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The Longest Day March (OST) (『史上最大の作戦』より)
タイトル
The Longest Day March
アーティスト
OST
ライター
Paul Anka
収録アルバム
OST
リリース年
1962年
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記憶というものがおよそ当てにならないことは重々承知していたのですが、一夜、つぎの記事は当初の予定に戻って60年代の映画テレビ音楽をやろう、と思いつつ、安らかな眠りにつきかけたとき、記憶の井戸の底から、思わぬものが浮かび上がってきて、カッと目が覚めてしまいました。

f0147840_23324782.jpg最初にレコードを買ったのは1963年のこと、リトル・ペギー・マーチのI Will Follow Himで、そのB面はおかしなことにべつのシンガー、サム・クックのAnother Saturday Night(ドラムはハル・ブレイン)でした。いや、長年そう信じ、人にもそう話し、本にもそのように書いて印刷してしまったのですが、映画音楽のことを考えていたら、突然、べつの盤のことを思い出したのです。それが本日の曲、The Longest Day Marchです。

いや、非常に微妙なタイミングで、どちらが先だったのかまったく記憶がなく、あとから両者のリリース時期を見て、ほぼ同じころだったと考えられるだけです。『史上最大の作戦』という映画は1962年公開となっていますが、日本では翌63年ではないでしょうか。父親に連れられてロードショウ館に行ったので、見たのは封切直後にちがいなく、となると、盤を買ったのも63年と考えられます。

お客さん方にとってはどうでもいいことですが、わたしとしては、最初に買ったシングルがThe Longest Day MarchかI Will Follow Himかわからないというのは、へへえ、なるほどねえ、です。なんとなく、自分の音楽趣味はこの両者のあいだをふらふらしてきただけだったような気がするのです。

◆ ミッチ・ミラー盤 ◆◆
『史上最大の作戦』のことを思い出したときは、サントラを買ったのだろうと簡単に考えたのですが、検索していて、そうではなかったことに思いいたりました。いや、盤はなくしてしまったので明確にはいえないのですが、すくなくとも片面は「ミッチ・ミラー合唱団」か、「ミッチ・ミラー楽団」というクレジットになっていたと思います。このページに、Mitch Miller with His Orchestra and Chorusの名義で、The Longest Day (Vocal Version) b/w The Longest Day (Instrumental Version)という45回転盤のことが出ていますが、日本でもこれをそのままリリースしたのだろうと思われます。

ともあれ、まずはそのミッチ・ミラー盤The Longest Day Marchをお聴きあれ。



正確であると同時に非常に力強いスネアで、まったく文句がありません。小学生がはじめてドラミングに親しむには最適の盤です。これは歌ものですが、インストのほうは、リード楽器は口笛だったと記憶しています。

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◆ ポール・アンカ盤 ◆◆
久しぶりに映画でクレジットを見るまで知らなかったのですが、この曲の作者はポール・アンカだそうです。へえ、そうなのかよ、とHDDを検索したら、わが家にあるポール・アンカのベスト盤にもちゃんと収録されていました。自分がなにをもっているか正確に知っているあいだはまだ音楽好きとはいえず、わけがわからなくなるほど多数になって、はじめて一人前といえるのです、なんて開き直ってどうする!



こちらもスネアが素晴らしくて、ミッチ・ミラー盤と好勝負です。昔のスタジオ・ドラマーはみな、こういうドラミングがうまかったものですが、いまはどうなんでしょうねえ。マーチング・ドラムがドラミングの基礎だなんてことは、わたしが子どもだったころにも、すでにあまりいわれなくなっていたことで、いまでは忘れられた古代の技術かもしれません。いや、マーチング・ドラムが死に絶えたわけではなく、一流のスタジオ・ドラマーがみな例外なく、要求されれば、そういうプレイを手もなく、あざやかにやってのけたのは昔のことだろうというだけです。

