カテゴリ:サーフ・ミュージック( 7 )
Surf'n'Rod WITHOUT (or mistakingly WITH) Hal Blaine Vol. 3
 
昨日、入った店でファースト・クラスのBeach Babyが流れていました。70年代なかばに大ヒットした曲ですが、ヒットしていたときは、このグループの正体を知らず、なんなのこれは、と思っていました。

ビーチボーイズのパスティーシュないしはフォニーのように響いたし、歌詞もDo you remember back in old LAといっているのですが、アメリカ的なサウンドではないし、歌詞も気に入らない表現が多く、矛盾乖離が引っかかって、かえって記憶に残りました。

驚いたことに、ユーチューブには山ほどこの曲がアップされているのですが、すべて45ヴァージョン、あのラジオ・イントロのあるLPヴァージョンはありませんでした。

The First Class - Beach Baby


なぜアメリカ的に聞こえなかったかと、あと知恵で考えると、証拠はたくさんあるようです。たとえば、いきなり昔のLAのことを覚えているか、といいますが、地元のサーファーが仲間に呼びかけるときに、こういういい方はしないのではないかと感じます。もっと具体的な地名でしょう。

LAは郡部にいけば砂漠みたいなもので、サーフィンとLAという言葉のあいだには強い親和性はありません。マリブだとかバルボアだとか、どこかサーフ・ポイントの名前をあげるのが自然です。

それから、シヴォレーをそのままシヴォレーと呼んでるのも違和感があります。堅苦しいというかブッキッシュというか年寄りじみているというか、ふつうはシェヴィーでしょう。たとえば、つぎの曲をお聴きあれ。

Sammy Johns - Chevy Van


シヴォレーに板を載っけて繰り出したもんだぜ、という気分はけっこうなのですが、それはシヴォレーではなく、やはりシェヴィーでしょう(若くして死んだわが友は、車検残り二カ月というボロボロのトヨタ・ハイエースにロング・ボードを積んで、鎌倉街道や134号線の渋滞にもめげず、横浜元町から鎌倉七里に繰り出していた。夏のあいだだけでいいんだ、あとは廃車よ、と笑いながら、トヨタのケツでうっかり隣家の石垣を削り取ったりしていた。アメリカじゃ、ボロ車じゃないとサーファー仲間で幅が利かないんだぜ、とアメリカの大学に通う彼奴がいっていた意味が、あとになって本を読んで了解できた)。

この曲については、ずっと以前に、「Beach Baby by the First Class」という記事で詳細に書いたので、このあたりで切り上げます。

なんだかんだ文句はつけても、やっぱり、若き日の夏を思い出させる曲です。ユーチューブの不備がどうしても気に入らないので、アルバム・ヴァージョンを貼りつけておきます。

サンプル The First Class "Beach Baby" (long ver. with radio introduction)

◆ サザン・ダウン・ビート ◆◆
ハル・ブレインほどではありませんが、当然ながら、アール・パーマーもサーフ・ミュージックでプレイしています。記憶が曖昧ですが、この曲なんかはアールだったと思います。いや、すくなくともあまりハル・ブレインのようには聞こえません。呵呵。

The Super Stocks - Oceanside


ディック・デイルのCheckered Flagというアルバムは、アール・パーマーとハル・ブレインの両方のクレジットがあって、聞き分け問題集みたいなことになっています。

Dick Dale - Night Rider


あたくしは、この曲はアール・パーマーというほうに賭けます。明快な手がかりはありませんが、ハル・ブレインの16分はもっと軽くて明るいと感じます。アールのほうがすこしスネアのチューニングも低めでしょう。

同じアルバムからもう一曲いきます。なんだか、間違えると、頭の上でバケツがひっくり返るか、坐っている椅子がストンと落ちるか、目の前で風船が破裂するか、なにかそういうゲームをやっている気分になってきました。

Dick Dale - Ho-Dad Machine


やはり、バックビートが重めで、楽天的明るさがないという理由で、アールのプレイと考えるのですが、もうひとつ、何度か出てくる短いロールがハル・ブレインのスタイルではないと感じます。

もう一曲、アール・パーマーらしきロッド・チューンを。もちろん、非実在のスタジオ・プロジェクトです。

The Darts - Alky Burner


ギターはだれなのやら、グレン・キャンベルあたりなのでしょうか。なんとも判断しかねます。もう一曲、ダーツを。

The Darts - Speed Machine


いや、しかし、なんです、ハル・ブレインを見つけるのはわりに簡単なのですが、ハル・ブレインを避けるというのは、困難であることを痛感します。そりゃ、ボロボロ・アマチュア・サーフでよければ、いくらでもありますが、それなりに楽しめるものとなると、じつにもってアイガー北壁的様相を呈しはじめます。

ハリウッドは危険なので、よその町に行ってみます。たぶん、ナッシュヴィル録音。以前にもかけたことがあるのですが。

Ronny & the Daytonas - Sandy


サーフ・ミュージックじゃねーだろー、というご意見もございましょうが、「ビーチボーイズのB面」のノリで、夕闇迫る浜辺のバラッドというヤツと受け取っていただきたいところです。「ビーチ・バラッド」てなサーフ・ミュージックのサブ・ジャンルでよろしかろう、と。

ビーチボーイズだけれど、ハルではなく、アール・パーマーがストゥールに坐った曲をいってみます。やはり「ビーチ・バラッド」です。文句あるか!

The Beach Boys - Please Let Me Wonder


ブライアン・ウィルソンのバラッドにはつねに夕闇迫る浜辺のムードが揺曳しています。この曲に、たとえば、Sunset at Malibuというタイトルが付いていても、それでいいような気がすることでしょう。

よその土地なら、まあだいたい安心なのだからして、アメリカ国外に出れば、ハル・ブレインにまちがって遭遇する確率は大幅に低くなります。ということで、ダウン・アンダー、オーストラリアへ出張ります。

The Atlantics - Bombora


小学校六年のときに、このシングルを買いました。まだCBSが日本コロムビアを通じて配給されていた時代です。B面はサーフというより、ギター・エキゾティカなのですが、A面が飽きてからはよく聴いていました。

The Atlantics - Adventures in Paradise


旧大英帝国の版図では、イギリスのアーティストを範とする傾向が強く、アトランティックスは、アルバムを聴くと、シャドウズ・フォロワーだったことがはっきり伝わってきます。大束にいえば、シャドウズ・ミート・ザ・サーフ&ロッドのシミュレーションみたいな音です。

オーストラリアが安全なら、日本はもっと安全パイで、ハル・ブレインにはぶつかりません。

加山雄三 - Black Sand Beach


なんというか、The Ventures in Japanのコピーとでもいったサウンドで、モズライトのコード・ストロークが妙に懐かしく感じられます。いや、モズライトの内蔵ファズらしい音も懐かしいのですが、それは当たり前ですから。

加山雄三という人は、60年代音楽的にいうなら、やはり偉人でしょう。上手い下手はさておき、なにをやっても、グループ・サウンズ的な遠回りをせずに、ダイレクトに、オーセンティックなアメリカン・ポップ・ミュージックの輸入を実現しています。

ふつうは変なバイアスがかかってしまうもので、アメリカ音楽をコピーするつもりだったのに、いつのまにか演歌になっていた、というのが、当時の日本の冷厳な現実でした。

そのなかで、音楽はサイド・キックだったことをうまく利用したのか、加山雄三だけは、「そのまんま」のアメリカ音楽をやっていたことに、いつ聴いても驚きを味わいます。

B面もいってみましょう。

加山雄三 - Violet Sky


だれのアイディアか、エンディングなんかうまいものです。アメリカのほんもののサーフ・ミュージックは若者素人衆のゴミ音楽なので、こういうクレヴァーなアイディアが出てくるとしたら、プロの「贋物」だけですが、加山雄三はどちらかというと、プロの贋物に近いものを目指していたようです。

加山雄三はボビー・ヴィントンのようなものもやっています、って、それは関係ないので略して、ブライアン・ウィルソンのような「ビーチ・バラッド」を貼りつけて、今夜のエンディングとします。

加山雄三 - 夕陽は赤く



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ファースト・クラス
Beach Baby: Very Best Of First Class
Beach Baby: Very Best Of First Class


サミー・ジョンズ
Golden Classics
Golden Classics


スーパー・ストックス
Surf Route 101
Surf Route 101


ディック・デイル
Checkered Flag
Checkered Flag


デル・ファイ・ホットロッド・アンソロジー(ダーツを収録)
Del-Fi Hotrodders-Hollywood Drag/Drag
Del-Fi Hotrodders-Hollywood Drag/Drag


ロニー&ザ・デイトナズ
G.T.O.ベスト・オブ・ザ・マラ・レコーディングス
G.T.O.ベスト・オブ・ザ・マラ・レコーディングス


ビーチボーイズ
Today!/Summer Days (And Summer Nights!!)
Today!/Summer Days (And Summer Nights!!)


