本体は終わったので、今回は残る五曲のボーナス・トラックを一気に書きます。といっても、すでに詳しいことは別の記事に書いてあったり、内容は何もない曲だったりなのですが。

この記事の末尾に最終版MP3のリンクとトラック・リスティングを置きます。その前に、まずはまだ触れていないボーナス・トラックについて。
◆ Captain Santa Claus by Bobby Helms ◆◆
この曲は歌詞依存のノヴェルティーだし、以前の記事にも書いていないはずなので、ざっと中味を見ます。構成が微妙なのですが、「前づけヴァース」と思われるものがついています。
ヴァースという言葉は昔は違う意味で使われていたので厄介なのです。通常は「《聖歌などの》 独唱部、ヴァース」とリーダーズ英和辞典に書かれている意味で使われます。
たとえば、ビートルズのShe Loves Youなら、「♬She loves you yeah yeah」というところは「コーラス」、「♬You know you should be glad」のところがヴァースです。Please Please Meなら「Please Please Me oh yeah, like I love you」のあたりがコーラス、「♬Last night I said these words」のところがヴァースです。
ママパパのCalifornia Dreamingなら、「♬All the leaves are brown」のところがヴァース、「♬California dreaming on such a winter's day」のところがコーラスです。
これに対してStardustの「♬And now the purple dusk of twilight time」という前書きのような部分をヴァースといいます。通常、これは冒頭で唄われるだけの使い捨てで、二度と出てきません。
では、前書きのあとに出てくる本体、「♬Sometimes I wonder why I spend」は何と呼ぶのか? わたしは知りません! 自分の知識の範囲で判断するなら、これもやっぱりヴァースです。現代ではあまり使われなくなったヴァースと、現代での用法のヴァース、両方がある、としか考えようがありません。だからこの言葉は困るんですよ。

それで苦し紛れに、わたしは勝手に古い用法の、前書きのような、MCの紹介のような、香具師の呼込み口上のような、冒頭だけに出てくる古い意味でのヴァースは「前付けヴァース」と名付けて、現代のポップ音楽用語としてのヴァースとは明確に区別しています。長い前置きおしまい。以下にその前付けヴァースを。
That Santa's sled had broken down
And there would be no toys this Christmas day
When suddenly a cry was heard
Up in the sky, is that a bird?
And all the children shouted hip hurray! (Hip hurray!)
サンタの橇が壊れて、今年のクリスマスは玩具のプレゼントは届けられないという話がひろまりました、その時、空から大声が聞こえて、子供たちはみな「それ行け!」と応援したのです、なんてあたりでしょう。
つぎは第一ヴァース、だと思うのですが、どうも構成があいまいで。
And his reindeer space patrol
His sleigh broke down one Christmas Eve
As he started from the pole

「がんばれ、キャプテン・サンタ・クロースとトナカイ宇宙パトロール、クリスマス・イヴに北極から出発したとたんにソリが壊れちゃったよ」あたりでしょう。TVアニメの主題歌みたいなものを思い浮かべていただければよいかと。
If I don't make this trip
But Santa's helpers saved the day
When they built a rocket ship
「『出かけられないと、子供たちはひどく悲しむだろうな』とサンタは困っていたけれど、助手たちが宇宙船をつくって急場を救ったのさ」というあたり。もう馬鹿馬鹿しくなったので、このへんで歌詞の検討は打ち切り。べつにこのあと急展開などしませんし。
以上のような子供、それもかなり幼い子供のための童謡です。クリスマスは子供のためにあるようなものなので、こういう音楽の需要もあったのでしょう。いずれにしてもこれはスタンダードとなったJingle Bell RockのB面としてリリースされた曲なので、A面目当てで買った大人たちは、盤を引っ繰り返して子供に聴かせたことでしょう。
このシングルがリリースされた1957年には、ロシア(まだソ連だった)がライカ犬をロケットに乗せて打ち上げるという(動物愛護の観点からは悲劇的)出来事があり、米ソ宇宙開発競争に火をつけ、最終的にアポロ宇宙船での月着陸へとつながることになります。

