<   2009年 12月 ( 27 )   > この月の画像一覧
2009年の記事タイトル一覧

お知らせ、のようなもの
Stranger in Paradise by Johnny Smith
55 Days at Peking by Dimitri Tiomkin (OST)
(I'll Build a) Stairway to Paradise by Georges Guetary (OST)
The Chart Data of The 50 Guitars(50ギターズのチャート・アクション)
In the Heat of the Night by Ray Charles (OST 『夜の大捜査線』より)
The Wrecking Crew Videos
The River Kwai March/Colonel Bogey (OST) (『戦場にかける橋』より)
I Should Have Known Better by the Beatles(OST)

I Could Have Danced All Night (OST) (『マイ・フェア・レディ』より) その1
I Could Have Danced All Night by Robin Ward (『マイ・フェア・レディ』より) その2
On the Street Where You Live by Bob Thompson (『マイ・フェア・レディ』より)
ドラマーの声
These Boots Are Made for Walking by Nancy Sinatra (OST  『フルメタル・ジャケット』より) その1
ドラマーの声 その2
These Boots Are Made for Walking by Nancy Sinatra (OST 『フルメタル・ジャケット』より) その2
ドラマーの声 その3
Feed the Birds (Tuppence a Bag) by Julie Andrews (OST 『メリー・ポピンズ』より)
For a Few Dollars More by Ennio Morricone(OST 『夕陽のガンマン』より)
The Good, the Bad and the Ugly(OST 『続・夕陽のガンマン』より)
Hang'em High(OST 『奴らを高く吊るせ!』より)

This Country's Going to War by the Marx Brothers (OST 『我が輩はカモである』より)
Goldfinger その1 by Shirley Bassey (OST 『ゴールドフィンガー』より)
Goldfinger その2 by Billy Strange (『ゴールドフィンガー』より)
Goldfinger その3 by Ray Martin & His Orchestra (『ゴールドフィンガー』より)
Thunderball その1 by Tom Jones (OST 『サンダーボール作戦』より)
Thunderball その2 by Billy Strange (『サンダーボール作戦』より)
Search for Vulcan [from Thunderball] by Leroy Holmes (『サンダーボール作戦』より)
You Only Live Twice by Nancy Sinatra (OST 『007は二度死ぬ』より) その1
You Only Live Twice by Nancy Sinatra (『007は二度死ぬ』より) その2
The Blue Danube by the Berlin Philharmonic Orchestra (OST 『2001年宇宙の旅』より) その1
The Blue Danube by the Berlin Philharmonic Orchestra (OST 『2001年宇宙の旅』より) その2
The Enterprise by Jerry Goldsmith (OST 『スター・トレック』より)
参考文献テスト
Star Trek (TV OST 『宇宙大作戦/スター・トレック』より)
狂った果実 by 石原裕次郎 (OST 日活映画『狂った果実』より) その1
狂った果実 by 石原裕次郎 (OST 日活映画『狂った果実』より) その2
狂った果実 by 石原裕次郎 (OST 日活映画『狂った果実』より) その3
狂った果実 by 石原裕次郎 (OST 日活映画『狂った果実』より) その4

The Prisoner(TV OST 『プリズナーNo. 6』より)
My Rifle, My Pony and Me by Dean Martin and Ricky Nelson (OST 『リオ・ブラボー』より その1)
El Deguello (OST 『リオ・ブラボー』より その2)
Cindy, Cindy by Ricky Nelson (OST 『リオ・ブラボー』より その3)
コメント御礼
The Green Leaves of Summer (OST 『アラモ』より その1)
Tennessee Babe (OST 『アラモ』より その2)
Assault On Precinct 13 Main Theme by John Carpenter (OST 『要塞警察』より)
All for the Love of Sunshine by Hank Williams Jr. (OST 『戦略大作戦』より)
Goodbye Girl by David Gates (OST 『グッバイ・ガール』より)
Mission Impossible by Lalo Schifrin (TV OST 『スパイ大作戦』より)
Everybody's Talkin' by Nilsson (OST 『真夜中のカウボーイ』より その1)
Everybody's Talkin' by Nilsson (OST 『真夜中のカウボーイ』より その2)
That Thing You Do! by the Wonders (OST 『すべてをあなたに』より その1)
Hold My Hand, Hold My Heart by the Chantrellines (OST 『すべてをあなたに』より その2)

Mr. Downtown by Freddy Fredrickson (OST 『すべてをあなたに』より その3)
バディー・リッチ・クリップ その1
バディー・リッチ・クリップ その2
The High and the Mighty by Dimitri Tiomkin (OST 『紅の翼』より その1)
The High and the Mighty by The Shadows (『紅の翼』より その2)
Midnight Cowboy by John Barry(OST 『真夜中のカウボーイ』より その3)
Exodus by Ernest Gold (OST 『栄光への脱出』より その1)
Exodus by the Mantovani Orchestra (『栄光への脱出』より その2)
Exodus by the Lively Ones (『栄光への脱出』より その3)
Exodus Part One by Elmer Bernstein (OST 『十戒』より)
The Sound of Music (OST 『サウンド・オブ・ミュージック』より その1)
The Sound of Music by the Exotic Guitars(『サウンド・オブ・ミュージック』より その2)
ドラゴン by 宮内國郎 (OST 『ガス人間第一号』より)
東京流れ者 by 渡哲也 (OST 『東京流れ者』より その1)
東京流れ者 by 渡哲也 (OST 『東京流れ者』より その2)
タイトル・テーマ by 別宮貞雄 (OST 『マタンゴ』より)
Scotty Tails Madeline by Bernard Herrmann(OST 『めまい』より)

Main Title by Bernard Herrmann(OST 『愛のメモリー』より)
Rear Window Prelude and Radio by Franz Waxman(OST 『裏窓』より)
Lisa by Franz Waxman (OST 『裏窓』より)
Body Double by Pino Donaggio(OST 『ボディ・ダブル』より)
ゴジラ・メイン・タイトル by 伊福部昭 (OST 『ゴジラ』より)
(仮)丘のホテル by 星野みよ子 (OST 『ゴジラの逆襲』より)
メイン・タイトル (OST 『太平洋ひとりぼっち』より)
湖畔のふたり by 星野みよ子(『ゴジラの逆襲』『太平洋ひとりぼっち』『狂った果実』の訂正と補足 その1)
想い出 by 石原裕次郎(『ゴジラの逆襲』『太平洋ひとりぼっち』『狂った果実』の訂正と補足 その2)
ヤーレン号に乗ってⅡ by 佐藤勝 (OST 『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』より その1)
お遊びのライヴ更新
新ブログ更新のお知らせ
レッチ島 by 佐藤勝 (OST 『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』より その2)
武夫と浪子 by 笠智衆およびキャスト(OST 『長屋紳士録』より)

見えない花火と見える花火(付録 茶パツの黒猫)
新ブログ更新のお知らせ
PCトラブル
新ブログ更新のお知らせ、および、さらなるブログ
新ブログ更新のお知らせ(付:カセット時代回顧)
ブログ更新状況
ブログ更新状況
武夫と浪子 by 笠智衆およびキャスト その2(OST 『長屋紳士録』より)
武夫と浪子 by 笠智衆およびキャスト その3(OST 『長屋紳士録』より)
ラリー・“プリンス・ヴァリアント”・ネクテル死す
レス・ポールおよびエリー・グリニッジ・リファレンス
武夫と浪子 by 笠智衆およびキャスト その4(OST 『長屋紳士録』より)

Nikkatsuの復活 その1
Nikkatsuの復活 その2
トミー・テデスコのThe Guitars of Tom Tedesco
憤懣やるかた……いや、あるかもしれない
『拳銃〔コルト〕は俺のパスポート』メイン・テーマ その1(OST 『拳銃は俺のパスポート』より)
メアリー・トラヴァーズ没す その1
メアリー・トラヴァーズ没す その2
システム・トラブルで臨時にFC2へ移動
『拳銃は俺のパスポート』メイン・テーマ by 伊部晴美 その2(OST 『拳銃は俺のパスポート』より)
サーチャーズ Everybody Come Clap Your Hands の補足
フレンチ・ノスタルジア――シェイラとマージョリー・ノエル
Kind of the Buckinghams――YouTubeで尻取り
忘れられた映画『チビッコの大脱走』(The Little Ones)
クリフ・リチャードとシャドウズの映画『太陽をつかもう!』(Finders Keepers)
Between Today and Yesterday by Alan Price
ハーマンズ・ハーミッツの映画『レッツ・ゴー! ハーマンズ・ハーミッツ』(ミセス・ブラウンのお嬢さん)

Play the Game by Matthew Fisher その1
Play the Game by Matthew Fisher その2
訂正のお知らせ
いつものビートルズ
Not Her Fault by Matthew Fisher
Only a Game by Matthew Fisher
番外 『岡崎秀美写真展 立体妖怪図鑑』
『東京流れ者』訂正
Dance Band on the Titanic by Matthew Fisher
Astaire the Drummer その1 『足ながおじさん』
Astaire the Drummer その2 『イースター・パレード』
リック・ネルソンとボビー・ヴィーのOne Boy Too Late
Dancing in the Dark by the MGM Studio Orchestra (映画『バンド・ワゴン』 その1)
That's Entertainment by Buchanan, Fabray, Levant, Charisse & Astaire(『バンド・ワゴン』より)
鎌倉駅と『乳母車』(石原裕次郎、芦川いづみ主演、田坂具隆監督、1956年日活映画)
『乳母車』(石原裕次郎主演、田坂具隆監督、1956年日活映画)の美術 その1
『乳母車』(石原裕次郎主演、田坂具隆監督、1956年日活映画)の美術 その2

『乳母車』(石原裕次郎主演、田坂具隆監督、1956年日活映画)の美術 その3
ハリウッド、日本映画を買う?
『乳母車』(石原裕次郎主演、田坂具隆監督、1956年日活映画)の美術 その4
『乳母車』(石原裕次郎主演、田坂具隆監督、1956年日活映画)の美術 その5
『真白き富士の嶺』および『狂った果実』の補足+『霧笛が俺を呼んでいる』予告篇のみ
『霧笛が俺を呼んでいる』 その1
『霧笛が俺を呼んでいる』その2 バンド・ホテル
『霧笛が俺を呼んでいる』 その3 突堤と病院
『霧笛が俺を呼んでいる』 その4 「バンド」と日本
『霧笛が俺を呼んでいる』 その5 木村威夫タッチのナイトクラブ
『霧笛が俺を呼んでいる』 その6
『霧笛が俺を呼んでいる』 その7
嵐を呼ぶ男 by 石原裕次郎(日活映画『嵐を呼ぶ男』より) 予告篇のみ
嵐を呼ぶ男 by 石原裕次郎(日活映画『嵐を呼ぶ男』より) その1
フィーリクス・スラトキンのOur Winter Loveと大森盛太郎の「嵐を呼ぶ男メイン・タイトル」など
嵐を呼ぶ男 by 石原裕次郎(日活映画『嵐を呼ぶ男』より) その2
「季刊フォークリポート」一九七一夏の号 はっぴいえんど特集
ナット・キング・コール、ビリー・ヴォーンほかのHe'll Have to Go
嵐を呼ぶ男 by 石原裕次郎(日活映画『嵐を呼ぶ男』より) その3
嵐を呼ぶ男 by 石原裕次郎(日活映画『嵐を呼ぶ男』より) その4
クリスマス映画1 Jingle Bell Rock by Bobby Helms(『リーサル・ウェポン』より)
更新情報 黄金光音堂 He'll Have to Goシリーズ その4
クリスマス映画1のB I'll Be Home for Christmas by Elvis Presley(『リーサル・ウェポン』より)