高校のとき、アメリカの片田舎の高校を訪問し、なにに驚いたかというと、ブラスバンドの楽器です。町の入口にある看板には「人口4000人」と書いてあり、ものすごく小さな町でした。それなのに、町で唯一のハイスクールに行ってみたら、備え付けられている管楽器はみなセルマーだったのです。

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わたしの通った中学高校もみなセルマーで、ヤマハなんかひとつもありませんでしたが(ついでにいえばピアノはスタインウェイだし、ハモンドもあった。それなのに、なぜ軽音だけ差別されて、ドラムはパール、アンプはエーストーンだったのだ、といいたくなる。ラディックのセットとジルジャンのシンバル、アンプはフェンダー・トゥイン・リヴァーブじゃなければ、スタインウェイと釣り合いがとれないではないか!)、わが母校は新設の私立、そういう面では例外的に豪華だったのに対して、アメリカでは、人口4000人のささやかな町でも、「うち」と同じレベルの楽器を用意していたのです。これがアメリカのミュージシャンの苗床のなのだと、圧倒される思いで肝に銘じました。こういう環境で育った連中に、他国の管のプレイヤーが、個人ではなく、国のレベルで追いつく日は絶対にこないでしょう。技術とか文化とか、そういう小さな話ではなく、一国の国力の問題、富の問題です。

ドラムについても、同じことがいえるのかもしれません。わたしがそうであったように、ロックンロール小僧もしばしばブラスバンドに所属しているもので、アメリカのドラマーたちの多くも、ブラスバンドでマーチング・ドラムをやったにちがいありません(少なくともハル・ブレインは経験があることが回想記でわかる)。ブラス・バンドが充実していれば、ドラマーの訓練の場も充実することになります。

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そういうあれこれを考え、やはり国力の差はいかんともしがたい、太平洋戦争の敗戦は悔しいが、いまだに正面からぶつかって勝てるとは思えない、ここは隠忍自重、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び、臥薪嘗胆あるのみ、なーんて、太平洋戦争前夜の御前会議みたいな馬鹿馬鹿しいことを思ってしまう、ポール・アンカ盤The Longest Day Marchのみごとなドラミングでした。とくに、ヴォーカルが入る直前のロールのきれいなこと。こういうのが本物のドラミングなのです。ロールもきちんとできないジャズ・ドラマーなど、ちやんちやら可笑しいというのですよ。グレイディー・テイトとかマックス・ローチとか、そういう手合いのことです。

◆ サウンドトラック ◆◆
はじめて、同じ映画を繰り返してみたのは、小学校一年のときのディズニーの『眠れる森の美女』でした。夏休み、東京・中野の祖父の家にいたときに、年上のいとこに新宿ミラノ座まで連れて行ってもらったのですが、なにをどう感じたのか、翌日、生涯にただ一度というくらいの大ダダをこねて、もう一度、ミラノ座に連れて行ってもらいました。子どもの映画につきあうのは一度だってたいへんなのに、二日つづけて同じ映画を見るなんて、いとこにとっては悪夢だったでしょうが、わたしはおおいに満足しました。

f0147840_23551797.jpgいったい、なにが面白くて、あんな無理をいって立てつづけに二度も見たのだろうかと、ずっと後年、三十歳を過ぎてから、再びロードショウ館で『眠れる森の美女』を見てみました。周囲は母子連ればかり、そのなかに混じった三十男はどう見ても怪しい奴ですが、こちらとしては、大画面で子どものころに感じたことを検証できるチャンスはこれが最後だろうと、じつにもって大まじめでした。

結果は大正解。このアニメーション映画のなにが子どもの魂をとらえたのか、三十男には手に取るようにわかりました。画面の奥行きが生むファンタスティックな感覚です。これはヴィデオではわかりにくいことで、居心地の悪い思いをしながらも、映画館で見た価値がありました。音楽とは無関係なので簡単に片づけますが、ディズニー独特のセルの重ね方に、小学校一年のわたしは強く反応したにちがいありません。