これが映画や小説や音楽にも反映され、さまざまな宇宙ものが生産されることになり、スペース・サウンドのLPなどもラウンジ方面を中心にリリースされました。ロケット、宇宙船の玩具なども当然巷に溢れていました。
ジョー・ミーク/トーネイドーズのTelstarがチャート・トッパーになったのもこれが背景にあるし、60年代になってもその傾向は減衰しながらつづき、人間の月着陸でようやく終息しました。

この曲の趣向はそういう時代を反映したもので、たぶん、この年、男の子の半分ぐらいは、ロケットだの、光線銃だの、そういう宇宙ものの玩具を欲しがったのではないでしょうか。ボビー・ヘルムズはそこにつけこんだというしだい。

◆ Look of Love (jingle bell mix) by Lesley Gore◆◆
レズリー・ゴーアのLook of Loveは1964年暮れから翌年にかけてヒットしたシングルです。べつにクリスマス・ソングというわけではなく、リリース時期に合わせてジングル・ベルを入れてクリスマス気分を醸成しているだけなので、ボーナス・トラックとして収録しました。
これまで1200本あまりの記事を書いてきて、「危なかった! 調べなかったら、大嘘を書いちゃうところだったぜ」と2400回ほど叫びましたが(ひとつの記事で何度もそういうことがあるので、記事数より多い!)、いまもまた「調べてよかった、命拾いだわ」と胸を撫で下ろしました。

見出しにジングル・ベル・ミックスと注記したように、このLook of Loveはリリース盤とは異なるオールト・ミックスだと思っていて、その旨を書こうとし、念のために録音日を調べたら、四十数年前からとんでもない勘違いをしていたことがわかって、鞭打ちになるくらい激しくのけぞりました。話は逆で、こちらがオリジナル45ミックス、わたしが長いあいだリリース・テイクだと思っていたものが、じつはアウト・テイクなのだそうです。
なぜ面白くない没テイクがリリースされて、すごく出来のいいヴァージョンがお蔵入りしたのか、ずっと不思議に思っていました。ジングル・ベル・ミックスのほうがサウンドが華やかで、はじまった途端、グッと身を乗り出すのです。

バックグラウンド・ヴォーカル(作者のエリー・グリニッジも唄っている)も、ジングル・ベル・ミックスのほうが2パス録音で厚くしてあり、その点でもこちらのほうがずっといいのです。

今日、調べて、派手で華やかなミックスのほうが正しいマスターなのだとわかり、そりゃそーだよなー、それが道理というものだぜ、と苦笑しました。
◆ とりかえばや物語 ◆◆
なぜそういう赤ん坊交換事件が起きたかというと、はるか昔の1965年にリリースされた彼女の最初のベスト盤(わたしが友だちの家で聴いたヤツ)を編むときに、間違って没テイクを使ってしまったためだそうです。後続の盤でもそちらが使われるということが起きてしまい、この間違いが間違いに見えなくなったわけです。

うちにはLook of Loveが13種あります。このうち4種が没テイクを使っていました。英国製コンプなどはどうせ調査の手間はかけておらず、米国から送られてきたテープやデータを右から左に使っているだけ、まー、所詮、下流、しよーがねーかー、なのですが、最初にこの間違いをやらかしたマーキュリーや、その後の米盤は大バカヤローのコンコンチキです。
マスター取り違えというのは、極めて稀な事故というわけではなく、とりわけシングルとLPで別のマスターが使われた場合などは、この種の間違いが起きやすいようです。マスターが複数ある場合は、ちゃんと注意書きがしてあるはずですが、そそっかしい人間、仕事が雑な人間というのはどこにでもいますからね。いや、わたしもよそさんのことを嗤えませんが。