黄金光音堂の更新 エキゾティック・ギターズのHe'll Have to Go
更新情報 「猫町ぶらり ペレス・プラードのトムキャット・マンボ」と「散歩やせんとて」
クリスマス映画2 Sleigh Ride/Jingle Bells by Roy Rogers & Dale Evans(映画『めぐり逢えたら』より)
更新情報 黄金光音堂「Q&Aソングス その5 He'll Have to Go by Solomon Burke」
I'll Capture Your Heart by Singing by Bing Crosby & Fred Astaire(『スイング・ホテル』より その1)
クリスマス映画3B Happy Holiday by Bing Crosby(『スイング・ホテル』より その2)
クリスマス映画4A White Christmas by Bing Crosby(映画『ホワイト・クリスマス』より その1)
クリスマス映画4B White Christmas by Bing Crosby(『ホワイト・クリスマス』より その2)
クリスマス映画4C White Christmas by Bing Crosby(映画『ホワイト・クリスマス』より その3)
クリスマス映画5A Silver Bells (映画『腰抜けペテン師』The Lemon Drop Kidより その1)
クリスマス映画5B Silver Bells (映画『腰抜けペテン師』The Lemon Drop Kidより その2)
更新のお知らせおよびモータウン・ミステリー再び
クリスマス映画6A Pocketful of Miracles (映画『ポケット一杯の幸福』より その1)
クリスマス映画6B Pocketful of Miracles (映画『ポケット一杯の幸福』より その2)
クリスマス映画6C 『ポケット一杯の幸福』補足 『一日だけの淑女』のこと
クリスマス映画7A The Bells of St. Mary's by Bing Crosby (映画『聖メリーの鐘』より)
クリスマス映画7B The Bells of St. Mary's by Bing Crosby (映画『聖メリーの鐘』より その2)
クリスマス映画8 Mele Kalikimaka by B. Crosby & the Andrews Sisters(『LAコンフィデンシャル』より)
クリスマス映画9 Dark Eyes (映画『The Shop Around the Corner』〔『街角』〕より)
クリスマス映画10 Christmas (Baby Please Come Home) by Darlene Love(映画『グレムリン』より)
クリスマス映画11 Adeste Fideles (映画『素晴らしき哉、人生!』より)
三たび『乳母車』と鎌倉駅、そして久生十蘭
What Are You Doing for New Year's Eve? by Les Paul with Dick Haymes
年忘れ爆笑寄席その一 古今亭志ん朝「宿屋の富」
年忘れ爆笑寄席その二 古今亭志ん生「穴どろ」
年忘れ爆笑寄席その三 三笑亭可楽「尻餅」

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by songsf4s | 2009-12-31 23:59 | その他
年忘れ爆笑寄席その三 三笑亭可楽「尻餅」

今月の当家のご来場者の数は、クリスマス数日前がピークでした。歳末でお忙しいということもあるのでしょうが、その後、すこし減ったのは、「クリスマス特需」のピークがクリスマスより少し前になることのほうが大きいのでしょう。

今月の検索キーワードのトップは、「frosty the snowman 歌詞」でした。221回も検索されています。お一人の方が毎日、このキーワードで当家にいらしたとしても、221回にはなりません。やはり、かなりの数の方が歌詞を求めて当家にいらしたのでしょう。

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昨年のクリスマスには、キーワードのトップは「jingle bell rock 歌詞」でした。いや、このトップの入れ替わりになにか意味があるわけではなく、たまたまそうなっただけだろうと思います。まあ、この二曲が人気のあることは示しているのでしょうがね。

さて、クリスマス特需が終わって、だれもいらっしゃらないかというと、そんなことはありません。お忙しいなか、毎日150人ほどのご来訪があるとはすごいことで(さすがに今日は暢気なブログどころではないのでしょう、120ほどですが)、この時期なので、ありがたさもひとしおです。

◆ 大晦日、箱提灯は怖くない ◆◆
落語国にだって、お大尽もいれば、殿様もいるのですが、でもやっぱり、世の中と同じで、大多数は貧しい長屋住まい、歳末は金の工面に苦労するものと決まっています。その方面の代表的な噺のひとつが前回の「穴どろ」ですが、本日の「尻餅」も貧乏ぶりでは負けていません。

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江戸市中大晦日の図(三谷一馬『江戸庶民風俗絵典』より)。昔の大晦日は深更まで忙しかったので、みな提灯をもっている。右端は掛け取りか。商人だから弓張提灯をもっている。子どもを連れたおかみさんが手にしているのは馬提灯。元旦にあげる凧を忘れていたので、夜になってあわてて買いに行ったのか。左端、箱提灯をもっているのは武家の使用人、そのうしろが主人。ふだんなら箱提灯は畏怖されるが、大晦日ばかりは掛け取りの弓張提灯のほうが怖い。

今回もやはりクリップが見つからず、自前のサンプルをアップします。前回同様、二人の噺家に、前半後半をべつべつに演っていただくことにしました。例によって音質は落としてあります。いえ、十分にお楽しみいただける音質なので、ご安心あれ。

サンプル 八代目三笑亭可楽「尻餅」前半

サンプル 四代目柳家つばめ「尻餅」後半

「穴どろ」と「尻餅」のちがいは、こちらの亭主は腹が据わっていてずうずうしいことです。いえ、だからといって悪事をするわけではなく、無茶なことをいって、借金取りを追い払うていどのことです。もっとも、厳密にいえば恐喝罪であげられてしまうと思うのですがねえ。

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こちらも、小僧に弓張提灯をもたせた番頭というところか、除夜の鐘が鳴り終わるまで、この格好で掛け売りした勘定をとって歩く。ほうきを担いだ人物は煤払いの手伝いか? 赤ん坊を背負ったおかみさんは、なんと手に鮭をぶら下げている!

なんたって、舌先三寸と強面で、一銭も払わずに薪屋に受け取りを書かせ、追い返してしまうのだからひどいものです。おかみさんが恥ずかしがるのも当然です。落語だからこれですんでいますが、こんなひどいことをされた商人は、二度とこのうちに掛け売りはしないでしょう。自分で自分の首を絞めるに等しいのですが、まあ、そこまで苦しい台所なのだということなのでしょう。

◆ 貧に山水の風情あり、質の流れに借金の山 ◆◆
おかみさんがどういう風にコボすかはそれぞれの演出ですが、どうであれ、「ではやむをえない、近所の手前、餅つきをやっているような芝居をしよう」ということになるのが、この噺の柱で、あとの枝葉はそれぞれの工夫です。

落語というのは馬鹿にならないもので、ときおり、値を付けるなら百万両の一言を聞かせてくれます。わたしは八代目三笑亭可楽の「尻餅」で、これから演技に取りかかろうと、しんしんと冷え込む未明の戸外に出た男がつぶやく、つぎの一言にノックアウトされました。

「貧乏すると味があるっていうけど、すこし味がありすぎらあな」

いやはや。貧乏には「味がある」というのは、まったくそのとおりですなあ。でも、できれば味わいたくないものだから、「味がありすぎらあな」となるのでしょう。噺家は、売れないと赤貧洗うがごとしだそうで、可楽は晩成型だったから、若いころにおおいに苦労したのでしょう。元手のかかった一言です。

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「煤掃き」とある。年越しそばではなく、ただの中食か。そばのドンブリと蓋は、いまと変わらない。猫がいるのは、猫の手も借りたい、という心か。

◆ 味噌漉しの底にたまりし大ミソか? ◆◆
落語では貧乏は当たり前。とはいえ、可楽のような、あまりにも重く苦い一言ばかりではお客が帰ってしまいます。「長屋の花見」のように、貧乏から生まれる笑いが重要です。

この噺がおかしいのは、おそらくは「尻餅」という言葉それ自体をヒントにしたのであろう、おかみさんの大きなお尻をひっぱたいて、餅つきの音をシミュレートするところにあります。尻で餅つきだから「尻餅」なのです。

後半のサンプルにした柳家つばめ版では、当然ながら、おかみさんが嫌がります。

「イヤだよー、寒いよ」
「寒くないの! ひっぱたきゃ暑くなるよ」
「あったまるのにひっぱたかれてたまるかい。肩じゃいけないかい?」
「按摩じゃねい!」


というところが楽しいですなあ。くすぐりは自分でつくるのが原則なので、可楽版にはこれはありません。

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裕福な家では、餅は自分たちでついたもので、餅屋に頼むのは中流以下だそうな。ちょっと仕合わせのよい家では、「引きずり」という、道具をもって出向く餅屋に頼むもので、こういう店を構えたところに注文するのはあまり仕合わせのよくない人たちだったという。

しかし、この男、度胸はあるし、機略縦横、「餅は餅屋」というくらいに玄人と素人の区別がはっきりした分野の仕事をやらせても、すくなくとも調子はプロ並み、聞いている人間はみなホンモノの餅屋が餅をついているのだと思うでしょう。これほど才気のある人物がなぜ素寒貧なのか、ちょっと不思議に思わなくもありません。詐欺師になれば人の上に立つことができたでしょうに!

貧を笑う噺が多いのは、やはり、苦しいのはおまえひとりじゃない、みんな苦しいのだから、愚痴をいわずに生きていこう、という庶民芸能全般に通じる精神のせいなのでしょうね。

さて、当家の2009年はこの記事をもって終わります。でも、いつもよりほんの少しだけ遅くし、日付を元旦にした形で、つぎの更新をする予定なので、ほぼ24時間のインターヴァルということになるでしょう。三箇日もできれば更新のつもりでいますが、元旦は記事を書く時間をとれないかもしれません。

それではみなさま、よいお年を。あ、お正月には貧乏笑話はなし、景気よく行く予定です!


