カテゴリ:映画・TV音楽( 193 )
石田勝心監督、鏑木創音楽監督『東京湾炎上』(東宝、1975年)の疑似エスニック・スコア
 
1960年代なかばまでは、東宝特撮映画は、もれなく見ていたのですが、中学に入ったころから足が遠のきはじめ、70年代以降、一時はほとんど見なくなりました。

1975年の石田勝心監督『東京湾炎上』も、田中光二の原作『爆発の臨界』は読んだものの、映画のほうは封切で見ることはなく、テレビでも見ませんでした。

f0147840_041021.jpg

原作は、70年代にはじまった「インターナショナル・コンスピラシー・ノヴェル」、いわゆる国際陰謀小説の流れを受けたものであり、東宝特撮としてはかなり異質なプロットの映画です。いや、「東宝特撮」といわないほうがいいのかもしれません。

当時は見なかったくせに、いまになって見てみようかと思ったのは、音楽監督の鏑木創が、どういう音をあてていったのかが気になったためです。

ひとつだけクリップがあったので貼りつけます。前半の歌の部分がオープニング・クレジットで流れるテーマ曲、後半は映画ではだいぶあとのほう、石油備蓄基地の爆破場面で流れるスコアです。

鏑木創『東京湾炎上』オープニングほか


はっきりいって、コケました。絵と音がまったく水と油だったのです。動画じゃないとわかりにくいでしょうが、いちおうこの音楽が流れる場面のスクリーン・ショットを並べてみます。

f0147840_064342.jpg

f0147840_065262.jpg

f0147840_074660.jpg

f0147840_075564.jpg

f0147840_08788.jpg

f0147840_083563.jpg

f0147840_084482.jpg

f0147840_085477.jpg

凡庸な考えで申し訳ないのですが、でも、ふつうなら、ここはオーケストラによる大きなサウンドのインストゥルメンタルでしょう。歌謡曲を流す場面ではありません。

しかし、ここが人間の感覚のおかしなところですが、あまりにも絵と音が合っていないので、途中から面白くなってしまいました。いや、監督の意図したことではなく、こちらが勝手に結果ナット・オーライを、キャンプな感覚で興がっているだけで、失礼といえば失礼なのですが。これはないでしょう、と腹が立ったのに、しだいに面白くなってしまいました。

オープニング・クレジットを見て、イヤな予感がしました。テレビで見ているなら、さっさと消してベッドに入るような始まり方(最初の15分を見てダメだと思ったら、あっさりやめることにしている)です。そして、予想通り、映画自体の出来はあまり感心しませんでした。

20万トンの原油を積んで東京湾に入ろうとしていた巨大タンカーが、テロリスト集団にシージャックされ、油槽に爆弾をしかけられる、という設定です。九州の石油備蓄基地を破壊するか、さもなくば、このタンカーを東京湾内で爆破し、沿岸部の都市に壊滅的打撃を与える、というテロリストたちに、日本政府と、タンカーの人々がどう対処するか、というのが話の眼目です。

当然、プロットばかりではなく、サスペンスを醸成する演出力が映画の出来を決定することになるわけですが、かなり鈍な演出ですし、意味不明のところもあって、あらあら、でした。

開巻直後、藤岡弘と金沢碧のラヴ・シーンが二度も挿入されるのは、なんだったのでしょうか。プロットに関係してくるのかと思ったのですが、最後までいっても、ぜんぜん無関係なので、びっくりしました。女の裸を出せ、という会社の命令でもあったのでしょうか。

ひとつだけ、爆弾が仕掛けられた場所をたしかめに、藤岡弘がタンカーの甲板を疾駆するところを横移動で捉えたショットだけは、目が覚めました。あとは、これでいいのかなあ、の連続で、ただ溜息あるのみ。

タイトル・バックの音楽が奇妙だったので、スコアも鏑木創としては失敗作か、といやな予感がしたのですが、このミスマッチは監督ないしは会社の注文があったためだったのか、全体としては、オーケストラとタブラとダルシマーらしき楽器を組み合わせた無国籍サウンドが、なかなか楽しめました。

サンプル 鏑木創「ラスト・シーン」(東宝映画『東京湾炎上』より)

テロリスト集団はアフリカのどこかの国から来たらしいのですが、インドやアラブ系の楽器と西洋音楽的オーケストレーションの組み合わせで、エスニックなムードをつくっているという、ちょっとインチキなところが映画音楽らしくて、思わず頬がゆるみました。この雑食性が日本映画のスコアの大きな魅力のひとつだと思います。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう


DVD
東京湾炎上 [DVD]
東京湾炎上 [DVD]


CDボックス
ミュージックファイルシリーズ 東宝映画サントラコレクション・リミテッドエディション「東宝特撮チャンピオンまつり」
ミュージックファイルシリーズ 東宝映画サントラコレクション・リミテッドエディション「東宝特撮チャンピオンまつり」
[PR]
by songsf4s | 2012-01-19 23:57 | 映画・TV音楽
東宝映画のOST2種―『白昼の襲撃』(日野皓正)と『さらばモスクワ愚連隊』(八木正生&黛敏郎) その2
 
『白昼の襲撃』の話に入る前に、前回の『さらばモスクワ愚連隊』のサンプルをもうひとつ貼りつけておきます。

サンプル 八木正生「セッション」(『さらばモスクワ愚連隊』より)

記憶というのは欠落したり、薄れたり、いろいろあって、これほど信頼できないものはないのですが、われわれの生活はこれを基礎に成り立っているのだから、驚きます。

映画や音楽なんていうのも、記憶を基礎に、さまざまな比較対照をおこない、いいだの、悪いだの、まあまあだのといっているのだから、なんだか申し訳ないようなものですが、ちょっと資料の助けを借りるぐらいしか、改善のしようがないように思えます。

『白昼の襲撃』のOSTをOさんに聴かせていただく段になって、ああ、あれか、と思った映画は、加山雄三がスナイパーに扮するものだったのですが、データを確認しようとしたら、そんなものは見あたりませんでした。

よくよくフィルモグラフィーを見ると、加山雄三がスナイパーをやるのは、堀川弘通監督『狙撃』(1968年)でした。東宝映画ですが、共演は浅丘ルリ子。

はじめて浅丘ルリ子が日活以外の映画に出ているのを見たのは、植木等主演の『日本一の男の中の男』だった、なんてことを思いだしましたが、そのつぎの他社出演が『狙撃』だったようです。

『白昼の襲撃』も『狙撃』も、封切り当時に見ています。残念ながら、どちらも記憶がうすれて、ディテールは浮かんできません。

加山雄三が、暗殺者というダーティー・ヒーローを演じるにいたったのはどういう理由だったのでしょうか。連想するのはアラン・ドロンが殺し屋になるジャン=ピエール・メルヴィルの『サムライ』です(音楽は『冒険者たち』のフランソワ・ド・ルーベ)。

ジャン=ピエール・メルヴィル監督『サムライ』予告編


『サムライ』には強い感銘を受けました。『サムライ』の日本公開は1968年3月、『狙撃』の封切は同年11月。『ゴルゴ13』も同じ11月に連載がはじまったそうです。

それぞれの作り手たちはなにも意識していなかったのかも知れませんが、すくなくとも受容のレベルにおいては、なにか、こういった傾向をよしとする気分があったのであり、中学生のわたしも、その時代の気分に反応したのだろうと思います。