アトランティックス(MP3ダウンロード)
Bombora
Bombora


加山雄三
グレイテスト・ヒッツ ~アビーロード・スタジオ・マスタリング
グレイテスト・ヒッツ ~アビーロード・スタジオ・マスタリング
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by songsf4s | 2011-08-04 21:57 | サーフ・ミュージック
Surf'n'Rod WITHOUT (or mistakingly WITH) Hal Blaine Vol. 2
 
サーフ・ミュージックの定義を見つけないとやりにくくて仕方ないのですが、しかし、結局、これは無意味のような気もします。

前回、ライノのカウアバンガ・ザ・サーフ・ボックスがファイアボールズのBulldogではじまっているのは違和感があると書きました。べつのサーフ・アンソロジーには、この曲が収録されていて、うーん、どうかなあ、と首を傾げました。

The Ventures - Lullaby of the Leaves


むろん、この曲が悪いというのではありません。コア・レッキング・クルーただいま形成中という雰囲気で、けっこうなプレイだと思います。しかし、これがサーフ・ミュージック(ないしはホットロッド)かというと、わたしはそういう風には感じません。

そのサーフ・アンソロジーの編集者がいいたいのは、ヴェンチャーズの「木の葉の子守歌」(と当時買ったベスト盤には書いてあった)は、サーフ・ミュージックの形成に強い影響を与えた先駆的トラックである、ということなのでしょうが、それだったら、ほかにもっと適切なものがあるだろうと思います。でも、そう思うのはわたしであって、ほかの人はそう思わないから、このトラックが選ばれたのでしょう。

これはどうなんだろうか、と自問し、まあ、入れちゃっていいんじゃないか、と感じるのはこの曲。

The Pyramids - Penetration


リヴァーブのせいでしょうか、こちらはサーフ&ロッド的な響きがあると感じますし、それは多くの人が共有する感覚だから、このトラックがしばしばサーフ・アンソロジーに再録されているのでしょう。しかし、この時期はみんなこんなものとはいえ、下手ですなあ。

もうひとつ、有名な曲のオリジナルをいってみます。

The Chantays - Pipeline


このオリジナルにたどり着いたときは、なんだ、この程度か、と思いました。そのときの印象にくらべれば(ほかに山ほどゴミ・サーフを聴いたせいで)、いまでは、下手というより、プロデューシングがなっていないのだ、というほうに認識がシフトしましたが、でも、一言でいえばやっぱり「この程度かよ」なのです。

われわれ日本男児は、シャンテイズは無視し、ヴェンチャーズを支持しました。

The Ventures - Pipeline


とくになにかを付け加えたりはしていないのに、シャンテイズのオリジナルよりずっと立体的なサウンドで、格がまったく違うことがわかります。それは抑揚のコントロール、タイム、ディテールをおろそかにしないミュージシャンシップ、といったものがもたらした違いでしょう。

だれもインプロヴをするわけではなく、定められたことをきちんと弾いているだけの、きわめてアノニマスなプレイで、だれとも判断はつきませんが、この懐の大きさは、「The Ventures in Japan」でプレイしている、全員、タイムが微妙に早い(テープの回転速度をいじってスピードアップし、うまく聞こえるように細工したことは有名だが、そういう意味ではなく、プレイのタイムをいっている)、寸詰まりグルーヴのバンドとはまったく異なっていることだけはわかります。

では、こちらのグループはどうでしょうか。

The Astronauts - Baja


アストロノウツについては、ライノのカウアバンガでも、あとなんだったか、他のソースでも、パーソネルはアストロノウツのメンバーしか書いてありません。

しかし、ハリウッドというか、アメリカ音楽家組合(AFM)LA支部(Local 47)のように、半世紀も書類を保存しているのは特別で、NYなど、コントラクト・シートを見たことがありません。

アリゾナ州フィーニクスのAFM支部が、アストロノウツのコントラクト・シートを保存してあり、カリフォルニアのレコード会社(ライノはサンタモニカだったような)のだれかがそこまでいって、きちんと書類を確認した可能性は、コストから考えて低いでしょう。つまり、調べもせずに、アストロノウツは自分たちでプレイしたと書いているのではないかと疑っています。

わたしは小学校六年だったと思いますが、テレビでアストロノウツのライヴを見て、ゲラゲラ笑いました。まるで弾けないのです。いや、まあ、そんな子どものころの印象はあてにならないのは認めますがね。

十数年前、そのことをいったら、畏友、オオノさんが、昔、来日したアストロノウツの日本録音を担当した、日本ビクターのディレクターが、まったく弾けないのに呆れて、匙を投げたということを書いていた、と教えてくださいました。そして、問題の日本録音のシングルというのを聴かせてもらい、小学校のときに聴いたバンドに間違いないと、馬鹿笑いしました。まったくデタラメなプレイです。

スタジオ録音はきれいにやっているけれど、ライヴはガタガタ、というのは、まだ嘘で糊塗できる余地がいくぶんかあります。しかし、スタジオ録音どうしを比較したら、すべては白日の下です。

結論。上掲Bajaでプレイしたバンドと、日本に来てビクターのディレクターを呆然とさせたバンドは異なります。Bajaは、スーパープレイなし、定められたことを丁寧に弾いているだけですが、だれも突っ込んだり、遅れたりといった子どもっぽいミス(それこそが日本に来たアストロノウツの特徴だった)はしていません。

なにしろ、アリゾナ州フィーニクスなんていうところについては、たいしたことは知られていないので、このあたりを追求するのは非常に困難ですが、初期アストロノウツのプロデューサー、リー・ヘイズルウッドの右腕だった人物は、ギタリストとしてよく知られています。セッション・プレイヤーとしての彼、アルヴィン・ケイシーの代表作はこれ。

フランク&ナンシー・シナトラ Somethin' Stupid


ジミー・ボーウェンとリー・ヘイズルウッドの共同プロデュース、エンジニアはエディー・ブラケット、ドラムズはハル・ブレインです。

ブラケットはこのプロジェクトのために、冗談半分で、Producer: Jimmy BowenおよびProducer: Lee Hazlewoodという名札をつくって二人の前に置き、さらに、それぞれ個別にトークバック・マイクロフォンを設置したそうです。ボーウェンだったか、映画を作っておけばよかった、と回顧しています。

サーフ&ブレイン・シリーズでも一曲、アル・ケイシーのサーフ・アルバムからのトラックを入れておきましたが、こんどはシングル盤で、ドラムはハルではありません。

Al Casey - Surfin' Hootenany


歌っているのは、名前はどうであれ、実体はブロッサムズです。後半、彼女らの紹介で、つぎつぎに有名アーティストが登場します。まずディック・デイル、これはそれっぽく、つづいてヴェンチャーズ、これはぜんぜん赤の他人、最後はドゥエイン・エディー、もちろん、アル・ケイシーは、エディーの録音でセカンド・ギターをプレイしたので、そっくりにやっています。

地方都市ではスタジオ・タイムも安価なのでしょうが、それでも、こういう人がいたのだから、アストロノウツのようなぜんぜん弾けない素人のギターいじりなんか、リーははじめから勘定に入れていなかったでしょう。

アル・ケイシーのプレイをもうひとついきます。これは4ビートで、サーフ・ミュージックとして録音されたものではないのですが、どちらにでも聞こえるのではないかと思います。

Al Casey - The Hucklebuck


リヴァーブのあるなしはやはり印象を左右しますが、さりながら、リヴァーブがないとサーフ・ミュージックにはならない、ともいえません。このThe Hucklebuckあたりは、サーフ&ロッド・アンソロジーに入っていたら、とくに違和感なしに通り過ぎてしまうでしょう。

なんだかんだいいつつ、やっぱり素人のプレイはつらい、プロは控えめにプレイしてもグッド・フィーリンを生み出す、という話でした。

次回もいちおうハル・ブレイン抜きのサーフ&ロッドの予定ですが、今日、ちょっと聴いたプロコール・ハルムのボックスのことか、はたまたNow Listeningか、そのあたりに逸れる可能性もあります。


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ヴェンチャーズ
プレミアム・ツイン・ベスト ダイアモンド・ヘッド~ベンチャーズ・ベスト

