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These Boots Are Made for Walking by Nancy Sinatra (OST 『フルメタル・ジャケット』より) その2
タイトル
These Boots Are Made for Walking
アーティスト
Nancy Sinatra
ライター
Lee Hazlewood
収録アルバム
Boots
リリース年
1965年
他のヴァージョン
Billy Strange, Lee Hazelwood, the Ventures, the Supremes, Beau Brummels
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夕食後、近所を散歩したら、白木蓮がどれも満開でビックリしました。一昨日、散歩したときには、やはり夜だったので、開花しかかっていることにすら気づかず、今日、いきなり満開になっていたから、まるで突然、出現したみたいなものでした。気がつけば辛夷の花も咲きかけていて、いよいよ春本番、桜も遠からじ、ですねえ。

さて、前々回、「ブート・キャンプ」という名称の由来はなんだろうと書いたところ、友人から、これが参考になるのではないか、といわれました。この記述によると、やはり、「軍靴」という意味での「ブーツ」から来ているということのようです。まあ、ああいう半長靴というのは、軍隊以外ではあまり履かないものでしょうからね。ここから転じて、「ブート」というと、海軍や海兵隊では新兵、新米を意味するそうです。ナンシー・シナトラの会社はBoots Enterpriseというのですが、そういう意味を意識していたのでしょうかね?

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『フルメタル・ジャケット』のブート・キャンプ・シークェンスより、「ジョーカー」(右)にブーツの靴ひもの通し方を教わる「ゴーマー・パイル」くん。彼はこういう日常生活の些事が不得手なだけなのだが、軍隊ではそれが致命的な欠点になってしまう。

もちろん、もともとブートが新兵の意味だったから、新兵訓練を「ブート・キャンプ」といったわけではないでしょう。それじゃあまるで、宮武外骨の雑誌に出ていた「馬鹿」の語源です。刺身などにして食べるバカ貝という二枚貝がありますね? 俗に青柳と呼ぶ貝です。辞書には「殻から舌状の赤い足を出すところから、馬鹿者が舌を出している状態にたとえてこの名があるという」とあります。しかし、その外骨編集の雑誌によると、「愚か者はバカ貝のように口を開けているから、『バカ貝に似ている』という意味で『馬鹿者』というようになった」というのです。そんな馬鹿な話が……。

◆ 父と娘 ◆◆
ということで、本日はThese Boots Are Made for Walkingの後半です。ナンシー・シナトラは、アメリカではデビュー以来まったくヒットがありませんでしたが、日本では早くから人気があり、わたしもTonight You Belong to Meなんかはかなり好きでした。当家のお客様、O旦那が編集、ライナー、デザインを担当なさったナンシーの初期シングル・コレクションは、リリース当時、ずいぶん評判になり、わたしもさっそく手に入れました。

アメリカでは、このあたりのシングルは存在すら知られていなくて、いまもってCD化されていないくらいですから、あのころは古い45回転盤を買う以外にノンヒットの初期シングル曲を手に入れることができなかったので、このCDはオールドタイマーをおおいに喜ばせました。

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しかし、あと知恵でいうなら、こうした初期シングルがアメリカではすべてフロップしたのは、必然だったようにも思えます。最近、ナンシーのことを調べていて、はじめて知ったことがあります。フランク・シナトラはなぜリプリーズ・レコードをつくったのか、です。

シナトラがマルチ・トラック・レコーディングを忌み嫌い、つねにバンドといっしょに「ライヴ」で歌ったというのはよく知られています。じつは、これが理由でキャピトルをやめ、リプリーズをつくったのだそうです。マルチ・トラックでバンドとシンガーを別録りにするのが当然と考えられるようになったのが気に入らず、昔ながらの録音スタイルを固守するために、自分が自分のボスになることにしたというのです。

f0147840_23555645.jpgなるほど。小津安二郎はワイド・スクリーンを嫌い、「あんな郵便ポストのなかから世の中を見るようなことは御免こうむる」といって、死ぬまでスタンダードで撮りましたが(そういえば、『フルメタル・ジャケット』はなぜかスタンダード・サイズだった)、ものをつくる人、それも第一級の人物の場合、このような頑固なこだわりは天性といっていいでしょう。