東宝はアクション映画、アンチ・ヒーロー映画のメッカではなく、この時点で加山雄三にアクション映画のダーティー・ヒーローを演じさせたのは、やはりなにかの意図があったのだろうと思います。

正統的ヒーローの役に戻りますが、『狙撃』は、森谷司郎監督『弾痕』、西村潔監督『豹は走った』(1969年)へ、さらに再び殺し屋を演じた西村潔監督『薔薇の標的』(1972年)へとつながっていきました。『薔薇の標的』以外は封切で見ています。すでに若大将シリーズは見なくなっていて、こういう系統のものだけを選って見ていました。

そういう流れのなかで『白昼の襲撃』(西村潔監督、1970年、東宝)も封切で見ました。しかし、『狙撃』と混同するぐらいなので、ただ「見た」という記憶と、テーマ曲のシングル盤を友だちから買い取った記憶だけが残っています。シノプシスを読むと、『狙撃』のようなプロフェッショナルの話ではなく、アマチュアの犯罪物語のようです。

例によってゴタクが長くなりましたが、音を聴きましょう。『白昼の襲撃』の挿入曲のひとつ。

日野皓正クインテット「スネイクヒップ」(映画『白昼の襲撃』より)


つづいて、シングル・カットされたテーマもどうぞ。こちらはクリップがないので、サンプルで。

サンプル 日野皓正クインテット「白昼の襲撃のテーマ」

「スネイクヒップ」と同系統の、当時の言葉でいう「ジャズ・ロック」タイプのトラックです。

たぶん、1967年からはじまったインパルスの一連のアルバムが嚆矢なのでしょうが、69年にハービー・マンのMemphis Undergroundがヒットしたことによって、この「ジャズ・ロック」といった名前で呼ばれた、ジャズ・プレイヤーによる8ビート、ないしは、非オーソドクス4ビートのサウンドがひとつの潮流になっていました。

いっぽうで、ラロ・シフリンも思いだします。

Lalo Schifrin - On The Way to San Mateo (from a movie "Bullitt")


このような伝統的な4ビートとは異なる、ジャズ・プレイヤーによるロック・ニュアンスの映画スコアというのは、同時多発的なものだったのでしょうが、やはりラロ・シフリンはその代表だったと思います。

4ビートではなく、5拍子ですが、『ブリット』よりすこし前のラロ・シフリンの中間的、折衷的スコアの代表作。

Lalo Schifrin - Mission: Impossible


こういうさまざまなものが、日野皓正の『白昼の襲撃』が生まれる前提、底流になっていると感じます。当時は、流れの真ん中をいくサウンドと捉えていました。つまり、すごく新しい音、というわけではないものの、これからはこういうのがふつうでしょ、といったニュアンスです。じっさい、ラロ・シフリンはDirty Harryでこのスタイルを確固たるものにし、大きな流れを形作ることになります。

いや、そこまでいくとお先走りになってしまうので、もう一曲、『白昼の襲撃』からサンプルを。こんどはオーソドクスな4ビートです。

サンプル 日野皓正クインテット「海」(映画『白昼の襲撃』より)

主としてドラムとベースが理由なのですが、いまになると、こちらのタイプのほうが好ましく感じます。ドラムの日野元彦はすこしタイムが早く、16分などで一部のビートを雑に叩く傾向があり(やはりジャズ・ロック系のスコアをたくさんやったジョン・グェランに似ている!)、また、キックの使い方も違和感があるので、テンポの遅い曲のほうが安心して聴けます。

クリップを探していて、『白昼の襲撃』の時期の日野皓正クインテットのライヴにぶつかったので、それも貼りつけておきます。

日野皓正クインテット with 井上忠夫、三原綱木「The Time And The Place」


やはり、ドラムのタイムが少し早いのが気になりますが、時代の気分がストレートにあらわれたサウンドだと感じます。

最後に、またまた記憶の話に戻ります。ご記憶の方がいらしたら、ぜひコメントしていただきたいのですが、日野皓正をわれわれ子どもが知ったのは、なにかのテレビ番組でのことだったのではないでしょか。日野皓正クインテットがハウス・バンドで、毎回なにかプレイしたという記憶があるのですが、ひょっとして末期の「ビート・ポップス」かもしれません。はっきり思い出せなくて、なんとも気色が悪いったらありません!


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



黛敏郎および八木正生(CD)
さらばモスクワ愚連隊(オリジナル・サウンドトラック)
さらばモスクワ愚連隊(オリジナル・サウンドトラック)


日野皓正クインテット(CD)
白昼の襲撃(オリジナル・サウンドトラック)
白昼の襲撃(オリジナル・サウンドトラック)


ラロ・シフリン
Bullitt (1968 Film)
Bullitt (1968 Film)


フランソワ・ド・ルーベ(『サムライ』と『冒険者たち』の2ファー)
Le Samourai/Les Aventuriers
Le Samourai/Les Aventuriers
[PR]
by songsf4s | 2012-01-17 23:46 | 映画・TV音楽
東宝映画のOST2種―『白昼の襲撃』(日野皓正)と『さらばモスクワ愚連隊』(八木正生&黛敏郎)
 
折にふれてご紹介している畏友、三河の侍大将Oさんに、こういうのはどうですかと聴かせていただいたサウンドトラック盤で、ささやかな記憶がよみがえりました。

一枚は堀川弘通監督、加山雄三主演、黛敏郎および八木正生音楽監督『さらばモスクワ愚連隊』(東宝、1968年)です。

f0147840_2315757.jpg原作は五木寛之の同題短編小説で、単行本上梓の直後に読んだ記憶があります。理由は単純、ジャズをあつかった小説、という当時としてはきわめてめずらしいものだったからです。

あとから考えれば、河野典生のほうが先鞭をつけていたのかもしれませんが、当時、わたしはまだ中学生、読書量も知れたもの、作家の知識もありませんでした(それで思いだした。近々、河野典生原作の映画を取り上げたいと思っている)。

ジャズに関心を持ったのは中学三年からの三年間ほどで、以後はホームグラウンドに戻って、ジャズを聴くことはあまり多くありません。『さらばモスクワ愚連隊』は、そのプラハの春のように短かった「わたしのジャズの季節」に小説を読み、映画を見ました。

いま、キャストを見ていて、ドラマーの富樫雅彦が出演していたことに気づきました。すっかり忘れていましたが、ガキのころからドラム・クレイジー、当時、日本のドラマーでは富樫雅彦をとくに気にしていて、チャンスがあれば(たとえば、友だちのもっている盤に富樫雅彦のクレジットを見つけるとか)プレイを聴くようにしていました。したがって、この映画を見た小さな動機のひとつは、富樫雅彦の出演だったにちがいありません。

まずは音を聴かないと話になりません。ひとつだけ見つかったこの映画のクリップを貼りつけます。ありがたいことに、富樫雅彦の出演シーンです。音に動きをシンクさせていないのは残念ですが。

八木正生「Bフラットのブルース」(映画『さらばモスクワ愚連隊』より)


なかなかいいプレイで、脊椎損傷で下半身不随になってしまったのは、ほんとうに残念なことだと感じます(Wikiでも「事故」としているし、手元に資料がないので、詳しく書くことは避けるが、当時は「事件」として報道された。刃物で刺されたと記憶している)。