プレミアム・ツイン・ベスト ダイアモンド・ヘッド~ベンチャーズ・ベスト


ピラミッズ(MP3ダウンロード)
Penetration! The Best Of The Pyramids
Penetration! The Best Of The Pyramids


アストロノウツ
Surfin' With The Astronauts/Everything Is A-OK! [2-on-1 CD]
Surfin' With The Astronauts/Everything Is A-OK! [2-on-1 CD]


ナンシー・シナトラ
Sugar
Sugar


アル・ケイシー
Surfin Hootenanny
Surfin Hootenanny


ライノ・ロック・インストゥルメンタル・アンソロジー
Rock Instrumental Classics 5: Surf
Rock Instrumental Classics 5: Surf


ライノ・レコード カウアバンガ・ザ・サーフ・ボックス(中古)
Cowabunga: Surf Box
Cowabunga: Surf Box
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by songsf4s | 2011-08-02 23:50 | サーフ・ミュージック
Surf'n'Rod WITHOUT (or mistakingly WITH) Hal Blaine Vol. 1
 
その必要もなければ、そもそも無益なので、そんなことはしばらく考えていなかったのですが、先日までやっていたサーフ&ブレイン特集のせいで、どういうものがサーフ・ミュージックで、どこからはそうではないのか、という線引きを意識せざるをえなくなりました。

しかし、いざ「サーフ・ミュージック」とはなんだ? と考えると、答えは波にもまれて海の底に沈んでいきます。

サーフ・ミュージックのオリジネイターと目されるディック・デイルは、自身、サーフィン・クレイジーで、波に乗っているときの昂揚感を表現したもの、とサーフ・ミュージックをいいあらわしています。

そりゃそうだろうなあ、とは思いますが、これでは音楽形式の定義としては不十分も甚だしいといわざるをえません。

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デイルは、フェンダーの機材を使っていて、レオ・フェンダーと協力してリヴァーブ・ユニットやギター・アンプを開発します(ShowmanおよびDual Showmanとして製品化される)。彼の考え、というか、彼の感覚にしたがうなら、サーフ・ミュージックにおいては、ギターには深いリヴァーブをかけなければいけなかったからです。

それではリヴァーブ・ユニットの使用前、使用後を聴いてみます。まずはリヴァーブのないドライなものを。デイルの父親が息子のためにつくったレーベル、デルトーンからのシングル、Let's Go Trippin'



つづいて、だいぶあとの、キャピトル時代のトラック。こんどはそれなりにウェットなサウンドです。ディック・デイル&ヒズ・デルトーンズ、Taco Wagon



時期が少し前後しますが、初期はドライなギター・サウンドだったという例をもうひとつ、ポール・ジョンソン、リチャード・デルヴィーらが在籍し、のちにチャレンジャーズへと発展することになるベル・エアーズ、Mr. Moto



そういってはなんですが、ドラムの下手なこと、目を覆います。いや、耳をふさぎたくなります。悪いけど、あたくしでも、このドラマーが相手なら勝負できます。

ライノのCowabunga the Surf Boxというのは、それなりに面白く、それなりに役に立つボックスでしたが、よそさんの考えるサーフ・ミュージックというのは、やはり自分の考えとはずいぶん隔たっているのだな、とも思いました。アルバム・オープナーがこの曲ですからね。

The Fireballs Bulldog


われわれ日本の子どもは、Bulldogをヴェンチャーズの曲として記憶していますが、アメリカではTorquayと並んでファイアボールズの代表作と見られているようです。ただ、いま振り返って、ヴェンチャーズ・ヴァージョンに感銘を受けたのは間違っていなかったと思います。

Bulldogのころはともかくとして、後年のFireballsはタイムが安定し、相応の技量のあるグループになったと思います。しかし、ハリウッド音楽産業のエリート集団の一角に食い込もうとしていた、若きビリー・ストレンジをリードとする、初期スタジオ版ヴェンチャーズとは、やはり比較になりません。

どうであれ、ファイアボールズのBulldogでサーフ・アンソロジーがスタートするというのは、わたしにはちょっと意外でした。まだしも、二曲目のほうが違和感がありません。

The Gamblers - Moondawg!


この曲はヴェンチャーズやビーチボーイズをはじめ、カヴァーがたくさんあるために、そういう印象が形成されているからかもしれませんが、サーフ・ミュージックらしい響きがあると感じます。

しかし、なんだかハリウッド音楽産業経営者視点の感なきにしもあらずですが、素人じみた音というのは、どうしても居心地悪く感じます。やはり、ジョー・サラシーノがプロフェッショナルによるサーフ・ミュージックで、このジャンルとしてははじめてナショナル・チャート・ヒットを生まないことには、サーフ・ミュージックのほんとうの歴史ははじまらないと感じます。

The Marketts - Surfer's Stomp


マイケル・ゴードンは、マーケッツに自分の名前を冠することで、歴史を盗み取ろうとしているらしく、はなはだ不愉快ですが、ほかにこの曲のまともなクリップはないので、これを貼りつけます。

マイケル・ゴードンがなにかスタジオのマーケッツにかかわったことがあるとしたら、もっとあとのこと、いくつか楽曲を書いたことと、一握りの曲のアレンジしたことぐらいでしょう。あとはせいぜい、リズム・ギターかパーカッションでもやらせてもらったか、その程度のことと思われます。この曲とマーケッツというスタジオ・プロジェクトは、ジョー・サラシーノが生み出したものです。

あるときサラシーノは、LAの南のバルボア半島に行き、ボールルームでのダンスを目撃しました。

(サラシーノはなにもいっていないが、このボールルームはランデヴー・ボールルームである可能性が高く、そこでプレイしていたのはディック・デイル&ザ・デルトーンズだったかもしれない。さらにいうと、ランデヴー・ボールルームにはかつてスタン・ケントン・オーケストラがレギュラーで出演し、ここで「ウェスト・コースト・ジャズが誕生した」といういい方をする人さえいる。LAの二大エスニック・ミュージックの誕生に関わったボールルームだったのだ、というと大げさかもしれないが。)

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ランデヴー・ボールルームのファサード

これはいったいどういうダンスだ、ときいたら、サーファーズ・ストンプというものだといわれ、すぐにそのステップを元に、サラシーノはSurfer's Stompという曲を書き、スタジオ・プレイヤーを集めて録音しました。

ライノのCowabunga the Surf boxのライナーでは、このときのメンバーは、ドラムズ=シャーキー・ホール、ベース=バド・ギルバート、ギター=ルネ・ホール、ビル・ピットマン、トミー・テデスコ、ピアノ=レイ・ジョンソン(プラズの兄弟)、サックス=プラズ・ジョンソン、フレンチ・ホルン=ジョージ・プライスとされています。

わたしはギター・インストが好きなのですが、もしもサーフ・ミュージックというのが、ド素人の高校ダンス・パーティー芸であったとしたら、そんなものに興味はもたなかったでしょうし、いまになってはなおのこと、忌避したにちがいあありません。

しかし、マーケッツを聴くと、これなら俺が親しんできた、典型的なハリウッドの音だ、と感じます。ドラマーはエドワード・シャーキー・ホール(アール・パーマーがハリウッドにやってきたころ、ロックンロール、R&B系セッションのエースだった)ですが、ギターやサックスはおなじみの面々です。

とりわけ、プラズ・ジョンソンのテナーは、この人らしい美しい音の出で、非常に印象的ですし、だれも出しゃばらずに、グッド・フィーリンをつくることに専念していて、じつに気持のいいサウンドです。

サラシーノがこのようにプロフェッショナルだけで録音することで、サーフ・ミュージックに背骨とフォームを与え、そしてなによりも、その結果、ナショナル・ヒットを得たことは、その後のこの分野の発展に決定的な影響を与えたと思います。

むろん、ほかにも重要な要素はあるのですが、それは次回、見ていくことにし、本日は、Surfer's Stompのヒットを受けて、そのフォロウ・アップとしてリリースされたシングルをクローザーにします。

The Marketts - Balboa Blue


似たような曲、似たようなサウンドですが、わたしはBalboa Blueのほうが好きです。しかし、マイナー・ヒットに終わりました。

いま、このシリーズの通しタイトルを決めてから、キャピトル時代のディック・デイルのドラムはハル・ブレインが多かったことを思い出しました。Taco Wagonもハルの可能性が高いでしょう。

次回は、少しだけ時計の針を進めて1963年を中心にサーフ・ミュージックを並べる予定ですが、時間がとれなくて、安直なNow Listeningに切り替えるかもしれません。


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ディック・デイル
Dick Dale & His Deltones - Greatest Hits 1961-1976
Dick Dale & His Deltones - Greatest Hits 1961-1976


ディック・デイル(Taco Wagon収録)
Mr Eliminator
Mr Eliminator


ベル・エアーズ
Volcanic Action!
Volcanic Action!


