カテゴリ:ハーモニー( 3 )
トッド・ラングレンのひとり2パート・ハーモニー その2
 
トッド・ラングレンのいま出回っている盤を眺めていて、アマゾンの記述は不正確だと思ったものがある。

これは間違えても不思議はないのだが、トッドのソロの1枚目と2枚目のタイトルは、

Runt 1970

Runt: Ballad of Todd Rundgren 1971

である。これが目下2ファーとして1枚になっている。だから、表記としては、

Runt/Runt: Ballad of Todd Rundgren

が正しいのだが、じっさいにはRunt/Ballad of Todd Rundgrenと、Runtがひとつ足りず、セカンド・アルバムのタイトルが半欠けになっている。

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以前、「Only a Game by Matthew Fisher」という記事で、Mathew Fisherというタイトルのアルバムと、Strange Daysというタイトルの2枚を合わせた2ファーCDなのに、たいていの人が、マシュー・フィッシャーというシンガーのStrange Daysという1枚のアルバムであるかのように誤解していると書いたが、それと似たような現象といえる。

トッドの最初の2枚がなんでこんなややこしいことになったのか、昔、友人に理由を縷々説明されたのだが、忘れてしまった。

たしか、セイルズ兄弟とトッドの3人で、「ラント」というグループを組んだつもりだった、というような話だったと思う。

それが実現せず、その名残として、トッド・ラングレンのアルバムというより、ラントというバンドのアルバムのような形式にした、とかいったことじゃなかっただろうか。まあ、どうでもいいようなことだが!

さて、今回は1972年にリリースされたサード・アルバム、Something/Anything?の2番目に収録されたこの曲のハーモニーを検討する。

このダブルLPは、最後のD面を除く、A、B、C面の全曲のソングライティング、演奏、ヴォーカルをトッド・ラングレンがひとりでやっている。この曲もそのひとり多重録音。

Todd Rundgren - It Wouldn't Have Made Any Difference


かなり変なハーモニーだということは、一聴、たちどころにおわかりかと思う。どこにどのようにハーモニーを入れるか(あるいは入れないか)という、ひとつ上のレベルのメタな部分も問題なのだが、とりあえず、どんなラインをつくっているかを見る。

まず、ファースト・コーラスの後半。When itまでは単独で、Wouldn'tから上にハーモニーが入ってくる。

以下の譜面がわりの「半採譜」では、例によって上段が歌詞、中段がメロディー、下段がハーモニー。You just didn't love meのところはハーモニーが消えるので、略した。

When it wouldn't really
Db-D-E-E-E-E
    A-A-A-A
make any difference
E-Db-B-B-A-Db
A-F#-E-D-E-E
If you really loved me
B-B-B-A-B-Db
E-E-E-D-E-F#

メロディーからしてすでに動きの小さいお経ラインなので、ハーモニーもお経になるのは当然の結果なのだが、それにしてもやはり、ピーター&ゴードンやデイヴ・クラーク5のスタイルを連想させる。

こうして眺めると、ラインそれ自体はそれほど強引とはいえず、たんに、ハーモニーが入ってくる時の高いAの音のように、その音域でハーモニーを入れるのは、ふつうは避けるのではないかというところでハーモニーを入れるので、それが無理矢理な感触を生み、耳を引っ張られるらしい。

loved meのところのハーモニーがF#にあがるのも気になるのだが、ここのコードはF#mなので、F#は主音だから、外れているわけではない。トッドの声がひっくり返るか返らないかの微妙な出方をしていて、ピッチが揺れるので耳を引っ張られるのかもしれない。

ここがこの曲のヴォーカル・アレンジの複雑なところなのだが、ファースト・ヴァースにはハーモニーはなかったのだが、セカンドの冒頭には入っている。いちおうコピーしてみたが、後半の尻尾(I could be)はよく聞こえず、まったく自信なし。

I know of hundreds
B-A-E-B-A
D-Db-A-D-Db
Of times I could be
Ab-Ab-Ab-Ab-Ab-F#
B-B-B-B-B-A

メロディーがI know ofのofでEまでジャンプするので、いきおい、ハーモニーも上へと押し上げられるわけだが、それにしてもAまでジャンプすることはないのに、と(笑いながら)思う。しかし、そこでハッとするのだから、効果的といえるのだが。