『さらばモスクワ愚連隊』という映画そのものは、すでに記憶から脱落していて、期待したほどは面白くなかった、という「感触」だけが残っています。

加山雄三は元ピアニストのプロモーターで、ジャズを通じて日ソ交流を試みて、政治的な理由から挫折する、といったようなプロットだったと記憶しています。

盤にはクレジットがないのですが、当時の雑誌記事では、加山雄三がピアノをプレイするシーンで流れたのは菊地雅章のプレイだと報道されていました。そのプレスコに、加山雄三がまじめに動きをシンクさせていたことが、この映画でもっとも強く印象に残ったことです。

いまでもそうでしょうが、当時は楽器をプレイできる主演クラスの俳優というのは見あたらなくて、そういう場面は、子どもにとってはフラストレーションばかりを感じるものでした。だから、加山雄三の本気の「シンク」に強い感銘を受けました。

一般映画でもそうですが、音楽がテーマになった映画は、これくらい本気でやってほしいものです。さりながら、俳優がまじめに楽器をプレイする演技をしたものといって、あとは『アマデウス』ぐらいしか思いつきません。

上掲のクリップのようなタイプの音のほうがわたしは好ましく感じますが、当時からすでに富樫雅彦はフリー・フォームのほうに傾斜していて、そういう雰囲気がいくぶんかあらわれたトラックがあるので、それをサンプルにします。

サンプル 八木正生&黛敏郎「モスクワの別れ」

黛敏郎はオーケストラ曲とクラシック・ピアノの曲、八木正生はコンボの曲とジャズ・ピアノの曲、というような役割分担だろうと思うのですが、この曲はジャズ・コンボにオーケストラをかぶせてあって、ここまでくると、どちらの仕事ともつきません。

すべてのパーソネルがわかっているわけではありませんが、いちおうコピーしておきます。

ピアノ……八木正生
ピアノ……宮沢明子
ドラム……富樫雅彦
トランペット……日野皓正
トロンポーン……東本安博
クラリネット……宮沢昭
ギター……沢田駿吾

ピアノが二人いますが、ジャズ系の曲は八木正生自身、宮沢明子がプレイしたのは、クラシック・ピアノのトラックでしょう。一曲だけ、ロック系のトラックがありますが、そちらは八木正生や富樫雅彦のプレイではなく、加山雄三周辺のバンドによるものではないでしょうか(寺内タケシとブルージーンズ、ワイルド・ワンズ、ランチャーズなど)。

もう一曲、ストレートな4ビートのトラックをサンプルにします。これまたけっこうなドラミングです。

サンプル 八木正夫「マイルス・ジョンソン・クインテットのコンサート・シーン」

わたしはすぐにジャズへの関心を失ってしまったので、復帰後の富樫雅彦のプレイというのを聴いたことがありませんでした。見つかったクリップはほとんどフリーフォームで、あまり趣味ではないのですが、ひとつ、ストレートなもの、しかも、プレイぶりが見られるものがありました。

Masahiko Togashi & J.J.Spirits - Memories


イントネーション、アクセントの付け方というのは、あまり変わらないもののようです。強いアクセントは若いころと同じようなイントネーションに聞こえます。

もうひとつ、富樫雅彦のクリップをおきます。ドン・チェリーおよびチャーリー・ヘイデンと共演したアルバムから。フリー・フォームなのですが、ドラム好きにはなかなか面白い曲です。

Masahiko Togashi, Don Cherry & Charlie Haden - June


音楽形式は異なっていても、ドラマーの本性というのは、かならずあらわれるものだなあ、と感心しました。タイムも変化しないものですが、イントネーションもまた、ドラマーの本然からわきあがってくるエモーションが、耳に聞こえる形としてあらわされたものなのでしょう。

タイトルに書いたとおり、もう一枚『白昼の襲撃』のOSTについても書くつもりだったのですが、まじめに富樫雅彦のプレイを聴いていたら疲労困憊してしまったので、そちらのほうは次回送りとさせていただきます。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



黛敏郎および八木正生(CD)
さらばモスクワ愚連隊(オリジナル・サウンドトラック)
さらばモスクワ愚連隊(オリジナル・サウンドトラック)


日野皓正クインテット(CD)
白昼の襲撃(オリジナル・サウンドトラック)
白昼の襲撃(オリジナル・サウンドトラック)
[PR]
by songsf4s | 2012-01-15 23:56 | 映画・TV音楽
スウィング発→ロックンロール直行便――映画『ベニー・グッドマン物語』をめぐって
 
前回のアンドルーズ・シスターズ駆け足紹介をご覧になって、パイド・パイパーズを思い起こしたと、ツイッターで反応なさった方がいらっしゃいました。

The Pied Pipers - Route 66


「ルート66」というのは、子どもにはそれほど面白いドラマではなく、なんだか車が走ったり止まったりしていたなあ(当たり前だ!)ぐらいの記憶しかないのですが、曲は印象に残りました。作者はジュリー・ロンドンの夫君にしてシンガー、ピアニストのボビー・トゥループです。

当家で過去に紹介したパイド・パイパーズの曲は、クリップがなくて、ついこのあいだ、クリスマス・ソング特集の補綴のために、サンプルをアップしました。ここに再度貼りつけておきます。

サンプル Johnny Mercer with the Pied Pipers and the Paul Weston Orchestra "Jingle Bells"

ジョニー・マーサーのすっとぼけたキャラクター、パイド・パイパーズの柔らかいハーモニー、ポール・ウェストン・オーケストラの生き生きとしたグルーヴ、三位一体のすばらしいジングル・ベルズです。

1940年代の音楽を聴いていて思うのは、なぜこの流れがいったん断ち切られたのだろうか、ということです。戦時と戦争直後のハイ・テンションをいったん冷ます必要があったのでしょうか。

そのことを意識するようになったのは、この映画を見たのがきっかけになっています。トランペット・ソロはハリー・ジェイムズ、ドラムはジーン・クルーパ。いや、つまり音だけではなく、画面にもホンモノが登場しているという意味です。

映画『ベニー・グッドマン物語』よりSing Sing Sing


感じ方は人によってさまざま、よそさんのことは知りませんが、わたしはこういうグルーヴに、モダン・ジャズ的なものは感じません。なにを感じるかといったら、ロックンロール・スピリットです。

高校のころ、団塊の世代のモダン・ジャズ・ファンにゴチャゴチャいわれたのをいまだに根に持っているのと、新宿のジャズ喫茶なんてものに足を踏み入れてみたら、じっと黙って目をつぶり、陰険に音楽を聴いているゾンビの群がいて、ゾッとした記憶があるためですが、わたしは、いまだにいわゆる「モダン・ジャズ」にはいくぶんかの反感をもっています。

そういうもやもやしたものを、言語化できないまま大人になり、リヴァイヴァルで『ベニー・グッドマン物語』を見て、なんだ、モダン・ジャズのほうが鬼子だっただけじゃないか、と膝を叩きました。

