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大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その16
 
今日はエンディングに入るような予告をしてしまったが、あまり時間をとれなかったので、箇条書き的にいくつか小さなことを並べる。

しかも、大滝詠一のことというより、はっぴいえんどのことを。ファイナル・ストレッチに入る前の小休止、お中入り、箸休めとお考えいただきたい。とりとめのない話になること必定の夜。

『風街ろまん』のリミックス盤というのを聴くことができた。tonieさんのお話では、どちらかというとファンには不評だったそうだが、それも無理ないか、というほど、ドラスティックな変化で、聴きながら何度か、「ええっ」と声が出た。

たとえば、「風をあつめて」はファースト・ヴァースからオルガンが入っている、といった明白な違いもあるのだが、なによりも、ミックスが異なり、ステレオ定位が異なり、各音の分離がまったく異なっていることに驚かされる。

このシリーズの「その13」で「春らんまん」のヴォーカルは、ハーモニー上=大滝詠一 メロディー(中)=大滝詠一、ハーモニー下=細野晴臣のように聞こえると、確信なさげに書いた。

オリジナル・ミックスでは、ヴォーカルは3パートともすべて右チャンネルにまとめられているという団子状態、しかしリミックスでは、下のハーモニーは左チャンネルに振られていて、おかげで、やはりこれは細野晴臣、残りは大滝詠一と確認できた。

いちばん驚いたのは「暗闇坂むささび変化」だった。

サンプル 「暗闇坂むささび変化」リミックス

問題はベースである。ラインではなく、トーンと弾き方である。細野晴臣は人差し指と中指によるフィンガリングの人だと思っていたが、この曲ではフラット・ピッキングか、または爪で引っかけての親指フィンガリングでやっている。

なぜそうなったのかというと、フィル・レッシュ・スタイルを模してみたからではないだろうか。このシリーズの「その10」でこの曲を取り上げた時、元になったと考えられるグレイトフル・デッドのFriends of the Devilにふれた。

Grateful Dead - Friend of the Devil (Studio Version)


デッドのフィル・レッシュはデビュー以来ずっと一貫して、現在もフラット・ピッキングでプレイしている。一音一音をはっきりと出すのが好みのようだが、とりわけ初期は、ジェファーソン・エアプレインのジャック・キャサディーが好きだというとおり、キャサディー・スタイルのトレブルの強い音でやることが多かった。

これは細野晴臣とは正反対といえるほど違うのだが、しかし、「暗闇坂むささび変化」では、じつは、誰が聴いても、ジャック・キャサディー=フィル・レッシュ・スタイルと感じるトーンで、しかも(たぶん)フラット・ピッキングでプレイしていたことが、リミックスで判明した

ここまで念を押す必要はないのだが、なんなのだろうか、やはり誠実さなのだろうか、デッドのFriend of the Devilとの近縁性を、ベースによっても強調していたのである。

しかし、それがオリジナル・ミックスでは、いつものようにフィンガリングでやったように思えるトーンになっているわけで、ここがまた不思議ではある。ミックス・ダウンの際に、やはりいつものようなやわらかい、すこしくぐもったようなトーンのほうがいいと判断し、加工したということだろうか。

ちょっと斜めの方向に連想が流れた。大瀧詠一作曲で、いずれも1976年リリース。最初の吉田美奈子盤は村井邦彦プロデュース。

吉田美奈子「夢で逢えたら」


つぎは同じ曲のカヴァー。こちらの編曲は大瀧詠一(ベーシック・トラック)と山下達郎(弦と管)、プロデュースは大瀧詠一。なお、ずいぶん昔のことだが、歌手の時は略字で「大滝詠一」、それ以外の作曲、執筆などでは正字の大瀧詠一という使い分けだと書いていたのを読んだ記憶があるので、このシリーズではそれにしたがっている。

シリア・ポール「夢で逢えたら」


吉田美奈子は素晴らしい歌いっぷりだし、シリア・ポールはなんとも可愛らしい。ジョーニー・サマーズとシェリー・ファブレイの対照のようだ(呵々)。

いや、サウンドの話である。昔、これを聴いた時、ダイナミック・レンジの狭いラジオだったこともあって、ストレートにフィル・スペクターを想起した。

いま聴くと、そんな単純な話ではないのだが、まあ、とにかく、若造はそう思ったということで、いちおうロネッツを。ドラムはもちろんハル・ブレイン、ストリング・アレンジメントはジャック・ニーチー。

The Ronettes - Be My Baby


吉田美奈子盤のカスタネットはやはりフィル・スペクターの引用だろうけれど、ハンド・クラップはあるいはレスリー・ゴアの時のクラウス・オーゲルマンのアレンジから来ていたりする可能性も感じる。

いや、ハンドクラップなんてめずらしくもないから、60年代初期のガール・グループ/シンガーの音の記憶総体、と考えるべきだろうが、まあ、とにかく、彼女の曲を。ドラムはおそらくゲーリー・チェスター。

Lesley Gore-That's The Way Boys Are


ハル・ブレインのように、フェイド・アウトでキックの2分3連踏み込みをやっているが、やはり、「ヘイ、ハル、借りたぞ」という呼びかけだろう。呵々。

大滝詠一は、ソロ・デビューでフィル・スペクターのDa Doo Ron Ronを下敷きにした「うららか」を録音した時はおろか、この76年の時点でもまだ、フィル・スペクターのサウンドを掘り下げてみよう、とまでは考えていなかったのではないだろうか。

あるいは、この方向に添って探っていけば、どこかに突き抜ける道が見つかると考えるようになったのは、このシリア・ポール盤を録音した直後あたりからなのではないかと、根拠なしに思ったりする。

そこが、フィル・スペクターのすぐそばにいて、スタジオでフィルがなにをしているかを見てしまったブライアン・ウィルソンとの違いではないだろうか。

ブートからの切り出しでちょっと音質はよろしくないが、ブライアン・ウィルソン作編曲プロデュース。

サンプル Sharon Marie - Thinkin' 'bout You Baby

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シャロン・マリーとビーチボーイズ。ひとり足りないが!

いま聴けば、Todayへの前奏曲、ひいてはPet Soundsも地平線に姿をあらわしている、という管の使い方だが、この時のブライアンの意図は、どうやればフィル・スペクターのような効果を得られるかという考察の、最初の素案というあたりだろう。

つぎも同様の、外部プロダクションでのスペクター・サウンド研究論文とでもいうべき一篇。ブライアン・ウィルソン作編曲プロデュース。のちにビーチボーイズも同じトラックを流用して歌ったが、当時はリリースされなかった。

The Castells - I Do


連想があちこちに跳弾しただけのことで、なにかまとまった結論があるわけではない。

大瀧詠一のサウンド・プロダクションにおける、英米音楽との向き合い方というのを考えつつ、ずっとこのシリーズを書いてきたのだが、「暗闇坂むささび変化」リミックス・ヴァージョンにおける細野晴臣の真っ正直なコピーぶりに接して、またひとつ、考える素材が増えたのだった。


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by songsf4s | 2014-01-21 22:56 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その13 You Still Believe in Meセッション
 
Pet Sounds再訪、あと二曲まできて長らく足踏みしてしまいました。立ち向かうには気力の必要なアルバムで、ちょっと気を抜くと、戻れなくなってしまいます。

かくてはならじ、今日は残った二曲のうち、相対的に楽なほうを検討します。さっそく完成版のステレオ・ミックス。

The Beach Boys - You Still Believe in Me


何度も書いているように、Pet Soundsの特徴のひとつは、耳慣れない音が聞こえることです。このYou Still Believe In Meも例外ではありません。

なんのヴィデオだったか、ブライアン・ウィルソンが、フィル・スペクターからなにを学んだか、ということを、明解に語っていました。ブライアン曰く、スペクターが呈示したことでなによりも重要なのは「第三の音」なのだそうです。

第三の音とはなにか? ギターとピアノをいっしょに鳴らす、このとき、われわれの耳に響くのは「ギターの音」と「ピアノの音」という二種類の別々の音ではない、この二つが合成されたべつの音、「第三の音」である、とブライアンは説明していました。

スペクターはカスタネットだ、と考えた愚人や、スペクターはエコーだ、という凡人とは、やっぱり、ブライアン・ウィルソンは出来がちがいます。

たとえば、ブライアン・ウィルソンが昔も今も愛してやまないBe My Babyはどうなっているでしょうか。

The Ronettes - Be My Baby


人それぞれ異なるでしょうが、わたしが最初に感じるのは、コードです。昔から、Be My Babyを聴くと、まずそのことを感じてきました。

最初はよくわからなかったのですが、必死で聴き、また、スペクターの汎用的手法がわかってきた現在の場所でいうなら、複数のアコースティック・ギター(12弦もあるかもしれない)、ピアノ、それにひょっとしたらハープシコード、という組み合わせだと想像します。

ブライアンも、このモワモワしたスープ状の音を分析したのだと思います。そして、この「第三の音」をスペクター以上に大々的に利用したアルバムがPet Soundsなのだ、といっていいでしょう。

Pet Soundsではつねにそうだといっていいでしょうが、You Still Believe in Meも、はじめから「第三の音」が利用されています。

イントロの楽器は、作詞のトニー・エイシャーがピアノの弦にクリップをとめて鳴り方を変え、ブライアン自身がプレイしたと伝えられています。ブライアンは、それだけではなく、ここにヴォーカルを重ねて、独特の響きをつくっています。

音の重なり方を解きほぐす参考に、パーソネルを書き写しておきます。

ドラムズ……ハル・ブレイン
パーカッション……ジェリー・ウィリアムズ
ティンパニー、ラテン・パーカッション……ジュリアス・ウェクター
アップライト・ベース……ライル・リッツ
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ギター……ジェリー・コール、バーニー・ケッセル、ビリー・ストレンジ
ハープシコード……アル・ディローリー
ベース・クラリネット……ジェイ・ミグリオーリ
サックス……ビル・グリーン、ジム・ホーン、プラズ・ジョンソン

歌がはじまったときに背後で鳴っているのも「第三の音」です。アル・ディローリーのハープシコードがいちばん目立つ音ですが、そのすぐ上に接着するように、ハープシコードと一体になって、ひとつの構造物を構成するかのごとき形で、ギターがおかれています。二本かと思ったのですが、このクレジットでは三本になっています。

Pet Soundsの異常さには馴れてしまったので、改めて、この違和感、いや、そういうネガティヴな意味ではなく、「異質感」とでもいえばいいのか、それまでに経験したことのないものに出合った感覚を思いだすのはむずかしくなってしまいました。

