〔雨の日に備えて〕 ジャズ・ヘイターのためのゲーリー・バートン=ラリー・コリエル入門の3
 
1968年、ゲーリー・バートン・カルテットは前年と同じラインアップで、2枚のアルバムをリリースしている。どちらもリリース日が判明しなかったのだが、ゲーリー・バートン・オフィシャル・サイトのディスコグラフィーによると、先にGary Burton Quartet In Concertがリリースされたらしい。

◆ マイケル・ギブス ◆◆
まずは、そのIn Concertのオープナー。拍手の入り方からすると、じっさいのライヴでも、この曲がオープナーだったのかもしれない。

The Gary Burton Quartet - Blue Comedy (HQ Audio)


バートン=コリエルの一作目DusterのオープナーBallet、同じ記事で扱った前作Lofty Fake AnagramのオープナーJune the 5, 1967、そしてこのBlue Comedyと、3曲いずれもマイケル・ギブス作。

当然、マイケル・ギブスとはどなたさんでありましょうか、と思う。

ゲーリー・バートンがバークリー音楽院に入ったのが1960年(たぶん十七歳)、その時、マイケル・ギブスはすでにバークリーの学生で、年齢もバートンの四つ上の先輩、バートンはギブスと同じくハーブ・ポメロイの指導を受けたそうで、云ってみれば、早坂文雄の薫陶を受けた佐藤勝と武満徹のような関係だった。

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マイケル・ギブス・コンダクティング

ハーブ・ポメロイとはどなたさん、なんて云うと、いよいよサブ・ルーティンのループに迷い込んで終わらなくなるし、そもそもわたし自身よく知らない時代に活躍した人なので、ごく簡略に。

ハーブ・ポメロイはトランペット・プレイヤーで、やはりバークリー音楽院出身、プレイヤーとしての実績も赫々たるものだったが、途中から理論のほうに転じ、母校の教授団に加わった。教え子の名前のリストはすごいことになっているが、そのあたりはご自分でお調べいただきたい。弟子の名前で先生の評価をするのは自分ではやりたくない。

理論家師匠と理論家兄弟弟子みたいな三人、兄弟子の曲を弟弟子が好んで演奏した、とまあ、そういう絵柄でご理解あれ。バートンものちにバークリー音楽院で教えるようになる。それも30年だかの教授生活。ミュージシャンと云うよりは教師だったというほうが適切なほどの長さだ。

Ballet、June the 5, 1967、そしてこのBlue Comedyと、いずれも好きな曲で、マイケル・ギブスはわたしの頭の中では好ましい作曲家に分類されている。

一枚だけマイケル・ギブスのアルバムを持っているが、これがなかなか魅力的、このシリーズのどこかでご紹介する。そのつもりですでにクリップのアップは完了している。

◆ Lines ◆◆
2曲目は飛ばして、つぎは3曲目。作者はラリー・コリエル。いかにもギター・プレイヤーが、ギターの特質を生かしつつ、自分も目立とうとした、といった雰囲気の曲である。

Gary Burton & Larry Coryell - Lines (1968 live version) HD


ギブソン・スーパー400なんて高いギターは弾いたことがないのでよくわからないが、ほうっておいてもこういう中音域が出てしまうものなのだろうか。このころのラリー・コリエルは、そもそも音の出からしてよかったなあと、死児の齢を数えてしまう。

ピアノの練習曲のようなところもあり、ビル・エヴァンスのピアノがインスピレーションになってヴァイブラフォーンをあのように弾く(つまり4本マレットでほとんどつねにコード・プレイをする)ようになったというバートンとしては、そこが気に入ったのか、後年も何度かライヴでプレイして盤に収録している。

◆ Walter L. ◆◆
つぎはゲーリー・バートン作。

The Gary Burton Quartet - Walter L. (HQ Audio)


生涯の代表作と云ってもいいだろう。自分でも何度もやっているし、他人のカヴァーもある。ほとんどモダン・クラシックになった。

カントリー好みのラリー・コリエルだが、ゲーリー・バートン・カルテットではあまりカントリー趣味を見せていない。この曲のイントロがコリエルのカントリー・テイストがストレートに出た唯一の例ではないだろうか。まあ、クワイアット・パートでのアンプラグド化コードも、カントリー・プレイヤー気分かもしれないが。

テーマの展開の仕方のせいか、ギターとヴァイブのデュオだからか、50年代のウェスト・コースト・ジャズのような味も感じるが、他のヴァージョンと比較してみると、それはこの組み合わせならではのことだったことが明らかになるので、つぎはその脇道へ。