アメリカ音楽の歴史は、モダン・ジャズとクルーナー時代を飛ばして、スウィングからロックンロールへと直接つなげれば、なんの疑問もなく、すっきりきれいに流れます。

映画『ベニー・グッドマン物語』よりLet's Dance/Stompin' At The Savoy


このあたりは、ベニー・グッドマンがまだ大物になっていない1930年代終わりの出来事ですが、いずれにせよ、このような新しいダンス・ミュージックが、スウィングという名のもとに40年代の潮流を形作ります。

後年のモダン・ジャズのようにインテリジェントでハイ・ブロウなものではありませんが、しかし、わたしは音楽をきわめて肉体的なものと考えているので、どちらがよりエッセンシャルであるかといえば、考えるまでもなく、スウィングのほうに軍配をあげます。人間の根元的音楽衝動により忠実なグルーヴです。その意味で、精神においてロックンロール的であって、アンチ・モダン・ジャズ的なのです。

映画としては、この前年に製作された『グレン・ミラー物語』のほうが出来がよかったのですが、つぎのシーンは強く印象に残りました。映画的に、ではなく、音楽的に、です。

映画『ベニー・グッドマン物語』よりOne O'Clock Jump


曲がはじまったときと後半では、客の数がぜんぜん違うという「映画的詐術」がおこなわれていますが、はじめて見たとき、なんとロックンロール的な、と思いました。

ダンスをするための音楽であり、同時に聴くための音楽である、という意味で、スウィングとロックンロールは「同系統」の音楽だということが、このシークェンスには端的にあらわれています。

レス・ポールがいっていました。マイルズ・デイヴィスに、どうしたらシングル・ヒットが出るんだときかれて、こう答えたのだそうです。「自分のために音楽をやっていたのでは駄目だ。彼らのための音楽をやるんだ」

モダン・ジャズというのは、音楽的にではなく、概念的に定義するならば「彼らのための音楽を軽蔑し、否定することによって自己を規定する音楽」といっていいでしょう。さすがにレス・ポールはスウィングの時代を生きたプレイヤーだけに、モダン・ジャズの根本的な欠陥が一目でわかったから、マイルズ・デイヴィスに、ストレートにそのことをいったのだと想像します。

『ベニー・グッドマン物語』製作の動機は、たんに1954年の『グレン・ミラー物語』がヒットしたので、その余慶にあずかろうという、どうということのないものだったのでしょう。

しかし、それでもなお、モダン・ジャズの時代が下り坂に入り、まさにロックンロールが生まれようとしていた時期に、スウィング・ミュージックをあつかった映画が立てつづけに製作され、どちらもヒットしたことは、たんなる偶然ではないと思います。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう


パイド・パイパーズ
Dreams From the Sunny Side of the Street
Dreams From the Sunny Side of the Street


ジョニー・マーサー(すくなくとも数曲でパイド・パイパーズがコーラスで参加している)
Collector's Series
Collector's Series


DVD
グレン・ミラー物語 / ベニイ・グッドマン物語 Great Box [DVD]
グレン・ミラー物語 / ベニイ・グッドマン物語 Great Box [DVD]
[PR]
by songsf4s | 2011-12-19 23:56 | 映画・TV音楽
続ジェイムズ・ボンド・テーマはだれがつくったのか: モンティー・ノーマンによる原曲(のようなもの)
 
前回の「ジェイムズ・ボンド・テーマはだれがつくったのか: ヴィック・フリック・ストーリー」なる記事をお読みになって、Wall of HoundのO旦那がメールをくださいました。

以前、ジェイムズ・ボンド・テーマの問題を書いたときにも、O旦那にコメントをいただいたのですが、今回はそれを補足する形で、モンティー・ノーマンが、『ドクター・ノオ』のテーマとして加工するようにと、ジョン・バリーに渡したという曲を聴かせていただきました。同じものを以下に貼り付けます。

Monty Norman - Good Sign, Bad Sign


わっはっは! メロディー部分ではなく、あの半音進行の有名なギター・リック(もちろん、昔の子どもはギターを持つとすぐに試したリフ!)が、このGood Sign, Bad Signという曲ではヴァースのメロディーになっているわけで、変な曲、としかいいようがありません!

さて、これだけつくってあれば、この曲の作者がすなわちジェイムズ・ボンド・テーマの作者といえるか否か?

逆のケースを考えたほうがよさそうです。James Bond Themeという曲の作者がジョン・バリーとされていたとしましょう。それに対して、モンティー・ノーマンは、あの曲のギター・リックは、わたしが1959年に書いたGood Sign, Bad Signのメロディーの一部を利用している、したがって、あの曲の作者はジョン・バリーではなく、わたくしモンティー・ノーマンである、という訴訟を起こしたら、どういう結果になったでしょう?

わたしは、モンティー・ノーマン敗訴だと思います。こんな音のきれっぱし、どこにでもある自明のものである、わずか四音の四分音符のみでは著作物とは認められない、以上、原告敗訴、と裁判官は断ずるのじゃないでしょうか。

いや、わずか四つの四分音符ながら、たしかにあれは重要なリックです。でも、それをいうなら、有名なギター・イントロなどにも著作権が認められることになるわけで、昔からそのたぐいは門前払いと決まっています。チャック・ベリーのギター・イントロはコピーし放題なのです。

あのリックを装飾として配置しつつ、一貫した曲を書いたのはジョン・バリーです。法が裁けないのなら俺が裁く、というミッキー・スピレイン流ア・ラ赤いハンカチ風にいうなら、クレジットや裁判所がどういおうと、やはりJames Bond Themeの作者はジョン・バリーです。

そもそも、音楽はメロディーだけで成り立つものではありません。どういうコードをつけ、どういう楽器にどのパートをプレイさせるか、そして、それをどのように録音し、なにを強調してバランシングをおこなうか、こうしたすべてが最終的な音のテクスチャーを決定するのが、モダーン・レコーディッド・ミュージックの本質です。

モンティー・ノーマンはこのリックの作者かもしれませんが、James Bond Themeの作者というには不満足な仕事しかしていないと、わたしは考えます。

前回、ヴィック・フリックのギターを聴いていて、思いだしたものがあるので、つぎはそれを取り上げると予告しました。いちおう、一通り聴きなおし、途中まで選曲もしたので、正真正銘、次回こそはそれをいってみる予定です。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



ジェイムズ・ボンド映画音楽集
Best of Bond: James Bond (Score)
Best of Bond: James Bond (Score)
[PR]
by songsf4s | 2011-09-01 23:54 | 映画・TV音楽
ラロ・シフリン・フィルモグラフィー2 ヘンリー・レヴィン監督『サイレンサー殺人部隊』後篇
 
ハル・ブレインのオフィシャル・サイトは、いつも工事中のようで落ち着きがなく、そのわりにはあまり新しいデータも出てこなくて、めったに行くことはありませんでした。

しかし、一昨日、検索していてたまたま飛び込んだら、ディスコグラフィーが一新され、いままではリストアップされていなかったアルバム・トラックなどが大量に追加されたばかりでなく、多くのトラックにハルのコメントも付されていました。

もちろん、いずれ当家でも新規のトラックや新発見の事実についてはまとめて取り上げるつもりですが、それは先のことになるかもしれないので、とりあえず、更新されたことをお知らせしておきます。

◆ King of No Marrying Kind ◆◆
前回の最後に、ギター入りのインスト・ヴァージョンをあげておいた、ラロ・シフリンとハワード・グリーンフィールド(長年にわたってニール・セダカの共作者だった)作のI'm Not the Marring Kindには、ディーン・マーティン自身によるヴォーカル・ヴァージョンもあります。