しかし、それが会社のカラーになってしまうと、客商売ではおおいに問題です。ナンシーはリプリーズが契約したごく初期のアーティストですが、社長のモー・オースティンは契約の条件として「ノー・ロックンロール」といったそうです。あの疾風怒濤の時代に「ノー・ロックンロール」では、時代遅れのシンガーとみなされ、リスナーから顧みられなかったのは、当たり前すぎるほど当たり前のことでした。ビートルズが「侵略」した1964年2月以降、アメリカ音楽界は根底から覆されるのですが、ナンシーの録音には「64年の断層」が見られないのです。

f0147840_022762.jpg同じリプリーズでも、ディーン・マーティンはいち早く、若いジミー・ボーウェンに思うままに指揮を執らせ、新しい時代に対応しました。ボーウェンは、「自分のチーム」であるアーニー・フリーマン(アレンジ)やハル・ブレインというメンバーを使い、ハルには、それまでのディノの盤には見られないような強いビートを叩かせました。そのボーウェン・プロデュースのEverybody Loves Somebody (Sometimes)によって、ディノはチャート・トップに返り咲きました。9年ぶりのことです。

この曲はまだビートルズのビルボート・トップ100日間独占の最中に録音されているのだから、メインストリーマーとしてはいの一番といっていいほどの、ビートルズ時代への「即応」でした。この素早さでディノは後半生の地位を不動のものにしたといっていいでしょう(65年には『ディーン・マーティン・ショウ』がはじまり、9シーズンつづくヒット番組になる)。それなのに、若いナンシーは依然として、「ファブ4」など存在しないかのように、古びた歌をうたっていたのです。

遅ればせながらそれをひっくりかえしたのが、リー・ヘイズルウッドとビリー・ストレンジのコンビであり、So Long babeと、このThese Boots Are Made for Walkingでした。シナトラがリーのデモを脇から聴いて、この曲はいける、といったということは、彼も時代に合わせて変わろうとしていた証拠に思えます。ナンシーがはじめて大ヒットを飛ばした直後に、シナトラもビッグ・カムバックによって、ディノ同様、後半生も大スターでありつづける根拠を確保しました。もちろん、そのときドラムを叩いていたのはハル・ブレインでした。66年春のThese Boots Are Made for Walkingの大ヒットは、同年夏のStrangers in the Nightへの序章でもあったのです。

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ナンシーとリー・ヘイズルウッド

こういうことをいうと、シナトラとラットパックのファンの方に怒られるかもしれませんが、結果から見て、溺死しかけていたリプリーズに浮き輪を投げたのは、ハル・ブレインとレッキング・クルーだったといってよいと思います。ハルの強いビートに背中を押され、シナトラ親子とディノは時計の針をビートルズ時代に進めることができたのでした。

◆ ヴェトナムへ ◆◆
どこの国でもそうですが、芸人は戦地の慰問ということをします。あの古今亭志ん生ですら、酒が豊富だというだけの理由で満州までいってしまい、命からがら逃げ帰るなんてことをしています。ものすごく臆病なのに、酒がからむと突然強くなるというのが、志ん生らしいところです(たしか、この満州での志ん生と圓生の苦難は井上ひさしが芝居にしていた)。あるいは、淡谷のり子の「別れのブルース」は中国駐屯軍のあいだでヒットし、それが国内にもどってきたのだといわれています。

『地獄の黙示録』をご覧になった方はご記憶だろうと思いますが、あの川沿いの基地で、ゴーゴー・ガールが踊るシーンがありました。あれも慰問です。で、あのシーンを見ていて、これはナンシー・シナトラがモデルだと感じました。彼女はヴェトナムへ慰問に行っているのです。そういうことも、『フルメタル・ジャケット』のなかでナンシーのThese Boots Are Made for Walkingが使われた理由のひとつかもしれません。

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『フルメタル・ジャケット』に話を戻しますが、マシュー・モダイン演じる主人公の「ジョーカー」は、軍の新聞『スターズ・アンド・ストライプス』(「星条旗新聞」と訳したりもする)に配属され、編集会議のシーンが出てきますが、上官は、「テト」(旧正月)の停戦中に大きな戦闘があるという噂を追求したいというジョーカーには取り合わず、慰問に来るアン=マーグレットの取材体勢をどうするか、などということばかりいっています。ナンシーの慰問はもうすこし前のことで、この時期にアン=マーグレットが慰問にいった事実があるのでしょう。

これで、この映画が68年のいわゆる「テト攻勢」の前後に時代設定をしていることがわかります。あのころはこちらもまだ中学生で、ただこの言葉をひんぱんに目にした記憶しかありませんでしたが、この「テト攻勢」を境に、アメリカと南ヴェトナムは「戦局、日に日に利あらず」状態に陥っていったようです。太平洋戦争でいえば「ミッドウェイ海戦」というところ。