しかし、あの時代、いや、いまでもそうかもしれませんが、ポップ・フィールドで、このようなギターの使い方をしていたのは、ブライアン・ウィルソンただひとりではないでしょうか。

ポップ/ロックの世界では、ギターというのは、コードを弾くものであり、単独でオブリガートを入れるものであり、そしてなによりも、ソロをとるものでした。これはいまでもほとんど変わっていないでしょう。

しかし、ブライアンのPet Soundsでのギターの使い方は、アンサンブルを構成する楽器のひとつとして、隅々までアレンジして、全体のなかにとけ込ませる、というものでした。

これはやはりノーマルではありません。ブライアンはそのことを明確に意識していたにちがいありませんし、そういうギターの使い方にさまざまな工夫を凝らしています。

この曲で気になるのは、あとはパーカッションと管です。

調べてデータを起こしてくれたのに、こんなことをいっては申し訳ないのですが、こういう風にデータを書いていて、それでなにも疑問に思わないのかなあ、と文句をいいたくなってしまいます。

この曲にドラムといえるようなものは入っていないので、ハル・ブレインがプレイしたのは、たぶんパーカッションでしょう。

とはいえ、いっぽうで、ジュリアス・ウェクターがプレイした「ラテン・パーカッション」ってなんだよ、とも思います。そんなものも見あたりません。

目立つのは自転車のベルのような音。これはチーンとやるだけのものと、チリリンとやるものの二種類のように聞こえます。ただし、チンと一発だけのほうは、ひょっとしたら、パーカッションなのかもしれません。

ひとつはつぎの曲と同じ楽器かもしれず、だとしたら、自転車のベルではなく、なにかのパーカッションかもしれません。

The Beach Boys - She Knows Me Too Well


しかし、チリリンのほうはまちがいなく自転車のベル、だれがプレイしたのやら、です。

結局、ジュリアス・ウェクターはティンパニー、ハル・ブレインは得体の知れないチリン、ジェリー・ウィリアムズが自転車のベル、という役割分担でしょうか。

エンディングの豆腐屋のラッパみたいなものは、昔読んだものではオーボエと書かれていた記憶があるのですが、このクレジットではどうもそうではないようです。昔の車のクラクション? いや、スティーヴ・ダグラスのクラリネット、と考えておきます。

時間切れなので、ホーンについては簡単に。

ハリウッドには、ビリー・メイやショーティー・ロジャーズやニール・ヘフティーのように、ホーン・アレンジの世界ではそれと知られた人がたくさんいました。ブライアン・ウィルソンのホーン・アレンジは、そういうビッグ・ネームたちのものとは性質が異なります。

ブライアンのホーン・アレンジは、ちょうどオーティス・レディングのように、コーラス・グループのヴォーカル・アレンジャーが、歌の延長線上でつくるタイプのものでした。

だから、ビリー・メイのアレンジのように、スウィング感を追求するわけではなく、和声的な響きの美しさを主眼としたものでした。このYou Still Believe in Meは、そうした「歌うホーン・アレンジ」の典型で、何度か、うーむ、美しいなあ、という瞬間があります。

もう置き場所をつくっている余裕がなくなってしまったので、脈絡もなく、最後に、あとで置こうと思ってアップしておいたサンプルを貼りつけておきます。

トラッキング・セッションのテイク9から22までです。ブレイクダウンやホールドが多いのですが、その理由がそれぞれに異なっていて、音楽が生まれていく過程の面白みに満ちた断片です。

サンプル The Beach Boys "You Still Believe in Me" (take 9 through 22)


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The Pet Sounds Sessions
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by songsf4s | 2011-11-24 23:54 | 60年代
SMiLE気分になってみる――ブライアン・ウィルソンとSMiLEショップほか
 
今日はPet Soundsの残りをなんとかしようとちょっと聴いたり、書いたりしたのですが、ブライアン・ウィルソン病にかかったのか、どうもうまくいかず、ワードローブを着て、自然食品の店に立ってみたりしました(ウソ)。

世間はPet SoundsというよりSMiLEだなあ、なんて思い、チラッとそっちを聴いてみたりしました。だいたい、昼間に岸井明を聴いたあたりから、今日はズレてしまい、うまくいかない予感がしたのですが。

ロング・ビーチのSMiLEショップとブライアン・ウィルソン


やっぱり、日本にいちゃ駄目だなあ、というクリップでした。ロング・ビーチにいれば、これですからね。

ビーチボーイズ・ファンはおわかりでしょうが、このクリップの冒頭、「Release Day」の文字が出るときに、Graduation Dayがかかっています。

しかし、あの飾りつけはすばらしい。あれを売ってみたらどうでしょうかね。壁のシミ隠しには最適でしょう。

またしても「BeachBoysさん」がアップした宣伝クリップばかりになってしまって恐縮ですが、もうひとつ。

The Beach Boys An Introduction to "SMiLE Sessions"


Pet Soundsは「すばらしい曲」と「いい曲」のミクスチャーで、駄目な曲というものがないアルバムでした。ああだこうだと細かいゴタクをいう以前に、「いい曲ばかりのいいアルバム」だったのです。

SMiLEはちょっとちがいます。楽曲も重要なのですが、それ以上に、サウンド、アレンジに強く依存した造りと感じます。その一点で、この両者は、じつは、ずいぶんと性質の隔たったものではないでしょうか。

ごちゃごちゃいっていないで、また「BeachBoysさん」のクリップをいってみます。

The Beach Boys SMiLE Sessions - Heroes and Villains Music Video


今日は時間を空費してしまったし、相手はSMiLE、なにか意味のあることをいう余裕などないのですが、聴いていると、やはりいろいろなことを思ってしまいます。

SMiLEはしばしばビートルズのSgt. Pepperと比較されます。たしかに、Sgt. Pepperの誕生を促した時代の気分が、SMiLEの向こう側にもあると思います。

しかし、SMiLEを聴いていてわたしが連想するのは、Sgt. Pepperではなく、Abbey Road(いま、このアルバムのタイトルを思い出せず、笑ってしまった。いかに親しまなかったかがわかろうというものだ!)のほうです。

Abbey RoadのB面、独立した曲としては未完成のものを、想像力と構成力とスタジオ技術だけで、組曲として一貫性のようなものを無理にでも感じさせてしまうレベルにまで、強引にもっていってしまった、ジョージ・マーティンという人物のすごみを思わずにはいられません。

いや、ブライアン・ウィルソンの曲です。Pet Soundsとは意味が異なるとはいえ、レベルのちがう場で、ブライアンはやはりSMiLEのために「いい曲」を書いています。たんに、ポップ・フィールドで45回転盤としてリリースし、ビルボード・チャートの上位を狙えるタイプのものは見あたらないだけです。

容赦なく時刻は迫っているので、できるだけたくさん千社札をペタペタしてみます。SMiLEのもので、もっともふつうの意味で「いい曲」なのは、これかもしれません。

Beach Boys - Surf's Up (Smile Sessions ver.)


この曲はサルヴェージされ、同題のアルバムに別エディット・ヴァージョン(と理解しているが、再録音というべきなのか?)が収録されました。そちらのほうだって、楽曲として美しいとは思いますが、やはり、本来の場所はSMiLEだと、強く思います。

Pet Sounds Sessionsのときも感じましたが、やはりSMiLE Sessionsでも、楽曲がどうとか、アレンジがどうとかいう前に、いい音が鳴っているのを耳にするのは気持がいい、結局、いちばん重要なのはそれではないか、なんて思います。

Wind Chimes- 1080p The SMiLE Sessions Version


すくなくとも、これだけははっきりしています。ブライアン・ウィルソンは、最終的には構想の大きさと精神の消耗に負けて、このアルバムを放棄してしまいます。だから、それなりの苦しみはあったのでしょう。でも、これだけの音を鳴らしたのです。音楽家として、日々、深い快感を味わっていたにちがいありません。いい音を出すのはすごいことだ、とつくづくと思います。

The Beach Boys - Cabin Essence


いつだったか、キャリアが下り坂になってから、苦し紛れにスタンダード・アルバムやクリスマス・アルバムをつくるのは愚かだ、ということを書きました。

ニルソンは、湯水のように金を注ぎ込んで、絶頂期にスタンダード・アルバムをつくりました。こういうところで、できあがったものに差がつくのです。

SMiLEのように、とほうもないコストをかけたアルバムが、あやうくテープのままで収蔵されつづけるだけになったのは、無駄といえば無駄です。しかし、金のかかったものは、やっぱりいい音になるなあ、音を出すのに無駄金なんてものはない、と思ったのでした。

The Beach Boys - SMiLE Sessions Surfboard


いつか、SMiLEに正面から取り組みたいと思いますが、もうちょっと時間がかかりそうです。


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by songsf4s | 2011-11-22 23:51 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その12 I Just Wasn't Made for These Timesセッション
 
恒例によって、本日のジム・ゴードンの一曲。盤としてはライノの70年代ヒット曲集Have a Nice Dayシリーズの一枚でもっていただけで、オリジナル・アルバムは知らず、今日はじめて、ジム・ゴードン・ディスコグラフィー・ブログスポットでパーソネルを見た曲です。

Sammy Johns - Chevy Van


これは今年の八月の「Surf'n'Rod WITHOUT (or mistakingly WITH) Hal Blaine Vol. 3」という記事に貼りつけていて、当然、そのときにも聴いたのだから、気づけよな>俺、でした。

ジム・ゴードンのシグネチャーのひとつは、フロアタムの二打または一打のアクセントで(フィルインと呼ぶのはためらうほど短いのでアクセントと呼んでおく)、この曲でも、ファースト・コーラスの最後で、フロアタムの一打をやっています。

ほんとうは、長年の懸案だったアルバムが解決したので、そちらのほうを書いたのですが、枕にしては長すぎるので、それは先送りにしました。いずれにしても、すでに何度もジム・ゴードンのプレイだと主張してきた曲の裏がとれた(らしい)というだけなのですが。

◆ たまには歌詞について ◆◆
Pet Soundsシリーズもだんだん煮詰まってきた、今回はあれこれチェックして、通し番号をまちがえたことに気づきました。「その8」がダブっていました!