いかにもディノにふさわしく、また(当然ながら)マット・ヘルムにもふさわしいテイラー・メイドの曲で、わたしのようなディーン・マーティン・ファンはニコニコしてしまいます。この曲のストゥールに坐ったのもハル・ブレインだということは、後半のハード・ヒットでわかります。

歌詞があるとそうでもないのですが、インスト・ヴァージョンを聴いていると、ディノがよく歌ったべつの曲と混同してしまいます。その曲を、ディノと作者ロジャー・ミラーとの共演でどうぞ。

ディーン・マーティン&ロジャー・ミラー King of the Road


いや、似ているからどうだというわけでもないのですが、映画のなかで最初にカー・ラジオからインスト・ヴァージョンが流れてきたとき、これは知っているな、ディノがよく歌っていた曲だ、とまでは思ったのですが、なかなかアイデンティファイできず、やっとのことで、「わかった、ロジャー・ミラーのKing of the Roadだ」てえんで、正解にたどり着いた気になったら、あにはからんや、違う曲だったものだから、まぎらわしいことするな! とクレイジー・キャッツになってしまったという、それだけのことです。

◆ ダンス・チューン ◆◆
『サイレンサー殺人部隊』はあまりクリップがなく、またしてもフランス語吹き替え版を貼りつけます。

敵のアジトに乗り込んだものの、敵方のボス、カール・マルデンがアン=マーグレットにブローチ型の爆弾を送ったことを知ったディノは、例の鉄頭男に邪魔されながらも、ホヴァー・クラフトを駆って、ヒロインを救いに行きます。アン=マーグレットが妙なドレスを着ている理由は最後にわかります。そのあとのラットパック楽屋落ちはたいしたことありませんが。

フランス語版サイレンサー殺人部隊パート2


子どものころ、ホヴァークラフトが好きで、一度乗ってみたいと思っていました。このシークェンスはホヴァークラフトの特性を生かして、海から陸に乗り上げ、アン=マーグレットがいるクラブ(いや、昔だからディスコテークか)まで行ってしまうのがなかなか愉快です。ただし、じっさいに陸を走るのはほんのちょっとで、あとはおそらくトラックに載せたキャメラから撮ったのでしょう。

ダンス・シークェンスなので、音楽もシンプルで、楽曲の出来がどうこうというようなものではなく、ハル・ブレインを中心としたプレイヤーたちの技量に全面的に依存しているという印象です。でも、それも音楽のひとつのありようですから。

◆ ラウンジ2種、南米風および南仏風 ◆◆
以前、べつのブログでエルヴィス映画見直しというのをやったとき、「エルヴィス映画見直し Mexico by Elvis Presley (映画『アカプルコの海』より その3)」という記事で、エルヴィスはメキシコ・ロケに行かず、彼の出演シーンはすべてハリウッドのスタジオで撮影されたように見える、それがこの映画の大きな欠点になっている、といった趣旨のことを書きました。

昔の映画では、そういうのはごく普通のことだったので、責めるつもりはありませんが、ディノも、この映画ではフランス・ロケに行かなかったのではないでしょうか。屋外のシーンはスタジオ・ロットでもかまわないようなものばかりで、いかにもフランスらしい風景のなかには、ディノの姿はありません。

小津安二郎はスクリーン・プロセスが大嫌いで、そんなことをするぐらいなら、そのシーンをカットするといっていましたが、じっさい、昔の映画はじつにスクリーン・プロセスが多く、それでリアリティーが損なわれることがしばしばありました。車のシーンにはほとんどスクリーン・プロセスを使わなかったジャン・ベッケルの『黄金の男』は、あの時代にあってはきわめて異例だったのです。

そういう時代だからしかたない、とは思うものの、『オーシャンと十一人の仲間』のレベルで気合を入れてくれれば、もう少し、いま見ても楽しいものになったのではないかと思います。まあ、オーシャンの撮影は、いわば彼らのホームグラウンドであるラス・ヴェガス、『サイレンサー殺人部隊』はリヴィエラなので、同列に論じるわけにはいきませんが、スターがヨーロッパまで行って撮っている映画だってたくさんあるのだから(アフリカまで行ったのだってある!)、ちゃんとやってほしかったと思います。

f0147840_8573264.jpg

記事を書く前に、先回りしてbox.netにアップしておいたサンプルが残っているので、最後にそれを貼りつけておきます。タイプはやや異なりますが、大きく云えばどちらもラウンジ・ミュージックです。

サンプル Lalo Schifrin "Double Feature"

ボサ・ノヴァ風で暑い季節にはもってこいのサウンドです。好きこそものの上手なれ、なんて云っては失礼ですが、ラロ・シフリンはどこかにフルートを入れずにはいられない人なので、フルートの使い方はさすがにうまいものです。同じ楽器によるアンサンブルというのは、ギターの場合で明瞭なように、おおいに魅力のあるものですが、フルートという楽器も、単独の場合より、このように複数のアンサンブルにしたときに最大限に美質が発揮されると感じます。

サンプル Lalo Schifrin "Frozen Dominique"

上述のように、この映画のおもな舞台はフランスなので、こんどはアコーディオンをリード楽器に使ったバラッドです。映画音楽をやる人はおおむねヴァーサティリティーに富んでいるものですが、ラロ・シフリンもじつに多様な技を繰り出してきます。まあ、複数のオーケストレイターがついていて、それぞれの得意分野のアレンジをやった、という可能性もありますが。

◆ まぎらわしいもの2 ◆◆
いま、忘れものに気づき、急いで補足。『サイレンサー殺人部隊』のテーマ曲には、前々回、サンプルにした「Iron Head」のような、ギター・インスト版変奏曲はあるのですが、これをカヴァーしたインスト・バンドは見当たりません。

ただし、ひとつだけ、カヴァーと云ってはいないものの、無関係とも思えない曲があります。メロディー・ラインがよく似ているのです。そして、ギター・インストです。

サンプル Billy Strange "Spanish Spy"

f0147840_0132144.jpg

ここまで似ていると、十分に盗作圏内なので、ラロ・シフリンとなにか話し合いがあったうえでやっているのではないかと推測します。もっとも可能性が高いのは、ビリー・ストレンジも『サイレンサー殺人部隊』のスコアになんらかの形で関与し、とりわけIron Headの録音では、アレンジャーand/orリード・ギタリストをつとめた、なんて線です。どちらもドラマーはハル・ブレインだし、って、これは無関係。

以上、映画としては、わたしのように、このてのまがい物007のキッチュな味を愛している人間には面白いけれど、ふつうの人は苦笑するような出来です。しかし、音楽の水準は高く、まだOSTがCD化されていないのは不当です。マット・ヘルム・シリーズをひとまとめにしてリリースしてほしいものです。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



マット・ヘルム・シリーズ(DVDボックス)
サイレンサー コンプリートBOX-マット・ヘルムシリーズ- [DVD]
サイレンサー コンプリートBOX-マット・ヘルムシリーズ- [DVD]


サイレンサー殺人部隊(DVD)
サイレンサー 第2弾 殺人部隊 [DVD]


