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(I'll Build a) Stairway to Paradise by Georges Guetary (OST)
タイトル
(I'll Build a) Stairway to Paradise
アーティスト
Georges Guetary (OST)
ライター
George Gershwin, Ira Gershwin
収録アルバム
An American in Paris (OST)
リリース年
1951年
他のヴァージョン
Paul Whiteman Orchestra, Liza Minnelli, Harpers Bizarre
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このところ、ブログは更新したい、仕事は忙しい、という二律背反に苦しんでいるのですが、ひとつだけいい点があります。いま取りかかっている仕事はハリウッド音楽史なので、「仕事のことをブログに書く」という、妥協の成り立つ余地があるのです。今日は、仕事のための調べもので得た副産物です。

(I\'ll Build a) Stairway to Paradise by Georges Guetary (OST)_f0147840_1750419.jpgウェスト・コースト・ジャズと映画音楽の関係について、以前調べたことがあります。Hollywood Rhapsodyという映画音楽研究書によると、ジャズ・プレイヤーが、ノン・ジャズ・シーンでプレイしたごく初期の例は、『巴里のアメリカ人』(1951)におけるベニー・カーターなのだそうです。

しかし、さらに調べていると、ちょっと微妙なんです。OSTにはベニー・カーター&ヒズ・オーケストラ名義のものが三曲収録されています。映画には、この三曲にムードが似た、ミディアム・スロウのジャズ・コンボのプレイが出てくるのですが(開巻まもなく、レスリー・キャロンが着せ替え人形のようにつぎつぎに衣装とセットを替えながら踊るシークェンスの一部、ジーン・ケリーとニーナ・フォシュが食事するレストランのシークェンス、大晦日のパーティーのシークェンス)、ドンピシャリ、OST盤そのままの曲というのが見あたらないのです。

ウェブで調べてみると、こういうページが見つかりました。下のほうに、こう書いてあります。

「(MGMに保存された)ファイルによると、ミュージシャンのベニー・カーターとそのグループが"Our Love Is Here to Stay"という曲を演奏する予定、となっているが、完成したサウンドトラックでは彼らの関与は確認できない」

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ちょっとあいまいな叙述で、"Our Love Is Here to Stay"という曲にかぎっては、ベニー・カーターがプレイしたとは確認できない、といっているのか、この曲のみならず、ベニー・カーターのプレイは最終版にはない、といっているのか、どちらとも断言しかねます。最近のOST盤にはベニー・カーターのこの曲は収録されているようです。考えられるのは、「じっさいに録音はした、しかし、編集段階で切られてしまった」でしょうが、もっと奥があるのかもしれません。

ものごとというのは、細かく調べていくと、一般に流布しているのはみな、適当にしつらえた表向きのタワゴトばかりなのだ、という結論になっちゃうのじゃないでしょうかね。われわれはなにか書くときに、時間の都合で原典にはあたらず、二次的材料を参考にする(つまり、史料それ自体ではなく、史料を基に書かれた専門研究書を読んでなにかを書く、といったたぐい)のはしょっちゅうですから、どこかでだれかがきちんと調べてくれなかったために、間違いが流布するというのはよくあることです。

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冒頭に出てくる、ジーン・ケリー(左の窓)が住むアパルトマン。こういう屋根を「マンサード」(英語式)または「マンサール」(仏語式)と呼ぶ。「駒形屋根」という訳語もある。断面が将棋の駒のような五角形だからだ。また、こういう形式の窓を「ドーマー・ウィンドウ」という。マンサードにドーマーはおそらくパリが発祥の地で、関東大震災後に日本でも流行した。以前、東京・神田にはたくさん残っていて、むやみに写真を撮ったが、いまはどうだろうか。まだ残っているだろうが、すごく減ってしまっただろう。いずれにせよ、このアパルトマンのデザインは、みごとにパリのムードをつくっている。

ところで、上記のページは、今日はじめてぶつかったものです。この種のものとしてはIMDbが有名ですが、わたしはあそこが嫌いです。通り一遍のことしか書いてなくて退屈だし、細かく見ようとすると、すぐにレジストしろとうるさいのも癇に障ります。allmusic同様、どこのサイトでも馬鹿みたいにIMDbを引用するのも、癇に障るどころか、あってはならないことだと思います。他人の意見は他人の意見、どこまでいっても自分の意見ではないのだし、情報ソースを一カ所に集約するのはファシズムの萌芽です。