さて、11回目ではなく、12回目の今回は、I Just Wasn't Made for These Timesです。まずはリリース・ヴァージョンから。

The Beach Boys - I Just Wasn't Made for These Times


たしか昔、「ダメなぼく」とかいう邦題がつけられていたと思います。ブライアン・ウィルソンのヴィデオにも同じ邦題がつけられていて、苦笑しました。

適宜「演出」するのはやむをえないと思うのですが、勘違い、ないしは、(こちらのほうが悪質だが)意図的なミスリードはやめてもらいたいものです。

この曲の中身に即していうならば、どちらかというと「あまりにもすぐれている僕」と解釈するべきでしょう。ジョン・レノンがそういう曲を書いているのはご存知ですよね。ほら、例のNo one I think is in my tree, I mean it must be high or lowです。

The Beatles - Strawberry Fields Forever


「俺の木にはだれもいない、高いか低いかのどちらかだ」というのはどう意味だ、と問われて、書いてあるそのままの意味だ、俺と同じレベルの人間はいない、ということだ、とジョンがなにかのインタヴューでいっていました。

ブライアン・ウィルソンがI Just Wasn't Made for These Timesでいいたかった(じっさいの歌詞を起こしたのはトニー・エイシャーだが、ブライアンの基本アイディアを言葉として整えて表現した)のは、ジョン・レノンがStrawberry Fields Foreverでいったのと同じようなことです。

I keep looking for a place to fit
Where I can speak my mind
I've been trying hard to find the people
That I won't leave behind

They say I got brains
But they ain't doing me no good
I wish they could

Each time things start to happen again
I think I got something good goin' for myself
But what goes wrong

Sometimes I feel very sad
Sometimes I feel very sad
(Can't find nothin' I can put my heart and soul into)
Sometimes I feel very sad
(Can't find nothin' I can put my heart and soul into)

I guess I just wasn't made for these times

Every time I get the inspiration
To go change things around
No one wants to help me look for places
Where new things might be found

Where can I turn when my fair weather friends cop out
What's it all about

Each time things start to happen again
I think I got something good goin' for myself
But what goes wrong

Sometimes I feel very sad
Sometimes I feel very sad
(Can't find nothin' I can put my heart and soul into)
Sometimes I feel very sad
(Can't find nothin' I can put my heart and soul into)

I guess I just wasn't made for these times

ファースト・ヴァースの「I've been trying hard to find the people that I won't leave behind」を、「ダメなぼく」とかいう邦題をつけた人はどう解釈したのでしょうか。これは「すぐれた自分についてこられるすぐれた人間を一所懸命に見つけようとした」と解釈するしかないでしょう。「leave behind」は、たんに「去る」こととは思えません。

それは、つぎの「They say I got brains/But they ain't doing me no good」みんな、ぼくのことを頭がキレるというけれど、というラインで、さらに明瞭になります。

トニー・エイシャーは、他の曲については、ブライアンからアイディアをきかされて、そうそう、そういうことはある、よくわかる、と思う点があったけれど、この曲のアイディアには同感できなかったといっています。エイシャーはmust be high or lowであって、not in his treeなのでしょう。たしかに、こういうことを考える人間は特殊だと思います。ブライアン・ウィルソンやジョン・レノンのように特殊な人間です。

あるいは、ビーチボーイズや会社とブライアン・ウィルソンの関係を歌っているとも読めるし、さらには、彼の音楽と世間の音楽の関係と読み替えることもできます。

この曲が予言したように、Pet Sounds just wasn't made for those timesだったのであり、長い年月をかけて、やっと、ふさわしい地位が与えられることになった、と考えてしまいます。

いや、しかし、翻ってみると、「ダメなぼく」と解釈したほうが、現代にあっては「fit in」しやすいかもしれません。

どこにも居場所がない、だれともうまくいかない、と感じている人は、昔より今のほうがずっと多いでしょう。それで、アマチュアのカヴァーの解釈が「ダメ」なほうになってしまうのではないでしょうか。

◆ またしてもアブノーマルな組み合わせ ◆◆
さて、このシリーズの主題はサウンドです。I Just Wasn't Made for These Timesにも、ブライアン・ウィルソンらしいアイディアがいくつか盛り込まれています。

やはり、セッションのほうがサウンドの理解には好都合です。いや、その前にまずパーソネルを。ブラッド・エリオットがエレクトリック・ベースとした部分を、わたしの考えで、ダンエレクトロ6弦ベース(ダノ)と変更しました。フェンダー・ベースとは根本的に異質な楽器なので、誤解のないように、という意味で。

ドラムズ、ティンパニー、ボンゴ……ハル・ブレイン
ティンパニー、ラテン・パーカッション……フランク・キャップ
アップライト・ベース……ライル・リッツ
エレクトリック・ベース……レイ・ポールマン
ギター……グレン・キャンベル、バーニー・ケッセル
ピアノ……ドン・ランディー
ハープシコード……アル・ディローリー
ハーモニカ……トミー・モーガン
テルミン……ポール・タナー
サックス……スティーヴ・ダグラス、プラズ・ジョンソン、ボビー・クライン
バリトン・サックス……ジェイ・ミグリオーリ

f0147840_23592420.jpg

それではトラッキング・セッションへ。

サンプル The Beach Boys "I Just Wasn't Made for These Times" (tracking sessions)

まず、ほう、と思うのは、セッションの冒頭で鳴っているハープシコードのサウンドです。ポップ系の曲ではダイナミック・レンジが圧縮された録音がほとんどなのですが、単独で鳴ると、本来、ハープシコードというのは、深く重いサウンドだということを思いだします。セッションのみならず、リリース・ヴァージョンでも、相対的にこの曲では重い響きになっていて、その点を好ましく思います。

イントロでは、ライル・リッツのアップライト・ベースに、トミー・モーガンのベース・ハーモニカをかぶせるという、異常な処理をしていることにも耳を引っ張られます。変なことをするものです。

いま振り返ると、昔はこの音をバリトン・サックスと聞き誤っていたようです。こんな風にかすかにベース・ハーモニカを鳴らすなんて手法は、一介のロック小僧の想定の範囲内にはありませんでした。

f0147840_0202077.jpg本来のベースらしい位置にいるのはライル・リッツのアップライトだけで、ダノのレイ・ポールマンはミュート・ギターのようなサウンドで、ベースというより、ギター・リックのようなラインを弾いています。

ダノじゃないと、こういうことはできません。キャロル・ケイさんは、ダノというのはエレクトリック・ベースではないのだ、ふつうのギターより一オクターブ低い「ベース・ギター」なのだといっていました。だから、フェンダー・ベースを「ベース・ギター」といってはいけない、あれはエレクトリック・ベースなのだ、と彼女らしく、几帳面に定義していました。

彼女がユニオンに申し入れた結果、ローカル47のコントラクト・シートでは、ダノのプレイヤーはベースではなく、ギターと書かれたそうですが、じっさい、そのように書かれたものをわたしもいくつか見ています。今回はブラッド・エリオットの「解釈」が介入したクレジットを見ているので、コントラクト・シートには、正しく、レイ・ポールマンはギターをプレイしたと書かれているのかも知れません。

パーソネルには出てこないのですが、バンジョーらしい音が鳴っていて、セッションを聴くと、どうやらグレン・キャンベルがプレイしたらしいとわかります。しかし、これは最終的なトラックでは聞こえません。

サンプル The Beach Boys "I Just Wasn't Made for These Times" (track only)

最終的にはアコースティック・ギターに変更され、小さめにミックスされたのかもしれません。もっとよく聞こえないバーニー・ケッセルのギターは、エレクトリックのようです。セッションではチラッと聞こえますが、これまたバッキング・トラックの段階ですでにほとんど聞こえなくなっています。

そうとは明記されていませんが、テルミンは、オーヴァーダブで加えられたのではないでしょうか。Unsurpassed Mastersのセッション・トラックでも聞こえず、The Pet Sounds Sessionsボックス収録の最終的なバック・トラックではじめて聞こえます。

改めて、「裸の目」で見ようとすると、ひどく異様な楽器編成に思えてくるのですが、しかし、昔を振り返ると、すぐになじんで、それ以来ずっと、ごく自然な音として聴いてきたわけで、そこがブライアンのすごいところなのかも知れないと思います。

一見、どれほど奇矯な組み合わせに見えようと、根本のところで、すべてがきれいにフィットするように意図されている、ということです。異質なものを、いったんは異質と意識させ、それでいて、すぐになじむように構築されたサウンドなのだと思います。

最後に、趣味のドラミング話。ヴァースとコーラスのつなぎ目、ファースト・ヴァースでいうと、but what goes wrongとsometimes I feelのあいだに置かれているシンプルなフィルインが、昔から妙に好きでした。

とりたててどうだというフレーズではないのに、なぜか心惹かれます。どういうことなのやら。セッションからはわかりませんが、例によって、これはブライアンがつくったフィルインなのでしょう。


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by songsf4s | 2011-11-11 23:51 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その11 Don't Talkセッション+付録Good Vibrations
 
本題に入る前に、相変わらずのジム・ゴードン三昧ネタを少々。今回もビーチボーイズがらみ、しかもSmileがらみです。

Good Vibrationsのドラムは、ずっとハル・ブレインのプレイだと思っていたのですが、いくつか、ジム・ゴードンが叩いたパートがあるというのをはじめて知りました。

Good Vibrationsは、一連のPet Soundsセッションの最後に録音されているのですが、おそろしく複雑かつ長大なセッションになり、ずるずるとSmileへつながってしまいます。だから、The Pet Sounds Sessionsではなく、The Smile Sessionsのほうに収録されているのです。

いまさらのような気もしますが、いちおう、記憶を新たにするために、完成品を。

The Beach Boys - Good Vibrations


まあ、「おおむねハル・ブレインがドラムをプレイした」といって大丈夫でしょう。しかし、ジム・ゴードンが叩いたところは、やはり、ディテールに富んでいて、なかなか面白いのです。

以下の部分はオフィシャル・リリースではオミットされたと思いますが、以前聴いた別エディット(Good Vibrations Boxに収録されたものだったか)では、最後の「グー、グー、グー、グッヴァイブレーションズ」コーラスに突入する直前に貼り込まれていたと思います。

サンプル The Beach Boys "Good Vibrations" part c

おお、やっぱりな、でした。ブライアンがドラムのフレーズを歌い、ジム・ゴードンに叩かせ、ちがうだろ、といっています。つまり、このフィルはジミーがつくったわけではなく、ブライアンがつくったものだということです。

f0147840_23322366.jpg

60年代のジム・ゴードンは、2タムタムのセット(+ハイピッチ・タムが1または2)だったので、ちょっと悩んでしまいますが、このフレーズは、フロアタムとタムタムを使ってやっているのだと思います。ピッチを大きく変えた二つのタムタムでやった可能性もチラッと感じますが……。

ハル・ブレインは自分で譜面を起こし、変更があればそこに書き込んでいきましたが、ジミーはおそらく譜面を書かなかっただろうと思います。それで、ブライアンの変なフレーズを暗譜でプレイするため、ちがうだろ、といわれてしまったのでしょう。

つまらないことですが、ハル・ブレインのカウントの声は無数の曲で聴くことができます。しかし、ジム・ゴードンのカウントはそれほどありません。貴重です!