上官が、アン=マーグレットがどうしたなどといっているうちに敵襲がはじまり、ジョーカーははじめて前線へと取材に向かうことになります。われわれも手持ちカメラの揺れとともに前線に連れて行かれ、ジョーカーとともにたっぷり「クソの世界」を見て、幸いなことに生きて帰ることになります。友を失ったり、人を殺したりしなければなりませんが、たとえクソの世界だろうと、生きていることはすばらしいという洞察を得るでしょう。では、彼らとともに、ミッキー・マウスの歌をうたいながら、無事に前線から離脱するとしましょう。



◆ カヴァー各種 ◆◆
平和な本土では、These Boots Are Made for Walkingの平和なカヴァーがいくつか録音されました。しかし、残念ながら、あまりいいヴァージョンはありません。いいものがあれば、サンプルにしたのですが、それほどの手間をかけるに足るものはないようです。しいていうと、2種類、オリジナルと同じスタッフによるものが、聴いていて腹は立ちませんし、ニヤニヤすることすらできます。

ひとつはオリジナル盤のアレンジャー、ビリー・ストレンジのカヴァー。ドラムは例によってハル・ブレイン、ベースもキャロル・ケイでしょう。ビリー・ザ・ボスは、プレイヤーの評価においては歯に衣着せぬ人なので、ドラムはハル、ベースはキャロルがナンバーワン、と断言しています。たしかに、60年代に関しては、ほかのプレイヤーを使ったことはほんの数えるほどです。いつものようにホーンをバックにしたギターインストですが、オリジナルよりすこしスピードアップして、にぎやかにやっています。

f0147840_0394861.jpgもうひとつ面白いのは、オリジナルのプロデューサー、リー・ヘイズルウッド盤。ナンシーがいない以外は、ほとんどオリジナルと変わらないので(ストリングスがあるところが最大の相違)、どういったらいいかよくわからないのですが、ヴァースのたびに「これはなになにの歌である」という紹介が入り、ナンシーからはじまって、ビリー・ストレンジやエディー・ブラケット(エンジニア。ユナイティッド所属。ワーナーおよびリプリーズの録音は、しばしばユナイティッド・ウェスタンでおこなわれた)が登場するところが、ただの楽屋落ちですが、笑えます。「エンジニアのエディー・ブラケットがいうには、そろそろこのレコードをフェイドアウトさせないと、われわれ全員、逮捕されることになる」といって、ハルががんがん派手なフィルインを投入してフェイドします。

バーバンク・フィルハーモニックというわけのわからない「バンド」のカヴァーもあります。しかし、ジャケットをひっくりかえして眺め、音を聴けば、なるほど、とわかります。スナッフ・ギャレットの企画による、「南北戦争時代風サウンド」による「現代」のヒット曲のカヴァー集なのです。Hey Judeがあるので、60年代終わりの録音と思われます。

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The Burbank Philharmonicのフロント。デザインはディーン・トーレンスのキティー・ホーク・プロダクション。構想といい、細部の処理といい、いたってお粗末で、ふつう、こういう会社にデザインは頼まないだろうなあ、と思う。

しかし、これはどんなものでしょうか。ギャレットのプロジェクトだから、メンバーはみないつもの人たちでしょうし、ドラムはちゃんとやっているのですが、このアレンジが面白いかといわれると、はてさて、なんだろうね、これは、と溜め息が出ます。チューバかなんかでイントロのベース・リックをやっているのですが、なんだかすごく尾籠な音です。

ヴェンチャーズは、もう完全に時代遅れになってからの録音で、つまらないプレイをしています。やめるわけにもいかず、苦しいですなあ。わたしはこのへんの録音は願い下げです。

スプリームズは、アレンジ、サウンドについては、ちょっと面白いところもありますが、ダイアナ・ロスの歌でカヴァーなんか聴いたって、腹が立ってくるだけです。

腹が立つといえば、ボー・ブラメルズもひどいものです。ハル・ブレインがプレイしたTriangleというアルバムを買おうとして、まちがって66というのを買ってしまい、ムッとなりました。どこにも魅力のかけらすらないバンドでした。彼らのThese Boots Are Made for Walkingは、そのまちがって買った66に収録されているので悲惨の極致、ドブ川の底に淀むヘドロみたいな音楽だなあ、やっぱり、われわれはworld of shitに生きているのかもしれない、と納得してしまうのでした。
by songsf4s | 2009-03-18 13:51 | 映画・TV音楽