、Hang'em Highにはアヴァンギャルドのアの字もありません。

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しかし、この映画、音楽関係のクレジットが妙に細かく書かれています。フロンティアは「作曲」とあり、ほかに「音楽監督」としてアイゴー・キャンターとジョン・ケイパー・ジュニア、そして、「オーケストレーター」としてエドワード・B・パウエルというクレジットもあります。

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楽曲としてこのHang'em Highのテーマを見るならば、マイナー・キーであるところは、やはりイタリア製西部劇のテーマ、なかんずく、「名無しのガンマン」シリーズの音楽を担当したエンニオ・モリコーネのスタイルに追従したものとみなして大丈夫でしょう。

アレンジとしても、ゴングとティンパニーを重ねる「スティンガー」(ガンとかドンとかジャーンといった瞬間的な「脅しの音」)を多用するところは、明らかにモリコーネ(ないしはそのオーケストレーター)のスタイルを踏襲するものになっています。

ただし、アヴァン・タイトルではじまり、主人公が縛り首になったあとでタイトルバックに流れるヴァージョンのアレンジは、イタリア製西部劇的な味わいはゼロで、きわめてハリウッド的なオーケストレーションです。モリコーネの「歌はなくても主題歌気分」というノリのよさはまったくありません。この導入部の音楽のダルさでさっそく「あれ? 大丈夫かな」と落ち着かない気分になります。

あまりいいサンプルがないので、予告編をどうぞ。



議会図書館のJazz on the Screenというデータベースには、ハワード・ロバーツ(ギター)、トミー・モーガン(ハーモニカ)、エミール・リチャーズ(パーカッション)という3人の名前がクレジットされています。3人ともハリウッド音楽研究者にはお馴染みの人たちです。

ハワード・ロバーツはもちろんあのジャズ・ギタリストですが、セッション・プレイヤーとしても膨大な録音を残しています。エミール・リチャーズもロバーツ同様、ウェスト・コースト・ジャズの時代から長年にわたって活躍したパーカッショニストです。この映画ではゴングかティンパニーをプレイしたのでしょうか。

f0147840_23414652.jpgトミー・モーガンはA&Rとしてキャピトル・レコードに勤務するかたわら、同僚のアル・ディローリー同様、数々のセッションをしています。あの時代のハリウッドのポップ系レコードで、ハーモニカが聞こえたら、「うん、モーガンね」といっておけば、3回に2回以上は正解になります。もっともよく知られているセッションは、ビーチボーイズのPet Soundsに収録された、I Know There's an Answerで、このときはあの忘れがたいベース・ハーモニカをプレイしています。すでに取り上げた『続・夕陽のガンマン』のヒューゴー・モンテネグロのカヴァーでは、ハーモニカが使われていますが、これもモーガンのプレイだそうです。

◆ カヴァー各種 ◆◆
前回の『続・夕陽のガンマン』のテーマ同様、この『奴らを高く吊るせ』のテーマも、カヴァー盤がヒットしました。「名無しのガンマン」三部作同様、ヒューゴー・モンテネグロもカヴァーしていますが、今回ビルボードにチャートインしたのは、ブッカー・T&ザMG’s盤でした。

サンプル1

f0147840_23521742.jpgなるほど、ヒットしただけのことはある、というレンディションで、さすがはMG'sといいたくなります。Mrs. Robinsonでも感じますが、メロディーの改変ないしはコード進行の変更がうまく、オリジナルよりいいのではないかとすら思うアレンジがあります。やっていることはシンプルなのに、MG'sがしばしばヒットを飛ばした理由は、そのあたりにもあるのでしょう。もちろん、イントロを聴いただけで、それとすぐにわかる彼ら独特のグルーヴがなによりもだいじなのですが。

ミーターズはMG'sと同系統のバンドですが、MG'sほど文句なしに乗れるグルーヴはもっていません。そんなものをもっていたら、MG'sを蹴落とせたはずで、そうはならなかった事実が力の差を端的に示しています。彼らのHang'em Highのカヴァーはドラマーのタイムが不安定でわたしは好みません。

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これはデニス・ホッパーなのだそうだが、そういわれても首をひねってしまう。そろそろ『イージー・ライダー』の撮影がはじまるころなのだが……

シェリー・マンがストゥールに坐ったヘンリー・マンシーニ盤は、『続・夕陽のガンマン』と同じアルバムに収録されていますが、こちらはいたってまともなアレンジで、文句はありません。どうも納得がいかなくて、また『続・夕陽のガンマン』を聴きなおしてみましたが、やっぱり、こっちはひどさもひどし、マンシーニとは思えない出来です。魔が差したのでしょう。

f0147840_23592487.jpgヒューゴー・モンテネグロは全面的にレッキング・クルーなので、マンシーニ同様、アレンジで大ボケをかまさないかぎり、ひどいものをつくるのははじめから不可能で、Hang'em Highのカヴァーも悪くありません。しいて難をいうと、ギターのトーン(トレブルを強くしたテレキャスターに聞こえる)に味がなく、それでヒットしなかったのではないかと感じます。もうすこしやわらかいサウンドだったら、MG'sに対抗できたのではないでしょうか。

サンプル2

ビリー・ストレンジ盤は、またしてもヒューゴー・モンテネグロ盤と同じようなメンバーですが(ハーモニカはまたしてもトミー・モーガンか)、アレンジがはまったとはいえず、このアルバムの他の曲にくらべて、いい出来とはいえません。

◆ 振り子の反対側 ◆◆
この映画はクリント・イーストウッドのハリウッド復帰第一作で、当然の商策としてイタロ・ウェスタンのイメージを借りてつくられています。しかし、結果は正反対というか、オーソドクスな西部劇に近いものになってしまい、借りたイメージがただ借りただけ、イタリアとアメリカは水と油のまま終わったという印象です。

法律なんか知ったことではない名無しのガンマンとは異なり、この映画の主人公は連邦保安官で、人違いで自分をリンチにかけた人々に正義の鉄槌を下すことを目的として行動します。この設定から必然的にシリアス・ドラマすれすれの展開になってしまい、つねにニヤニヤ笑い、ときには呵々大笑しながら楽しんだイタロ・ウェスタンとはまったくの対極にあるものができてしまいました。予告編にキメの文句として利用された「首を吊るときには相手の顔をよく見るんだな」はイタリア製西部劇風のシック・ジョークですが、このセリフがとってつけたように感じるキャラクター設定であり、プロットです。

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囚人護送馬車。こんなものはこの映画でしか見た記憶がない。こういう道具立てのケレン味はイタロ・ウェスタン的なのだが……

アメリカは清教徒の国だからなのか、昔のハリウッドというのは修身の教科書みたいなところがあり、悪が栄えるような映画は指弾される傾向がありましたが、それがこの映画のモラルのあり方に影響を与えたように感じます。同時に、なぜイタロ・ウェスタンが魅力的だったかが、このハリウッド製西部劇の欠陥のなかに明瞭にあらわれたともいえます。

イーストウッドは稀に見るほど頭のいい俳優で、たぶん、この映画の死体のように硬直した出来あがりから、多くのことを学んだのでしょう。イタリア製西部劇とこのハリウッド製西部劇の極端なキャラクター設定の落差を埋める方法を以降の映画で模索していき、やがて百点満点の回答を得ることになります。

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by songsf4s | 2009-03-31 23:55 | 映画・TV音楽