三笑亭可楽 うどん屋、味噌蔵、笠碁、尻餅
八代目 三笑亭可楽 落語集(2)
八代目 三笑亭可楽 落語集(2)

三笑亭可楽 尻餅、花筏、文違い
花形落語特撰~落語の蔵~
花形落語特撰~落語の蔵~
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by songsf4s | 2009-12-30 23:53 | 落語
年忘れ爆笑寄席その二 古今亭志ん生「穴どろ」

音楽ブログが映画音楽を取り上げるところまではノーマルだったのですが、そのうち、音楽抜きで映画を取り上げるようになったりして、羊頭狗肉か狗頭羊肉かわかりませんが、約款を書き換えないとまずいんじゃないかという、看板に偽りありの状態になってきました。

映画をやったのだから、落語をやってまずいということはないだろうと居直って、昨日は「宿屋の富」を聴いてみました。この噺は典型的な歳末噺とはいえませんが、今日は、これこそが歳末噺という「穴どろ」にしてみました。

大晦日に必要だという三両の金ができず、おかみさんに家に入れてもらえない男が、金策に歩きまわっている途中で、大きな商家の座敷に残り物のごちそうと酒だけが見え、人がいないのを見て、ふらふらと上がり込んでしまい、思わぬことから泥棒にされてしまうという、マヌケであると同時に哀しい噺です。

◆ 越すに越されぬ大晦日 ◆◆
f0147840_23111290.jpgYouTubeに「宿屋の富」のクリップがあったのは、やはりただの幸運にすぎなかったのでしょう。「穴どろ」はそうはいきませんでした。わたしが好まない五代目柳家小さんのクリップがあるだけ、それもほんの一部でした。

ちょっと苦慮してしまったのですが、不完全なもので音質が悪ければいいだろうと思い、前半を古今亭志ん生、後半を三代目春風亭柳好が演ずるというハイブリッド版をサンプルにしてみました。

サンプル 「穴どろ」前半(志ん生)

サンプル 「穴どろ」後半(柳好)

だれかがそういう風に変更してやっているのか、これを「泥棒」の噺としている人がいましたが、お聴きになればわかるように、結果的に泥棒といわれても仕方のない状況にはまりこんだだけの、困った酔っぱらいにすぎません。

なんたって、「木彫りの鬼みてえな顔した」女房に、「おまいなんか夫って顔じゃないよ、夫の下に危ないでもつけやがれ」と罵られて、うっかり「おっと、あぶねえ」とつぶやいてしまうようなお人好しですから、悪事をしようにも、ろくなことはできそうもありません。

それにしても、「びんぼう自慢」の志ん生がこういう噺を演ると、笑いながらも、やるせなくなってきますなあ。

◆ 夕べより今朝かぶりたい綿帽子 ◆◆
志ん生版の「穴どろ」の楽しいところは、十八番の「替わり目」のさわりを思い起こさせる、女房自慢の独り言です。三両もって来なきゃ家ぃ入れないよ、と邪険な女房に腹を立てながら、酒が入ると腹立ちが惚気に化けていく可笑しさはたまりません。

「夕べより今朝かぶりたい綿帽子」で、婚礼の翌朝は蚊の鳴くような声で「はい」とこたえ、「あなた」とやさしく呼んでいたのが、やがて「おまいさん」になり(夫婦としては「おまいさん」といっているのがいちばんいい時期でしょうな)、しまいには「おい」になったというのも、ルーティンながら、やはり略さないでくれてよかったと思います。

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穴蔵。ひところ、「江戸考古学」というのが流行って、そういう本を読んだが、東京を掘ると、穴蔵に放り込まれたものがずいぶん出土して、当時の生活ぶりを知る格好の材料になるのだそうな。

後半に登場する「カシラ」の代理は、弟分であったり、客分であったりしますが、じつに小心な人間で、それをどう表現するかが工夫のしどころです。サンプルには入れなかった志ん生版では、客分で、「こっちのケツにヒョットコが彫ってあるんだ、こっちへオカメが彫ってあるんだ、背中に般若が彫ってあるんだ」という、なんだかマヌケな彫り物をした人間です。

柳好版は弟分という設定で、彫り物はないようです。十代目文治版がそうでしたが、「右の腕に上り龍、左の腕に下り龍」という、「上り龍下り龍」の彫り物というので演じているものもいくつかありました。

いやはや、サンプルを出してしまうと、落語のことをあれこれいうのはやりにくいものですねえ。筋書きを書くのは面倒なものですが、書かないとなると、こんどは手持ちぶさたですわ。まあ、ゴチャゴチャいうのは野暮、落語はただ聴けばいいだけですがね。

落語を聴く興趣のひとつは、昔の生活感覚にふれられることです。この「穴どろ」の場合、旦那が「坊のめでたい日だ、今日はうちから縄付きは出したくない」というところで、なるほどねえ、と思いました。生活のなかにしみこんだ慈悲の心、とでもいえばいいのでしょうかね。いろいろたいへんだったのでしょうが、やはり昔のほうが生活しやすかったのではないだろうかという気がしてきました。


古今亭志ん生
五代目 古今亭志ん生(10)穴泥/五銭の遊び
五代目 古今亭志ん生(10)穴泥/五銭の遊び

古今亭志ん生『びんぼう自慢』
びんぼう自慢 (ちくま文庫)
びんぼう自慢 (ちくま文庫)

古今亭志ん生『なめくじ艦隊』
なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)
なめくじ艦隊―志ん生半生記 (ちくま文庫)

三代目春風亭柳好 穴泥、青菜、居残り佐平次
ビクター落語 三代目 春風亭柳好 青菜、他
ビクター落語 三代目 春風亭柳好 青菜、他

八代目林家正蔵 穴どろ、煙草の火
なごやか寄席シリーズ 八代目 林家正蔵 煙草の火/穴どろ
なごやか寄席シリーズ 八代目 林家正蔵 煙草の火/穴どろ

江戸を掘る―近世都市考古学への招待
江戸を掘る―近世都市考古学への招待
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by songsf4s | 2009-12-29 23:44 | 落語
年忘れ爆笑寄席その一 古今亭志ん朝「宿屋の富」

歳末というと、やはり音楽より落語でしょう、などというのは、もはや少数派かもしれませんが、毎年、聴くものを聴かないと、わたしは旧年を送る気分になれません。

年の暮れにしか高座にかけられない噺で、戦後になってもごくふつうに演じられていたものは五席ぐらいでしょうか。昔のことなので、歳末といえば掛け取り(借金取り)と相場は決まっていました。いかに借金取りを追い払うかという噺か、そのヴァリエーションである年越しの銭を工面する苦労話です。

そういうオーセンティックな歳末落語とはすこしちがうのですが、ただの冬の歌がいつのまにかクリスマス・ソングに算入されるように、富くじ、富突き(宝くじ)をあつかった噺も、いつごろからか、歳末の噺として高座にかけられることが多くなったようです。少なくともわたしは、年の暮れには富くじ噺を聴きたいと思います。

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現代でいえば宝くじ売り場に相当する場所だが、昔のものは雰囲気がある。

◆ 古今亭志ん朝の「宿屋の富」 ◆◆
ということで今日は、二大富くじ噺のひとつ、「宿屋の富」を聴きました。運のいいことに、YouTubeにクリップがありました。まだアップされたばかり、いつまであるかわからないので、お早めに。長い枕がついているので、お忙しい方は2からどうぞ。

古今亭志ん朝 宿屋の富1(枕のみ)


古今亭志ん朝 宿屋の富2


古今亭志ん朝 宿屋の富3


古今亭志ん朝 宿屋の富4


くすぐり盛りだくさんで、おおいに笑える、みごとな「宿屋の富」でした。「宿屋の富」の聴かせどころは、噺に入った直後、馬喰町の宿屋にわらじを脱いだ男が、宿屋の亭主に、自分がどれほど途方もない金持ちかを吹き込むために、とんでもなく誇張した話をつぎつぎと並べていくところ、そして、翌日、湯島天神の境内に集まった男たちが、富に当たったらなにをするかということを並べ立てるところでしょう。もうひとつの有名な富くじ噺「富久」にも似たようなくだりがあります。

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日本橋馬喰町(『江戸名所図会』より)

古今亭志ん朝という噺家の、速さと精確さと呼吸のよさは天下一品で、この「宿屋の富」の笑わせどころも、ともに文句なしの出来映えです。「千両箱を漬け物石がわりにして」などとわたしが書いても可笑しくありませんが、志ん朝のように呼吸よくこれをいうと、思わず笑ってしまいます。

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湯島天満宮(『江戸名所図会』より)

後半の、五百両が「当たることになっている」男のくだりもみごとで、一反のさらしをポンと二つに割って、なんていうところの歯切れのよさといい、ドンと五百両を投げ出し、身請けにもっていくまでのテンポのよさといい、とんとんと噺が進む心地よさには惚れ惚れします。志ん朝のもっともいいところは、この「速さ」でしょう。

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一分判金。この形を見れば、志ん朝が「踏んづけると痛い」といっている意味がおわかりだろう。一分は四分の一両。江戸の金を現代の通貨に換算するのはむずかしいが、2万円ぐらいだろうか。現代の宝くじよりずっと高くいもので、主人公が嘆くのも無理はない。ほらなど吹かずに宿泊すれば、この金で宿代が払えたはずである。

生前、いつ志ん生を襲名するのかといわれて、いずれ遅い噺もするようになったら、考えなければいけないかもしれないと漏らしていたそうです。「遅い噺」が似合う年齢まで生きられなかったのは残念なことです。

◆ 桂枝雀の「高津の富」 ◆◆
「宿屋の富」というのは、上方の「高津の富」(こうづのとみ)という噺を関東に移したものです。漬け物石がわりの千両箱や、泥棒のくだり、一分判金を知らないなど、志ん朝版と似た部分がたくさんあるので、聞き比べられるといいのですが、YouTubeにある枝雀の「高津の富」は、サゲの部分だけです。

桂枝雀 高津の富


これでは面白さが伝わらないので、ステレオをモノにし、さらに音質を落とし、さわりだけを切り出したサンプルをつくりました。

サンプル 高津の富1(お大尽の景)

まずは主人公が宿屋の亭主に思いきり自慢話をするところです。志ん朝版にはない、門から入って屋敷までたどりつくのに四日かかるから、自邸の敷地に宿場が設けてあるというくすぐりが笑えます。「嘘つき弥次郎」のようなとほうもないホラ。

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志ん朝版では、おそろしく調子のいい、ちょっと軽めの詐欺師のような人物像が浮かんできますが、枝雀版は、いかにも上方のお大尽という、ゆったりとした人物に描かれていて、このへんのちがいも興味深いところです。

ところで、わたしは関東の人間なので、このサンプルの最後のほうに出てくる「やまこ(?)もいい加減にはっておかないけんなあ」というのがわかりませんでした。「ほらを吹くのもたいがいにしておかないといけないな」ということをいっているのでしょうが……。

サンプル 高津の富2(高津さん境内の景)