それにしても、Smileセッションもやはり面白くて、いずれ、本気で取り組むか、などとあらぬことを口走りそうになります。いや、当面、その気はありません!

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◆ 遅ければ楽ともいえず ◆◆
本日のPet SoundsトラックはDon't Talk (Put Your Head on My Shoulder)です。

まずは完成品。ステレオ・ミックスで。

The Beach Boys - Don't Talk (Put Your Head on My Shoulder)


Pet Soundsは、全体がそうなっているといえなくもありませんが、そのなかでもとくにこの曲は、「ブライアン・ウィルソンのプライヴェートなバラッド」といえるでしょう。

Surfin' USAとか、Fun, Fun, Funとか、Help Me RhondaとかCalifornia Girlsといったような、アップテンポのシングルA面曲とは対極にある、たとえば、Please Let Me WonderやShe Knows Me Too Wellのような、ビーチボーイズといっしょに騒ぐのではない、静かにひとり黙考するようなタイプの曲のことです。ブライアンもそのつもりで書き、したがって、自分でリードを歌い、他のメンバーのハーモニーを入れなかったのでしょう。

こういう曲をアレンジするのはむずかしいと感じます。ブライアンもそれなりに悩んで、(Pet Soundsのなかにあっては相対的に)シンプルなアレンジを選んだのではないでしょうか。

この曲のアレンジで好きなのはヴィオラのラインです。とりわけ、1:00あたりからヴィオラが前に出てきて、ブライアンのヴォーカルにカウンターをつけるような形になり、おお、美しいな、と感嘆します。短いインストゥルメンタル・ブレイクでも、耳に立つのはヴィオラの音です。

サンプル The Beach Boys "Don't Talk (Put Your Head On My Shoulder)" (stereo backing track)

というように、バックトラックだけにすると、ヴィオラのラインがさらに明瞭に聞こえてきます。

ブラッド・エリオットの調査によるパーソネルを書き写します。

ドラムズ……ハル・ブレイン
パーカッション……スティーヴ・ダグラス
ヴァイブラフォーン、ティンパニー……フランク・キャップ
アップライト・ベース……ライル・リッツ
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ギター……グレン・キャンベル、ビリー・ストレンジ
オルガン……アル・ディローリー

オーヴァーダブ・セッション
ヴァイオリン……アーノルド・ベルニック、ラルフ・シェイファー、シド・シャープ、ティボー・ジーリグ
ヴィオラ……ノーマン・ボトニック
チェロ……ジョージフ・サクソン

ふと思います。ストリングスのアレンジはどうしていたのでしょうか? ブライアンは譜面を書くのが苦手で、ベース以外のパートはみなプレイヤーに歌ってみせたといわれています。

前回の「その9 I Know There's an Answerセッション」に貼りつけたクリップで、トミー・モーガンは、ブライアンが「dictate」したとおりにプレイした、といっていますが、つまり、それです。dictateというのは、一般に、口述して書き取らせることですが、この場合は「口頭での指示」といったあたりでしょう。

リズム・セクションはそれでいいのです。譜面なしのセッションというのはめずらしいことではないし、ほとんどは経験豊富な第一線のプレイヤー、口頭での指示で十分でしょう。

しかし、弦のプレイヤーというのはクラシック出身です。譜面がないとなにもできません。インプロヴもしません。ビートルズのA Day in the Lifeのエンディング、オーケストラ全体が揺れながら上昇していき、それぞれの最高音でフォルテシモになる、という有名なシークェンスがあります。

あのレコーディングには、もちろんジョージ・マーティンがいたのですが、譜面で表現のしようがなく、上述のようなことをdictateしたそうです。どの楽器だったか忘れましたが、有名なプレイヤーが、このセッションの途中で、マッカートニーのくだらない音楽なんかやってられるか、といって帰ってしまったといわれています。まあ、気持はわからなくもありませんがね。譜面なしのインプロヴなど、この人にとっては、教育のない下賤の輩のやることだったのでしょう。

ハリウッドのクラシック・プレイヤーは、映画とテレビで食っていたので、ポップ・セッションは慣れていたとはいえ、Don't Talk (Put Your Head On My Shoulder)のような曲を譜面なしでやるのはひどく厄介でしょう。

この録音のストリング・セクションのなかに、シド・シャープがいます。シャープはハリウッドのポップ・セッションのレギュラーで、しばしば、strings supervised by Sid Sharpeというクレジットを見かけます。あるいは、シド・シャープ・ストリングスというグループとしてのクレジットもあります。

案ずるに、ブライアンとストリング・セクションのあいだに、シド・シャープが入って、「ブライアン語」をノーマルな譜面に翻訳し、クラシックのプレイヤーにもわかる形にしたのではないでしょうか。

The Pet Sounds Sessionsのライナーに引用されていたのだと思いますが(あるいは、私信に書かれていたことかも知れない。キャロル・ケイさんと無数のメールを交換した時期ときびすを接してThe Pet Sounds Sessionsがリリースされたので、いつも記憶がごちゃごちゃになる)、キャロル・ケイさんがおっしゃっていたことで忘れられないことがあります。

ふつうは速いパッセージがむずかしいのだと考えるだろうが、じつは、遅い曲というのもむずかしい、Don't Talk (Put Your Head on My Shoulder)は、打楽器はシンバルが四分を刻んでいるのみ、それだけを頼りに、音数の少ないラインを精確なタイムで弾くのは、非常にむずかしかった、と彼女はいっていました。

これを読んで、わたしは、そりゃそうだ、と深く首肯しました。ただラインをなぞるだけならできます。しかし、グルーヴを失っては意味がないのです。遅くてもリズミカルに(小津映画!)プレイしなければいけないわけで、この曲はひどくむずかしかっただろうと思います。

星の数ほどいるビーチボーイズ・ファンのなかには、Carl & the Passionsに収められた、デニス・ウィルソンの曲を好む方もいらっしゃるのではないでしょうか。

The Beach Boys - Cuddle Up


The Beach Boys - Make It Good


こういうサウンドは、デニス・ウィルソンのソロ・アルバム、Pacific Ocean Blueに受け継がれます。デニスはワーグナーが好きで、それが彼の曲やアレンジに反映されたといわれています。

たしかにワグネリアンらしい音作りだと思います。しかし、そのいっぽうで、ブライアンの音作りにも大きな影響を受けているのはまちがいありません。とりわけ、ブライアンの"Don't Talk (Put Your Head On My Shoulder)と、デニスのCuddle UpやMake It Goodは、影響関係が明白だと感じます。


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by songsf4s | 2011-11-10 23:59 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その10 I Know There's an Answerセッション
 
相変わらずジム・ゴードンのプレイを聴きつづけているのですが、そのからみで、ビーチボーイズの20/20とFriendsも聴き直しました。

Smileが空中分解したあと、その残骸を集めてSmiley Smileというアルバムがつくられました。Smileの残光、とりわけGood Vibrationsのせいで、このアルバムを重視するビーチボーイズ・ファンはいますが、わたしはあまり好みません。どうとりつくろっても、かなりダウナーなアルバムです。

そのつぎのWild Honeyも印象散漫です。R&B的なものを目指したのでしょうが、そういうものを聴きたければ、べつのアーティストのほうがいいと思います。Darlin'のアレンジ、サウンドはおおいに好みでしたが、それだけではアルバム全体の印象を左右しはしません。

少数派意見なのだろうと思いますが、わたしはそのつぎのFriends、そして翌年の20/20が、Smile分解後のアルバムとしてはもっとも好ましく感じます。70年のSunflowerとくらべてもそう思います。

今回、聴き直しても、Friendsについては「放心の果ての心地よい弛緩」とでもいったグッド・フィーリンに、20/20については、シンプル&ストレートフォーワードへの回帰(サイケデリックは終わったと感じている人々の間では、あの時代のグローバルな気分でもあった)に魅力を感じます。もうホームランは狙っていないのです。きれいなミートでセカンドの頭を越そうという打ち方です。

20/20はともかくとして、Friendsについては、ジム・ゴードンがプレイしたという確たる裏づけがあるわけではなく、ジム・ゴードン・ディスコグラフィー・ブログスポット関係者の推測ではないかと思われます。

たしかに、ハル・ブレインの可能性を感じるトラックは一握りですし、だれだとはっきりイメージできるドラミングはないので、とりあえず、反対する理由はありません。

ジム・ゴードンであるとも、ないとも判断できませんが、こういうリラックスしたサウンドがFriendsというアルバムの特徴です。

The Beach Boys - Busy Doin' Nothin'


複雑精緻なPet Soundsにくらべれば、三桁ほどスケールダウンした単純さですが、これはこれでグッド・フィーリンがあって、好ましい音楽だと感じます。スパニッシュ・ギターはだれでしょうか、端正なピッキングにニコニコしてしまいます。ドラムも、サイドスティックのサウンドがきれいで、けっこうなプレイです。いや、地味ですけれどね。

つぎの曲のドラムも好ましいプレイですし、デニス・ウィルソン・ファンのわたしは、もっとデニスの歌を聴こうじゃないか、と訴えたくなります。

The Beach Boys - Little Bird


Pet Soundsは遙かな高みを目指した巨大プロジェクトでしたが、Friendsは、旅から帰った男が、ポーチに出したイージー・チェアに坐って、秋の海の静かに寄せては返す波を、日がな一日眺めているような心地よさがあります。

それにしても、60年代のジム・ゴードンはよくわかりません。粘っているうちに聞こえるようになると期待しているのですが……。

◆ 自我こそすべて ◆◆
本日のPet Soundsトラックは、I Know There's an Answerです。まずは完成品から。

The Beach Boys - I Know There's an Answer


何度も書いているように、Pet Soundsというアルバムは、変な音がいっぱい鳴っていて、ただのロック小僧の狭小な見聞の範囲に収まろうはずもなく、いったい、この音はどうやってつくったのだと、ほとんど一曲ごとに首を傾げていました。