ファイアボールズ
Fireballs/Vaquero
Fireballs/Vaquero


ライノ・ロック・インストゥルメンタル・アンソロジー
Rock Instrumental Classics 5: Surf
Rock Instrumental Classics 5: Surf


ライノ・レコード カウアバンガ・ザ・サーフ・ボックス(中古)
Cowabunga: Surf Box
Cowabunga: Surf Box
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by songsf4s | 2011-08-01 21:37 | サーフ・ミュージック
Tell'em I'm Surfin' by the Fantastic Baggys
タイトル
Tell'em I'm Surfin'
アーティスト
The Fantastic Baggys
ライター
Phil Sloan, Steve Barri
収録アルバム
Surfin' Craze
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Jan & Dean
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ファンタスティック・バギーズの曲は、ついこのあいだ、Summer Means Funを取り上げました。あの曲は南カリフォルニアの夏のアイコンがずらっと並べられているだけでしたが、このTell'em I'm Surfin'は、ちゃんとした設定がありますし、ストーリーのようなものもあれば、ウィットもありで、歌詞の出来はこちらのほうがはるかに上です。

◆ 試合を放棄するキャプテン ◆◆
では、最初のヴァースとコーラスを見ます。パーレン内は右チャンネルに配された「レスポンス」です。

Hey mama, if any of the guys from my baseball team
Ever called me on the phone
To ask me to play in an important game
Just say their captain ain't at home

Tell'im I'm surfin'
(Don't care 'bout hittin' homeruns)
Tell'im I'm surfin'
(Wanna have me some fun, fun, fun now)
I'm trading in my bat and ball
Say I'll see you in the fall
I’m goin' surfin'

わたしは野球ファンなので、このファースト・ヴァースだけでノリました。「ねえママ、チームのだれかがもしも電話をかけてきて、だいじな試合に出てくれっていってきたら、キャプテンは留守だっていっといて」となっています。

これだけでいろいろなことがわかる仕掛けです。1)この歌は母親に語りかけるモノローグ形式らしい、2)語り手は高校生らしい(大学生の可能性もあるでしょうが、それにしてはちょっと子どもっぽいと感じます)、3)野球が得意、つまりスポーツは得意らしい。

コーラスでは、「ぼくはサーフィンをやっているっていっておいて」と、ゲームには出ないことを繰り返し宣言しています。それに対してバックコーラスが「ホームランを打つことなんてどうでもいいのさ」とレスポンスするところが、なんとも愉快です。

「バットとボールも売り飛ばす、秋に会おう、サーフィンにいくんだ」というわけで、野球は、サーフィンの楽しさを強調する引き立て役として登場したのでした。チームのみんなは、こんな身勝手な奴をキャプテンに選んでしまった不明を恥じていることでしょう。まあ、どんなチームでも中心選手の離脱はよくあることなので、サーフィン野郎には勝手に波に乗らせておいて、残ったみんなでがんばりましょう。

f0147840_16475463.jpgセカンドに滑り込むブライアン・ウィルソン。彼はサーフィンより野球が好きだったようです。よけいなお世話かもしれませんが、グラヴがスパイクとベースのあいだに入っているので、これはアウトですね。

Summer Means Fun同様、引用も出てきます。同じ年にリリースされたビーチボーイズのFun, Fun, Funです。こういう引用というのは、先達への賛辞、仲間意識の表明と考えておけばいいでしょう。

◆ すがりつく美少女をふりきって ◆◆
これで設定は(みごとに)完了したので、ソングライターは同じ方向で展開するための材料を見つければいいだけです。つぎのヴァースとコーラスでは、野球にかわって、女の子がサーフィンの犠牲になります。

And if that pretty little girl from across the street
Who's been bothering me for days
To go swimming in the pool
Well, her pool is real cool
But it hasn't got 10 foot waves

Tell'er I'm surfin'
(She's a mighty, mighty cute girl now)
Tell'er I'm surfin'
(Gonna rather be shooting the curl now)
If she wants my company,
I'll be out in wind and sea
I'm goin' surfin'

「通りの向かいのあの可愛い子がこのところずっと、プールで遊ぼうってしつこくいっているんだ、ま、彼女のうちのプールもすっごくいいけど、あそこには3メートルの波がないんだよ」と、サーフィンの魅力のまえには、近所の「むちゃくちゃに可愛い女の子」(She's a mighty, mighty cute girl)もかたなしです。

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Shoot the curlはサーフ熟語で、「パイプになった波に乗る」という意味。ブライアン・ウィルソンがプロデュースしたハニーズに、これをタイトルにした曲があります。

コーラスの後半は「彼女にぼくはサーフィンにいってるっていっといて、いっしょに遊びたいなら海にいるからってね」となっています。

サンディエゴについての歌というどこかのBBSで「ジャン&ディーンがWindanseaのことをTell'em I'm Surfin'で歌っている」といっている人がいました。サンディエゴにはたしかにWindanseaというサーフ・ポイントがあるようです。

しかし、この語り手は、サード・ヴァースで、マリブにいくといっているので、ここでサンディエゴが出てきては矛盾することになります。たんなる一般名詞のwind and sea、「海風のなかでサーフィンをしている」とみなすほうが合理的でしょう。マリブとサンディエゴとのあいだには(関東ローカル話で恐縮ですが)七里ヶ浜と九十九里どころではない距離があります。そんな距離を往復する時間があったら、海に出ているでしょう。

◆ サーファーの知られざる必需品 ◆◆
ブリッジでは、去年の夏は必死でバイトをやったので、新しいサーフボードを買う金ができた、今年の夏はずっと遊び暮らすんだ、といったことが語られて、最後のヴァースに入ります。

So just pack me a lunch and I'll be on my way
Oh yet there's one more thing to do
If the mailman comes with a letter for me
Just forward it to Malibu

「だから、早く弁当をつくって、すぐに出かけるから、あ、まだひとつあった、ぼく宛に手紙がきたら、マリブに転送してね」というわけで、Summer Means Funにつづいて、またマリブが登場しました。サンディエゴのウィンダンシーにいってしまっては、マリブに郵便物を転送してもらう意味がありません。

この曲のシングルは1964年6月のリリースと記録されています。ということは、語り手は、夏休みになったので、お母さん、オレ、出かけるからね、と、おそらくはキッチンで大騒ぎしていることになります。料理が得意なお母さんなら、Disney Girlsで書いたように、自家製レモネードのポットをもたせてくれるかもしれません。

高校のバンド仲間にサーファーがいたのですが、彼らは自分で弁当をつくっていました。素行を見れば、とうてい弁当などつくる殊勝な人間には思えなかったのですが、サーフィンのためならば、なんでもやる根性はもっていたようです。

不便な場所で一日乗りつづけるわけですし、近くにレストランがあっても、食べるには着替えなければならず、面倒だし、時間ももったいないので、つねに弁当持参だといっていました。この曲で、早く弁当つくってとアメリカの高校生もいっていることがわかり、洋の東西を問わず、サーファーにとって、ランチは普遍的な問題なのだな、と納得してしまいました。

◆ もうひとつの必需品、改造車 ◆◆
最後のコーラスです。

Where I'll be surfin'
(Just travel in my '34 Ford now)
Tell'em I'm surfin'
(I really wanna waxin' my board now)

どうやら語り手は自分の車、なんと1934年型フォードでマリブへ出かけることがわかります。もちろん、34年に製造されたままではなく、改造したものにちがいありません。

f0147840_17214281.jpg1934年型フォード3ウィンドウ・クーペ。リップコーズがThe toughest machine in townと歌ったのはこれでしょうか。

子どものころに見たビーチ・ムーヴィーのせいで、アメリカ人なら、高校生だってみんな自分の車を乗りまわしているものだと思いこんでいました。しかし、ハル・ブレインの回想記を読んで、そんなことはないのだとわかりました。東部のコネチカットで生まれたハルは、高校のときにカリフォルニアに引っ越してきたら、みんな自分の車をもっているのにびっくりした、といっています。これで彼は車に取り憑かれ、のちにあの「クラシック・ロールズ・ロイス・コレクション」が誕生することになったのだとか。