ジョージ・マーティンが自伝に書いていたのだと思いますが、ビートルズの初期の没テイクが保存されていないのは、当時はテープが高価で、使わないテイクは上書きされたことがひとつ、また、取り違え事故を予防するため、というのがもうひとつの理由だったそうです。
それでも、Love Me Doなんか、昔は二種類のマスター(リンゴありなし)がランダムに使われて、後年、コレクターを喜ばせることになってしまいましたからね。まあ、人間のやること、to err is human、しゃーねーかー、ですわ。間違いは文化に揺らぎをつくって豊かなディテイルを生む、と肯定的に捉えておくことにしましょう。
ひとつだけ、没テイクには美点があります。1:06あたり、ブリッジの入口で、ゲーリー・チェスターと推測されるドラマーは、不思議なフィルインを入れています。
頭拍を飛ばしたスネアのシンコペートした8分三打からクラッシュ・シンバルというプレイに思えるのですが、これはリリース・テイクではいろいろなものがオーヴァーダブされていて、よく聴こえず、分析不能です。このフィルインを聴くなら、没テイクに限ります。

◆ New York's a Lonely Town by the Tradewinds ◆◆
これをボーナスとしたのは、明示的なクリスマス・ソングではないし、ありふれているからです。この曲についてはすでに昔のクリスマス・ソング特集の「New York's a Lonely Town by the Tradewinds」という記事に詳細に書きました。

しいて付け加えることがあるとしたら、昔の記事を書いた時は知らなかった録音パーソネルで、と書こうとしてそのデータを探したのですが、発見できず。後年の編集盤のライナーで、ピート・アンダースかヴィニー・ポンシーアのどちらかが回想していたのを読んだのですがねえ。いや、それは記憶違いで、どこかのウェブ・サイトでインタヴューを読んだのかもしれません。
べつに重要なことは出てこなかったし、すごい人がプレイしていたわけでもありません。たんに、NY録音であることが明言されていただけで、そのことだけ記憶しました。昔、これがハリウッド録音だと云っている人がいて、それはないでしょう、と思ったので、こちらの推測がコンファームされ、よしよし、と思い、あとのことは忘れちゃいました。NYのプレイヤーにはすごい人はあまりいませんし。

◆ Little Saint Nick by the Beach Boys二種 ◆◆
この二曲については、ひとつ前の記事、「ホーム・ブルー・クリスマス 8ビート篇 その7 ビーチボーイズ、Booker T. & The MG's」で書いたばかりです。いくらなんでも、もう書き加えることはありません。

◆ ソング・リスティング(たぶん)最終版 ◆◆
以上、話はおしまい。かくして、選曲はこうなりました。
01. Ann-Margret - Christmas Greetings
02. Claudine Longet - I Don't Intend to Spend Christmas without You
03. The 4 Seasons - Jungle Bells
04. James Brown - Go Power at Christmas Time
05. The Avalanches - Winter Wonderland
06. The Ventures - Silver Bells
07. Clyde McPhatter & The Drifters - White Chrismas
08. The Avalanches - Winter Evening Nocturne
09. James Brown - Soulful Christmas
10. Bobby Helms - Jingle Bell Rock
11. The Ventures - Blue Christmas
12. The Temptations - Rudolph The Red-Nosed Reindeer
13. Booker T. & the MG's - Silver Bells
14. The Beach Boys - Little St. Nick
15. Booker T. & The MG's - We Wish You a Merry Christmas
bonus tracks:
16. Bobby Helms - Captain Santa Claus
17. Lesley Gore - Look of Love
18. The Tradewinds - New York's A Lonely Town
19. The Beach Boys - Little Saint Nick (alt)
20. The Beach Boys - Little Saint Nick (track only)
リンク⇒Home Brew Xmas 2025 disc 2 2nd edition mp3
昔と違っていまはメディアがたくさんあり、需要は多くないはずなので、パーマネントなホストではなく、ほうっておくと自然にファイルが消滅するところにアップしました。クリスマスまでは持つと思いますが、エピファニー(顕現祭)のころには消滅しているでしょう。
順序が逆になりましたが、次回からディスク1に移ります。いや、こちらは昔、記事にした曲ばかりなのですが。

@tenko11.bsky.social
































