- タイトル
- The Long Hot Summer
- アーティスト
- Jimmie Rodgers
- ライター
- Alex North, Sammy Cahn
- 収録アルバム
- The Long Hot Summer (OST)
- リリース年
- 1958年
- 他のヴァージョン
- Gene McDaniels

ちょっとこのページの上のほうをご覧になってください。いや、PC画面ならこの状態でも見えているのじゃないかと思います。18年前から、クリスマス以外は差し替えず、ずっと同じグラフィクスで恐縮なのですが、これの左のほうにThe Long Hot Sという文字が見えます。本日の曲はこれです。
当家の発足当初は、この曲は夏の歌として取り上げるつもりでいたのですが、いつもトップにおいてあるので、いまさらなあ、と思いもし、また、ひどく古風で、興味をお持ちになるお客さんもあまり多くなさそうな気もして、ついつい先送りになり、はや幾星霜、であります。
◆ ほぼ忘れられたポップ・シンガー ◆◆
子供の時も、大人になっても、ファンというわけではなかったのに、ここへ来て、なかなかいいじゃないか、なんでいままであまり聴かなかっただろう、と思うシンガーがいます。ひとりはLightnin' Strikesのルー・クリスティー、もうひとりがこのジミー・ロジャーズです。

同姓同名、綴りも同じ、ジミー・ロジャーズというカントリー/フォーク/ブルーズ・シンガーがいて、たぶん、そちらのほうが有名、というか、音楽史的に重要な位置を占めていますが、本日のジミー・ロジャーズはポップ・シンガーのほうなので、お間違えなきよう。
昔は歌詞を逐一検討したものですが、もうそんな力があるかどうか、まあ、とにかく、聴いてみましょう。
サンプル(音質は落としてあります。ご了承ください)
Jimmie Rodgers - The Long Hot Summer
まずは第一ヴァース。
Seems to know every time you're near
And the touch of a breeze gently stirs all the trees
And a bird wants to please my ear
ポール・ニューマン扮する流れ者が南部の町の名家に入り込んで、騒擾を起こし、(たぶん)カタストロフに至る、という映画らしく、ここは、その設定に沿ったヴァースなのでしょう。状況説明という感じで、あまり重要なことは云っていません。「きみがぼくのそばに来ると、長く暑い夏はそれを察知するみたいだ、そよ風が吹いて木々がそよぎ、鳥たちがさえずる」というように、夏を擬人化したところが作詞家の工夫、というところでしょうか。

Seems to know what a flirt you are
Seems to know your caress isn't mine to posess
How could someone posess a star?
第二ヴァースも相変わらず、seems to knowの主語はthe long hot summerで、非英語スピーキング・ピープルには尻がむずむずする構文ですが、まあ、詩なら、日本語でもこういう表現はあるかもしれません。
長く暑い夏はきみが浮気者だということを知っているらしい、きみの戯れはぼくが独占できないものだと承知しているようだ、というので、第二ヴァースはちょっと波乱が暗示されています。
つぎはブリッジ。マイナーに転じます。
Long before the winds announce that winter's come to call
And meanwhile I'll court you, and meanwhile I'll kiss you
Meanwhile my lonely arms will hold you strong
でも、秋が訪れるよりはるか前に、きみはぼくに惚れているだろうな、とまあ、主役はポール・ニューマンなんで、なんだって云えるのです。ブリッジ後半は、言い寄り、口づけし、強く抱きしめると、それまでのあいだ=秋がが訪れるまでのあいだの三大行動指針を列挙しています。
秋が訪れるはるか以前に、と強調しているのは、何か、急がないといけない理由があるのかなあ、なんて色気のない人間は思っちゃうのですが、もちろん、夏は恋の季節だから、秋になる前に、それまでのあいだに、と繰り返しているわけですな。こういうことが何も考えなくてもすっとわかるのが若さ、考え込んでしまうのがお年寄り、と云えます。
つぎはちょっと奇妙なパートで、ふつうならブリッジが終わってヴァースに戻るはずなんですが、メロディー/コード進行はそうならず、これまでに出てきていないパターンで、コーダというか、長いエンディングというか、そういうものです。

Oh so slowly moves along
それまでのあいだ、長く暑い夏の時間はゆっくりと流れるだろう、と云っているだけです。時間はある、たっぷり楽しめもうぜベイビー、と色男舌なめずりし、てなもんです。このへん、コード進行は面白いんですが、詞のほうはどうも。年を取ると、暑いときは静かにしてりゃいいじゃないか、なんてんで、色気も何もあったものじゃありません。
◆ フリーランスのいない時代 ◆◆
メロディーを書いたアレクス・ノースは、映画音楽好きのあいだでは有名なフィルム・コンポーザーではあるものの、活躍したのは遥か昔のことなので、少々駄言を、と思ったのですが、なんだか、昔、書いたような気がして、当ブログを検索してみました。やっぱり、詳しく書いていました。
The Blue Danube by the Berlin Philharmonic Orchestra (OST 『2001年宇宙の旅』より) その2
古い記事を読むのは面倒臭いという方のために簡単に。ノースが1955年の映画Unchainedのために書いたUnchained Melodyが大ヒットし、スタンダードとなり、膨大なカヴァー・ヴァージョンが生まれたことはよく知られています。