してみると、この歌で、高校生がお母さんに、何日か帰らないからね、手紙はマリブに転送して、なんて勝手なことをいって、自分の車で出かけてしまうのは、カリフォルニア以外の土地に住む同年代の子どもたちには、ちょっとした驚きだったのかもしれません。そういうカリフォルニアのサーファー少年の見栄、といってわるければ、プライドみたいなものが、この歌には感じられます。

いかにも南カリフォルニアらしい脳天気な歌詞で、個人的には、ゲーリー・ボンズのSchool Is Outに歌われた夏休みより、こちらのほうが好ましく感じられます。ニューヨークでは野球観戦だけお付き合いして、地下のクラブは遠慮させてもらい、あとはマリブですごすなんていうのだとうれしいんですが。それも浜辺で野宿ではなく、粋なビーチハウスだったりすると、いちだんとクールでしょう。

◆ 各ヴァージョン? ◆◆
各ヴァージョンといっても、うちにはほかにジャン&ディーン盤があるだけです。しかし、よく聴くと、それすらも存在しないように思えてきます。Summer Means Funの記事をお読みになった方は、もうすでに「またかよ」と思っていらっしゃるでしょう。そうです、どうやら、またこの二つのグループは同じトラックを共有したようなのです。

f0147840_17494290.jpgよって、深く考えずに、ひとつのものとして聴けばいいのですが、やっぱり、わたしはジャン&ディーン(とくにディーンなのだと思いますが、はっきり聞き分けられるわけではありません)のピッチの悪さがすこし気になるので、同じトラックであるならば、バギーズ盤のほうが好ましく感じます。そもそも、右チャンネルでハーモニーをつけているのは、バギーズもジャン&ディーンも、スローンとバリーの二人だから、ヴォーカルも半分は共通しているわけで、比較もなにもあったものじゃありません。

Summer Means Funのところで、ライノのCowabunga!のブックレットに収載されたパーソネルを書いておきましたが、もう一度、書き写します。

Steve Barri: vocals・P.F. Sloan:vocals, guitar・Tommy Tedesco: guitar・Ray Pohlman: bass・Hal Blaine: drums

このパーソネルは不完全です。盤ではピアノが聞こえるのに、だれなのかわかりません。プロデューサーはスローンとバリーの二人。

1964年は「ビートルズの年」でした。もう一年早くリリースされれば、この曲もチャートインしたかもしれませんが、アメリカのグループが大苦戦した年にぶつかったのは不運でした。もうサーフィン・ブームは終わってしまったのです。つぎの流行もの、フォーク・ロックが発明されると、バギーズの二人もそちらで活躍することになります。サーフ・ミュージックとフォーク・ロックの人脈の重なり方は興味深いのですが、それはまたべつの機会に。

◆ ハル・ブレインのシンコペーション ◆◆
Summer Means Funのように、思わずギターを引っ張り出すほどパワフルではありませんが、アップテンポなのに、走ったり、突っ込んだりしない、リラックスした気持ちのよいグルーヴです。ハル・ブレインも軽く流していますが、聴きどころはあります。

ヴァースが終わって、4分のキック・ドラムだけのストップに入り、そこからコーラスへの「戻り」で、ハルは、スネアでシンコペートした8分のビート(裏拍)を入れてきますが(こういう場合、キックでその表拍を入れるのも彼のいつものやり方ですが、この曲の場合は、わざわざそのためにキックを入れるまでもなく、そこまでのキックによる4分の連打の流れがあるので、とくに強く踏み込んで強調してはいません)、この際の微妙なタイムの遅らせ方は、彼のトレードマークで、60年代中期にはしばしば使っています。これを聴くと、あ、ハルだ、とニッコリなります。ドラム馬鹿としては、ちょっと血が騒ぐ一瞬です。

f0147840_17545224.jpgジャン&ディーンのライヴでストゥールに坐るハル・ブレイン。キック・ドラムのヘッドにはジャン&ディーンの似顔絵。右手の黒く四角いものはランプ付き譜面台。


ハル・ブレインというと、派手なフィルインで有名ですが、こういう、フィルともいえない、軽い一打にも特徴があり、工夫していることが感じられます。手数の多さ、華麗さ、明るさのみならず、わたしはハルのこういう「小さな」プレイも大好きです。ドラム好きには、ぜひ、そういう一面にも注目していただきたいと思います。

それにしても、トラックだけ聴いていると、ビーチボーイズだなあ、と思います。同じメンバーだから当然とはいえ、これではいくらなんでも「同じすぎる」(論理矛盾御免)といいたくなります。ブライアン・ウィルソンがそろそろ、サウンドを変えようとするのも当然です。このあんまりな「互換性」が、彼をしてPet Soundsに向かわせたのではないかと思うほどです。いや、珍説失礼。

◆ 歌詞のまとめ ◆◆
歌詞サイトでこの曲を取り上げているところは見あたらないので(たいして面白くもないSummer Means Funの歌詞があるのは、ささやかなりとはいえ、ヒットしたからでしょう)、以下にすべての歌詞をまとめておきます。

国内盤には歌詞カードがついているでしょうが、この曲には何カ所か非常に聴き取りにくいところがあるので、そのあたりをどう切り抜けたか、ちょっと興味があります。わたしは友人の助けを(おおいに)借りて切り抜けました(Thanks, Dean and Linda!)。コードは、ヴァースはG-Em-C-Dで、全体にシンプルなものです。


Tell'em I'm Surfin' lyrics
(Phil Sloan and Steve Barri)
Performed by the Fantastic Baggys

Hey mama, if any of the guys from my baseball team
Ever called me on the phone
To ask me to play in an important game
Just say their captain ain't at home

Tell'im I'm surfin'
(Don't care 'bout hittin' homeruns)
Tell'im I'm surfin'
(Wanna have me some fun, fun, fun now)
I'm trading in my bat and ball
Say I'll see you in the fall
I’m goin' surfin'

And if that pretty little girl from across the street
Who's been bothering me for days
To go swimming in the pool
Well, her pool is real cool
But it hasn't got 10 foot waves

Tell'er I'm surfin'
(She's a mighty, mighty cute girl now)
Tell'er I'm surfin'
(Gonna rather be shooting the curl now)
If she wants my company
I'll be out in wind and sea
I'm goin' surfin'

Last year I had a summer job
And all day long I had to run around
But now I can afford a new surf board
(Gonna be sleeping down at the beach inn)
And all summer long I'm gonna bum around

So just pack me a lunch and I'll be on my way
Oh yet there's one more thing to do
If the mailman comes with a letter for me
Just forward it to Malibu

Where I'll be surfin'
(Just travel in my '34 Ford now)
Tell'em I'm surfin'
(I really wanna waxin' my board now)
I won't be home for days
I'll be riding the waves
I'm going surfin'

I'm going surfin' (gonna throw my books away)
I'm going surfin' (you're gonna surf 24 hours a day now)
I won't be home for days
I'll be riding the waves
I'm going surfin'

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by songsf4s | 2007-07-21 19:06 | サーフ・ミュージック
Summer Means Fun その3 (by Jan & Dean)
タイトル
Summer Means Fun
アーティスト
Jan & Dean
ライター
Phil Sloan, Steve Barri
収録アルバム
The Little Old Lady from Pasadena
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Bruce & Terry, The Fantastic Baggys
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Summer Means Funその2よりつづく)

◆ 「互換性」のあるヴォーカル ◆◆
これを書くためにかなり真剣に録音デイトを調べたのですが、よくわかりませんでした。ブルース&テリー盤だけは1964年4月24日録音と明記されています。Summer Means Funが収録されたジャン&ディーンのアルバムThe Little Old Lady from Pasadenaのリリースが64年9月とジャン・ベリー・オフィシャル・ウェブサイトではいっています。フィル・スローンのインタヴューによると、日付は不明ですが、バギーズ盤が最初に録音されたのだそうです。ということは、64年はじめの録音なのでしょう。

Summer Means Funその1」で、ジャン&ディーンのSurf Cityのリード・ヴォーカルは、ジャンでもディーンでもなく、ビーチボーイズのブライアン・ウィルソンだということにふれました。匿名で友人のセッションに参加したり、グループ名をいろいろ変えて、適当な盤を出すというのは、この時代の流行病といってもいいほどで、わけがわからなくなります。