こちらもやはり、富に当たったら女を身請けして、という空想に入りこんでいってしまう男が登場しますが、ちらちらと狂気が見え隠れするところが、いかにも枝雀の噺という感じがします。

なぜこの噺が好きなのでしょうかねえ。前半のナンセンスなホラ話、後半の空想が暴走してしまう男の可笑しさ(「湯屋番」を思いだす)、信じられない幸運にめぐまれてうろたえてしまう小人物たちの可笑しさと哀しさ(火焔太鼓の夫婦に似ている)、「俺はこういう人間を知ってるなあ、ああそうか、俺のことだ」という感覚を引き起こす要素が濃密にあるからかもしれません。いや、落語を分析しちゃいけませんがね。


美濃部家の親子三人による宿屋の富をそろえてみました。

古今亭志ん朝 宿屋の富、愛宕山
落語名人会 3
落語名人会 3

金原亭馬生 宿屋の富、船徳
NHK落語名人選(24) 十代目 金原亭馬生 宿屋の富・船徳
NHK落語名人選(24) 十代目 金原亭馬生 宿屋の富・船徳

古今亭志ん生 宿屋の富、火焔太鼓
ベスト落語 五代目 古今亭志ん生 「火炎太鼓」「宿屋の富」
ベスト落語 五代目 古今亭志ん生 「火炎太鼓」「宿屋の富」


以下は上方のものを二種

桂枝雀 高津の富、つぼ算
枝雀落語大全(1)
枝雀落語大全(1)

六代目笑福亭松鶴
笑福亭松鶴(6代目)(1)
笑福亭松鶴(6代目)(1)
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by songsf4s | 2009-12-28 23:54 | 落語
What Are You Doing for New Year's Eve? by Les Paul with Dick Haymes
タイトル
What Are You Doing for New Year's Eve
アーティスト
Dick Haymes
ライター
Frank Loesser
収録アルバム
Christmas Wishes
リリース年
194?年
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当家のクリスマス映画特集に手がかかったために、FC2の三つのブログの更新が滞ってしまいましたが、今日は簡単なものながら、三カ所とも更新したので、ご訪問いただければ幸いです。

黄金光音堂 Q&Aソングス その7 I'll Just Walk On By by Margie Singleton
猫町ぶらり 日なた猫
散歩やせんとて 「名残の秋(には遅すぎるが!)」

◆ ディック・ヘイムズ&レス・ポール ◆◆
一昨年のクリスマス・スペシャルのときに、26日以降、どんなことを書いたのかと眺めてみて、What Are You Doing New Year's Eveを取り上げたことを思いだしました(この曲のタイトルは二種類あり、forがあったりなかったりする)。

すっかり忘れていましたが、いい曲なのに、つまらない解釈ばかりで困ったものだ、ちゃんと歌っているヴァージョンを見つけたい、といったことを(例によって行儀悪く)書いていました。そして、女の歌ではない、若い男がちょっとためらいながら歌うといい、などといっています。

さて、二年たって、そういうヴァージョンが見つかったか? 理想的なレンディションとはいえませんが、これならこの曲の解釈としてフェアウェイからはずれていないと感じるものはありました。

サンプル Les Paul with Dick Haymes "What Are You Doing for New Year's Eve"

歌詞の解釈については、一昨年の記事をご覧になっていただきたいのですが、「知り合ったばかりで、こういうことをいうのは早すぎのはわかっているんだよ、でもね」というように、ちょっとテレながら「いっしょに新年を迎えられたらうれしいな」と誘う歌なので、テンポを落としてしみじみ歌うのには向いていません。

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そこのところがわかっていないノータリンな歌い手ばかりで、一昨年はヴェテラン女性シンガーをひとまとめに山姥呼ばわりするほど怒ってしまいました。まあ、シンガーというのは知的人種ではないので、こういうときはプロデューサーやアレンジャーが舵取りをするべきであり、山姥たちに責任をおっかぶせたのは陳謝して撤回します。どのベンチもアホだったのです。

だいたい、女性が歌うと可愛げのない曲になってしまうので、これは断じて世慣れない若い男の歌です。ということで、レス・ポールはあまり活躍しないけれど、ディック・ヘイムズのヴァージョンは、わたしが考えるWhat Are You Doing for New Year's Eveのありように、もっとも近いものだと感じました。

◆ ヘンリー・マンシーニ ◆◆
一昨年は聴いていなかったWhat Are You Doing New Year's Eveとしては、もうひとつ、ヘンリー・マンシーニのヴァージョンがあります。



べつに悪いところはないのですが、さすがはヘンリー・マンシーニ、と感心するほどの出来でもなく、微妙なところです。よくあるパターンなのですが、Auld Lang Syneにつなぐのは、この曲の場合はどうでしょうかねえ。

歌詞は「いま大晦日のことをいうなんて、頭がおかしいと思われちゃうだろうけれど」といっています。ということは、この歌の「現在」からすると、大晦日はかなり先のことなのでしょう。そういう歌に、大晦日を象徴する曲だからといって、Auld Lang Syneをつなげてしまうと、時間感覚が狂ったようで、あまり気持よくありません。

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しかし、ふと思いました。作詞家はこの曲の「現在」をいつごろと想定したのでしょうか。改めて考えると、これは難問です。わたしがアメリカ人の生活感覚を理解していないせいなのでしょうが、そもそも、なぜ大晦日が重要なのかがわかりません。たとえば、サンクス・ギヴィングや、それこそクリスマスではいけないのか、そこで悩んでしまいます。

まあ、サンクス・ギヴィングもクリスマスも家族が集まる行事であって、恋人たち向きではないということでしょうかね。それに対して、大晦日は家族の行事というニュアンスがあまりないのかもしれません。

どのあたりを想定しているかなどということは気にせず、勝手に解釈すればいいのですが、それにしても、どこにすればいいのかわからず、変なところで考え込ませる曲でした!

ディック・ヘイムズ
Christmas Wishes
Christmas Wishes

レス・ポール
Isle of Golden Dreams: The Decca and Capitol Years
Isle of Golden Dreams: The Decca and Capitol Years

ヘンリー・マンシーニ
Greatest Christmas Songs
Greatest Christmas Songs
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by songsf4s | 2009-12-27 23:34 | クリスマス・ソング
三たび『乳母車』と鎌倉駅、そして久生十蘭
 
いよいよクリスマス本番ですね、なんていう挨拶は日本では依然として通用しないのでしょう。25日の夜、スーパーマーケットに行ったら、ちょうど鳥だのチーズだのピザだのを片づけ、蒲鉾や伊達巻きや数の子を並べているところでした。この切り替えの速さには、商売の必然とはいえ、ちょっとばかり鼻白みます。

「クリスマスの十二日間」ははじまったばかりで、年明け六日まではホリデイ・シーズンなのですが、われわれにはわれわれ固有の文化があり、それと衝突する部分は、輸入の際に刈り込まれてしまうということなのでしょう。十二月二十五日には固有の年中行事がないからオーケイ、でも、年末から年明け七日までは予定が詰まっていて、外国文化の入りこむ余地はないのです。

一昨年も、そんな理屈を書いて、ちょっとだけクリスマスのカーテン・コールをやりましたが、今年も一本だけ、クリスマスの十二日間、すなわち、年明け六日の「顕現祭」までを背景にした映画を取り上げるつもりです。

◆ tonieさんの2009年 ◆◆
昨日、当家のレギュラー・コメンテイターのひとり、tonieさんに、今年おおいに楽しんだ曲というのをちょうだいしました。

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わたしにそういうことをいわれたくはないでしょうが、でも、やっぱり「とっ散らかった」選曲ですねえ。このなかでちょっとだけ意外だった(いや、これだけばらけていると、ほんとうに意外なものなどないのだが!)のは、ジェシー・ベルヴィンです。エスター・フィリップスを男にしたようなキャリアをたどったこのシンガーは、ちょっと興味深い存在です。

星野みよ子の「Oka no Hotel」は、tonieさんの冗談です。この『ゴジラの逆襲』の挿入曲を当家で取り上げたとき、タイトルがわからなくて、わたしが歌詞からでっちあげた仮タイトルが「丘のホテル」なのです。ほんとうは「湖畔のふたり」というタイトルなのだという訂正は、この記事に書きました。

tonieさんはわたしよりずっとお若いので、近年のものもお聴きになっています。それがダイアン・バーチなのでしょう。ジョニ・ミッチェルとマリア・マルダーの中間というムードで、なかなかけっこうだと思います。ドラムも、実現の仕方については疑問なきにしもあらずですが、意図は明快に伝わってくるプレイです。昔のようにピッチの高いスネアのチューニングも好みです。スネアはやっぱり、ピーンといえばカーンというくらい高くないと気分が昂揚しません。

ザ・ピーナッツの3曲のうち、2曲は民謡を現代的にアレンジしたもので、なかなか楽しい出来です。この盤を取り上げていた海外ブログもありました。モスラのおかげですねえ。

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リック・ネルソンの2曲は、どちらもギターを聴いてしまいます。Don't Breathe a Wordのほうは、ドラムが不思議です。リッチー・フロストってこういうドラミングをするのでしょうか。だとしたら、誤解していたことを謝っちゃいます。だれか別人だとしても、候補が出てきません。アール・パーマーやハル・ブレインのようには聞こえないのですがねえ。だれなんだかさっぱり見当がつきません。これをサンプルにしましょうかね。

サンプル Rick Nelson "Don't Breathe a Word"

よく思うのですが、ラジオで聴くのと同じように、自分で選んだものより、ひとが選んでくれたものを聴くほうが楽しいようです。

◆ さてわが家では ◆◆
さて、当家の2009年を回顧すると、鬱と体調不良による一カ月の休みではじまる散々な年で、よく年末まで生きていた、などと大げさなことをいいそうになります。明日はないかもしれないというのが、どういう感覚かよくわかりました。いっぽうで、父親の死を見て、すこしだけ死が怖くなくなりました。

こうなってくると、思ったことをそのまま書こう、明日は死んでいるかもしれないのなら、遠慮などしても無意味と、悪く腹が据わってきます。まあ、もともと、世間様のいうことなど馬耳東風でしたが!