このofのところだけ上は歌わず、I know -- hundredsと歌っても、まったく問題ないはずなのに、かなり無理のあるジャンプをやってしまうのが、いかにもトッド・ラングレンだと思う。

ここは、大滝詠一の「それは僕ぢゃないよ」に出てくる、「ただの風さ」の「さ」で上のCまでジャンプするところを想起させる(「大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その14」という記事で詳細に検討した)。

いや、ここは最初の音からして、すんなり収まらない。ここのコードはIのところはE、knowのところでAに行く。E-Aという進行だ。

したがって、当たり前ながら、メロディーはコードの構成音であるB-Aと動いているのだが、ハーモニーはD-Dbという遷移になっている。DbはAメイジャーの構成音だが、DはEメイジャーの構成音ではない。

この部分のハーモニーがイレギュラーに響くのは、このDの音のせいだと思う。DはEに対してセヴンスの音なので、コードがEメイジャーのところでDを歌うと、合わせてE7コードということになってしまう。

視点を変える。Dの音はAメイジャー・コードではサスペンディッド4th(以下sus4)を形成する。sus4は長くつづけないほうがいいコードで、すぐにメイジャーに戻す必要があるが、I knowのコードがAsus4→Aの遷移だとみなすと、この変則ハーモニーはちょうどその規則にしたがって音が動いたことになる。

いや、話が逆だった。D-Dbという動きのせいで、ここのコードがAsus4→Aと動いたかのような印象を与えるのだろう。それで、「なんとなく変だ」というところに留まり、「合ってないんじゃないか」とは感じないのだと思う。

こんなことを計算してやったとは思えないのだが、まあ、とにかく、結果的にAsus4の響きになって、この変なハーモニーは、変は変なりにかろうじて落ち着いたような気がする。呵々。

だいぶ離れたので、もう一度、同じクリップを貼り付ける。

Todd Rundgren - It Wouldn't Have Made Any Difference


個々のラインではなく、ハーモニーの「出し入れ」についてもすこし見ておく。これが凝っているのだ。

この曲はVerse/Chorus/Verse/Chorus/
Bridge/Verse/Chorusという、典型的な構成をとっている。しかし、ハーモニーの使い方は、各ブロックごとにすべて異なり、同じパターンを繰り返すことはない。

最初は、ハーモニーが入るのはコーラスの後半のみ(バックグラウンドのウーアー・コーラスは勘定に入れない)。

セカンド・ヴァースは、ヴァース冒頭と、コーラスの大部分にハーモニーがある。

サード・ヴァースは、コーラス前半の後半分とコーラス後半(ややこしい書き方で申し訳ない。コーラスを4つの部分に分けると、2番目と3番目と4番目)にハーモニーがある。

さらにややこしいことに、コーラスのハーモニーがないところには、メロディーをダブル・トラックにしてユニゾンで歌っていたりするし、ハーモニーのチャンネルを移動させたり、じつに目が回るような細かい操作をしている。

すべてが計算されたわけではなく、ヴォーカルを7回も8回も重ねているうちに、あっちのチャンネル、こっちのチャンネルと動かしてしまい、そのままミックスしただけなのかもしれないが、分析する方は「神経衰弱じゃないんだからさあ、トッド」とボヤきが出る。

32トラック初体験だったのか、ヴォーカル・アレンジの実験をやっているとしか思えない。いや、変なハーモニー・ラインとは直接に関係のあることではないのだが、どちらも、オーヴァーダブの時点であれこれ考えたことの結果なのだと思う。

これはトッド・ラングレンのソロではなく、彼のバンド、ユートピアの曲だが、参考にクリップをおく。ビートルズ・ファンは、冒頭の数小節でトッドの意図がわかって笑いだすにちがいない。

Utopia - I Just Want to Touch You


これはDeface The Musicという1980年のアルバムのオープナーで、LP全体がビートルズのパスティーシュになっている。

しかも、曲調やアレンジは徐々に後年のビートルズのスタイルへと変化していき、彼らの歴史をたどるような構成になっている。遊びはまじめにやらないと面白くないわけで、やるなら凝らないといけない。