バギーズの二人(ジャケットにもう二人写っていることは忘れてください。グループらしく見せるために適当な人間を入れただけで、実態はスローンとバリーのデュオです)は、この時代、ジャン&ディーンのハーモニーをやっていました。だから、彼らはバギーズ盤とジャン&ディーン盤の両方のSummer Means Funで歌っています。

f0147840_20443449.jpgファンタスティック・バギーズはこの時期にいくつかべつの名前で盤を出したようですし(バギーズのバイオを参照)、ブルース&テリーも、リップコーズをはじめ、さまざまなグループ名を名乗ったといっています(ただし、リップコーズ自体は実在した。テリー・メルチャーが、ブルース&テリーよりも、リップコーズの名前を使ったほうが売りやすいと判断して、ある曲をそちらの名義にしてしまっただけだとか)。

話がよけいなところにいきましたが、ブルース&テリー盤のヴォーカルは、二人だけでオーヴァーダブを繰り返したことが、ブルースの談話でわかっています。バギーズもおそらくブルースたちと同じように、スローンとバリーだけで歌ったのでしょう。

◆ レイ・ポールマン王朝 ◆◆
3ヴァージョンの、というか、2つのトラックを比較すると、だいたい同じメンバーだろうと想像がつきます。ドラムはどちらもハル・ブレインです。ベースもレイ・ポールマンの音です。ブルースは前出の談話でポールマンの名前をあげています。

この時期のハリウッドのフェンダー・ベースは、ポールマンがほとんど一手に引き受けていました。そろそろキャロル・ケイが、数々のヒット曲にいろどりを添えた彼女のエピフォン・エンペラー・ギターから、フェンダー・プレシジョンへとメインの楽器を換える時期ですが、彼女はフラット・ピッキング、ポールマンは親指フィンガリングなので、サウンドもプレイも大きく異なります。

ヴェンチャーズに似ているって? それなら、レイ・ポールマンがヴェンチャーズの録音のレギュラーだったと考えるのが論理的思考というものです。ビーチボーイズのほうが似ているって? そりゃそうでしょう。ポールマンはビーチボーイズ初期のレギュラー・ベーシストです。しかし、彼はそろそろテレビの仕事が忙しくなるので、このあたりから、次の世代が登場しはじめます。キャロル・ケイ、ジョー・オズボーン、ラリー・ネクテルたちです。でも、それはべつの話。この時期は、フェンダー・ベースに関するかぎり、レイ・ポールマン王朝です。

◆ ギタリストの問題 ◆◆
スローンは前出のインタヴューで、金がなかったので、ファンタスティック・バギーズのギターはすべて自分が弾いた、1963年製フェンダー・ジャズマスターを使った、といっています。たしかに、バギーズ/ジャン&ディーン盤のSummer Means Funの間奏はジャズマスターの音に聞こえます。

ブルース&テリー盤の間奏はだれだかわかりません。グレン・キャンベルあたりでしょうか。われこそと思う方は、どうぞ、コメントに推測なり断定なり憶測なりを書き込んでください。

リズム・ギターについては、ブルース&テリー盤と、バギーズ/ジャン&ディーン盤を比較すると、ブルース&テリー盤のほうが血湧き肉躍るすばらしいカッティングをしています(というより、それを強調するミックスになっています)。ブルース&テリー盤Summer Means Funの特徴は、このリズム・ギター部隊だといっていいほどです。左チャンネルに一体化されてしまっているので、分離はむずかしいのですが、すくなくとも4本、ひょっとしたら5本のギターが入っているでしょう。

1本または2本は、低音弦を8分でストロークし、チャック・ベリー・スタイルで5度と6度の音を交互に入れています。2本ないしは3本は高音弦まで鳴らすストロークで、ときおり16分のダブル・ストロークをする、おそらくはアコースティック・ギターが印象的です。

しかし、この16分のダウン&アップは、ブルース&テリー盤ほど印象的ではありませんが、バギーズ/ジャン&ディーン盤でもちょっと使われています。スローンという人は、わたしが思っていたより、ずっとすばらしいリズム・ギタリストなのかもしれません。

◆ クレジット―信ずべきか、信ぜざるべきか ◆◆
じつは、わたしはスローンの言葉を百パーセント信じる気にはなれないのです。ほんとうに金がないなら、オフにミックスされ、ほとんど聞こえないピアノなんか、いらないじゃないか、50ドル節約しろよ、と思います。

プレイヤーの料金など、たかがしれているから、あってもなくてもいいけれど、あれば音にすこし厚みを加えてくれるピアノを入れたのじゃないでしょうか。たかが3時間50ドルです。だとするなら、ギターだって、音質を犠牲にしてまで、オーヴァーダブを繰り返す必要はありません。もう50ドルの追加で、名うてのエースが、不平もいわずに、注文どおりにリズム・ギターを弾いてくれるのです。

その傍証になるのではないかというクレジットをお目にかけましょう。ライノ・レコードの「Cowabunga!」という、サーフ・ミュージック・ボックスに付されたブックレットに出てくるものです。

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ここにはトミー・テデスコの名前があります。バギーズのギターはすべてわたしだ、というスローンの主張を、このクレジットは否定しています。

しかし、このボックス・セットのクレジットには、納得のいかないものも散見するので、全面的に信用しているわけでもありません。たとえば、ビーチボーイズのSurfin' U.S.A.のリード・ギターがカール・ウィルソンだなんて、昔はいざ知らず、いまどきそんな「公式発言」を信じる人がいるのでしょうか。

f0147840_204682.jpgいや、昔の音楽の研究は、ウソと記憶ちがいと誇張が生み出す誤情報との終わりなき戦いなのだといいたいだけです。データより、まず自分の耳を信じましょう。耳が肯定したときに、はじめてデータが意味をもつのです。わたしの耳は、バギーズのギターはすべてオレだ、というスローンの談話を否定します。録音にかかるコスト計算からいっても、録音現場のありようからいっても、当時のハリウッド音楽界のあり方からいっても、できあがった音からいっても、スローンの談話は不合理です。誇張ではないでしょうか。

◆ ビーバップとサーフ・ミュージック ◆◆
この時代、リズム・ギターで売った人はなんといってもキャロル・ケイでしょう。彼女の教則ヴィデオとトミー・テデスコの教則ヴィデオを見ると、コードについて、同じことをいっています。ストレートなコードは絶対に使わない、かならず代用コードを使う、というのです。キャロル・ケイにいたっては、たとえばジャン&ディーンの曲ではこのように弾いた、と模範演技までやってくれています。

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キャロルのBefore and After。エピフォン・エンペラーからフェンダー・プレシジョンへ。

では、どういう代用をするかというと、ケイは、たとえば指定がG7なら、D♭7を使うといっています。ケイはビーバッパーですから(子どものころはチャーリー・クリスチャンのファンだったそうです)、5度のフラットというテンションを好みます(この音がバーニー・ケッセルのプレイを経由して、アントニオ・カルロス・ジョビンに受け継がれ、ボサ・ノヴァ独特のコード・ワークが誕生した)。Dフラットの5度はAフラット、これを半音下げれば、もちろんGです。はい、5度をフラットさせるだけで、魔法のように、D♭7がG7に近似した和声構造に化けました。

このようにして、ビーバップのジャズ・プレイヤーの和声感覚が、ハリウッドのポップ・ミュージックに忍びこんでいき、たとえばジャン&ディーンのリズム・ギターに特徴をあたえました。ちなみにトミー・テデスコもビーバッパーです。

バギーズ盤とジャン&ディーン盤のキーはGで、ブルース&テリー盤だけBフラットです。これはリード・ヴォーカル(テリー)の音域からきた変更でしょう。「Summer Means Funその1」の冒頭においた作り話で、キャロル・ケイにキーのことをいわせたのは、わたしのイタズラです。彼女が、ジャン&ディーンは同じコード進行ばかりで退屈だったとコボしていたので、それをもとに話をでっち上げました。

◆ さて、ナンバーワンの栄冠は…… ◆◆
テリー・メルチャーは、家で音楽を聴くのは好きじゃない、カーラジオで聴くのが好きだといっています。アメリカのAMラジオの主流だった、リミッターをかけて高音部が存在しないかのようにしてしまった音を好んだわけです。日本ではFENがそういう音にしていました。わたしには懐かしい音です。同じ曲でも、日本の放送局で聴くより、ずっとクールに聞こえたものです。ブルース&テリー盤Summer Means Funも、中音域と低音域にアクセントがあります。

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パサディーナの豪快おバアちゃんはCDになって縮んでしまったが、しなびたわけではない。それをいうなら、LPのときからしなびていた。