目をつぶると、芦川いづみが鎌倉駅の通路を歩く姿が見えてきます。何度も見た映画なのに、今年見た映画でもっとも印象に残ったのは『乳母車』です。急いで付け加えますが、傑作のなんのといっているわけではありません。同じ田坂具隆監督の、姉妹編といいたくなる『陽のあたる坂道』のほうが、破綻がなく、ずっと出来がいいと思います。

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でも、毎度申し上げるように、好きとか嫌いとかのレベルに降りてくると、子どもか猫のようなもので、器量不器量、出来の善し悪しなどはどうでもよくなってしまうのです。『乳母車』がもっとも「印象に残った」というのは、評論的なレベルでの「作品の出来」をあれこれいっているわけではないのです。たんに、いくつか、たまらなく愛おしいショットがあるだけです。

まずなによりも、夜の鎌倉駅のシークェンスです。「鎌倉駅と『乳母車』」という記事を書いたときに、もちろん、何度も繰り返しこのシークェンスを見ましたし、スクリーン・ショットも何十枚もつくりました。

やはり、そういうことをすると、映画館で見たり、ヴィデオを流して見ているのとは、ちょっとちがう見方になっていくのでしょう。だんだん、昔の鎌倉駅のディテールというか雰囲気がよみがえってきて、まるでジャック・フィニーの『ふりだしに戻る』の主人公のように、失われた過去がさわれそうなほどリアルに感じられてきました。

プラットフォームに立つと、向こうにテアトル鎌倉が見えるのも大きな魅力です。あの映画館はいつごろなくなったのか忘れてしまいましたが、わたしが頻繁に鎌倉駅を使った1970年代にはまだありました。

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また、母親を見送った芦川いづみが悄然と歩いていると、父親がやってきて、肩を並べて通る改札の向こうには、駅前のネオンサインが見えます。このショットにもやはりノスタルジーを感じます。

今回、『乳母車』を見直して、かつては気づいていなかった「映像に封じ込められた時代」の封印を解いたような気分でした。それだけ年をとったのだと思います。

◆ Duran's Wake ◆◆
ノスタルジーなどというものは、極度にプライヴェートなもので、こういうことをお読みになっても無意味だろうとは思うのですが、わたしに書く自由があるように、みなさんにも読まない自由があるので、つづけさせていただきます。

「夜の鎌倉駅」というと、わたしのなかには確固たるイメージがあります。それは、昭和三三年発行の「別冊宝石第78号 久生十蘭、夢野久作読本」に収録された座談会で語られている、久生十蘭の通夜の鎌倉駅です。

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久生十蘭という人は、エッセイというものを書かず、みずからを語らなかったことで知られています。いまになれば、そういう考えはもっともだと思いますが、若いころは「作り手は作物だけ残せばいい」とは達観できず、やはり人物にも興味があったので、この宝石の座談会と、同じ追悼号に収録された今日出海や幸子夫人の回想をおおいなる関心をもって読みました。

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この座談会を手に入れたのは二十歳前後、鎌倉に住んでいるころだったので、ひと気のない夜更けの鎌倉駅を明確に頭のなかに思い描きながら読みました。もちろん、あのころは改築以前、ここで語られているのと同じ旧駅舎です。貨物エレベーターというのは、プラットフォームの外れ、逗子寄りにありました(いまもあるかもしれない)。

f0147840_0112226.jpg『肌色の月』の封切日だとありますが、これは久生十蘭の遺作(といっても、途中から幸子夫人が書き継いだものらしいが、継ぎ目はわからない。長年、十蘭の口述筆記をやったせいか、スタイルが似てしまったらしい。この追悼号に収録された夫人のエッセイも、締めくくりが十蘭のような突き放した文章になっている)を映画化したものです。

土岐雄三はそうはいっていないのですが、『肌色の月』の封切りだった(MovieWalkerによれば1957年10月8日、十蘭が没したのは10月6日)ということと、鎌倉駅が水浸しだったということから、わたしの頭のなかでは、テアトル鎌倉に『肌色の月』がかかっているイメージができあがってしまいました。

もちろん、そのころ、わたしは幼児、鎌倉の駅や町のことも知りはしませんが、それでもよすがとなるものは、後年、毎日のように見ていたので、想像に困るということはありません。

久生十蘭が没したのが1957年、乳母車が封切られたのが1956年、わたしの頭のなかで「昔の鎌倉駅」として、両者が二重露光され、ほとんど手に取れそうなほどソリッドなイメージに成長したのだと感じます。身体半分ぐらいは、『乳母車』の夜の鎌倉駅に入りこんでしまったような気分です。全身入れたら楽しいだろうなあ、と本気で思います。

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今年見た映画でもっとも強く印象に残ったのは『乳母車』だったというのは、そういうことです。身勝手な人間だから、映画としての出来などほったらかしで、自分の快感原則のみでものをいっているのにすぎないのでした。


乳母車
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リック・ネルソン
Very Thought of You/Spotlight on Rick
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久生十蘭『肌色の月』
肌色の月 (中公文庫 ひ 2-1)
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久生十蘭短篇選 (岩波文庫)
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もっとも新しい久生十蘭精華集。好ましい選択である。
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by songsf4s | 2009-12-26 23:27 | その他
クリスマス映画11 Adeste Fideles (映画『素晴らしき哉、人生!』より)
タイトル
Adeste Fideles
アーティスト
OST
ライター
unknown
収録アルバム
N/A
リリース年
1946年
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クリスマス・イヴなので、しごくまっとうな映画を、ごく簡単に書きます。あれこれこじつけるまでもなく、クリスマス映画の古典としてずっと昔から評価が定まっている、フランク・キャプラの『素晴らしき哉、人生!』です。

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邦題はまあけっこうなのですが、まだこの映画をご覧になっていない方が、まちがった先入観をもたないように念押ししておけば、Life Is Wonderfulではなく、It's a Wonderful Lifeです。あなたやわたしの人生ではなく、この映画の主人公の人生が素晴らしいといっているので、その点、誤解なきよう。

ついでにいうと、lifeという言葉には、つねに「生命」の意味が寄り添っていることをお忘れなく。死なずにいることは素晴らしい、というタイトルでもあるのです。

トレイラー


◆ 天使のためのブリーフィング ◆◆
フランク・キャプラの映画なので、どんなに悪いことが起きても、最後には万事めでたく収まるようになっています。やはり、クリスマスだから、そういうもののほうがいいでしょう。

ジェイムズ・ステュワートはベドフォード・スプリングスという小さな町で生まれ育ち、父親の跡を継いで、ささやかな信用金庫のようなものを経営しています。貧しい人のための金融機関兼開発業者とでもいうべき組織です。当然、町を支配するシャイロック的銀行家(ライオネル・バリモア)と対立関係にあり、これがプロットの軸になっています。

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話はあるクリスマス・イヴに、ベドフォードの人びとの祈りが天に届き、神と天使のあいだで協議がおこなわれる、というところからはじまります。クラレンスというまだ羽のない「二級天使」がこの問題を解決するべく派遣されることになり、出発前に、ジェイムズ・ステュワートの人生についてブリーフィングを受けます。

このブリーフィングをわれわれも見ることになります。つまり、ジェイムズ・ステュワートの子ども時代のことからはじまり、青年になり、ヨーロッパ旅行に出発しようとしたその日に父親がみまかり、志に反して父親の金融機関を継ぎ、やがて結婚し、四人の子どもたちをもうける、というライフ・ストーリーが全体の7、8割を占めています。

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善意の人フランク・キャプラが、家族、友人、町の人びとから愛された人物の半生を描くのだから、そりゃもう気持のいい話です。ライオネル・バリモア扮するシャイロック的町のボスが、全身丸ごと人間の善意に対するアンチ・テーゼのように描かれているのも、図式的すぎると気になったりはしません。大昔の芝居のようなもので、「世界」ができているから、能や歌舞伎を見るように、自然にそういう枠組を受け入れてしまうのです。

◆ たかが8000ドルの悲劇 ◆◆
12月24日、ジェイムズ・ステュワートの会社に勤める叔父(『ポケット一杯の幸福』でブレイク判事を演じたトーマス・ミッチェル、というか、『駅馬車』のドク・ブーンないしは『風と共に去りぬ』のジェラルド・オハラといわないと怒られてしまうかもしれないが)が銀行に8000ドルの現金を預けに行き、金の入った封筒を脇に置いて帳票に書いているところに、ライオネル・バリモアのシャイロックがやってきます。

ちょうど、ジェイムズ・ステュワートの弟が戦功章かなにかを大統領から授与されたことが新聞で大きく報道されたところで、大嫌いなライオネル・バリモア扮するポッター氏に、どうだ、うちに甥っ子はたいしたものだろう、とその記事を突きつけます。

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バリモアが執務室に入り、苦々しげに新聞を広げると、そこから封筒があらわれ、札束が出てきます。正直者ならここで金を返して、この映画はなかったことになってしまいますが、バリモア=ポッター氏はもちろんシャイロックだから、してやったり、これでジェイムズ・ステュワートは破滅だ、と北叟笑みます。

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そして、必死で金を探す叔父と甥の様子やら、絶望して家に帰ったジェイムズ・ステュワートが荒れて家族に当たり散らしたり、ポッター氏に支援を求めて嘲笑されたり、酒場で荒れたりといった、必要なシーンがつづきます。

このあたりまでが二級天使クラレンスへの「ブリーフィング」で、彼が派遣されるにいたった経緯の説明です(ただしわたしは、このあとのドラマより、ここまでの田舎町の生活のていねいな描写自体に魅力を感じる)。

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かくして天使が派遣され、絶望的な状況に置かれたジェイムズ・ステュワートをいかに救うかがクライマクスとなります。典型的な「クリスマス・イヴの奇蹟」で、そういう善意のお話が嫌いでなければ、この『素晴らしき哉、人生!』をおおいに楽しめるでしょう。

もうすこしだけ先の展開を書きます。天使クラレンスが、ジェイムズ・ステュワートに取り憑いた死神を落とすところがなかなかいいのです。紛失した8000ドルを生命保険で補填をしようと決意したジェイムズ・ステュワートが、橋の上から濁流を眺めていると、人が転落して、助けてくれ、といっているのが耳に入るのです。自殺も、先にやられると気が抜けるのでしょう!