ただし、最後は68年ごろの音で、つまり、最後の2枚には模作するほどの面白味はないということを示唆している(と偏見)。

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いや、話はそこではなかった。ハーモニーの問題である。

サンプル Utopia - Where Does the World Go to Hide

最初のI Just Want to Touch Youにしても、この曲にしても、ハーモニーはやっているのだが、ノーマルで、とくに耳を引っ張られる箇所はない。

ここがよくわからない。ビートルズのパスティーシュなのだから、トッドらしい変則ハーモニーが飛び出しそうなものだが、アルバム全体を通して、とくにそういう曲はない。

いちおう、拡大版のフル・アルバムをおいておく。ビートルズのどの曲がベースになっているか考えながらお聴きあれ。簡単な曲もあれば、悩む曲もある。

Utopia - Deface the Music extended edition full album


結局、バンドとしてやるには、あの変則ハーモニーはあまりにも面倒なのかもしれない。ライヴでやると外しやすい難所になってしまうということもあるだろう。

トッドがダリル・ホールとやったライヴでも、スタジオ録音のコピーのような2パートはわずかな箇所のみで、おおむねウーアー・コーラスで逃げた。

では、最後にそのライヴ、It Wouldn't Have Made Any Differenceの近年の姿を。




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Todd Rundgren
Runt/Ballad of Todd Rundgren
Runt/Ballad of Todd Rundgren

Something/Anything
Something/Anything

RuntおよびFaithfulを収録
Todd Rundgren (Original Album Classics)
Todd Rundgren (Original Album Classics)

Utopia
Adventures in Utopia & Deface the Music/Swing to T
Adventures in Utopia & Deface the Music/Swing to T
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by songsf4s | 2014-02-02 23:03 | ハーモニー
トッド・ラングレンのひとり2パート・ハーモニー その1
 
つい先日の「大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その15」という記事で、大滝詠一の変則ハーモニーには、同じころに聴いたトッド・ラングレンのハーモニーと共通のものを感じると書いた。

その時は、ほかに書くべきことがあって、トッド・ラングレンのことはあっさり片づけてしまったが、あれは長年気になっていた曲で、簡単に通り過ぎるのは本意ではなかった。今回は改めて、トッドのハーモニーを検討してみたい。

前回の「ボビー・ヴィーのひとり2パート・ハーモニー」のように、一回で、などと思ったのだが、ボビー・ヴィーだって簡単ではなかったわけで、ヴィーの倍はあろうかというトッド・ラングレンの盤は聴くだけでも手間がかかり、今日はコピーまではたどりつけなかった。

したがって、今回は助走、トッドのマルチトラッキングによるハーモニーのサンプルをすこし並べるだけに留める。

まずはソロ・デビュー盤、1970年のRuntから、やや長い組曲を。

Todd Rundgren - Baby Let's Swing/The Last Thing You Said/Don't Tie My Hands


デビュー盤の多くは、トニー&ハントのセイルズ兄弟のベースとドラム、あとはほとんどすべてトッド・ラングレンのプレイと歌というパーソネルで、Baby Let's Swingもこのトリオでやっている。

なにはともあれ、とりあえず、よくまあ重ねまくったな、である。楽器だけでも面倒なのに、ヴォーカルのオーヴァーダブも数限りなく、その根性だけでも十分に頭が下がる。

最初のBaby Let's Swingは、たとえば短いsuch A LONG LONG TIMEのラインが2パートになっているが、そういうのは一瞬にすぎない。いや、好ましいヴォーカル・アレンジで、さすがはトッド、栴檀は双葉より芳しと思う。

なお、歌詞に登場するローラとは、ローラ・ニーロのことだとか。どうでもいいといえば、どうでもいいのだが。

2曲目のThe Last Thing You Saidは、概ね、リード+2声のバックグラウンドという、ビートルズをはじめ、ロック・グループにはよくあるパターンの多重録音版である。2パートはあるが、デュオではない。いや、その部分のハーモニーも好きだが。

Everyone's heard of how you left me again
Everyone's heard about my so-called friend
They tell me I'm a fool, but I don't hear a word
'Cause the last thing you said was the last thing I heard