さて、そろそろどのヴァージョンがいいかを決めなければと思うのですが、はっきりいって、どれも似たようなものです。しかし、あえていうと、サウンドの手触りの差で、わたしはジャン&ディーン盤がよいと感じます。高音域が他のヴァージョンより明るい響きになっているからです。ヴォーカルのピッチの悪さがちょっと引っかかりますが、テリー・メルチャーやスティーヴ・バリーにしたって、エルヴィスでもシナトラでもないわけで、五十歩百歩です。

バギーズ/ジャン&ディーン盤は、おそらく同じトラックであることをごまかすために、音の感触を変えてあります。ミックスもバギーズ盤はトラックがオフですし、リミッターをかけて高音成分をカットしているらしく、同じトラックでも、ジャン&ディーン盤のような明るさがありません。

しかし、ほんとうに好みの問題です。わたし自身、気分によってはブルース&テリー盤の音圧の強さのほうが好ましく感じるときもあります。繰り返しますが、リズム・ギターのグルーヴで血湧き肉躍るのはこちらのほうです。後半の転調するところは、燃えます(「萌え」なんてチャチなもんじゃございません。Burnするのです)。すばらしいのひと言。

「レッキング・クルー」が、一歩引いて、たんなる「日常業務」の一環、それもあまり重要ではないものとして、軽く数テイクで生み出したトラックのすばらしいグルーヴには、いまでも幻惑させられます。こんな音があたりまえのようにつくられていた時代にもどりたいと、深夜、痛切に思うことすらあります。ほんとうにすばらしいプレイヤーたちでした。
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by songsf4s | 2007-07-11 20:56 | サーフ・ミュージック
Summer Means Fun その2 (by Bruce & Terry)
タイトル
Summer Means Fun
アーティスト
Bruce & Terry
ライター
Phil Sloan, Steve Barri
収録アルバム
The Best of Bruce & Terry
リリース年
1964年
他のヴァージョン
The Fantastic Baggys, Jan & Dean
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「Summer Means Funその1」よりつづく)

◆ 「国歌」の本歌取り ◆◆
つぎはファースト・コーラスの一部です。

Summer means fun
And the girls are two to one now
Lots of fun for everyone now
Summer means fun


コール&レスポンス風に歌われる箇所なので、やや錯綜しますが、以上のような単語だけ書き写しておけば十分でしょう。基本的に、わーい、夏だ、うれしいな、といっているだけですが、以前、NK24MDWSTさんに私信でご指摘を受けた「本歌取り」がここで登場します。いや、まあ、そんな大げさなものでもないのですが、これはいわばサーファー国の「国歌」からの引用なので、聞き逃されると、作者はがっかりするでしょう。

では、その「本歌」のほうのファースト・ラインのみを以下に。

Two girls for every boy

サーフ・ミュージック・ファンは、これだけで、ああ、あれか、と思いだしたでしょう。ジャン&ディーンの秀作、Surf City(1963)です(ジャン・ベリーとブライアン・ウィルソンの共作で、リード・ヴォーカルはブライアン。よそで歌うとはなにごとだ、と、あとでお父さんが怒ったとか)。Summer Means Funのthe girls are two to oneという表現より、こちらのほうが、boyのある分だけ明瞭です。「男ひとりに女の子二人」、つまり本邦で下世話にいうところの「両手に花」です。

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ジャン&ディーンの1963年のアルバムSurf Ciry

もちろん、南カリフォルニアの浜辺のみ、男女比が極端な偏差を示すことは統計学的にありえません。これは女の子の「お月様と六月の花嫁」(June NightおよびBoth Sides Nowの記事を参照)に対応する、男の子の非現実的夢想にすぎません。わたしが子どものころに見た、AIPのビーチ・ムーヴィーというのは、まさしくこのファンタシーにのっとったもので、男はたいてい、二人以上の女の子に取り巻かれ、うれしいような、困ったようなトラブルに巻き込まれたものです。これは本邦の加山雄三映画などにも反映されました。

セカンド・ヴァース以下も、その他のアイコンが並べられているだけで、いわば並列型、羅列型というべき歌詞で、展開したり、変化したり、サゲたりはしていません。毎晩、ドライヴイン映画にいって、夜中の一時半まで(「半」は気にしなくてよいでしょう。口調合わせです)夜更かしだ、とか、さあみんな、バギー(サーファーが愛用するトランクス・タイプの水着ですな)とビキニをつかんで飛び出そう(男の子と女の子の双方に呼びかけているのであって、両方いっしょに身につけろといっているわけではありません。為念)とか、まだ夏ははじまったばかり、秋までずっとビーチ・ボールだ、という調子で、カリフォルニアのティーネイジャーが夏から連想するものを列挙しています。南カリフォルニア夏の風物詩。

もちろん、ここから、世界で最初のユース・カルチャーについての考察をすることも可能ですし、なんなら、ハリウッドの60年代について大長編論文を書くことだって不可能ではありませんが、それはよそでやっているので、急いでサウンドの検討へとジャンプします。

◆ ハリウッドという音楽都市環境 ◆◆
この三つのヴァージョンは、ほぼ同じ時期に、ほぼ同じメンバーで、ハリウッドのごく狭い範囲、それこそ石を投げれば届くぐらいの範囲で録音されました。でも、ギターの間奏を聴くと、じつは2つのヴァージョンしかないことがわかります。ひとつはブルース&テリー、もうひとつはバギーズ/ジャン&ディーンです。後者は同じトラックを使いまわしているのです。

だから、その1の冒頭に掲げた物語は、インチキだったことになります。あそこでわたしがでっち上げたボーンズのセリフどおりになったわけではなく、ジャン&ディーンのSummer Means Funセッションなど存在しなかったのでしょう。はじめから、トラックを使いまわすことに決めていたのだと想像します。

そんなことは、はじめから気がつけばよさそうなものですが、生兵法はケガのもと、つまらない知識のために足をとられてしまったのです。なぜそうなるかを知るために、ブルース&テリーの片割れ、のちにビーチボーイズのメンバーになる、ブルース・ジョンストンの談話をご覧ください。

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The Best of Bruce & Terry (Sundazed)のブルース・ジョンストン・インタヴューより


1957年にシカゴからやってきた「近代サウンド・レコーディングの父」ビル・パトナムは、ハリウッドのサンセット通り6000番地にユナイティッド・リコーダーを開き、つづいて、1ブロックとなりの6050番地のウェスタン・スタジオを買い取って改造し、ユナイティッド・ウェスタン・リコーダーとしました。

ハリウッドには、レコード会社の直営スタジオと、独立系のスタジオがひしめいていましたが、60年代を通じて、もっともめだった録音を生み出したのは、パトナムの2つのスタジオといってよいでしょう。ハリウッドの独立系スタジオとしては、フィル・スペクターの本拠地ゴールド・スターが有名ですが、それは4本のEMI製プレート・エコーを使える独特の環境と、スペクターというカリズマのおかげであって、じっさいには小さなスタジオでした。規模と録音の数からいって、パトナムの2つのスタジオが、60年代のハリウッドを代表する独立系スタジオといえるでしょう。ビーチボーイズの、というか、ブライアン・ウィルソンの畢生の名作、Pet Soundsは主としてユナイティッド・ウェスタンで録音されています。

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ユナイティッドのスタジオA内部。真ん中下の小屋のようなものは、ヴォーカル録音用ブースかもしれない。

ただし、繰り返しておきますが、ハリウッドには無数のスタジオがあり、パトナムの2つのスタジオとゴールド・スターだけで、60年代ハリウッド音楽史を語ることはできません。早とちりの人が多いので念を押しておきます。上のブルースの談話でも、ブルース&テリーはコロンビア(CBS)スタジオで録音していたことがわかります。他にもスタジオはいくらでもありますが、それは本筋ではないので省略。

◆ レッキング・クルーという「バンド」 ◆◆
わたしがもっているファンタスティック・バギーズの盤にはスタジオのクレジットがありませんが、エンジニアの名前から、ユナイティッド・ウェスタンで録音されたとわかります。チャック・ブリッツはPet Soundsを録音したエンジニア、ビーチボーイズのエンジニアです。もう一度、ブルースの談話を見てください。この3つ(じっさいにはトラックは2つ)のヴァージョンは、同じ場所またはすぐ近くで録音されたのです。

赤いアンダーラインを引いたところには、「だから、ぼくたちはみんなおんなじプレイヤーを使った」とあります。「レッキング・クルーの連中」といっています。当時、このような名称があったわけではなく、これはハル・ブレインが後年、自分の回想記で勝手に名づけたものですが、この時代のハリウッド・スタジオ・プレイヤーのコア・グループを指すのに便利な名称で、当のプレイヤーたち自身まで含めて、多くの人たちが使うようになったので、わたしも踏襲します。