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天使が登場したのだから、当然、ジェイムズ・ステュワートは絶望的状況を大逆転で覆して、町中の人が集まって大騒ぎのクリスマス・イヴとなって映画は終わります。天使が派遣されてからの展開の詳細については、書かないでおくほうがいいでしょう。

◆ 挿入曲 ◆◆
スコアはディミトリー・ティオムキンで、それなりに楽しめますが、クリスマス映画だから、挿入曲のほうが気になります。しかし、時期が時期だし、話の内容からいってもそれが当然かと思うのですが、クリスマス・ソングといえるのは、二曲の賛美歌とスコットランド民謡だけです。

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どれも有名な曲で、Adeste Fideles、Hark! The Herald Angels Sing、そしてAuld Lang Syneです。三曲ともカヴァーはたくさんあるのですが、ほとんどが大まじめに歌っていて(こういう曲を茶化すと、不買運動やら抗議やらで苦労することになるので、当たり前)、わたしのような非宗教的人間はちょっともてあましてしまいます。

このなかでいえば、Adeste Fidelesがいちばん好ましいような気がするのですが、数種類聴いただけで、わけがわからなくなってきました。グルーヴなんかないので、だんだん区別がつかなくなっていくのです。Auld Lang Syneだけは、ポップ系のサウンドのものがいくつかありますが、この曲はべつの機会に取り上げたほうがいいように思います。

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ということで、クリスマス・イヴでもあるし、今日は恒例のヴァージョン聞き比べはなしということにします。目下、例によってアル・カイオラとリズ・オルトラーニのクリスマス・アルバムを流しています。これとフィル・スペクターのクリスマス・アルバムがあれば、とりあえずほかのものはいらないかもしれません。

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by songsf4s | 2009-12-24 23:55 | クリスマス・ソング
クリスマス映画10 Christmas (Baby Please Come Home) by Darlene Love(映画『グレムリン』より)
タイトル
Christmas (Baby Please Come Home)
アーティスト
Darlene Love
ライター
Phil Spector, Ellie Greenwich, Jeff Barry
収録アルバム
A Christmas Gift for You from Phil Spector
リリース年
1963年
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人間の注意力には限界があって、気づかないときにはどうやっても気づかないのだと思います。今日、何度も聴いたことのある曲を聴いていて、ああ、これがあれの元か、などとボケたことをいって、自分で嗤ってしまいました。

なにがなにの元かというと、アヴァランシェーズのSnowfallのベースになったのは、ジョージ・シアリングのSnowfallではないか、ということです。アヴァランシェーズ盤Snowfallの魅力は、なんといってもアル・ディローリーのきらきらと燦めくようなピアノです。今日、クリスマス・ソングを並べて聴いていたら、ジョージ・シアリングがアル・ディローリーのプレイの下敷きのような気がしてきました。

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影響関係を無視していえば、この曲のベストはアル・ディローリーのピアノが美しいアヴァランシェーズ盤だと思います。ただし、アル・ディローリーは、ジョージ・シアリングの解釈を聴いて、惜しい、もっと角をとがらせて、キラキラを強調したプレイにすれば決定版になったのに、と思ったのではないでしょうか。

◆ 先に腹を立てたヤツの勝ち ◆◆
さて、今日は見直す必要のない映画でご機嫌伺いです。『グレムリン』という映画自体は、まあ、どうでもいいと思います。金返せと叫んだりはしませんでしたが、不機嫌になって映画館を出ました。

金返せといわなかったのは、わたしの数列前に、金返せー、馬鹿やろーと叫んでいた子どもがいたので、二人で合唱することもないか、と思っただけです。腹を立てるのも、先を越されると気が抜けるものですな。

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いえ、こういうことです。わたしの近くで母親と幼児が見ていたのです。ところが、ジューサーでグレムリンがミンチになるシーンで、大泣きに泣きだしてしまったのです。お母さんも戸惑ったでしょうねえ。ふだんなら、どういう事情であれ、映画館のなかで声を立てたり泣いたりする子どもには腹を立てるのですが、このときばかりは、たしかに泣きたいほどひどい映画だよな、俺も泣きたいくらいさ、とこの母子に同情しました。

あんな汚いものを見せられたら、幼児が泣くのは当たり前です。そういう映画なのだということを伏せて、家族で楽しめるような宣伝をした輸入会社におおいなる非があります。商売は正直にやりましょうよ。近ごろ、不正直な商人ばかりで(とくにウェブ・ビジネスは!)、商人の息子としては慨嘆にたえません。商人は正直であることがなにより大事です。

◆ わが黄金の法則を破壊した例外映画 ◆◆
話があらぬほうにいきました。映画だの音楽だのというのは、何年たっても恨みを忘れないものですな。それにくらべれば、食べ物の恨みなんて軽いもんですよ。まずかったメシ屋のことなど、ほとんど忘れてしまいましたが、腹を立てた映画や盤のことは全部覚えています。

いや、いいところもあるのです。そうじゃなければ、ここで取り上げたりましません。はじめのほうの絵と音はものすごくいいのです。途中から、あれよあれよと崩れていったのです。はじめからダメなら、失礼しました、勝手にチケットを買ったわたしがいけませんでした、二度とあなたの映画は見ないということで手打ちにしましょうや、なのですがね。

どこで乗ったかはおわかりでしょう? ちゃんとこの記事のタイトルに書きました。Christmas (Baby Please Come Home)がものすごくよかったのです。

見直さないで書きます。サンフランシスコかどこかの中国人街で、白人の男が見慣れない動物を買います。真夜中を過ぎてから食べ物を与えてはいけない、それだけは守るように、とかなんとかきつく注意されます。男はその動物を、クリスマス・プレゼントとして故郷の息子に贈ります。

ここで画面溶暗。

画面黒みのまま、Christmas (Baby Please Come Home)のイントロが流れたときは、寒気がするほどうれしかったのですねえ。ロードショウ館だったので、ベースがうちとはまったくちがう響きだったのも、ほほう、でした。

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最高のクリスマス・ソングではじまる映画ですからね、きっとすごく面白いにちがいない、と思って当たり前じゃないですか。いい音楽ではじまる映画は、まずまちがいなく楽しめるという絶対的なルールがあるのです。

このルールの例外は、と考えても、この『グレムリン』ぐらいしか思いつきませんよ。よりによって、フィル・スペクター=ハル・ブレインの曲を使って、大ハズレにはずすとは、ジョー・ダンテというのはほんとうに悲しいまでのトンチキ野郎です。

でもねえ、そこで思いだすのですよ。この乾坤一擲のクリスマス・シングルを、乗りに乗っていた1963年のフィル・スペクターがはずしたんですよね。すばらしい仕上がりなのに。いえ、スペクターはいいものをつくったのに対して、ジョー・ダンテはダメなものをつくったのだから、同じ扱いをするわけにはいきませんが。

◆ スウィッチを切るとは失礼な! ◆◆
先日の『L. A. コンフィデンシャル』の記事で、曲の聴かせどころを切ってしまう監督はろくなものではない、当然、そういう映画はダメと相場は決まっている、ということを書きましたが、ジョー・ダンテはそれをやっているます。ひょっとしたら、映画が崩れたのも、そのせいかもしれません。

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この曲については、ハル・ブレインのドラミングを分析したAdd More Music掲載の記事、そして一昨年のクリスマス・スペシャルの記事、さらには最近、黄金光音堂でやったエリー・グリニッチ追悼でも書いていて、また繰り返すのは恐縮ですが、話の運びの都合なのでご容赦あれ。

Add More Musicの記事で分析したように、後半に登場する、ハル・ブレインがスネアの四分三連を四小節にわたって叩きつづけ、そのサスペンドが解決すると、こんどは四台のピアノのユニゾンによる上昇するフレーズに突入し、これがまた強力なサスペンスを生み出して、その巨大な位置エネルギーの蓄積を、最後の解決へ向かって怒濤のように放出する圧倒的な展開には、フィル・スペクターじゃなければこういうものはつくれない、と感嘆します。

ハル・ブレインも最後の解決にいたって、ようやく四分三連のくびきを解き放ち、フリースタイルのフィルインをここぞとばかりに投入します。この時期のシグネチャー・プレイだった(といってもアール・パーマーと共有だったが)「ストレート・シクスティーンス・アゲインスト・シャッフル」(straight sixteenth against shuffle)すなわち「シャッフル・グルーヴと対比を成す16分のパラディドル」も、当然、豪快にキメています。

ところがですね、ジョー・ダンテは、主人公にカーラジオのスウィッチを切らせて、この曲の山場をまるごとカットしているのです。わかっているのかと思ったら、わかっていなかったのです。こういう粗雑なことを平気でやれるのは、芸事万般に通じる基本理念を理解していない証拠であり、当然、映画の見せ場もきちんとつくれません。だから、音楽の使い方は映画の出来の指標となりうるのです。すべてはセンスと見識です。

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◆ 自前の再編集 ◆◆
まったく、惜しいことをしました。大魚は水面に顔を出したのに、あっさり針をはずして逃げていきました。

フィル・スペクター=ハル・ブレインの代表作を利用しようと思いたったところまでは上出来だし、じっさい、Christmas (Baby Please Come Home)が流れているあいだは、画面にも気持のいいグルーヴがあります。

ところが、基本的なセンスがない人の悲しさ、音楽の使い方の要諦を知らなかったために、傑作クリスマス・ソングをみごとに画面に嵌めこんだ、という名声を得るチャンスを、あたらカー・ラジオのスウィッチひとひねりで逸してしまったのだから、やんぬるかな、です。

でも、わたしは人間がおめでたくできているのか、惜しいなあ、と思うと、ありえたかもしれないオルタナティヴ・ヴァージョンを頭のなかでこしらえてしまいます。いや、『グレムリン』という映画自体は、いじってもムダな出来ですが、タイトルだけなら、ちゃんとエンディングまで流れる完璧なものを頭のなかで編集することができます。やっぱり、雪景色で聴きたい曲ですからね。諸兄姉もひとつお試しあれ。

フィル・スペクター クリスマス・アルバム
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by songsf4s | 2009-12-23 23:26 | クリスマス・ソング
クリスマス映画9 Dark Eyes (映画『The Shop Around the Corner』〔『街角』〕より)
タイトル
Dark Eyes a.k.a. Ochi Chornya
アーティスト
OST
ライター
traditional
収録アルバム
N/A
リリース年
1945年
他のヴァージョン
Chet Atkins, Les Paul (2 versions), the Spotnicks, the Atlantics, 80 Drums Around the World with Mallet Men, Esquivel, 101 Strings, the Ventures
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この映画の邦題はよくわかりません。どうやらフルネームは『街角 桃色〔ピンク〕の店』というようです。なぜピンクなのか、映画を見ても理由はわかりませんでした。モノクロですからね。どうやってピンクにしたのかと考え込んでしまいます。アメリカから送られてきたプロモーション・キットに、なにかそういうことが書いてあったのか、あるいは、わたしが注意散漫でなにかを見逃したのか、「桃色」がどこから出てきたのか、ついにわかりませんでした。

まあ、邦題というのは作物の正しいアイデンティファイアとしての資格のない、地域通貨みたいなものだから、考察するほどの重要性はありません。時間をムダにしたくないので、これでおしまい。

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◆ 黒い瞳を聴けるシガレット・ボックス! ◆◆
小津安二郎はエルンスト・ルビッチのファンだったようで、しばしばルビッチの映画に言及しています。戦後の小津はちょっとちがいますが、戦前の小津映画のスタイルからいうと、この映画ならどこを褒めるか想像がつきます。シガレット・ボックスの使い方でしょう。

以下は当時の劇場用予告篇のようです。なんともめずらしいスタイルで、「すぐそこの店」(The Shop Around the Corner)の店主であるマトゥチェック氏自身が、登場人物を紹介します。



最後にはエルンスト・ルビッチ監督まで登場してサービスにこれつとめています。これはルビッチ自身がみずから手がけた予告篇なのかもしれません。

ジェイムズ・ステュワートという俳優は万年青年(おもととし、などと読まないように。「まんねんせいねん」)みたいなところがありましたが、この映画ではほんとうに若くて、ブタペストにあるマトゥチェック商会の店員という役です。