とくに上記4行のあたりのフォールセットによるバックグラウンド・ヴォーカルには、トッドのハーモニーの魅力がよく出ている。

最後のDon't Tie My Handsはアップテンポのロッカーで、構成は少し簡略化されるが、この曲自体が複数の曲の合成のような組み立てで、一筋縄ではいかない。

おおむねリード・パートは左チャンネルに配された2パート・ハーモニーなのだが、1声のみのバックグラウンドが加えられたりしていて、「どうだ、こういう3声の組み方はめずらしいだろ」とトッドの声が聞こえてきそうだ。

No one I wanted more
I wanted to love, to be mine
Now it turns out I have to say goodbye
And I don't see why

とくに上記のクワイアット・パートの(たぶん)2声、3声、4声と変化していくハーモニーはすばらしい。

聴けば聴くほど、ブライアン・ウィルソンのGood Vibrationsのように奥の深い構成で、手に負えない感じがしてくる。この曲だけで終わるわけにはいかないので、浅いところで切り上げ、つぎの曲へ。

こんどは72年のダブル・アルバム、Something/Anything?からカットされた、トッドの数少ないシングル・ヒットで、ラジオから流れてきた時はキャロル・キングかと思った。すべての楽器とヴォーカルがトッド自身。

Todd Rundgren - I Saw the Light


2パート、1+2、2+2などをさまざまな組み合わせを自在に織り交ぜた、これまたみごとなヴォーカル・アレンジ。

なんとまあ、よくこれだけのものを組み立てて、ひとりで録音していったものだ、と感心するが、あるいは、ひとりだからこそ、自由に組み立てられたのかもしれない。

つぎはアルバムFaithfulのオリジナル・サイドから。この曲は以前、「ギター・オン・ギター」シリーズのひとつとして、「ギター・オン・ギター5 トッド・ラングレンのLove of the Common Man」という記事で、ギター・プレイについては検討した。

Todd Rundgren - Love of the Common Man


ひとりで数本重ねていったギターのアンサンブルもみごとだが、それに呼応するように、例によってヴォーカルもきっちり重ねて、間然とするところがない。

ほかの曲と同じように、この曲もヴォーカルは何パートとはいいにくく、さまざまな組み合わせが使われているが、たとえば、We all know what comes aroundの部分のように、2パートもあって、おお、やっているな、とニッコリする。

この曲は、可能なら、そして、それがふさわしいなら、つねにハーモニックな構造を厚くしたいという、トッド・ラングレンの根源的衝動が噴出したみたいだと、愉快な気持になる。

以上、たった三曲しかあげられなかったが、次回は、トッド・ラングレンの奇妙なハーモニック・センスがもっとも濃厚にあらわれた曲を、コピーを交えて分析したい。


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Todd Rundgren
RuntおよびRunt/Ballad of Todd Rundgren
Runt/Ballad of Todd Rundgren

Something/Anything
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Faithful
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RuntおよびFaithfulを収録
Todd Rundgren (Original Album Classics)
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by songsf4s | 2014-01-30 23:01 | ハーモニー
ボビー・ヴィーのひとり2パート・ハーモニー
 
前回まで、19回にわたって長々と続いた「大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー」シリーズで、最後までもやもやしていた、

「エヴァリーズのストレートなハーモニーが、なぜ初期ブリティッシュ・ビートのイレギュラーなハーモニーに化けたか」

という問題について、最後の最後に、この人を忘れていたと、クリップを貼り付けておいた。その後、やはりこれがミッシング・リンクかもしれない、という気がしてきた。いや、気がしなくもない、ぐらいだが。

Bobby Vee - Rubber Ball


これは日本でもリリースされた。それどころか、わが家にもこのシングルはあった。とりたてて音楽ファンでもない愚兄が買ってきたほどなので、それなりに人気があったのだろう。

東芝音工がリバティーの配給権を得て最初にリリースした盤の一枚だった。マトリクスはLib-0006といった感じの、恐ろしく若い番号だった。そして赤盤だった。

プロデューサーはスナッフ・ギャレット。この当時のギャレットのチームはほぼ固定されていて、この曲のクレジットはわからないものの、レギュラー・メンバーを書いておく。

アレンジ、ピアノ、指揮……アーニー・フリーマン
ドラム……アール・パーマー
ベース……ジョージ・“レッド”・カレンダー
ギター……ハワード・ロバーツまたはジョー・メイフィス