◆ 別人のウォルター・L氏たち ◆◆
たぶん、であって、明言はできないのだが、Walter L.の初出はゲーリー・バートンが1966年にナッシュヴィルで録音したものだと思われる。

Gary Burton - 09 Walter L (HQ)


チャーリー・マコーイのハーモニカのイントロからして、もう予想を裏切るノリ、特徴的なメロディーだからアイデンティファイできるが、サウンド的にはまったく赤の他人である。

マコーイをはじめ、ケニー・バトリーやチェット・アトキンズやバディー・エモンズなど、ナッシュヴィル地付きのプレイヤーたちと、ロイ・ヘインズやスティーヴ・スワロウのような4ビート・ネイティヴなプレイヤーの混成部隊のプレイなのだが、結果として生まれた音もそういうハイ・ブリッドというか、鵺のような、というか、妙なアルバムの妙な曲である。

もう一種、こちらは1969年録音の他人のカヴァー。よりによってジム・ゴードンのリーダー・アルバムだが。

Jimmy Gordon & His Jazznpops Band - 06 Walter L (HQ)


明らかにライヴ・ヴァージョンではなく、オリジナルのTennessee Firebirdヴァージョンをベースにした、うしろに重心を置いた重いノリで、ライヴ・ヴァージョンの軽快で洗練された味はない。

ジム・ゴードンほどのプレイヤーにしては、サウンドのみならず、ドラミングも凡庸といわざるをえない出来だけれど、ヒット曲でもないのに、60年代にすでにカヴァーがあったということが、このWalter L.という曲の生命力をあらわしている。

デレク&ザ・ドミノーズの時にもジム・ゴードンにはソロ・アルバムの話があり、バンドメイトのボビー・ウィットロック同様、曲の準備をはじめていたが、結局、録音されることはなく、ジミーがつくった曲のひとつは、コーダとしてLaylaに組み込まれた。あのピアノ・コードも、ウィットロックではなく、ジム・ゴードンが弾いている。ま、有名な話だが。

この30年あまりずっと獄中にあるジム・ゴードンには、当然、金の使い途はほとんどないのだが、Laylaの印税が積み上がって、数字の上では非常に裕福なのだそうだ。これはあまり有名な話ではないかもしれない。

いや、そんなことより、A&Rのいいなりにドラムを叩いただけ、なんていう「リーダー・アルバム」ではなく、自分で曲も書いたLPをジム・ゴードンには残して欲しかった。



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Gary Burton Quartet in Concert: Live at Carnegie Recital Hall
カーネギー・ホール・コンサート


Gary Burton - Tennessee Firebird
テネシー・ファイアーバード
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# by songsf4s | 2016-10-10 07:36 | 60年代
〔雨の日に備えて〕 ジャズ・ヘイターのためのゲーリー・バートン=ラリー・コリエル入門の2
 
枕など書いていると、またまたロング・ランになりかねないので、今日はさっそく前回の続きへと。

◆ 承前 二作目「Lofty Fake Anagram」 ◆◆
改めてLofty Fake Anagramのクレジットを見たら、こう書いてあった。

Recorded at RCA Victor's Music Center Of The World, Hollywood, CA on August 15, 1967 - August 17, 1967

DusterはNYのRCAでの録音だったが(さらに古いアルバムのなかには、ナッシュヴィルのRCAで録ったものもあった)、こちらはハリウッドのRCAだとは意識していなかった。

ヘンリー・マンシーニやパーシー・フェイスが録った(いや、クラシックの巨匠たちの録音のほうで有名だが)、ハル・ブレイン云うところの「飛行機格納庫のように巨大な」スタジオAではなく、もっと小さいスタジオBなどを使ったのだろう。

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サンセット・ブールヴァード6363番地のハリウッドのRCAビル。正式名称RCA Victor's Music Center Of The World, Hollywood

さらに目を惹くのは録音日だ。6月下旬にモンタレー・インターナショナル・ポップ・フェスティヴァルがあり、ジャニスの歌にママ・キャスが唖然とし、オーティス・レディングがキャリア第2弾ロケットに点火し、キース・ムーンがドラムを蹴倒し、ジミがストラトを燃やした。