この予告篇では、マトゥチェック氏に呼ばれ、問屋から持ち込まれたこのシガレット・ボックスをどう思うか、と問われ、言下に、そんなものは売りものになりません、と断言し、いけるのではないかと思ったマトゥチェック氏をガッカリさせるシーンが使われてます。

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このシガレット・ボックスはオルゴールになっていて、蓋を開くと、「オチ・チョーニャ」(と発音しているように聞こえる)というか、われわれは「ダーク・アイズ」ないしは「黒い瞳」として知っている曲がかかります。これが気に入らないジェイムズ・ステュワートは、タバコを吸うたびにオチ・チョーニャを聴きたがる人間などいるはずがない、しかも、ホンモノの革ですらない模造皮革の安物、問題外です、とこき下ろします。

◆ ダメ製品も別人の手にかかれば…… ◆◆
シガレット・ボックスでおおいに揉めた直後に、若い女性(マーガレット・サリヴァン)がやってきて、仕事をもらえないだろうかとジェイムズ・ステュワートに頼みます。しかし彼は、いまは人手を必要としていないし、そもそも主人は目下(シガレット・ボックスの一件で)おおいに不機嫌だと断ります。

そこにマトゥチェック氏が奥から出てきて、彼女はオーナーに嘆願しますが、ジェイムズ・ステュワートがいったとおり、けんもほろろ、とりつく島もありません。そこへ、ご婦人のお客があり、ここが勝負と、マーガレット・サリヴァンはいきなり脇から出て行って、くだんのシガレット・ボックスを、キャンディー・ボックスだといって(無意識につまんで食べ過ぎにならないように、ダーク・アイズのオルゴールが警告する!)、たくみに売りつけることに成功します。

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これで彼女はマトゥチェック商会に職を得、話は一気に半年後、もうすぐクリスマスという時季に飛びます。溶暗から戻った画面の主役はあのシガレット・ボックスです。

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小津安二郎がしきりにエルンスト・ルビッチを賞賛したのは、こういう小道具の扱いのうまさゆえでしょう。台詞では一言も説明されませんが、なぜあのシガレット・ボックスが大量にあり、なぜ大安売りになっているかは、観客はひと目で察します。映画の話の運びというのは、こうでなくてはいけません。

◆ すれちがいロマンティック・コメディー ◆◆
シガレット・ボックスの一件が尾を引いたのか、ジェイムズ・ステュワートは、ことあるごとにマーガレット・サリヴァンと対立し、ケンカばかりしていることが、クリスマス直前の店頭の場面で手際よく説明されます。

ジェイムズ・ステュワートはどこかの女性と文通をしています。手紙を読むかぎりでは、知的でチャーミングな女性で、じっさいに会ってみたいと思っていることが、冒頭、やはり店頭で同僚に相談するかたちで説明されています。

さて、シガレット・ボックスです。マトゥチェック氏は、判断ミスの象徴であるシガレット・ボックスがウィンドウに大量に飾られているのが気に食わず、今夜は残業で飾り付けをやり直す、と宣言します。

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終業後に予定のある店員たちはみなあわてふためきます。とくにジェイムズ・ステュワートは、文通の相手とはじめて会うことになっていたので、マトゥチェック氏に残業を勘弁してもらおうと懇願し、感情的に対立してしまいます。マーガレット・サリヴァンもデートの予定があり、ジェイムズ・ステュワートにおべっかを使いますが、そこからまたひと揉めがあります。

そして、その夜、残業でクリスマスの飾り付けをしている最中に、ジェイムズ・ステュワートは、主人に首を言い渡されます。その直後、電話を受けた主人は、残業は終わりだ、残りは明日片づけようといい、みな帰し、ひとり店に残ります。

ジェイムズ・ステュワートは同僚とともに近くのカフェに行きます。相手がどんな女性かわからないので、同僚に外から店内をのぞいてもらうのですが、すでにおおかたの人がお気づきのように、ブラインド・デートの相手は、ほかならぬ店でのケンカ相手、マーガレット・サリヴァンだとわかります。

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ジェイムズ・ステュワートは、自分が文通の相手なのだとは明かさず、偶然に来合わせたかのようなフリをして、彼女と話そうとしますが、やはりすぐに口げんかになってしまいます。

いっぽう、店に残った主人は、探偵を迎え、報告書を読みます。妻の行状を疑っていたのです。匿名の密告によれば、店員のひとりと浮気しているということで、それがジェイムズ・ステュワートだと思い、感情的に対立したのを機縁として馘首してしまったのですが、探偵の報告書には別人の名前が記されていました。

妻に裏切られたマトゥチェック氏が自殺しようとしたところに、使いにいっていた見習い店員がもどってきて、危うく救います(それた弾丸が電球の笠に命中する演出はうまい)。シノプシスをダラダラと書きつづけるのもなんなので、ここらで手じまいとします。ここからが前半の種まきの結果を収穫する段階になるのですがね。

以上でおわかりでしょうが、トム・ハンクスとメグ・ライアンの『ユー・ガット・メール』(You've Got Mail)は、この『ザ・ショップ・アラウンド・ザ・コーナー』を現代的装いで脚色し直したものです。

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◆ 小道具の技 ◆◆
『黄色いロールスロイス』のロールスロイスのように、シガレット・ボックスが主役というわけではないのですが、エルンスト・ルビッチはじつにうまくこの小道具を使って、最後の一滴までムダにしません。

ジェイムズ・ステュワートは自分が文通の相手なのだということを、マーガレット・サリヴァンに教えません。当然ながら、それが笑いを生む仕掛けになっていますが、なによりも可笑しいのは、シガレット・ボックスを利用したくすぐりです。

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店頭から店内に移された売れ残りバーゲン品のシガレット・ボックス

マーガレット・サリヴァンは、クリスマス・イヴに文通相手と会うことになった、ということをジェイムズ・ステュワートにそっと漏らします。クリスマス・イヴだから、なにかプレゼントしようと思い、あのシガレット・ボックスはどうだろうか、というのです。

もちろん、ひと目でこんなものは売れないと断言したジェイムズ・ステュワートは、それをきいて、ウォレットのほうがいいだろうと薦めるのですが、なにしろ、ことごとく意見が対立する相手だからうまくいきません。

そこで一計を案じ、同僚に話を持ち込みます。この同僚は、マーガレット・サリヴァンから相談を受けると、じつにうまく話をもっていき、結局、ジェイムズ・ステュワートがほしがっているウォレットをプレゼントする決心をさせてしまいます。

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「ウォレットのいいところは写真を入れられることでね、わたしはこちら側に妻の写真、こちら側には子どもの写真を入れているんだ」

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「クラリック、ウォレットはきみのものだよ」

最初から最後まで、一貫してシガレット・ボックスに狂言まわしをさせたエルンスト・ルビッチの演出には、おおいに感銘を受けました。ここまで上手に、そして徹底的に小道具を使える人は、そうたくさんはいないでしょう。

クリスマス・イヴには、一致団結した店員たちの努力の甲斐あって、マトゥチェック商会は記録的な売上げを達成し、一時は自殺にまで追い込まれたマトゥチェック氏も精神の危機を乗り越え、どうにも噛み合わなかったジェイムズ・ステュワートとマーガレット・サリヴァンもついに結ばれ、万事めでたしめでたしの大団円になります。

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『聖メリーの鐘』では、万事めでたすぎるとケチをつけたのに、『ザ・ショップ・アラウンド・ザ・コーナー』では、めでたすぎると文句をいわないのは、レオ・マケアリーとエルンスト・ルビッチでは力量に大きなちがいがあるからです。こしらえごとというのは、上手につくってこそ楽しめるものです。

シガレット・ボックスのおかげで、いや、エルンスト・ルビッチのウィットと才覚のおかげで、最後まで楽しく見ることができました。おみごと。

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◆ チェスター&レスターの黒い瞳 ◆◆
ほかに適当な曲があればいいのですが、『ザ・ショップ・アラウンド・ザ・コーナー』に使われた音楽にはオーセンティックなクリスマス・ソングはなく、もっとも「活躍」するのは、ほかならぬシガレット・ボックスに仕掛けられたオルゴールから流れるオチ・チョーニャ、すなわちDark Eyesです。わが家にあるダーク・アイズの棚卸しをしてみます。

やっぱり、チェット・アトキンズから行きましょう。



恐れ入りました。チェット・アトキンズとくれば、つぎはもちろんレス・ポール。当然ながら、こちらもちょっとしたものです。



ディック・デイルがMisirlouでやったようなことは、レス・ポールがとうの昔にやっていたわけで、知らないというのは幸せなことですな。知っていたら猿真似などできなくなります。

このクリップはライヴですが、レス・ポールはDark Eyesを少なくとも二度録音しています。ひとつは戦前のトリオ時代のもの、もうひとつは戦後の多重録音によるものです。どちらかというと戦後の録音のほうが楽しめます。

◆ ギター・インスト・バンド篇 ◆◆
つづいてスプートニクス。わたしと同世代の方は、スプートニクスのヴァージョンでこの曲を知ったか、または、彼らに刺激を受けた日本のバンドのヴァージョンで知ったのではないでしょうか。



わざとなのでしょうが、リードギターのピッキングが引っかけ気味で、スムーズでないところが好みではありません。

ドラムのタイムが悪く、突っ込み気味なので、これまたあまり好きではありませんが、ヴェンチャーズもやっています。



おかしなことに、ヴェンチャーズより、アトランティックス盤のほうがすぐれた出来です。スプートニクスとくらべても、こちらのほうが数段上でしょう。といって、クリップを探したのですが、見あたらなかったのでbox.netにサンプルを置きました。

サンプル Dark Eyes by the Atlantics

◆ ラテンもまた黒い瞳 ◆◆
非ギターものは3種類あります。もっとも面白いのは、80ドラムズ・アラウンド・ザ・ワールド・ウィズ・マレット・メン(というアーティスト名。もちろん、ハリウッドのスタジオ・プロジェクト)のヴァージョンです。これもクリップがないので、サンプルをどうぞ。

サンプル Dark Eyes by 80 Drums Around the World with Mallet Men

やっぱりなんですかね、スナッフ・ギャレットの50ギターズの向こうを張ったのでしょうか? どうであれ、これはいい、と手を叩いて喜んでしまいました。チャチャチャでくるとはね! ホンモノのラテンの濃厚な味はありませんが、ハリウッドには洗練という武器があります。なにをやらせても、ピシッと仕上げてくるところはすごいものです。ちょっとエキゾティカ味があるのもハリウッドならではです。もちろん、録音も文句なし。

エスクィヴァルも当然ながらラテン風味のレンディションです。これまたサンプルでどうぞ。

サンプル Dark Eyes by Esquivel

わたしはロシア民謡なんて、文字を見ただけで怖気をふるってしまいますし、ロシア語も音が汚くて大嫌い、ロシア映画など死んでも見たくありません(タルコフスキーは二本だけ見たが)。だから、ロシアのロの字もない、80ドラムズやエスクィヴァルのアレンジには大拍手です。とくに前者は軽快を通り越して痛快といいいたくなります!