いまでは、すべて解明され、考えるまでもなく、ライナーを読めばわかるのですが、それが楽しいことかどうかはなんともいえません。何十年も首を傾げて、解決篇を読めたわれわれのほうが幸福だったように思いますが、まあ、いきなりすべてがわかるのも、あながち不幸とはいえないでしょう。

ブラッド・エリオット作成のパーソネルを見れば、この曲での摩訶不思議サウンドの解答がわかります。

ドラムズ……ハル・ブレイン
パーカッション……ジュリアス・ウェクター
アップライト・ベース……ライル・リッツ
フェンダー・ベース……レイ・ポールマン
ギター……グレン・キャンベル、バーニー・ケッセル
タック・ピアノ……アル・ディローリー
オルガン……ラリー・ネクテル
ハーモニカ……トミー・モーガン
サックス……スティーヴ・ダグラス、ジム・ホーン、ポール・ホーン、ボビー・クライン
バリトン・サックス……ジェイ・ミグリオーリ

オーヴァーダブ・セッション
ギター……グレン・キャンベル

昔は、間奏の楽器がわからなくて思いきり悩みました。いわれてみれば、たしかにベース・ハーモニカだ、と思うのですが、こんな楽器は、ビートルズのFool on the Hillぐらいしかほかに使用例を知らず、しかも、ちょっと変な使い方なので、ずっと、なんだろう、と首を傾げっぱなしでした。

どこかでジョージ・ハリソンがベース・ハーモニカを吹いている写真を見た記憶があったので、いま検索したのですが、イの一番に当家の「The River Kwai March/Colonel Bogey (OST) (『戦場にかける橋』より)」という記事が引っかかってしまい、あらら、でした。

しようがない、記憶を新たにするために、いちおう音だけ貼りつけておきます。

The Beatles - The Fool On The Hill


ポールはブライアン・ウィルソンの大ファンで、長い不遇の時代(ポールのではなく、Pet Soundsの)からずっと、「Pet Sounds大使」を務めてきたので(嘘)、ベース・ハーモニカを使ってみようと思ったのは、ひょっとしたら、I Know There's an Answerのせいかもしれません。

で、Fool on the Hillを聴けばわかりますが、これは穏当な使い方で、ギョッとしたりはしません。

トミー・モーガンはキャピトル・レコードのプロデューサーが本業というべきなのかも知れませんが、ハリウッドのスタジオでは、ハーモニカの第一人者であり、長年に渡って各種のセッションで活躍しました(The Official Tommy Morgan Website)。

当家ではかつて、「The High and the Mighty by The Shadows (『紅の翼』より その2)」という記事で、トミー・モーガンのTropicaleというアルバムをご紹介したことがありますし、何度か言及しています。

ヒューゴー・モンテネグロの大ヒットであるつぎの曲も、トミー・モーガンのプレイだそうです。ドラムはもちろんハル・ブレイン、ダンエレクトロ6弦ベースは、キャロル・ケイさんから、自分のプレイである、という確認の返事をいただきました。要するに、Pet Soundsのバンドがヒューゴー・モンテネグロ・オーケストラだったのです。

Hugo Montenegro - The Good, the Bad & the Ugly


Pet Soundsに戻ります。トミー・モーガンのコメントを二つつづけて。

Van Dyke Parks, Brian Wilson and Tommy Morgan talk


もうひとつのトミー・モーガンのコメントにいく前に、ごちゃごちゃやって、やっとジョージがベース・ハーモニカをプレイしている写真が出てくるクリップを見つけました。

Paul McCartney on Pet Sounds and Sgt. Peppers


おっと、こりゃ失礼をば。すでにMr. Kiteでベース・ハーモニカが使われていたことを失念していました。どうであれ、ポールは率直にブライアン・ウィルソンに傾倒していたことを語っています。やはり、ベース・ハーモニカを使おうというアイディアはPet Soundsからきたのでした。

Tommy Morgan section from The Pet Story


歌伴のセクションで低音部の補強にベース・ハーモニカを使っている部分は、すべてブライアンの指示どおりにプレイした、しかし、ソロはインプロヴだった、といったことを語っています。

いやはや、すごく低いところにいったときの音のすさまじいこと。ブロウ・テナーのような力強さで、そのことはブライアンも強調しています。

直接は関係ないのですが、最後にCKさんがいう、人柄なんかどうだっていいの、きっちり仕上げられる能力だけが重要、という台詞の重いこと!

わたしはこの曲のベース・ハーモニカの音にショックを受けました。それはわたしだけのことではなく、そもそも、ブライアンからして、この楽器に接して驚き、大々的に使ってみようと考えたのだとたしかめられ、嬉しくなりました。

Pet Soundsの向こうにある根元の音楽衝動はこれです。すごい音でみんなを驚かせてやろう!

ベース・ハーモニカ自体は昔から存在してましたが、その可能性の地平をここまで広げたアレンジャー、プロデューサーはブライアン・ウィルソンただひとりでしょう。

この曲につけられた最初の歌詞は、リリース盤とは異なり、タイトルもHang on to Your Egoだったことはよく知られています。

わたしは、この歌詞の変更をとくに重要とは思っていませんが、いちおう、当初の意図を知るために、はじめのヴァージョンを貼りつけて、本日の幕とします。

The Beach Boys - Hang on to Your Ego


イントロを聴き直していて、書き忘れていたことを思いだしました。

このイントロは大好きです。やはり、なにが鳴っているのかよくわからないところがあります。アル・ディローリーがプレイしたタック・ピアノ(ハンマーに釘を打って金属的な音にしたもの)はいいとして、もうひとつの支配的な楽器がわかりません。オルガンでしょうか。

I Know There's an Answerも、California Girls、Wouldn't It Be Niceなどと並ぶ、ブライアン・ウィルソンのイントロの代表作だと考えています。

あ、もうひとつ。この曲のバンジョーの使い方も意外でした。バンジョーのコードにベース・ハーモニカのインプロヴを載せる、この発想の異常さ!


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by songsf4s | 2011-11-08 23:56 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その9 Here Todayセッション
 
今日はいろいろトラブルがあったりで、まったく余裕がなく、いきなり本題です。本日のPet SoundsトラックはHere Today、またしてもハル・ブレインのいない曲、いや、キャロル・ケイもいないリズム・セクションです。

さっそく完成品から。

The Beach Boys - Here Today (stereo)


またまた変なリズム・アレンジです。いや、Pet Soundsのなかで、このHere Todayがもっとも奇妙なドラム・アレンジといえるでしょう。いったいどうなっているのかと思います。

トラック・オンリーを聴くと、すこしわかってきます。

The Beach Boys- Here Today (track only, stereo)


例によってブラッド・エリオットによるパーソネルを書き写します。

ドラムズ……ニック・マーティニス
パーカッション……フランク・キャップ
タンバリン……テリー・メルチャー
アップライト・ベース……ライル・リッツ
エレクトリック・ベース……レイ・ポールマン
ギター……アル・ケイシー、マイク・デイシー
ピアノ……ドン・ランディー
オルガン……ラリー・ネクテル
バリトン・サックス……ジェイ・ミグリオーリ、ジャック・ニミッツ
トロンボーン……ゲイル・マーティン
ベース・トロンボーン……アーニー・タック

Pet Soundsはまったく同じメンバーの曲というのがない不思議なアルバムですが、なかでもHere Todayは異色です。

遊びに来た友だちのプレイというのもないアルバムですが、唯一、この曲でテリー・メルチャー(ブライアンのことを直接にも知っていただろうが、ブルース&テリー時代の相棒、ブルース・ジョンストンがちょうどビーチボーイズに加わったところだった)がタンバリンをプレイしています。

ベースはキャロル・ケイではなく、レイ・ポールマン。しかし、CKさんが何度もおっしゃっているように、はじめのころはビーチボーイズのベースはほとんどレイ・ポールマンがプレイし、彼女はギターだったのが、途中で交代したのであり、レイ・ポールマンがビーチボーイズのセッションでベースをプレイするのは異例ではありません。たんに、このころはギターのほうが多かっただけです。

ニック・マーティニスという人は、うちにあるものでは、ピアニストのピート・ジョリー(セッション・ワークとしては、クリス・モンテイズのA&Mのアルバムが有名)の盤でプレイしています。Pet Soundsに時期的に近いものとしては、1965年のToo Muchというピート・ジョリーのアルバムにクレジットされています。

ユーチューブで検索したら、オオノさんがアップしておいてくれた、トミー・テデスコとピート・ジョリー・トリオ(ベースはチャック・バーグホーファー)が共演したトラックがありました(助かりました>オオノさん)。

Tommy Tedesco with the Pete Jolly Trio (Nick Martinis on drums) - Dee Dee's Dilemma


ということで、瞠目するほどのテクニックの持ち主ではないものの、タイムはまずまず安定しています。ディスコグラフィーにはほかにドン・エリスだとかジャック・モントローズといった名前があるので、基本的にはジャズ・プレイヤーなのでしょう。ポップ系のセッションではPet Sounds以外で名前を見た記憶はありません。

Pet Soundsでは例外的なことですが、このトラックのパーソネルはほとんど疑問が残りません。セッションを聴くと、たしかにギターは、エレクトリックとアコースティックの二本です。

レイ・ポールマンはベースとありますが、フェンダー・ベースではなく、ダンエレクトロ6弦ベース(ダノ)をプレイしたのだろうと思います。ギターのように聞こえるのはダノでしょう。ギターは二本ともコード・ストロークだと思います。

ということで、ここにある以外の楽器が鳴っている、ということはありません。わからないのは、フランク・キャップのパーカッションとはなにか、だけです。初期テイクを聴きながら考えました。

サンプル The Beach Boys - "Here Today" (take 1 through 3)

ヴォーカルがないと、ドラムの変なパターンがいっそう奇妙に聞こえてきますが、だんだん、これはひとりのプレイではない、と思えてきました。ニック・マーティニスとフランク・キャップが分担して、このドラム・フレーズをプレイしているのではないでしょうか。

f0147840_0143750.jpg

冒頭のパターンは複雑ですが、フロアタム、スネア、フロアタム、タムタム、フロアタム、タムタム、フロアタム、タムタムといったパターンでやっているように思えます(この分担はあとのほうのテイクでは変更される)。

ひょっとしたら、このフロアタムに聞こえるものが、径の小さいコンサート・ベースドラム(要するに大太鼓)である可能性もあると思います。つまり、他の曲ではティンパニーとドラムのコンビネーションでやったことを、すこし変更したのではないかと感じます。フランク・キャップは、この曲ではベースドラムをスティックで叩くといった、変則的なことをやったのではないでしょうか。