ビートルズはSgt. Pepperをリリースし、史上初の世界同時中継番組Our Worldに出演して、ライヴでAll You Need Is Loveを録音し、そうしたもろもろが前年からの底流に火をつけ、サイケデリックの嵐が吹き荒れた、まさにその真っ最中の1967年8月に、このLofty Fake Anagramは録音された。

前作でもちらりと垣間見えた、アヴァンギャルド指向というか、時代も時代なので、サイケデリック傾向のようなものは、ラリー・コリエルが在籍したあいだずっとつづくのだが、このアルバムではゲーリー・バートン作のつぎの曲がそのカテゴリーに入る。

The Gary Burton Quartet - The Beach (HQ Audio)


輪郭があいまいなだけで、まだメロディーはあるし、ゲーリー・バートンとラリー・コリエルがいっしょに弾くテーマ(のようなもの)もあるのだから、アヴァンギャルドの一歩手前だが、サイケデリック味は十分に濃い。

データ類をのぞけば、音楽のことをどうこう云うのはもちろんすべて主観だが、さらに深く主観の領域に入って云うと、子供の時分にこのあたりのアルバムを徹底的に聴いたのは、いや、「聴けた」のは、こういう匙加減、ニュアンス、アプローチ、持って行き方が、ジャズ・コンボ的ではなく、ロック・グループ的だったからだといまになってわかった。直感的に、自分がよく知っている音楽の親類だと理解したにちがいない。

アヴァンギャルド的要素は入り込んでくるのだが、フリー・ジャズのほうには向かわず、いわばビートルズ的な前傾姿勢を保つ、という意味なのだが、よけいにわからない云い方で申し訳ない(←自分で笑っている)。

なんというか、このあたりの曲は、アート・アンサンブル・オヴ・シカゴ的な意味でアヴァンギャルドではなく、ビートルズのRainやTomorrow Never KnowsやA Day in the Life、ジミ・ヘンドリクスのIf Six Was Nine的にサイケデリックしているのだ。

当時、そんな風に意識して聴いていたわけではないが、そういうニオイは嗅ぎ分けるもので、アート・アンサンブル・オヴ・シカゴには反応せず、ゲーリー・バートン・カルテットにはおおいに反応して、コリエルが抜けたあとの盤まで買い、71年の来日の時は、学校を早めに抜けて、制服のまま日比谷公会堂に行った(早すぎて先頭に並んでしまった)。

フリー・ジャズのコンボではないので、ふつうにテーマとコードのある曲のほうが多いのだが、やはりプレイ・スタイルの面で、時代を反映してサイケデリックな味つけがされている。ラリー・コリエルはそのためにゲーリー・バートンに招かれたのだと思う。つぎの曲がその典型。

The Gary Burton Quartet - Good Citizen Swallow (HQ Audio)


1:39あたりからコリエルのギターが入ってくるが、いきなりハウっているところが、やはりあの時代の4ビートから云えばまったくの異端。スティーヴ・スワロウのベースのための曲なので、コリエルのソロは短く切り上げられ、あとはエンディング直前の、たぶんヴォリューム・コントロールでアタックを消した、テープ逆回転風の音をチラッと入れてくることで、サイケデリック味を加えている。

Revolver、Sgt. Pepperと、ビートルズも2枚つづけて最後にサイケデリックな曲を持ってきてアルバムを終えていたが、Dusterにつづき、このLofty Fake Anagramでも、ゲーリー・バートンはビートルズと同じくテープ・ループを使ったアヴァンギャルドなコラージュでアルバムを終えている。

The Gary Burton Quartet - General Mojo Cuts Up (HQ Audio)


コンポーザー・クレジットはスティーヴ・スワロウとなっている。おそらく、スワロウ作のGeneral Mojo's Well-Laid Plan(Duster収録。前回とりあげた)のテープをもとにコラージュをつくったので、こちらもスワロウ作とされたのだろう。

じっさいには、モジョ将軍のテープ・コラージュだけでなく、さらに無調のインプロヴを録音し、もろもろをつなぎ合わせたのだろうと思う。日常、楽しんで聴くような曲ではないが、たとえば、フィルム・ノワールやアクション映画に使われたら、効果を上げそうな出来である。

まだ2枚しか聴いていないが、さらにこの項を次回へと延長する。なんだか、最低でもあと2回はかかりそうな……。



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The Gary Burton Quartet - Duster
ダスター


The Gary Burton Quartet - Lofty Fake Anagram/A Genuine Tong Funeral
Lofty Fake Anagram/A Genuine Tong Funeral
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# by songsf4s | 2016-10-07 07:07 | 60年代