ディーン・マーティン
Dino: The Essential Dean Martin
Dino: Essential Dean Martin
[PR]
by songsf4s | 2011-07-11 23:52 | 映画・TV音楽
ラロ・シフリン・フィルモグラフィー2 ヘンリー・レヴィン監督『サイレンサー殺人部隊』中篇
 
リプリーズ・レコード時代のディーン・マーティンのボックスを聴いて思ったのは、なんだよ、このハル・ブレインだらけは、ということです。かのEverybody Loves Somebody以降、ディノのあらゆるレコーディングで、ハルがストゥールに坐ったのではないかと思うほどです。

ディーン・マーティン Everybody Loves Somebody(リメイク45ヴァージョン ハル・ブレイン・オン・ドラムズ)


以前、書肆の求めに応じてハリウッド音楽史を書いたのですが、先様の都合でお蔵入りしてしまいました。いま、そのときにきちんと調べて書いたディノの大復活劇を参照して、三段落ぐらいにまとめようと思ったのです。しかし、そういっては手前味噌がすぎますが(いつものこと!)、入念に練り上げた(呵呵)パラグラフなので、当人にもいまさら切り刻むのは困難、そのまま貼り付けることにしました。

ジミー・ボーウェンが友人の紹介でリプリーズ・レコードに入社することになった顛末(フランク・シナトラ・リプリーズ・レコード会長がじきじきに電話してきた!)から、以下の段落へとつながります。縦組を想定した文字遣いなので、あしからず。

 ボーウェンには、リプリーズで仕事をするなら、ぜひ自分の手でレコーディングしたいと思っていたシンガーがいた。ディーン・マーティンである。希望叶って、彼は六三年の《ディーン・“テックス”・マーティン・ライズ・アゲイン》Dean "Tex" Martin Rides Againから、ディノのプロデュースを引き継いだ。前作が久しぶりにチャートインしたことを受け、同じ路線を行ったカントリーの企画盤だった。しかし、ヒットはしなかった。
 ボーウェンにとっては二枚目のディノのアルバム、六四年の《ドリーム・ウィズ・ディーン》Dream with Deanは、ラス・ヴェガスのショウのあと、いつもラウンジに場所を移して歌っていた曲を、その雰囲気のまま録音するというディノ自身が望んだ企画で、いかにも彼らしい、リラックスしたムードの好ましいアルバムだ。バーニー・ケッセル、レッド・ミッチェル、アーヴ・コトラーというウェスト・コースト・ジャズ生き残り組もすばらしいプレイをしている。だが、このメンバーからわかるとおり、シングル・カットに向くものはないし、ビートルズの嵐が吹き荒れた年には、古めかしく聞こえただろう。

f0147840_23552089.jpg

《ドリーム・ウィズ・ディーン》の録音では一曲足りなくなり、ピアノのケン・レインが、自分が昔、シナトラのために書いた曲をやってみてはどうかと提案し、その曲を録音して仕事は終わった。この埋め草の曲はあとで意味をもつが、LP自体はチャートインしなかった。
 二枚つづけて失敗したボーウェンは、つぎはヒットさせなければ、と覚悟したのではないだろうか。それまでの二枚の保守路線を捨て、ドラスティックな転換を図った。ビートルズ旋風の真っ最中だったことも、この決断に影響を与えただろうし、ディノ自身や会社上層部の同意も得やすかっただろう。
 選ばれた曲は、前作で埋め草として録音され、思わぬ好評を得たケン・レインの曲、〈エヴリバディー・ラヴズ・サムバディー〉Everybody Loves Somebodyだった。最初のジャズ・コンボ・ヴァージョンは、片手がグラスにいっている姿が彷彿とする、いかにもディノらしいインティミットな雰囲気があり、ケッセルのプレイと合わせて、なかなか楽しめる。しかし、これをシングル・カットしようと考えるプロデューサーはひとりもいないだろう。ここからが手腕を問われるところだ。
 ボーウェンは先行するヴァージョンを参照したという。わたしが聴いたことがあるのは、シナトラ、エディー・ヘイウッド、ダイナ・ワシントンの三種だが、ボーウェンはワシントンの名をあげている[*注1]。ボーウェンの構想とアーニー・フリーマンのアレンジへの影響を考えるなら、シナトラ盤よりスピードアップしたヘイウッド盤のミディアム・テンポ、ワシントン盤のストリングスがヒントになったのかもしれないが、いずれも微妙で、直接的な影響は観察できない。
 ボーウェンとフリーマンは、先行ヴァージョンには見られなかった華麗な衣装をつくりあげた。まず、ボーウェンが好んだハル・ブレインをドラムに据え、メインストリーム・シンガーの盤にしては強めのバックビートを叩かせた。ここにアップライト・ベースのみならず、ダノを加えるというスナッフ・ギャレットやフィル・スペクターの手法を適用し(ただし、完全なユニゾンではなく、アップライトと付いたり離れたりする)、エレクトリック・ギターには2&4のカッティング、ピアノには四分三連のコードを弾かせた。そして、左チャンネルには女声コーラス、右チャンネルにはストリングスとティンパニーを載せた。

f0147840_2358239.jpg

 前作にくらべると装飾過多といえるほどだが、ディノという「一昔前のスター」をよみがえらせたのは、ハルのタムにティンパニーを重ねることまでやってみせた、この厚いサウンドにほかならない。〈エヴリバディー・ラヴズ・サムバディー〉は、ビートルズの〈ア・ハード・デイズ・ナイト〉A Hard Day's Nightに替わって、六四年八月一五日付でビルボード・チャートのトップに立った。
 この大ヒットでディノは復活したどころか、キャリアのピークを迎えた。それまでのヒット枯渇が一転してヒット連発となり、秋にはフォロウ・アップの〈ザ・ドア・イズ・スティル・オープン〉The Door Is Still Openがまたしてもトップテンに入った。もちろん、スタッフは変わらず、この曲でもハル・ブレインがストゥールに坐った。そして翌年には、新たな「商品価値」を得たディノをホストにして「ディーン・マーティン・ショウ」がはじまり、九シーズンつづくヒットとなる。
 ディノという大スターが、後半生も「現役のスター」でありつづけることができたのは、〈エヴリバディー・ラヴズ・サムバディー〉というモンスター・ヒットのおかげだった。ジミー・ボーウェンという嵐の時代に適応できる二十代のプロデューサー、いまやアレンジャーとしてヴェテランになりつつあったアーニー・フリーマン、時代を背負う位置に立ったハル・ブレインの力に負うところ大だ。このスタッフはやがて、もうひとりの低迷する大スターも復活させることになる。
 しかし、大きく見れば、ディノがこのように新しい時代のメインストリーマーのあり方を示すことができたのは、ビートルズが「ルールを破壊した」結果だったと考えるべきだろう。

f0147840_0371977.jpg
左からサミー・デイヴィス・ジュニア、ハル・ブレイン、レイ・ポールマン、そしてジミー・ボーウェン。

Dream with Dean収録のオリジナル・レコーディングのクリップはありませんでしたが、ピアノ一台という点が異なるものの、以下のクリップのようなムードです。このクリップでピアノを弾いているのがケン・レインではないでしょうか。

ディーン・マーティン Everybody Loves Somebody(テレビ・ライヴ)