映画史的には『欲望という名の電車』のスコアで、4ビートを取り込み、ハリウッド映画音楽の流れを変えた、と云われています。がしかし、その点については、じっさいにこの映画での音楽の使われ方を確認し、そんな大げさなものじゃないと、過去のわたしは、ウィキのテキトーな記述を批判しています。
50年代半ばまでは、ハリウッドの撮影所はスタッフを社員として抱え込んでいたものです。ノースはどこの会社で働いていたのかと思ったら、20世紀フォクス、コロンビア、WBなど、じつにさまざまで、あの時代にはめずらしい、フリーランスのフィルム・コンポーザーだったようです。こういう映画史的に重要なことを書かないから、ウィキは駄目だって云うのです。
SecondHandSongsのUnchained Melodyページ
映画は見ていないのですが、The Long Hot SummerのOST盤がうちにはあり、その中から一曲をサンプルにしました。主題歌のライトモティーフを使った変奏曲です。
Alex North - Southern Belle
◆ ノースよりさらに大物 ◆◆
作詞のサミー・カーンは、当家では何度も言及しています。スタンダード・ソングを聴けば、いやでも名前を覚えてしまうくらいの大作詞家です。カーンの曲を扱った当家のバックカタログのいくつかをあげておきます。
It's Been a Long Time⇒お遊びのライヴ更新
この記事では石原裕次郎ヴァージョンを取り上げていますが、有名なのは、レス・ポールがギターを弾いた、ビング・クロスビー・ヴァージョンです。
The Things We Did Last Summer⇒The Things We Did Last Summer by Frank Sinatra
「看板」にはシナトラを立てていますが、レズリー・ゴアのヴァージョンが好きでこの曲を取り上げました。
Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!⇒Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow! by Dean Martin
はじめはただの冬の歌だったのに、いつまにかクリスマス・スタンダードになった曲の代表。ディーン・マーティン・ヴァージョンが、彼のキャラクターと相まって群を抜く出来で、A Winter Romanceという素晴らしいアルバムの中でもひときわ素晴らしいレンディションです。

まだ取り上げていないサミー・カーン作品としては、アンドルー・シスターズ盤が大ヒットしたBei Mir Bist Du Schon (Means That You're Grand)、無数のヴァージョンがあるDay by Day、やはり誰のヴァージョンがヒットしたのか知らない(シナトラ?)Time after Time(好きなのはハル・ブレインがいいドラミングをしているクリス・モンテイズ盤)、これはヒットしなかったかもしれないけれど、ディーン・マーティン盤が楽しい、ちょっとコミカルなAin't That a Kick in the Headなどなど。
◆ 難物のコード ◆◆
サミー・カーンというのはそういう人です。そのわりには、The Long Hot Summerは、当たり損ねという感じの歌詞ですが、曲のほうは、さすがはノース、と思います。
昔なら、ここでコードを示すところなのですが、この曲は、コードを弾いている楽器が見当たらないし、終盤、面白い動きをするところは、変なところへ行っていたり、妙なテンションがついたりで、力およばず、一時間ほど苦闘して、撤退しました。長時間、意識を集中して作業すると、血圧が上がるせいか、体調が悪くなってしまうのです。
ブリッジの後半「And meanwhile I'll court you, and meanwhile I'll kiss you/Meanwhile my lonely arms will hold you strong」のコード・チェンジはじつに面白くて、いずれ、再挑戦し、なんとか終盤のコード進行を解明したいものです。
◆ ジーン・マクダニエルズ盤 ◆◆
この曲のカヴァー・ヴァージョンはわが家にはジーン・マクダニエルズのものしかありません。うちのHDDには百万曲かそこらしまってあるので、そこになければ、世間にもあまりないだろうと思いつつ、一応、Second Hand SongsのThe Long Hot Summerエントリーをチェックしました。オリジナルまで含めてわずか6種類。
知らなかったゴードン・マクレー盤をSHSに貼りつけられていたクリップで聴いてみました。悪くはないのですが、まあ、ふつうの出来で、ヒットはむずかしいでしょう。オーケストラを前に出し過ぎで、アレンジそのものは悪くないけれど、ちょっと煩く感じました。
ジーン・マクダニエルズ盤は、オーケストラのミックスが薄く、コーラスに至っては、さらに薄くて、ヘッドフォンで聴いても、女声コーラスなのか混声コーラスなのか判断できないほどです。しかし、このかすかに聞こえるコーラスが、このカヴァーのアレンジの美点で、セカンド・ヴァースの頭で、かすかな幻のように聴こえる瞬間は、ハッとさせられます。
ジーン・マクダニエルズの声は好きなのですが、この曲のレンディションは、ちょっと違和感があります。ヴァースはひねらずに、すっと唄ったほうがよかったのではないでしょうか。