この曲のドラムのパターンは、ひとりでやるより、二人で分担するほうがむずかしいので、もしもそういう変則的なことをしたのなら、あくまでも音色の問題でしょう。フロアタムのかわりにコンサート・ベースドラムを使った例としては、フィル・スペクターのDr. Kaplan's Officeがあります。

Phil Spector - Dr. Kaplan's Offic


この曲では、ハル・ブレインのスネアのバックビートに、コンサート・ベースドラム(ニーノ・テンポが、マレットではなく、スティックで叩いた)を重ねたそうです。

Here Todayに戻ります。ヴァースのパターンのいずれもがやっかいですが、この曲のハイライトは、風変わりなインストゥルメンタル・ブレイクです。そこだけを取り出したテイクが残されています。

サンプル The Beach Boys - "Here Today" (insert take 1 through 4)

よくこんなものを思いついたなあ、と感嘆しますが、はじめはブライアンも少し迷いがありますし、プレイヤーたち、とりわけダノも含む三人のギター陣が苦労しています。

とくにレイ・ポールマンは、弾きにくいダノで、高音部の16分のダブル・タイム・ピッキングをしなければならず、さらに、後半では低音弦と高音弦の速い往復もあり、うわあ、汗かいただろうなあ、です。

こういう無理を要求してかまわないのが、セッション・プレイヤーのありがたさ、ロックバンドでは、こうはいきません。テイク20までいってしまいますが、最後はきっちりまとめてくるハリウッドのスタジオ・プレイヤーのすごさ!

このシリーズでは、ヴォーカルはないものとして、トラックの検討ばかりやってきましたが、たまにはヴォーカルのほうのアウトテイクを聴いてみます。

完成品では主としてマイク・ラヴがリードを歌っています。しかし、初期テイクでは、いくつかブライアンが歌ったものがあります。最初のアテンプト、ダブルトラックにする以前の裸のヴォーカルをどうぞ。

サンプル The Beach Boys - "Here Today " (1st vocal overdubbing by Brian Wilson)

このトラックには、さらにあとでブライアン自身がヴォーカルを重ねています。よけいなことですが、そのときに、大きなゲップをしていて、ほかの曲でもそういうことがあったのを思いだしました。当てずっぽうですが、ブライアンは潰瘍を患っていたのではないかと思います。ドラッグ問題の淵源は案外そんなところにあったり、はしないかもしれませんが!

Pet Soundsのなかにあっては、Here Todayは重要な曲とは見なされていないようですが、リズム・アレンジに関するかぎり、やはり尋常一様ではありません。ドラマーはこんなアレンジは絶対にしないでしょう。

また、中間のインストゥルメンタル・ブレイクは、God Only Knowsのunusualなインストゥルメンタル・ブレイクと並べて論じられてしかるべきシークェンスだと考えます。ただごとじゃないですよ、こんなシークェンスをつくるセンスと脳髄は。

f0147840_0154851.jpg

ボツになったブライアンのヴォーカル・オーヴァーダブを聴いているうちに、なんだか、あまりの大きさと重さに呆然となってしまいました。

まず、メロディーか、すくなくともコード・チェンジのアイディアを得るのでしょう。すぐに、たとえばホーン・ラインの断片なり、ギターのオブリガートが思い浮かぶかも知れません。

頭で考えたり、ピアノに向かったりしながら、だんだんヴァース、コーラス、ブリッジが姿をあらわし、歌詞を依頼できる段階にたどりつきます。

このあと、あるいはすでにメロディーを整えている段階で並行して、アレンジの想を練らなければなりません。右から左に流す、クリシェ満載のイージーなアレンジではありません。だれも聴いたことがないような音を配した野心的なサウンド構築です。

ふつうのアレンジャーは、弦 and/or 管の譜面を書き、コピイスト(写符)にまわし、あとはセッションでコンダクトをするだけでおしまいです。

でも、ブライアンは、ギター、ベース、ピアノ、ドラム、複数のパーカッション、こうした、ふつうのアレンジャーなら手をつけないところまですべて自分でやりました。

また、通常なら、ヴォーカル・アレンジは、管や弦のアレンジャーではなく、専門のアレンジャーがおこないます。ブライアンはそれも自分でやりました。しかも、ビーチボーイズの五人が何度も繰り返しオーヴァーダブしなければならないほど複雑なヴォーカル・ハーモニーをつくったのです。

そして、こうしたパーツが意図どおりに完璧に組み上げられるように、セッションをスーパヴァイズしました。

これでもまだ終わりではありません。こんどは自分でリード・ヴォーカルを歌い、うまくいかなければ、あるいは気に入らなければ、弟なり、マイク・ラヴなりに、その役割を手渡すことを決断しなければなりませんでした。

ここまであらゆることをしたミュージシャンというのは、音楽史全体を見渡しても、ほかにいないのではないでしょうか。

Here Todayのセッションを聴きながら、ブライアン・ウィルソンは究極のサウンド・クリエイターだったのだと、改めて溜息をついたのでした。


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ピート・ジョリー
Yeah!
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by songsf4s | 2011-11-07 23:58 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その8 I’m Waiting for the Dayセッション
 
このところ、The Smile Sessionsをさしおいて、ジム・ゴードンをずっと聴きつづけています。FBなどで、いままで知らなかったアルバムを大量にリストアップしているところを見つけたからです。

ディレイニー&ボニーのOn Tour、ジョー・コッカーのMad Dogs & Englishmen、そしてデレク&ザ・ドミノーズのあたりから、ジミー・ゴードンは独自のスタイルを鮮明化し、「70年代のエース」の座を確実にします。

しかし、それ以前のハリウッド時代、ハル・ブレインの名代だった時代のジミーの仕事は、意識的にハルのチューニングやスタイルを模倣しているせいもあり、また、病院ないしは刑務所に閉じこめられたままのため、ご本人の証言が得られないせいもあって、依然、靄に包まれ、解明は遅々として進みません。

それでも、近ごろのリイシューではコントラクト・シートの調査結果が書かれているケースがかなりあり、すこしずつクレジットが浮上してきてはいます。

目下、Pet Soundsの話の途中ですが、ビーチボーイズ関係で新たにわかったのは、20/20とFriendsにジミーのクレジットがあるらしいということです。

とりわけ20/20にドラマーとしてクレジットされているのはジム・ゴードンのみ、としているソースがあるのですが、どうなんでしょうかねえ。まあ、ジミーもまだ二十歳かそこらで若かったせいもあるでしょうが、それにしても、彼のプレイにしてはレベルが低いと感じるトラックもあります。そもそも、後年とスタイルがちがっていて、悩んでしまうトラックばかりです。

でも、これなんか、エコーが深いせいもありますが、なかなかすばらしいドラミングです。デニス・ウィルソンの曲で、彼のヴォーカル、わたしの好むところなのですが、しかし、ここはジミーが主役、ドラミングがよく聞こえるバックトラック・オンリーを貼りつけます。

The Beach Boys - Be With Me (Backing Track)


感触として、まちがいない、ジミーのプレイだ、と納得がいくわけではないのですが、だれのプレイにせよ、いいドラミングです。

ジム・ゴードンの話は近々改めて大々的にするので、そのときまでペンディングとして、今日のPet Soundsは、そのジミーがストゥールに坐ったこのアルバム唯一のトラック、I'm Wating for the Dayです。

まずは完成品から。ステレオの最上のものより、こちらのほうがよかったので、モノで。

The Beach Boys - I'm Wating for the Day (mono)


毎度、歌の話はオミットで申し訳ないのですが、Pet Soundsであって、Pet Songsではないということで、今回もトラックに一意専心します。

この曲については、買った当初、ものすごく気になったのは、ドラムとティンパニーのコンビネーションです。いや、当時は完成品しか知らなかったのだから、シャドウ・ドラミングしながら、むずかしいなあ、よく合わせたなあ、と思っただけですが。ティンパニーはむずかしくないのですが、ドラムは裏拍のせいでタイミングをとりにくく感じます。

ほかの曲についてもいえることですが、ひとりのプレイヤーが1パスで両方いっぺんに叩いたかのように、ドラムズとティンパニーが一体化して聞こえるのは、Pet Soundsの大きな魅力のひとつだと感じます。まあ、少数派意見でしょうけれど。

といっているうちに、ステレオのいいのが見つかったので、そちらも貼りつけておきます。

The Beach Boys - I'm Wating for the Day (stereo)


この曲のパーソネルは、ブラッド・エリオットによると以下のごとし。

ドラムズ……ジム・ゴードン
ティンパニーおよびボンゴ……ゲーリー・コールマン
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ウクレレ……ライル・リッツ
ギター……レイ・ポールマン
ピアノ……アル・ディローリー
オルガン……ラリー・ネクテル
フルート……ビル・グリーン、ジム・ホーン、ジェイ・ミグリオーリ
イングリッシュ・ホルン……レナード・ハートマン

同じ日の夕方からオーヴァーダブ・セッションがおこなわれ、ストリングスが録音されていますが、同時に、ライル・リッツがアップライト・ベースをプレイしたとあります。

こんどはセッション・ハイライトをどうぞ。

The Beach Boys - I'm Wating for the Day (session)


なんせ、メロディーをプレイしているのはオーボエかなあ、なんてすっとぼけたことをいってしまった人間なので(正しくはイングリッシュ・ホルン。うひゃ)、ヴォーカルをとってストリップ・ダウンしても、やっぱりパーソネルとじっさいの音のすりあわせには難渋します。

Unsurpassed Masters(ファンはしばしばSOTと呼ぶ。Sea of Tunesの略)でいろいろなテイクを聴きましたが、うーん、です。

まず些末なこと。ボンゴ? はあ? でした。どこで鳴っているのやら。

それから、ウクレレの音も拾い出せませんでした。かわりに、初期テイクからアップライト・ベースの音がしているのを確認しました。ライル・リッツがオーヴァーダブ・セッションでなにをしたかは不明ですが、最初はウクレレではなく、アップライト・ベースを弾いたとしか思えません。

上掲のセッション抄録で面白いのは、2:00ごろからの、インサートの録音です。イントロだけの録音です。ここがもっともタフなパートだと、聴いているほうも緊張します。

いやはや、さすがの天才少年のなれの果ても、最初のパスではボロボロ。自分でなぞってみて、イヤだなあ、ここは、と思いますが、ジム・ゴードンもミスったので、すこし安心しました!