上記サイトはTurner Classic Moviesとあるので、これまたメディア・コングロマリットの囲い込み戦略の一貫でしょうが、内容の面白さ、調査の徹底性、提供データの深さ、使い勝手のよさ、すべての面でIMDbを圧倒しています。ただし、自社が権利を持つものしか扱っていないでしょうね。でも、これを見れば、IMDbのどこがダメかは一目瞭然、こういうものが存在していれば、他のサイトに好影響があるでしょう。これだから競争は重要なのです。

◆ やっと本題 ◆◆
で、本日取り上げる曲は(I'll Build a) Stairway to Paradise、って、ここまでたどり着くのに、ひどく手間どってしまいました。



『巴里のアメリカ人』にはいい曲がかなりあるし、スタンダードになったものも少なくありません。でも、'S Wonderfulなんか、はじめから取り上げるつもりはありませんでした。数十種類のカヴァーがあるに決まっていますからね。そもそも、この曲はそれほど好みというわけでもありません。

I've Got a Crush on Youもありますねえ。I Got Rhythmも有名ですし、Nice Work If You Can Get Itもあるしで、エラいことです。個人的には、I Got Rhythmも好きで、じっさい、この記事を書きはじめたときはこれでいくつもりだったため、ファイル名はI Got Rhythmとし、いまもそのままです。

結局、Stairway to Paradiseにしたのは、ちょうど、わたしの属しているメーリング・リストでこの曲の話になった、ということがひとつ、いいカヴァーがあるというのがひとつ、そして、よけいなカヴァーがなく、聞き比べに時間がかからない、というのが決め手でした。
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オスカー・レヴァントは、パリに留学中のアメリカ人コンサート・ピアニストという役。この3葉は彼の空想のコンサート・シーン。レヴァントは、ピアノ、ヴァイオリン、マリンバ、ティンパニーなどをプレイし、コンダクトもする。ピアノは本職だから当然だが、他の楽器もきちんと絵と音がシンクしていて、安心して見ていられる。わたしは小林旭ファンだが、いまだにギターを弾くシーンは尻がむずむずする。コードなんて簡単なんだから、だれか引っぱたいてでもギターを練習させればよかったのにと思う。楽器を弾くシーンでは、絵と音はかならずシンクさせてほしい。『アマデウス』はつまらない映画だと思ったが、演奏シーンは素晴らしかった。

映画のなかでは、主演のジーン・ケリーではなく、アンリ・ボレルという仇役(いや、当人はそうなっていることに気づいていない好人物)を演じるジョルジュ・ゲターリーが歌っています。ジャズを毛嫌いするレヴューの歌い手という役柄なので、そういう思い入れで歌っているのでしょうが、わたしの知識が薄いので戦前の古いジャズと同じような感覚で歌っているように聞こえてしまいます。

曲調としても、ガーシュウィン流のジャズ傾斜ポップ・ソングで、I'll build a stairway to paradise with a new step everydayの最後がセヴンス・コードになるところがオーソドクス、まさにガーシュウィン式の楷書のジャズ傾斜です。いや、このセヴンスはクリシェといえばクリシェですが、ちょっと魅力的に響くのもたしかです。

◆ ハーパーズ盤 ◆◆
以前にも書きましたが、ハーパーズ・ビザールの最初の三枚のリズム・セクションは、ドラムズ=ハル・ブレイン、フェンダー・ベース=キャロル・ケイ、ギター=トミー・テデスコです。これが最初の三枚の出来がよく、リズム・セクションが交代した最後のアルバム「4」で大崩れに崩れてしまう理由です。

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ハーパーズのI'll Build a Stairway to Paradiseは、3枚目のSecret Life of Harpers Bizarreに収録されたもので、ドラムは依然としてハル・ブレイン、しかも、アレンジャーはかのボブ・トンプソン。このアルバムのなかでは、もっともすぐれたナンバーになっています。

イントロの弦とパーカッションには微妙な東洋趣味が感じられ、トンプソンだから、否が応でも気分はエキゾティカへと傾斜しかけます。しかし、ドラム、ベース(キャロル・ケイ確率99パーセント)、ギター(不明。これはテデスコのスタイルには聞こえない)という右チャンネルに集められたリズム・セクションが入ってくると、いつものハリウッドの音、しかも、かなり好調な日のグッド・グルーヴを堪能することができます。