この話を持ち出したのは、ひとつには、「マット・ヘルム」シリーズも、ディノの大復活の延長線上でつくられたといいたかったからです。Everybody Loves Somebodyのヒットによるチャートへのカムバックがなければ、テレビのレギュラー番組も、本編のシリーズも、彼のところには持ち込まれなかったでしょう。

そして、もうひとつはハル・ブレインです。ジミー・ボーウェンはハル・ブレインとアーニー・フリーマンという彼の「手駒」に固執しました。ディノの復活によって、フランク・シナトラをプロデュースするチャンスが巡ってきたとき、ボーウェンはアレンジャーからプレイヤー、さらにはエンジニアにいたるまで、シナトラの従来のスタッフを退け、彼のスタッフである、アーニー・フリーマン、ハル・ブレイン。エディー・ブラケットを配置し、同じようにフランクもビルボード・チャート・トップに返り咲かせます。

いわゆる「シナトラ一家」(アメリカでは「ラットパック」と呼んでいる)はみな義理堅かったように見えます。しかし、その義理堅さは異なった形をとって顕れたように思います。

シナトラは、ボーウェン=フリーマン=ブレイン=ブラケットで世紀のカムバックを成し遂げたあとも、このヒット・レシピには固執しませんでした。ハル・ブレインは2曲のチャートトッパーをはじめ、彼にいくつもヒットをもたらしたのに、ついに「シナトラのドラマー」にはなりませんでした。フランク・シナトラは古い付き合いを途絶えさせることなく、その後も、ネルソン・リドル、ビリー・メイといった昔馴染みのアレンジャーを起用しました。これも彼の義理堅さゆえのことなのでしょう。

f0147840_081366.jpg
「シナトラ会」の会合 集合したかつてのシナトラのアレンジャーたち。左から、ビリー・メイ、ドン・コスタ、会長その人、そしてゴードン・ジェンキンズ。まるで「生きているアメリカ音楽史」たちの記念写真。

いっぽう、ディーン・マーティンは、彼に再び栄光をもたらしたスタッフを大事にしつづけたように見えます。だから、以後、可能なかぎりハル・ブレインが彼のセッションのストゥールに坐るように気を配ったのではないでしょうか。まあ、なかば成田山のお札みたいな験かつぎだったのかもしれませんが。

ハル・ブレインはポップ・フィールドではキングでしたが、映画の世界はべつです。彼が音楽映画以外でスコアもプレイした例は、それほど多くないでしょう。AIPのビーチ・ムーヴィーなどは、ハル・ブレインだらけのスコアがあったりしますが、一般映画ではそれほどプレイしていないと思います。

それなのに、マット・ヘルム・シリーズでは、ハルのプレイがそこらじゅうにばら撒かれているのはなぜか、と考えると、むろん、映画スコアにも8ビートが求められる時代になったからという側面もあるでしょうが、同時に、ディノの希望もあったのではないか、という気がしてきます。カムバック以後のディノは、ハル・ブレインをヒットのお守りのように思っていたのではないでしょうか。いや、まったくの憶測ですが。

◆ ラウンジ・タイム ◆◆
今回で『サイレンサー殺人部隊』は完了のつもりだったのですが、なぜこの映画はハル・ブレインだらけなのか、と考えているうちに、脇筋に入り込んでしまったので、今日はちょっとだけ聴いて、次回完結ということにします。

『サイレンサー殺人部隊』よりカー・チェイス・シークェンス


ここはちょっと笑いました。マット・ヘルムが「フランス警察に告ぐ。この車にはinnocentな(=無辜の)女性が乗っている」と表示する(!)のですが、それでも警察は撃ってきます(音声認識して文字に変換する技術もすごいがw)。それでディノがつぶやきます。

「フランスの男らしいぜ。この世にinnocentな(=清純な)女の子がいるなんてことは、てんから信じていないとくる」

まあ、フランスだとかイタリアだとかいった国に対して持っているイメージは、わたしの場合もマット・ヘルムと似たようなものです!

いったん、追跡者を振り切ったところで、ハープシコードをあしらったけっこうなラウンジ・ミュージックが流れるのですが、あまりよく聞こえないし、すぐに終わってしまうので、サンプルにしました。

サンプル Lalo Schifrin "Suzie's Themre"

一難去ってまた一難、警察のつぎは悪漢に追跡されますが、こんどは「この文字が読めるとしたら、車間距離を詰めすぎです」とテールに表示されるので、また笑いました。この手のジョークは豊富な映画で、それでうかうかと最後まで見てしまったのでありました。

もう一曲、ラウンジ系のものをサンプルにしました。

サンプル Lalo Schifrin "I'm Not the Marrying Kind"

この曲は、最後にディノのヴォーカル・ヴァージョンも出てきますが、サブ・テーマという感じで、二種のインスト・ヴァージョンも使われます。おおむねノーマルなラウンジ・ミュージックなのですが、途中で入ってくるギターがベラボーにうまいところが、いかにもこの時代のハリウッドらしいところです。ハワード・ロバーツなのかトミー・テデスコなのか、はたまたクレジットされていないギタリストなのか、そのへんはわかりませんが。

ベースはアップライトなので、当然、キャロル・ケイではなく、未詳のプレイヤーによるものです。このセットのときは、ドラムもハル・ブレインではなく、アール・パーマーだろうと推測できます。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



マット・ヘルム・シリーズ(DVDボックス)
サイレンサー コンプリートBOX-マット・ヘルムシリーズ- [DVD]
サイレンサー コンプリートBOX-マット・ヘルムシリーズ- [DVD]


サイレンサー殺人部隊(DVD)
サイレンサー 第2弾 殺人部隊 [DVD]


ディーン・マーティン
Dino: The Essential Dean Martin
Dino: Essential Dean Martin
[PR]
by songsf4s | 2011-07-09 22:58 | 映画・TV音楽
ラロ・シフリン・フィルモグラフィー2 ヘンリー・レヴィン監督『サイレンサー殺人部隊』前篇

当家のお客さん方には事新しく申し上げるほどのことではありませんが、1960年代中期、ハリウッドでつぎからつぎへとヒットを生んだ一群のスタジオ・プレイヤーたちを、後年、ハル・ブレインは「レッキング・クルー」と名づけました。

これは彼の回想記Hal Blaine & the Wrecking Crewによって広まり、まるでそのようなバンドが存在したかのように語られることになりますが、キャロル・ケイはこれを真っ向から否定しています。ハルが勝手にでっちあげた名前に過ぎず、当時からそう呼ばれていたわけではない、というのです(したがって、なんという表題だったか、時間旅行をして、ブライアン・ウィルソンに『スマイル』を完成させようという物語のなかで、ブライアンがプレイヤーたちを「レッキング・クルー」と呼ぶのは大間違いのコンコンチキ。いや、主人公はわれわれのとは異なる時間線に迷い込んだのかもしれないが)。

f0147840_233197.jpg

キャロル・ケイのいうことが正しいのであって、ハルは「吹いた」のだろうと思いますが、なんだって名前がないと不便ですから、ビリー・ストレンジやトミー・テデスコなど、クルーの中核的プレイヤーにもこの名称は追認され、やがて、この名称をタイトルとしたドキュメンタリー映画までつくられるにおよびました。わたしは、CKさんのおっしゃることも尊重しつつ、名前はあったほうがいいという立場から、留保つきでこの名称を使っています。