使用コードは、A、D、E、F#mの4種のみ、シンプルなコード進行だが、ハーモニーは、おや、と耳を引っ張る。

コーラスから入るShe Loves You型で、その部分の音程を以下に書いた。上から歌詞、メロディー、ハーモニーの順。例によって音程の細かいことは気にしないでいただきたい。あとで説明する。

Rubber ball, I come bouncin' back to you,
Db-B-A-A-E-F#-A-Ab-B-A
E-D-Db-Db-Db-D-D-E-D-Db

メロディーはDbから下のEまで大きく上下しているのに対して、ハーモニーは上のE、D、Dbという、接近した3音のわずかな高低差を行き来しているだけだ。

メロディーに対して3度の音、たとえばCメイジャーなら、ルートのドとミの関係や、5度の音、つまりソというように、3和音を構成する音で、メロディーに対して平行に移動するハーモニー・ラインをつくると、きれいな、とがったところのない音になる。

ひとりでギターのコード・プレイをすると、運指の関係で、平行した音の流れになるのがふつうなので、そのような響きになる。

季節はずれなのだが、典型的なギターのコード・プレイを、と考えて、とっさに思い浮かんだのが以下の曲だったので、あしからず。

ご存知の方も多いだろうが、ヴェンチャーズのツアー・メンバーは60年代にはスタジオではあまりプレイしなかった。このアルバムのリード・ギターはトミー・オールサップという説が有力。また、ドラムについては、フランク・デヴィートがそのオフィシャル・サイトで、みずからのディスコグラフィーにリストアップしている。

The Ventures - White Christmas


こういうなだらかなものが、歌のハーモニーでも圧倒的な多数派を占めている。だからこそ、ピーター&ゴードンや大滝詠一のような、メロディーに対して、3度なら3度、5度なら5度の同じ間隔を保つ動き方から逸脱したハーモニー・ラインは、おおいに目立ち、われわれの耳を引っ張る「質」を獲得することになる。

ボビー・ヴィーに戻る。

Rubber Ballはボビーにとって通算で5枚目のシングルであり、前作Devil or Angelにつづくトップ10ヒットになった。

では、このようなハーモニー・スタイル、つまり、1)ひとりで多重録音し、2)変則的なハーモニー・ラインをフックとして利用するスタイルは、いつ生まれたのか? じつは、このRubber Ballでのことだった。

その直前のDevil or Angelにも、部分的に2パートが出てくるのだが、変則的ハーモニー・ラインではないし、多重録音ではなく、バックグラウンド・シンガーがハーモニーを歌っている。

ちょっと面白いミックスの仕方で、Rubber Ballへの助走になった気配もあるし、スナッフ・ギャレットのプロダクション・テクニックもうかがえるので、クリップを貼り付ける。

Bobby Vee - Devil or Angel


ときおり、ハーモニー・シンガーのひとりが、ボビーの相方にまわり、すぐにまたコーラス集団に戻るというスタイルで、めったにお目にかかれるやり方ではない。

思うに、スナッフ・ギャレットは、なにか耳を引っ張るハーモニーを探し求めて、アレンジャーのアーニー・フリーマンに、アイディアを出せと云ったのではないだろうか。

ギャレットは、俺は音符なんかひとつもわからん、と公言する人間で、自分でなにかする気遣いはないのだから、誰かスタッフがやったにちがいない(いや、それでいながらヒットを連発し、リバティー・レコードの屋台骨を支えたのだから、プロデューサーの鑑なのだが)。

そして、つぎのシングルで、コーラス部の変則ハーモニーが誕生するわけだが、なぜ変則的になったのか。それはたぶん、メロディーの動きが大きいうえに、テンポが速めなので、平行して動かすと、忙しくて癇にさわるハーモニーになってしまったからだと想像する。

では、そのあとはどうなったか? Rubber Ballのつぎのつぎのシングル。

Bobby Vee - How Many Tears (1961)


多重録音によるひとり2パート・ハーモニーはボビー・ヴィーのトレイドマークになり、彼は長いあいだこのスタイルをつづけることになる。

しかし、イレギュラーなラインはどうかというと、ざっと聴き直したかぎり、あまり見あたらない。採譜する余裕がないのだが、このHow Many Tearsも、おおむね平行なラインで歌っているように聞こえ、変則的な響きはない。