翌年ないしは翌々年、こんどは『史上最大の作戦』を二度見ました。これについては、『眠れる森の美女』のような、あとから究明したくなるような謎の理由はなく、単純に、戦争映画ファンとして、それこそ史上最大規模のスケール、映画だか本物の戦争だかわからないほどの圧倒的な物量に驚愕し、その快感を再びもとめただけでしょう。

もっとも、大人になって見直したら、全体としての出来はさておき、やはりシーン単位で見ると、ウームと唸るものがあちこちにありました。とりわけすごいのは、ウイストルハム村の戦いで、川沿いに走って橋を渡るフランス部隊と、それを殲滅しようというドイツ守備隊の動きを追う、1分半におよぶ一発撮りの空撮シークェンスです。

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まずブリーフィングのシーンを利用し、ウイストルハム村の模型によって、この作戦の目標と人の動きの概要が観客に対して説明される。

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指揮官の突撃の合図。場所は上掲模型の左端に近いビルとビルのあいだ。

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ヘリコプターによる空撮シークェンスのスタート。

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爆発の噴煙、水煙、人の動き、いずれもリアルタイムなのだから、空砲を使う以外はじっさいに戦争をやっているに等しく、このシーンの段取りを考えると、呆然としてしてしまう。映画史上もっとも金と手間のかかった空撮シーンにちがいない。

視覚的なことはさておき、問題は音楽です。スコアはモーリス・ジャールだそうですが、ミニマル・ミュージックのようなもので、音階はほとんどなく、ティンパニー(は音階があるが!)やスネアやコンサート・ベース・ドラム(もトーナルにチューニングするが!)を中心としたパーカッシヴなもので統一しているところは、映像も銃声も爆発音も派手派手しいだけに(だから、カラーではなく、モノクロにしたのではないか。たんに時代色を出したかっただけとは思えない)、非常に印象的です。

ポール・アンカ作のテーマ曲は、たとえば劇中で俳優が吹く口笛といった形の変奏曲では使われるものの、結局、きちんとフルにプレイされるのはエンディング・クレジットのみで、ちょっと肩すかしです。冒頭はアヴァンタイトルで、というか、タイトルは出ず、もうひとつのテーマというべき、「運命」の最初の4音を叩くティンパニーだけで、すっと入っているのです。そのあと、スネアとベース・ドラムが入ってくるところは派手で、盛り上がります。

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ショーン・コネリーはまだ大スターではなく、中堅といったところで、それにふさわしい軽い役柄を与えられた。ほとんどコミック・リリーフの漫才コンビで、その相方はこれまたビートルズ映画で有名になる直前のノーマン・ローシントン。

あの時代の映画としてはめずらしく、オープニング・タイトルなし、エンディング・クレジットのみという形式で(後年当たり前になるこの形式の、これが嚆矢なのかもしれない)、しかもキャストはアルファベット順だというのだから、変わっています。偶然ながら、主役のひとり、ジョン・ウェインの名前が最後に出ます。ポール・アンカ、フェイビアン、トミー・サンズといった当時のティーン・スターがたくさん出ているのは、客寄せパンダなのかもしれませんが、いまになると、それはそれで面白い付録に感じられます。いっそ、みんなでMany men came here as soldiersと歌えばよかったのに!

ともあれ、テーマ曲だけでなく、ジャールのスコアも、サントラ盤が売れるタイプのものではないにせよ、ストイックなところは好ましく、この「史上最大の映画」に見合った格をもっています。小学生のわたしがミッチ・ミラーによるテーマ曲を買ったのは、たんに映画が気に入った結果にすぎないのでしょうが、偶然とはいえ、いい音楽を選んだことには、ちょっとホッとするものがあります。親バカみたいなもの、というと奇妙でしょうけれど、まあ、そんな感じで、子どものころの自分の行動に、いまになってハラハラしているようです!

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by songsf4s | 2008-12-27 23:55 | 映画・TV音楽