しかし、ハル・ブレインを困惑させ、ジム・ゴードンのミスを誘発し(たわけではないか!)、ブライアン・ウィルソンというのは、大変なドラム・アレンジャーです。よくまあ、つぎからつぎへと、さまざまなドラムとパーカッションのコンビネーション・パターンを発明していったものだと思います。

そもそも、ティンパニーをこれほど多用したロックンロール・アルバムというのはほかにあるのでしょうか。すくなくともわたしは、昔、このアルバムを聴いて、ティンパニーに驚きました。

同じ時期にティンパニーを多用したアーティストというと、ウォーカー・ブラザーズが思い浮かびます。

The Walker Brothers - (Baby) You Don't Have To Tell Me


The Walker Brothers - In My Room


The Walker Brothers - The Sun Ain't Gonna' Shine Anymore


The Walker Brothers - Make It Easy On Yourself


The Walker Brothers - My Ship Is Coming In


いやあ、派手ですなあ。イギリスに渡ってからのウォーカーズのワーキング・モデルは、フィレーズ時代のライチャウス・ブラザーズで、こういうサウンドもスペクターがインスパイアしたものでしょう。

いや、スコットやジョンの好みだったのか、それともアレンジャーのレグ・ゲストのアイディアだったのかは知りませんが、LA時代からウォーカーズにはライチャウスのようなところがあった(ただし、フィレーズ時代ではなく、ムーングロウ時代のライチャウスだが)のもたしかです。

ビーチボーイズのティンパニーについては、Pet Soundsに先行するこの曲も落とすわけにはいきません。

The Beach Boys - Do You Wanna Dance


ゴールド・スター・レコーダーの4連エコー・チェンバーの実力テストみたいな音ですが、案外、そんなところかもしれません。ブライアンとしては、ティンパニーの実験もしたかったのでしょう。

同時期のウォーカー・ブラザーズと比較して、いや、比較しなくても、Pet Soundsにおけるティンパニーの特徴は、ドラムとの密接な連携です。まるで、ひとりのプレイヤーがドラムとティンパニーを同時に叩いたのかと思うほどです。

あるいは、まるでベースとギターの分散和音のように、本来はひとつのフレーズであったものを、ドラムとティンパニーに割り振ったかのようなアレンジ、と言い換えることもできるでしょう。

そう断言できるだけの十分な知識がわたしにはありませんが、このような、ひとりの人間のプレイと聴き紛う、ドラムとティンパニーの役割分担と緊密な連携というのは、ブライアン・ウィルソンの独創ではないでしょうか。

わたしはジム・ゴードンの大ファンであり、ロックンロール史上もっとも精密なセンス・オヴ・タイムの持ち主だったと考えていますが、さすがにまだ若かったからか、こういう変則的なパターンでのティンパニーとの連携に関しては、やはりハル・ブレインに一日の長があります。

サンプル The Beach Boys - I'm Wating for the Day (take 1)

というように、はじめのうち、ジム・ゴードンは、ブライアンのつくったフレーズをそのとおりになぞるだけで精一杯、まだ「プレイ」いえるようなものではありません。若いジミーにとっては、これはタフな曲だったことでしょう。

最終的には立派なプレイに仕上げてきますが、Pet Soundsでのハル・ブレインのみごとなティンパニーとの連携ぶりと比較すると、やはり未熟だったと思います。というより、ハルがすごいというだけのことですが。

Stack-O-TracksでHelp Me Rhondaのバッキング・トラックを聴いたとき、いったい、どこからこういうアレンジを思いついたのだろうと驚きましたが、Pet Soundsの曲は、複雑さにおいてHelp Me Rhondaの比ではなく、音世界のなかに深く潜り込んだ一瞬、めまいを感じることがあります。

この曲については、イングリッシュ・ホルンの導入、ティンパニーとドラムのコンビネーション、フルートのオブリガート、そして、最後に、わずかに鳴らされるストリングスの美しさ、こうしたすべてに強く惹かれ、同時に、この人の頭の構造はどうなっているのだろうという好奇心が沸々とわき起こってきます

最後に、できあがったバッキング・トラック

サンプル The Beach Boys - I'm Wating for the Day (stereo backing track)


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The Pet Sounds Sessions
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Today!/Summer Days (And Summer Nights!!)
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ウォーカー・ブラザーズ
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by songsf4s | 2011-11-06 23:37 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その7 Let's Go Away for Awhileセッション
 
わたしは断じて知り合いではないので(つきあいのある編集者が担当だったため、気をつかっている)、あくまでも公人あつかい、敬称はつけませんが、矢作俊彦までSmileについてツイートしていて驚きました。

考えてみると、初期の長篇『マイク・ハマーへ伝言』では、警察無線を乗っ取って、ビーチボーイズのCatch a Waveを流した作家ですから、Smileに関心があっても不思議はないようなものですが、ファンというほどではないだろうと思っていたので、少々驚きました。

まあ、わたしはThe Pet Sounds Sessionsのときほど興奮はしていないので、さあて、そろそろ聴くか、と思うだけで、まだ一音も聴いていません。

なんせ、さんざんろくでもないブートを買った(いま、投下資本の総計を計算しそうになって、思いとどまった。「この盤はあなたの健康を著しく害する場合があります」と警告のステッカーを貼るように法律で定めるべきだ!)ばかりでなく、何度も聴いてしまったので、そう簡単には御輿が持ち上がらないのです。

今日も「BeachBoysさん」がアップロードしたSmile紹介動画を紹介します。デカ箱もあるのだ!



ライトアップもできちゃうんだぜ、というブライアン・ウィルソンさんの紹介でした!

アフィリエイトではないので、注文してくださっても、こちらは一文にもなりませんが、いちおう、この謎のデカ箱の注文先を以下に書き写しておきます。ブライアン・ウィルソンのサイン入り、CD5枚、LP2枚、シングル2枚、〆て699ドル!

特製限定版The Smile Sessionsボックス

さて本日のPet Soundsは、残るもう一曲のインスト、Let's Go Away for Awhileです。

インストなので、ビーチボーイズの歌はありませんが、わたしは、ブライアン・ウィルソンの代表作のひとつと考えています。わたしばかりでなく、じつはこの曲が大好き、という方は多いだろうと思います。ブライアン・ウィルソンさん(今日は今風の不見識敬称付けをやってみるか! どれほどみっともないかの実例として)も、この曲はフェイヴだそうです。呵呵。

それではまず、オフィシャル・リリース、というか、正確にはファイナル・テイクの近年のステレオ・リミックスから。

The Beach Boys - Let's Go Away for Awhile (stereo)


しつこくいっておきますが、われわれがかつてこんな音を聴いていたと思ったら大間違い、LPのときとはまったく異なるミックスです。

ヴォーカル曲はちょっとちがうのですが、インスト曲のいいものは、ほとんどすべてといっていいほど、視覚的な要素を包含し、われわれは音の刺激によって、脳裏になんらかの像を形作ります。

これは以前にも書いたと思うのですが、この映画を見たとき、Let's Go Away for Awhileを思いだしました。

Star Trek the Motion Picture


これはカーク提督が現場復帰することになり、新しいエンタープライズをはじめて見るシークェンスです。音楽監督のジェリー・ゴールドスミスさん(なれなれしく、さん付け失礼)には申し訳ありませんが、ちがうでしょう、巨匠、ここはブライアン・ウィルソンさん(しつこい)の曲を流す場面でしょうに、と、映画館でツッコミを入れました。

Let's Go Away for Awhileは、どういうわけか、Unsurpassed Mastersにはファイナル・テイクしか収録されていません。したがって、セッションを伺い知るよすがとなるのは、The Pet Sounds Sessionsボックスに収録された、セッション抄録ぐらいです。

つぎのクリップはThe Pet Sounds Sessionsボックスのものとは微妙に異なるようですが、おおむねアイデンティカルです。

The Beach Boys - Let's Go Away for Awhile (some takes, edited)


パーカッションのジュリアス・ウェクターのカラー写真なんて見た覚えがないなあ、と思ったのですが、でも、判別がつかないだけで、バハ・マリンバ・バンドの盤のジャケットには顔を出しているのだろうと思います。

Julius Wechter & the Baja Marimba Band - I'll Marimba You


ジュリアス・ウェクター&ザ・バハ・マリンバ・バンドは、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスのスピンオフなので、ハル・ブレインをはじめ、メンバーはほぼ同じ、要するにレッキング・クルーの仮面のひとつでした。

いや、この人たちがPet Soundsをつくったのかと思うと、妙な気分になるかも知れないので、バハ・マリンバ・バンドのことは忘れてください!

Let's Go Away for Awhileのパーソネルを書き写しておきます。例によってブラッド・エリオットの記述にもとづくものです。

ドラムズ……ハル・ブレイン
ティンパニー、ヴァイブラフォーン……ジュリアス・ウェクター
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
アップライト・ベース……ライル・リッツ
ギター……アル・ケイシー、バーニー・ケッセル
ピアノ……アル・ディローリー
テナー・サックス……スティーヴ・ダグラス、プラズ・ジョンソン
バリトン・サックス……ジム・ホーン、ジェイ・ミグリオーリ
トランペット……ロイ・ケイトン

のちに、べつのセッションでストリングスがオーヴァーダブされていますが、そちらのメンバーは略させていただきます。

上記のクリップでは、スライド・ギターはバーニー・ケッセルに違いない、などと書いていますが、そう決めつけられるだけの根拠はないと思います。ふつう、ジャズ・ギタリストはスライドなんかしません。有名なほうがリードをとる、なんていうのも考え違いです。リードをとりたがる人もいますが、そんなつまらないことには興味のない人もいます。

テイク1では、またいきなりホールド、ブライアンはハル・ブレインに、「No drums, Hal」と言い渡します。ドラムはいらない、といったわけではありません。正確にいうと「スネアのバックビートはなしだ」といったのです。

「その5 Wouldn't It Be Niceセッション」で書きましたが、ブライアン・ウィルソンという人は、ハーモニック・センスばかりでなく、リズミック・センスもあるアレンジャー/プロデューサーでした。

ハル・ブレインが、ドラマーのクリシェを持ち出すと、そうじゃなくて、といって彼が指示するのは、ドラマーにとっては自明ではないパターンなのです。

このLet's Go Away for Awhileについても、ブライアン・ウィルソンが考えたパターンは、スネア抜き、キック・ドラムのみ、という変なものですが、The Pet Sounds Sessionsでテイク1での修整を聴き、すばらしいアイディアだったと、改めて感嘆しました。

こういうささやかなディテールの、小さな工夫を山ほど積み上げた結果として、長い年月のあいだ聴いても陳腐化せず、つねに新しい発見のあるサウンドができあがるのだと思います。

f0147840_23551721.jpg

上掲のクリップに引用されていますが、67年にブライアン・ウィルソンは以下のように語ったそうです。

“I think that the track Let's Go Away For Awhile is the most satisfying piece of music I have ever made. I applied a certain set of dynamics through the arrangement and the mixing and got a full musical extension of what I'd planned during the earliest stages of the theme. The total effect is ... ‘let's go away for awhile,' which is something everyone in the world must have said at some time or another. Most of us don't go away, but it's still a nice thought. The track was supposed to be the backing for a vocal, but I decided to leave it alone. It stands up well alone.”