そのつぎのシングルはジェリー・ゴーフィン=キャロル・キングの代表作。アール・パーマーのスネアのツツシャカ・プレイをお楽しみあれ。ピアノとストリングスのコンビネーションはアーニー・フリーマンの署名アレンジ。

Bobby Vee - Take Good Care of My Baby


ゴーフィンの歌詞といい、キングの曲といい、この(元)夫婦はまさしくアメリカを代表するソングライター・チームだったな、と納得する楽曲で、ビルボード・チャート・トッパーも当然といえる。

アーニー・フリーマンのアレンジなのか、ボビーのハーモニーの「出し入れ」もみごとで、素晴らしいシングルだと思うが、「出し入れ」そのものがやや変則的なだけであって、ラインはノーマルに聞こえる。

この曲は、ボビー・ヴィーの代表作としてではなく、有名な四人組がうまくできなかった曲として記憶されることになる。

The Beatles - Take Good Care of My Baby


どういうわけか、このころのビートルズはジョージをフロントにしていて、この曲もジョージがリード、ハーモニーがポールで、ジョンはまったく歌っていない。ジョンの曲だろうに、と思うのだが。三人の声を聴いて、ジョンを中心にする、と決定したのはジョージ・マーティンだった。

いや、それはべつの話。だいじなのは、ビートルズが、パーロフォンからのデビュー前に、すでにボビー・ヴィーをカヴァーしていたという、その事実のほうである。

いや、これがRubber Ballだったら、初期ブリティッシュ・ビートの変則ハーモニーの淵源はボビー・ヴィーである、と断言するのだが、ストレートなハーモニーのTake Good Care of My Babyなので、うーん、可能性はあるのだが、と言い淀んでしまう……。

参考までに、このころ、ボビー・ヴィーの強い影響下で、同じように、ひとりでヴォーカルを重ねて2パート・ハーモニーをやった日本のシンガーの曲をおく。映画から切り出したもので、音質は並。

サンプル 加山雄三「ブーメラン・ベイビー」映画用多重録音2パート・ハーモニー・ヴァージョン

この曲の背景その他については、「加山雄三「ブーメラン・ベイビー」映画ヴァージョン(東宝映画『海の若大将』より)」という記事に書いたので、気になる方はそちらをご参照あれ。

さて、またまたボビー・ヴィーに戻る。

もう数曲、スナッフ・ギャレットが組んだチームの素晴らしい音作りと、ギャレットが選んだ楽曲、そしてボビー・ヴィーのハーモニーを。つぎは、やや変則的な味があるが、あくまでも「やや」である。ブリッジにご注意。

Bobby Vee - Please Don't Ask About Barbara


つづいてもボビーの代表作。アーニー・フリーマンのアレンジとアール・パーマーのドラミングがおおいに魅力的。むろん、ダブル・トラック・ヴォーカルもやっている。なお、この曲ではハル・ブレインがティンパニーを叩いた。

Bobby Vee - The Night Has a Thousand Eyes


つぎはヒット曲ではないのだが、楽曲も、ボビーの歌も、アレンジも、アールのドラミングもなかなか魅力的で、埋没させるには惜しい出来。

Bobby Vee - Bobby Tomorrow


もうひとつ、つぎも同様の、目立たないが、あたくし好みの佳曲。たぶんコード進行のせいだろうが(デイヴ・クラークのBecauseのようにオーギュメントや「その場でマイナー」を使っている)、ちょっと変則的に響くハーモニーもあって、余裕ができたら採譜してみたい曲だ。

Bobby Vee - A Letter from Betty (1963)


例によって、明快な結論はない。イエスと思えばイエスのような気がするし、なんとも言い難いといえば、そのとおりで、いやはやである。

わたし自身はといえば、初期ブリティッシュ・ビートの誰かが、いつもとはちょっと違う、ひねりのきいたハーモニーをやりたいと思った時は、ボビー・ヴィーのRubber Ballを思いだして、ああ、ああいう感じでやってみよう、とイメージしたのだと想像している。


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by songsf4s | 2014-01-26 23:21 | ハーモニー