シャッフルなので、ハルはおおむね3連のフィルインを使っています。なんといっても、1:52から1:53にかけてのタムタムがすごいものです。ピッチと時期から考えて、すでにセットはオクトプラスになっているにちがいありません。オクトプラスのハイ・ピッチのタムが鳴っています。もちろん、こういうタイプではエンディングにかけて盛り上げることになっていて、終盤はフィルが増え、ハル・ブレインここにありと高らかに宣言しています。

(I\'ll Build a) Stairway to Paradise by Georges Guetary (OST)_f0147840_1824288.jpgトンプソンについては、当家では、有名ではないが、すばらしいアレンジをしていると書いてきました。この曲の弦のアレンジもみごとなものです。ニック・デカーロなんて二流ですが、自己名義のアルバムやカーペンターズのおかげで(日本だけで)有名なのに対し、トンプソンにはそういうものがないために過小評価されているのは、じつに馬鹿げています。だれも音そのものを聴かずに、どこかの半チクなだれかが書いた垢抜けない評価を鵜呑みにしているとしか思えません。自分の耳で聴き、自分が感じたことを、自分の言葉で書く、この最低ラインは、ウェブでも守ってもらいたいものです。

オーケストレーターとして、トンプソンはデカーロのようなマイナーリーガーとは比較になりません。フィーリクス・スラトキンのI Get a Kick Out of Youのパーカッション・アレンジができて、このI'll Build a Stairway to Paradiseのような、味わいのある弦ができるのだから、万能のアレンジャーといいたくなります。まあ、穏当な表現に抑えるなら、非常に高いヴァーサティリティーをもつオーケストレーター、といったあたりでしょうか。

今回、また検索をかけたら、いままで見たことがなかったこういうサイトが引っかかりました。やっと、総合的なリストが手に入ったので、よーし、がんばってみるかと、よせばいいのに、まずい気合いをかけてしまいました。

◆ ポール・ホワイトマンとライザ・ミネリ ◆◆
『巴里のアメリカ人』というミュージカルに使われた曲は、書き下ろしばかりではなく、それまでにガーシュウィン兄弟が書いてきた曲がさまざまな形で「カニバライズ」されているようで、検索したら、ポール・ホワイトマンのヴァージョンが出てきてしまいました。調べる手間をかけていませんが、当然、戦前のものでしょう。



これはこれで、なかなか脳天気な軽ろみがあって、けっこうなムードだと思います。昔の人たちは、自分のうまさをひけらかしたりする意図がなくて、胸くそ悪い気分にならないですむので助かります。毎度いうように、シンガーが自分のうまさに酔っている姿ほどおぞましい見せ物はありません。その対極にあるのが、プレイヤーがグッド・グルーヴを楽しんで演奏している姿です。これは気分のいいヴァージョンでした。

もうひとつ、うちにはライザ・ミネリのものがありますが、こういうのがお好きな方だけが聴けばいいもので、わたしはまったく受け付けませんでした。あれは隣の宇宙の音楽で、わたしの宇宙ではこういうのは流行りません。

映画のことやら、ガーシュウィン兄弟とアーサー・フリードの契約のことやら、いろいろ書きたいことはあるのですが、今回はボブ・トンプソンに時間をとられたので、なにかまたミュージカルを取り上げるときにでもふれることにします。

あー、でも、ちょっとだけ。20年ほど前にこの映画を再見したときも思ったのですが、『巴里のアメリカ人』のジーン・ケリーとオスカー・レヴァントのコンビは、『銀座の恋の物語』の石原裕次郎とジェリー藤尾に投影されていると思います。『夜霧よ今夜もありがとう』のような露骨なコピーではありませんが、ケリー=レヴァントの男たちの暮らしのムードを、日本的に、しかし、どこかで微妙に非日本的な味を残しつつ、『銀座の恋の物語』は翻案したと思います(ストーリーはまったく異なり、そちらにはべつのネタがある)。わたしは、どちらのセット・デザインも好きです。昔は、馬鹿リアリズムに毒されていない美術監督がいっぱいいて、楽しい画面をつくってくれたものです。

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by songsf4s | 2009-02-14 18:17 | 映画・TV音楽