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Edsel Recordsのファンタスティック・バギーズ再発LP裏ジャケットの一部。ルー・アドラーのライナーの内容を読めば、オリジナル盤から引き写しと判断できる。

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上の写真を拡大した。ハルの肩書きは「オーケストラ指揮」とあるが、じっさいには6、7ピース程度のコンボ編成。プレイヤーのリーダーシップをとったという意味だろう。もちろん、ドラム・ストゥールにも坐っている。Bonesはボーンズ・ハウ。Lankyはランキー・リンストロット。

このレッキング・クルーといわれる人たちが、それこそなんでもかんでも、片端から録音していたのです。フランク・シナトラのバックをやったかと思えば、フランク・ザッパの録音に参加し、モンキーズ、エルヴィス、カーペンターズ、ビーチボーイズ、ペトゥラ・クラーク、ヴェンチャーズ、スプリームズ、スティーヴィー・ワンダーというように、ジャンルもなにもあったものではなく、なんでもやったのです。

彼らの録音数は、ハル・ブレインの生涯記録4万1千曲(8年まえの記録。現在も増加中)に代表されるように、じつにとほうもない量で(4万曲プレイヤーはもうひとり、アール・パーマーしかいないようですが、勘定には興味がなかったトミー・テデスコはそれに迫るか、または上まわる数の録音を残しているはずですし、70年代に入って極度に仕事を減らしたキャロル・ケイでも1万曲を超える録音を残しています)、ここでその点に深入りすることはできません。ハル・ブレイン回想記、アール・パーマー伝、トミー・テデスコ自伝といった書籍、キャロル・ケイビリー・ストレンジハル・ブレインのオフィシャル・ウェブ・サイトなどが参考になるでしょう。

このように、当時のハリウッドには一握りの図抜けて優秀なプロフェッショナルがいて、ありとあらゆるポップ系スタジオ・ワークをほとんど一手に引き受けていました。ブルースが、ぼくたちはみんな同じプレイヤーを使ったといっているのは、そのことを指しています。

だから、似ていて当然です。そのことをわたしはよく知っているので、たんにそっくりなだけだと思い、同一のトラックとまでは考えなかったのです。

(以下、Summer Means Fun その3につづく)
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by songsf4s | 2007-07-10 21:50 | サーフ・ミュージック
Summer Means Fun その1 (by the Fantastic Baggys)
タイトル
Summer Means Fun
アーティスト
The Fantastic Baggys
ライター
Phil Sloan, Steve Barri
収録アルバム
Surfin' Craze
リリース年
1964年
他のヴァージョン
Bruce & Terry, Jan & Dean
 
 
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◆ ユナイティッド・ウェスタン・スタジオ物語 ◆◆
ハリウッドはサンセット通り6050番地にあるユナイティッド・ウェスタンでは、夜のセッションがはじまろうとしている。スタジオは熱気に満ちて……いなかった。

ハル・ブレイン「(腕組みして天井をにらみ)まえのと同じでいいんなら、どうってことはないけれど……ヘイ、ジャン。テンポを変えてくれないと、また同じになっちゃうぞ」

ジャン・ベリー「いいよ、同じで。軽快に頼むよ。ノリがすべてなんだから。でも、ハル、またってどういうこと? この曲をやるのははじめてだけれど?」

ハル「ブルースとテリーのときも同じになっちゃったんだよ。聴いてないのか?」

ジャン「ラジオで一度……そういえば、同じだったね」

レイ・ポールマン「ジャン、オレは?」

ジャン「(ため息をつき)いいよ、同じで。もしも変えてくれたら、すごくうれしいけれどね、すこしでいいから」

レイ「いいラインはもう使っちゃったからなあ。まあ、ラインは変えてみるよ。でも、リズム・パターンはテンポを変えてくれないと……」

ジャン「ラインだけで十分だよ。よろしく」

ボーンズ・ハウ「なあ、ジャン。これって、無駄じゃないか。スティーヴにテープを借りればいいじゃないか。イコライジングを変えれば、べつのトラックにきこえるぞ。いや、まあ、同じトラックだから、まったくちがうってわけにはいかないけれど……」

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ユニヴァーサル・オーディオ社製コンソールとボーンズ・ハウ、うしろからのぞき込むジャン・ベリー

ジャン「(トークバックのスウィッチを切り)いいんだよ。どうせ税金でもっていかれるんだ。彼らに楽に稼いでもらって、機嫌よくやってもらったほうがいい。つぎのはキツいことになるのがわかっているしね」

ボーンズ「なるほど。でも、オレだけはやらせてもらうよ。チャックとはちがう音にしてみせる」

ジャン「ああ、頼むよ。手ざわりだけ、ちょっとちがえば十分だよ。イコライジングでね」

キャロル・ケイ「(コードを弾きながら)いつもいつも、G7の代用がD♭7+フラット・フィフスじゃ退屈よね。せめてキーだけでも変えてくれればいいのに、またGじゃないの。テンションつけちゃおうかな。(となりのトミー・テデスコに)あんた、どうしてそうお気楽なの。いつも同じコードばっかで、悔しくないの?」

トミー「悔しい? どうして? 同じコードを弾いても、ちがうコードを弾いても、同じ50ドルじゃないか。忘れたのか、オレたちは食うためにギターを弾いてるんだぜ」

キャロル「だって――」

トミー「勘弁しろよ。オレはちゃんと仕事をしている。あれを見ろよ」

と背後を振り返る。退屈したグレン・キャンベルが、「プレイボーイ」からはぎ取り、壁に貼りつけたミス・ジュライのセンターフォールドに向かって、ダートを投げつけている。

ジャン「オーケイ。じゃあ、いこうか。今夜は長いから、これは3テイクぐらいでよろしく。きみたちにはパイみたいに楽なもんだろ?」

ボーンズ「ジャン&ディーン、Summer Means Fun、テイク1」

トミー「そりゃどうかな、ボーンズ。バギーズから勘定して、ブルースたちのも入れれば、そろそろテイク20だ」

ボーンズ「テープは廻ってるぞ!」

ハル「(スティックを強く叩き合わせて静粛を促しながら)ワン-トゥー、ワン-トゥー-スリー」

ユナイティッド・ウェスタン・リコーダーでは、独創的で革新的なサウンドへのあくなき挑戦――ではなく、お気楽な音楽をきまじめにつくる、世にもつらい仕事がまた今夜もはじまった。

(この物語はフィクションです。実在の人物や事実に合致する点があったとしても、たんなる偶然に過ぎません。)

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腕を組んでドラム・ストゥールに坐るのはハル・ブレイン。右端、サングラスのフェンダー・ベース・プレイヤーはレイ・ポールマン。左端一番奥にトミー・テデスコの顔だけ、その手前、キーボードのアル・ディローリーの顔の陰にキャロル・ケイの金髪の頭とフェンダーのネックを握る左手だけ。ただし、スタジオはウェスタンではなく、ゴールド・スター。


◆ ティーネイジャーの夏休み讃歌 ◆◆
今回は、友人のMashi☆Toshiさんのブログ「3連のバラード・コレクション」(旧名「3連ロッカ・バラード」)との協賛企画です。まあ、わたしが勝手に「協賛」しただけですが。

そういう趣旨から、ヒット・ヴァージョンであるブルース&テリー盤ではなく、オリジナルと思われるファンタスティック・バギーズ盤を先に立てました。うちにはもうひとつ、ジャン&ディーン盤があります。

この3ヴァージョンはほぼ同時期(1964年)に、ハリウッドのきわめて狭い一区画で録音されましたが、そのへんの検討はあとまわしにします。冒頭においた駄話の意味は追々わかるので、これもあとまわしにして、まずは歌詞の検討から。お気楽な歌詞なので、いつものような七面倒なことは申しません。以下はファースト・ヴァース。

Surfin' every day down at Malibu
Neath the warm California sun
No more books, no more homework to do now
Summer means fun

マリブはLA郊外の土地で、富裕層の別荘やビーチハウスがあるそうですが、この曲でわかるようにサーフ・ポイントでもあり、サーフ・ミュージックには何度か登場しています。教科書も宿題ももうない、夏だ、楽しいな、というような、大人にはどうでもいいようなことが歌われていますが、これだけで、ティーネイジャーは、自分たちに呼びかけていることが了解できます。じっさい、この曲の共作者、フィル・フリップ・スローンはこのときはまだティーネイジャーだったそうです。

(以下、Summer Means Funその2につづく)
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by songsf4s | 2007-07-09 22:53 | サーフ・ミュージック