SHSにリストアップされているこの曲のカヴァーの中では、コニー・〝クリケット〟・スティーヴンズにちょっと心惹かれます。そのうち、聴いてみようと思います。
◆ ロジャーズの美質 ◆◆
The Long Hot Summerは、ビルボード・ヒットだし、魅力的なメロディーなのに、やはり、時代が進む方向からそっぽを向いてしまった、外れ者、はみ出し者要素の濃厚な曲なのでしょう。
なんと云えばいいのか、失われた古代文明の遺跡を発掘している感じ、でしょうかね。ジミー・ロジャーズの唄い方は、もういまではまったく相手にされないでしょう。いや、当時だって、ちょっと特殊に感じられたはずです。周囲を見て、似たタイプの人というのは見当たりません。
それが長所にわたしには思えるけれど、多数派の感じ方は違うのでしょう。ジーン・マクダニエルズやゴードン・マクレー盤を聴いて思うのは、終盤の朗々と唄って盛り上げるパートが、凡庸で、面白みがないことです。
ジミー・ロジャーズの美点はここにあります。ふつうなら、音吐朗々となって、シンガーの声と技術が前面に出てしまう箇所で、独特の響き、にじみのようなものが彼の声にあらわれます。Meanwhileと唄う時に、朗々とならず、ちょっと哀し気な味が混じります。こういうのは、ほかのシンガーには感じたことがありません。
この発声とシンギング・スタイルの特長が、The Long Hot Summerという曲に複雑な色づけをし、忘れがたい印象を残すのでしょう。

◆ 四季はめぐり、歳月もめぐり ◆◆
noteのほうにこちらのリンクを貼りつけたら、「四季折々の歌を聴く」というブログの説明のようなものが表示されて驚きました。そう云えば、登録の時に、何かそういうことを書いたなと、かろうじて記憶がよみがえったのですが、なんだか妙な感じです。
一年で四季が巡れば、もう書くことがなくなる、そうしたらやめよう、と思いつつはじめたのですが、「四季折々の歌を聴く」から離れること、具体的には映画音楽を取り上げたり、四季折々の落語を並べたり、あれこれと手を広げることで、なんとなく生き延びてしまいました。
頻繁に新しい記事が公開されている「現役のブログ」ではなくなって時間がたつと、流体であることをやめ、固体になります。右ペインのランキングというのは、「現役」の時には新しい記事が上にくるだけで、べつに面白くもなんともないのですが、「固体化」してみると、どういうものが検索されているかが見えてきて、面白くなります。
それで思うのは、書いた当人がすっかり忘れてしまった「四季折々の歌を聴く」が、最終的に効いたいうことです。統計データの中に、検索キーワード・ランキングがあるのですが、夏には夏の歌が検索され、冬にはクリスマス・ソングが、ハロウィーンには怪奇音楽および映画が検索されるのです。
映画もそうです。夏になると、毎年、「日本のいちばん長い日」のページがよくアクセスされます。「季節感のある情緒的映画」にはほど遠いのですが、ある意味で、あれほど強く夏を感じさせる映画はないでしょう。
季節とは関係ない方面では、日活映画について多くの記事を書いておいたことがここへきて生きたようにも感じます。日活公式チャンネルの活動がこのところ活発になった結果、古い日活映画にふれる機会が増え、その方面の検索をする人が多くなったのではないでしょうか。

発足当初は、毎月、テーマを決めて、その枠組からあまり逸脱しないように話を進めましたが、途中から、とくにテーマは決めず、尻取りみたいな調子で、流れに沿ってトピックを決めていきました。
やっと再開(じつは、再々々開なのだが!)にこぎつけたいまは、もう、気ままにやろう、としか考えていません。やるとなると一所懸命になってしまう人間なのですが、これが老体にはいちばんよくないのです。いや、若くてもよくないのですが、体力があるから、その悪影響が見えにくいだけなのです。
気楽、気ままがいちばんです。ずぼらな人間が、身の丈に合わない努力をしたりするから病気になるのです。夏だから、それっぽいものは中心にしようか、てなことは思っていますが、それ以上の、「プラン」などというものは決めていません。
さっき、noteのほうに新しい記事、はっぴいえんどと宮谷一彦をめぐる「海を渡る起き抜けの路面電車:宮谷一彦が描く汽車、電車、市電」というのをアップしました。
これは高画質の写真を必要とするタイプの話題で、ああ、そうだ、高解像の写真がほしいテーマはあちらへ回そう、こちらは、音が中心で、ヴィジュアルは重要ではないことを書こう、と考えました。エキサイト・ブログは1GBの制限があるのに対し、noteはそんなことを気にしなくていいのです。
ということで、次回も何か曲を取り上げることになるでしょう。ティム・ハーディンの曲か、はたまた歌謡曲か、まあ、風の吹くまま、水の流れるままに。
@tenko11.bsky.social