直接に訳すとニュアンスをそこなってしまうので、英語が苦にならない方はご自分でどうぞ。

重要なのは前半です。Let's Go Away For Awhileは、これまでに自分がつくったもののなかでもっとも満足のいく仕上がりになった、と明言し、アレンジとミックスに「a certain set of dynamics」を適用し、この「テーマ」の最初期の段階で考えたものを十全に実現することができた、といっています。

dynamicsをどう解釈するか、です。あまり考え込んでいる余裕はないので、あっさりいっちゃいますが、短い曲のなかで山あり谷ありのドラマを展開したといっているのでしょう。

リズム・セクションだけでそろりと入って、途中からストリングスが主役になり、狂言まわしのようなハル・ブレインの派手なフィルインで場面転換、スライド・ギターが全体のトーンを微妙に移行させ、またもとのレールにもどってエンディングへ、という、変化に富んだ、それでいて一瞬の遅滞もない、ハイパー・スムーズな音の流れをつくった、といっているのでしょう。

そういう「音のドラマ」をつくろうと意図して、それが思った通りに、あるいはそれ以上にうまくいき、おおいに満足した、ブライアンがいいたいはそういう意味だと考えます。

そして、われわれリスナーも、この稀有な音のドラマ、フィル・スペクターの言葉を援用するならば、「ポケット・シンフォニー」に深い満足を感じましたし、それがいまも変わらないことで、さらにブライアン・ウィルソンという才能に深い敬愛の念をいだきます。


[11/05 09:00付記]
書くつもりでいたのにひとつ忘れてしまったことがありました。

「その4 Pet Soundsセッション」で、Pet Soundsというトラックは、アルバム・クローザーなのだ、と書きました。また、「その2 Sloop John B.セッション」では、この曲はLPではA面の最後に置かれていた、たいていの場合、Let's Go Away for Awhileまででピックアップをあげていた、ということも書きました。

つまり、Pet SoundsというのはAB面がシンメトリカルにつくられているということです。アルバムとしてのPet Soundsは、A面についてはI’m Waiting For The Dayまででおしまい、B面については、I Just Wasn’t Made For These Timesまでで終わりであり、二つのインスト曲はコーダとして配されている、ということです。


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by songsf4s | 2011-11-04 23:55 | 60年代
いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その6 Caroline, Noセッション
 
前回、ベスト・オヴ・ジム・ゴードン補足をやったので、気になって、すこしリストアップし、検索もしてみました。

以前と異なり、面白いブログや、賛成はできないけれど興味深い見解もあったりして、やはり、近々、大々的にやろうと思いました。補足程度ではすまず、ベスト・オヴ・ジム・ゴードン・パート2になるかもしれません。

さて、本日はまたPet Soundsにもどります。今回は、シングルではブライアン・ウィルソンの単独名義でリリースされた、アルバム・クローザーのCaroline, Noです。

毎度同じことを繰り返していますが、Pet Soundsというのは、じつにさまざまな音がコラージュされたアルバムです。

そのストリップ・ダウンを試みたThe Pet Sounds Sessionsでやっと聞こえた音というのもじつに多く、トラッキング・セッションやトラック・オンリーを聴いて、何度もアッといいました。とくに驚きに満ちた曲といくのがいくつかあり、Caroline, Noはそのひとつです。

ではまずリリース・ヴァージョンから。ブライアン・ウィルソン単独名義になったのは、ひとつには、ビーチボーイズの曲としてはきわめて異例ですが、ハーモニーがなく、ブライアンのヴォーカルだけだからでしょう。

Beach Boys - Caroline, No


録音は1966年1月31日に、ブライアンのホーム・グラウンド、ハリウッドのユナイティッド・ウェスタン・レコーダーで、チャック・ブリッツが卓についておこなわれました。

この録音のメンバーは、ビーチボーイズ研究家のブラッド・エリオットによると、以下のようになっています。ただし、楽器の呼び方はエリオットと異なっているものがあります。

ドラムズ……ハル・ブレイン
ヴァイブラフォーン……フランク・キャップ
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ギター……グレン・キャンベル、バーニー・ケッセル
ハープシコード……アル・ディローリー
ウクレレ……ライル・リッツ
フルート……ビル・グリーン、ジム・ホーン、プラズ・ジョンソン、ジェイ・ミグリオーリ

オーヴァーダブ・セッション
ドラムズ……ハル・ブレイン(in vampとあるが、つまりエンディング・シークェンス入口でのフィルインのことだろう)
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ハープシコード……アル・ディローリー
テナー・サックス……スティーヴ・ダグラス

またまた謎のパーソネルで、耳で聴いたものとの整合性をとるのに苦労させられます。まあ、Pet Soundsはどの曲もそうなのですが。

リリース・ヴァージョンをいつまで聴いていても、聞こえない音は永遠に聞こえないので、セッションのほうを聴きます。

サンプル The Beach Boys "Caroline, No" (highlights from tracking session)

ヴォーカルが消えてまず驚いたのは、フランク・キャップがプレイしているヴァイブラフォーンです。こんなラインだったとは、ついぞ知りませんでした。美しい。

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ハル・ブレイン(左)とフランク・キャップ

それから、フルートのラインがまた魅力的で、これまたトラッキング・セッションでの驚きでした。管楽器はみなそうですが、フルートも数本重ねたときにもっとも魅力的なサウンドになります。

ライル・リッツがウクレレをプレイしたことになっていて、だとするなら、ハープシコードとほぼ重なるような形でコードを鳴らしているのがそれでしょうか。ほかに選択肢がないからそういうことにするだけで、LPを聴いているあいだは、あれがウクレレだと思ったことはありませんでしたし、いまもってウクレレがあんな音になるかなあ、と思っています。

f0147840_23502924.jpg
ウクレレを弾くライル・リッツ。60年代のハリウッドのスタジオでは、アップライト・ベースのプレイヤーとして活躍したが、もともとはウクレレ・プレイヤーとしてスタートしたという。近年はまたウクレレに戻り、アルバムをリリースしている。

ベースはこの曲でも二本、アップライトとフェンダーに聞こえるのに、パーソネルではキャロル・ケイが二回、フェンダーを弾いたことになっています。

まあ、彼女が教則ヴィデオで実演しているように、ピックの音を消すことはある程度までは可能ですが、それでもなお、ベーシックに記録されているのはアップライトに思えます。

ハープシコードといっしょに鳴っているのはギターのような気もするのですが、しかし、グレン・キャンベルとバーニー・ケッセルはエレクトリックをプレイしたのでしょう。前者が12弦、後者が6弦だろうと思います。

この二本のギターはリリース・ヴァージョンではまったく聞こえません。それどころか、前掲のThe Pet Sounds Sessionsのセッション抄録でも、ミックスのせいで判別できません。しかし、Unsurpassed Mastersでは聞こえます。

サンプル The Beach Boys "Caroline, No" (take 3)

12弦ギターは落ち着かず、テイクの合間にTake FiveやGreen Sleevesかなにかを弾いたりしています。バーニー・ケッセルではなく、グレン・キャンベルであろうと推定するゆえんです。

いや、グレンはモズライトをはじめ三本の12弦をもっていたことがわかっていますが、ケッセルの12弦というのは見たことがない、というのも理由のひとつ。

グレン・キャンベルの12弦ギター各種
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Hamer

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Mosrite

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Ovasion Viper

ハル・ブレインはドラムズとなっていますが、最初のパスはプラスティック・ボトルで4拍目をコンとやっているのでしょう。ドラムセットを叩くのはオーヴァーダブのときです。

セッション抄録のほうで、ブライアンが、That's beautiful, Hal, couldn't be any better, reallyといっていますが、これはブライアン自身の発案になる、プラスティック・ボトルのことでしょう。

パーソネルに見あたらないものとしてはさらに、タンバリンとシンバル(のようなもの)が聞こえます。ほかに打楽器系統のプレイヤーがいないので、ハル・ブレインまたはフランク・キャップがオーヴァーダブしたのかもしれませんが、最初から聞こえていることが引っかかります。ハルがひとりですべてをやったのでしょうか。

Pet Sounds全編を貫く特徴のひとつは、意外な楽器の組み合わせですが、ヴァイブと4本のフルートの美しいコンビネーションに、プラスティック・ボトルのエコーのかかったボコンという音は、とりわけ印象に残る意外な組み合わせでした。

どうやらブライアン・ウィルソンは、あらゆる音が頭のなかで鳴っていたようで、レコーディングは、それを頭から取り出して、現実の音に置き換える作業だったようです。

しかし、というか、だから、というか、はじめは聞こえていた二本のギターが、結局、ミックス・アウトされたのは、やはり計算違いの結果なのだろうと思います。頭のなかではいい音で鳴っていたけれど、じっさいにやってみたら、どうも違う、というので、オミットされてしまったのだろうと思います。

結果的に、それでよかったと思います。ほんとうは複雑なのに、耳立つのはパーカッション、ヴァイブ、ハープシコード、フルート、そして、ブライアン・ウィルソンひとりのヴォーカル、というすっきりした仕上がりは、希望ではじまったアルバムの、失望のエンディングにふさわしいと感じます。

と、殊勝なことをいったものの、じつは、ヴォーカルが終わった直後の、ハル・ブレインの派手なフィルインが、ひょっとしたら、この曲のいちばん好きなところかもしれません。

自分がドラマーだったら、こういう、一瞬のプレイで場をさらう、というのをやってみたいと思います。いや、わたしがやっても無駄なんですが。ハル・ブレインだからこそ、抑揚のコントロールによって、印象的なフレーズとして聴かせられたのです。


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by songsf4s | 2011-11-01 23:54 | 60年代