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街角 桃色の店 [DVD] FRT-143
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チェット・アトキンズ
Pickin on Country
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レス・ポール・トリオ
California Melodies
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ウルトラ・ラウンジ 第9集(80ドラムズを収録)
Ultra-Lounge, Vol. 9: Cha-Cha De Amor
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アトランティックス
Complete CBS Recordings Vol 1
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The Spotnicks
ザ・スプートニクス・プレミアム・ベスト
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by songsf4s | 2009-12-22 23:38 | クリスマス・ソング
クリスマス映画8 Mele Kalikimaka by B. Crosby & the Andrews Sisters(『LAコンフィデンシャル』より)
またしても、タイトルが長すぎるから削れといわれたので、以下に正しいタイトルを書いておきます。

クリスマス映画8 Mele Kalikimaka by Bing Crosby with the Andrews Sisters (映画『L.A.コンフィデンシャル』より)

タイトル
Mele Kalikimaka
アーティスト
Bing Crosby with the Andrews Sisters
ライター
R. Alex Anderson
収録アルバム
A Merry Christmas with Bing Crosby & The Andrews Sisters
リリース年
1949年
他のヴァージョン
Alfred Apaka & the Hawaiian Village Serenaders
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『L.A.コンフィデンシャル』をクリスマス映画などというつもりはありません。例によって「クリスマスを背景にした映画」だというだけです。

とはいうものの、クリスマス・ソング含有率はそうとうなもので、このクリスマス・スペシャル2で取り上げた映画のなかでもっとも多数が使用されています。映画はクリスマス・イヴからはじまるので、LAPDの警官までがSilver Bellsを「合唱」したりするのです。

◆ ジョニー・マーサーで開幕 ◆◆
『L.A.コンフィデンシャル』の音楽監督はジェリー・ゴールドスミスです。しかし、挿入曲の選曲がいいというか、1952、3年という時代設定のおかげか、ちょっとした顔ぶれなので、スコアのほうはどうしても霞んでしまいます。

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タイトルで流れるのは、ジョニー・マーサーのAc-Cent-Tchu-Ate the Positiveです。もう音だけでいきなり乗ってしまいます。ジョニー・マーサーがつくった会社、キャピトル・レコードは、西海岸初のメイジャー・レーベルになるわけで、ハリウッド・サウンドのセンター・ピラーです。たんにジョニー・マーサーがすぐれたシンガーで、Ac-Cent-Tchu-Ate the Positiveが作詞家としてのマーサーの代表作だというだけでなく、彼が背負っている重みをも利用した選曲に(結果的に)なっていて、じつに据わりのいいタイトルです。こういう風にビシッとキメてくれると、これはいけそうだ、という気分になり、すっと映画に入れます。



ケヴィン・スペイシーとダニー・デヴィートが登場するパーティーの会場に流れているのはOh! Look at Me Now、署内では警官がSilver Bellsを歌っています。そして、このクリップの最後、ラッセル・クロウとキム・ベイジンガーが出会う酒屋に流れているのが、Mele Kalikimakaです。アンドルーズが活躍するセカンド・ヴァースまで入れてくれたのにはうれしくなりました。曲の聴かせどころを平気でカットするのは、たいていダメな映画です。

映画ではよく聞こえるようにミックスされていますが、このクリップはレベルが低めなので、あらためてMele Kalikimakaだけどうぞ。

ビング・クロスビー&ザ・アンドルーズ・シスターズ メレ・カリキマカ


◆ またしても「あんた、発音なまってるよ」 ◆◆
タイトルのジョニー・マーサーもいいのですが、Mele Kalikimakaには、いい曲を使ったなあ、とニコニコしてしまいました。一昨年のクリスマス・スペシャルでは、アンドルーズ・シスターズのChristmas Islandを取り上げましたが、やはりトロピカルなクリスマス・ソングというのはいいものです。



Christmas Islandと、Mele Kalikimakaはまんざら無関係ではありません。クリスマス島があるキリバス共和国のスペルが、なぜKiribatiという珍妙なものになるかというと、キリバスの言葉にはSをあらわす文字がないので、tで代替するのだということを、一昨年のChristmas Islandの記事に書きました。

さて、Mele Kalikimakaです。これもそのつもりで眺めると、意味が見えてくるのではないでしょうか。Christmas Islandの記事で「クリスマス島を現地ではKiritimatiと書き、kee-rees-massと発音するというのだから、カタカナにすると“キーリースマス”あたりということになります」と書きましたが、Mele Kalikimakaもこれと似たようなことなのです。

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キリバスの言葉と縁戚関係にあるハワイ語(両者とも大きくいえば「ポリネシア諸語」という分類でいいのだと思う)では、やはりSの音がないので、Kで代用されるのだそうです。日本語同様、Rの音もなく、Lで置き換えるそうで、結局、メレ・カリキマカとは「メリー・クリスマス」のことのようです。なーんだ!

わが家にはこの曲のカヴァーは2種類しかありません。そのうちのひとつ、アルフレッド・アパカのヴァージョンをサンプルにしました。Jingle Bellsとつなげているのですが、このJingle Bellsがハワイの言葉になっていて、Mele Kalikimakaばかりでなく、そちらもおおいに楽しいヴァージョンです。

サンプル Alfred Apaka "Jingle Bells/Mele Kalikimaka"

◆ ディノの2曲 ◆◆
ディーン・マーティンは2曲も使われています。ひとつはクリスマス・ソングです。

ディーン・マーティン クリスマス・ブルーズ


わたしはディノが大好きですが、やっぱりダウナーな曲は看板に立てにくいのです。ほかにいい曲がなければディノを看板にしたでしょうが、Mele Kalikimakaをさしおいて、とはいきません。

クリスマス・ソングではないのですが、ディーン・マーティンのもう1曲はじつにけっこうなもので、クリスマス・スペシャルでなければ、こちらを看板に立ててもよかったと思います。

ディーン・マーティン パウダー・ユア・フェイス・ウィズ・サンシャイン


この曲は、バド・ホワイト(ラッセル・クロウ)がジョニー・ストンパナート(実在のギャングで、ミッキー・コーエンのボディーガードだった。また、ラナ・ターナーの愛人であり、後年、ターナーの娘に刺し殺された)を脅して情報を得る酒場のシーンで流れます。

◆ メロドラマ化 ◆◆
映画としての『L.A.コンフィデンシャル』は、総じて悪くない出来で、ジョニー・マーサーやビング・クロスビーやディーン・マーティンのおかげもおおいにあって、気持よく見ることができました。

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ジェイムズ・エルロイの原作は複雑で奥行きのある話なので、ふつうに考えると映画にするのは無理に思えます。当然、ものすごい量の「枝打ち」をして、ほとんどプロットの幹だけの坊主にまでやせ細らせたうえで、かろうじて映画にした、という印象です。したがって、エルロイの小説を読むなら、映画のあとにしたほうがいいでしょう。小説を読んだあとだと、映画は不満足に感じます。

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なによりも、ウォルト・ディズニーをモデルにしたと思われる人物が、映画ではまるごと抹消されていることに、ブツブツいいたくなりました。この人物にまつわるあれこれこそが、「暗黒のLA四部作」という集合体を貫いて流れる都市の遺伝子であり、これをまるごと切った結果、都市の物語としての側面は薄まってしまいました。いや、それどころか、最初に見たときは、小説とはぜんぜんちがう物語に感じられたほどです。

まあ、エルロイの『L.A.コンフィデンシャル』そのままでは、どう逆立ちしても映画になどなるはずがないので、ドラスティックな改変が不可欠なのはたしかです。だから、小説とはまったく無関係な物語だと思えば、映画『L.A.コンフィデンシャル』もまずまずだと思います。

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しかし、情緒的なエンディングは、客に媚びていて、映画の限界を感じてしまいます。ああいう風に甘く終わらせたために、人物像も一貫性を失い、プロットのロジックも乱れてしまったのが最大の欠点です。

エルロイの小説にはりっぱな人物は登場しませんし、友情などというものは存在しません。「一時的な利害の一致」はどこまで行っても友情に化けることはないのです。しかし、それでは観客のマジョリティーは感情移入できないからと、ああいう人物関係に改変したのでしょう。映画の限界とはそういう意味です。

f0147840_012141.jpg同じ時期のLAPDを扱った映画としては、『マルホランド・フォールズ』があります。わたしは、『L.A.コンフィデンシャル』の湿ったタッチより、『マルホランド・フォールズ』の乾いたタッチのほうが好きです。暴力描写にも甘さがなく、ニック・ノルティーが柄の大きさと重さを生かした身体の動きで、弱さを隠すための酷薄な鎧を着た警察官を好演しています。無表情にブラックジャックをふるう姿は美しいとすらいいたくなります。

ともあれ、頭のてっぺんのほうで考えるのとはまったく異なったレベル、視覚と聴覚を刺激するものとしては、『L.A.コンフィデンシャル』はよくできた映画です。わたしには善し悪しは判断できませんが、時代考証も手を抜いていないことが、がっしりとした実体の感じられる映像からも伝わってきます。

そして、はじめに戻っていえば、最初と最後にジョニー・マーサーの歌を入れたこと、ビング・クロスビー、アンドルーズ・シスターズ、ディーン・マーティンらの曲も、的確に配置されていることも、この映画の印象をおおいによくしています。

次回は、たんにクリスマスを背景にした映画ではなく、いかにもクリスマスらしい映画を、と思っています。


ビング・クロスビー&ザ・アンドルーズ・シスターズ クリスマス・アルバム
A Merry Christmas with Bing Crosby & The Andrews Sisters
A Merry Christmas with Bing Crosby & The Andrews Sisters


OST (better selection)
L. A. Confidential (1997 Film)
L. A. Confidential (1997 Film)

OST (alternate)
L.A. Confidential
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DVD
L.A.コンフィデンシャル 製作10周年記念 (初回生産限定版) [DVD]
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L.A.コンフィデンシャル [DVD]
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ブルーレイ
L.A.CONFIDENTIAL-ブルーレイ・エディション- [Blu-ray]
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文庫上
LAコンフィデンシャル〈上〉 (文春文庫)
LAコンフィデンシャル〈上〉 (文春文庫)

文庫下
LAコンフィデンシャル〈下〉 (文春文庫)
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ペイパーバック
L.A. Confidential
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by songsf4s | 2009-12-21 23:56 | クリスマス・ソング