(いわゆる)「レッキング・クルー」という名前を、ハル・ブレインはどこから思いついたのでしょうか。回想記のなかでは、われわれより前の世代のプレイヤーはスーツにネクタイという姿でスタジオにやってきた、だが、われわれはジーンズとTシャツだった、彼らはわれわれのことを、スタジオ文化を「破壊する」(wreck)輩だといった、と説明しています。

つまり、旧弊なサウンド・パラダイムを破壊し、新しい音をつくる集団、というのがハル・ブレインの命名意図だったようです。

しかし、いっぽうで、映画から思いついたのだろう、という外野の声もあります。

f0147840_2358254.jpg

日本では「サイレンサー」シリーズなどと呼ばれていましたが、アメリカでは主人公の名前をとって「マット・ヘルム」と呼ばれた、ドナルド・ハミルトン原作のスパイ・アクション・シリーズ第四作『サイレンサー破壊部隊』というものです。

たまたま、というか、ハルはこの映画から「レッキング・クルー」という名前を頂戴したと見る立場からは必然でしょうが、テーマをはじめ、この映画のスコアのあちこちでハルのドラミングを聴くことができます。

やれやれ、長いイントロでしたが、ということで、ラロ・シフリン・フィルモグラフィー・シリーズの2回目は、1966年のマット・ヘルム・シリーズ第二作『サイレンサー殺人部隊』です。

◆ ロッキン・スコア ◆◆
まずは、主演俳優がみずから紹介するめずらしい予告編を貼りつけます。

『サイレンサー殺人部隊』オリジナル・トレイラー


いまどきのタームでいえば「スパイ・ファイ」(Spy-Fi。スパイとSci-Fi=サイ・ファイ=サイエンス・フィクションを合成した語で、SF的要素のあるスパイものを指す)、昔はたんにスパイ映画などといっていた、諜報組織に属すエイジェントをヒーローにした、ジェイムズ・ボンド類似のアクション映画です。

ボンドは実在の組織に属していましたが、たとえば「ナポレオン・ソロ」のU.N.C.L.E.のように、この種のお話では架空の組織もしばしば登場することになっていて、ディーン・マーティン扮するマット・ヘルムは、I.C.E.すなわちIntelligence Counter Espionage(しいて訳すなら「防諜部」といったぐあいの凡庸な名称)に属しています。なんて、わざわざ書くほどのことでもないのですが。

さらにどうでもいいことですが、マット・ヘルムは今回も、前作『サイレンサー沈黙部隊』同様、世界征服を目指す秘密組織BIG O(なにを略したかは略す)が秘密兵器「ヘリオビーム」(ヘリウムを利用したレーザー光線のようなものを想起させたいのだろう)なるものでワシントンを破壊しようという陰謀に立ち向かいます。文字で読むと馬鹿馬鹿しく見えるでしょうが、映画で見るともっと馬鹿馬鹿しいのです。

でもまあ、小学校の終わりから中学にかけて、こういうスパイ・ファイにどっぷり漬かっていたので、わたしの場合は(ほかの人のことは断じて知ったことではない!)、あちこちに埋め込まれた手抜きにニヤニヤしながら、なんとなく最後まで見てしまいます。あの時代にしかないタイプの映画であり、70年代には絶滅してしまったからです。

いくつか気の利いた台詞がありますし、知っていればちょっと笑う楽屋落ちもあるので、百人のうち三人ぐらいは、これはこれで面白い、という方もいらっしゃるかもしれません。映画はその程度の出来ですが(しつこいが、わたしはこういうBムーヴィーをそこそこ好む)、あの時代の音楽がお好きな方なら、ちょっと身を乗り出すようなスコアです。

サイレンサー殺人部隊』タイトル・シークェンス


わっはっは、です。スネア、タムタム、フロアタムと流すストレート・シクスティーンスを聴いただけで、ハル・ブレインとわかる派手さです。Jazz on the Screenデータベースにはドラムはアール・パーマーだけ、先日、三河のOさんが教えてくださった強力なラロ・シフリン・ディスコグラフィーにはベースのキャロル・ケイの名前しかありませんが、この場合はまったく問題ありません。百パーセントの自信をもって、テーマをプレイしたドラマーはハル・ブレインと断言します。

いちおう、Jazz on the Screenのパーソネルをペーストしておきます。

Inc: Bud Shank, Plas Johnson, reeds; Howard Roberts, Tommy Tedesco, guitar; Carol Kaye, acoustic double bass; Earl Palmer, drums; Emil Richards, percussion.

キャロル・ケイはアコースティック・ダブル・ベースと書かれていますが、彼女はフェンダーしかプレイしないので、これは記載ミスです。ただし、スタンダップ・ベースの音がするトラックはあるので、だれかがプレイしたはずですが。

『ブリット』同様、バド・シャンクがフルートのようですが、プラズ・ジョンソンも、サックスではなく、木管(reed)と書かれています。

プラズはアルトとテナーのクレジットしか見たことがありませんが、フルートもプレイしたのかもしれません。仕事でやるかどうかはべつとして、木管プレイヤーはたいていフルートの経験もあるはずですから。でも、あまり見ないということは、たとえフルートをプレイするとしても、テナー・サックスの場合のような圧倒的技量ではなかったのでしょう。

◆ ハル・ブレイン・ストライクス ◆◆
フランス語吹き替えがちょっと珍なのですが(まあ、それをいうなら、日本語吹き替えのほうがもっとずっと珍だが)、つぎはディノがクラブでアン=マーグレットと知り合う場面。



はじめのほうで歌っているのはディノ・デジ&ビリー、すなわちディーン・マーティンの息子のバンドです。もちろん、ディノ・デジ&ビリーの盤の多くはハル・ブレインがプレイしていますし、この曲もまたどこからどう見てもハル以外にはありえないというプレイです。

ハルがStraight sixteenth against shuffle=「シャッフル・ビートに逆らう16分のパラディドル」と呼んでいるイディオムが多用されていますが、Straight sixteenth against shuffleをこういうアクセント、ニュアンスでプレイするドラマーはハル・ブレインしかいません。

この映画でもっとも好きなトラックは、残念ながらクリップが見当たらないので、サンプルをアップします。メロディーはメイン・タイトルと同じ、リード楽器をギターにしただけの変奏曲なのですが、やっぱりギターだと盛り上がり方が数段違うなあ、と思います。

サンプル Lalo Schifrin "Iron Head"

かつてのジェイムズ・ボンド・シリーズには、かならず敵側の強力な殺し屋というのが出てきましたが(ジョーズだのグレート・トーゴーだの、印象深い敵役がたくさんいた)、この曲のタイトルになっている「鉄の頭」というのも、頭に鉄板を貼りつけた(『宇宙大作戦』のミスター・スポックの髪型に似ている!)ゴリラ野郎のことです。

f0147840_07622.jpg

この鉄板の由来がどこかで説明されるのかと思ったのですが(たとえば、ロボトミーをしたあとで鉄板をかぶせたといった、いかにもSpy-Fi的な趣向だとか)、ついに説明されませんでした。マット・ヘルムが鉄板を殴って痛がるシーンがありますが、それぐらいの用途しかないようです!

で、ディノと鉄頭が格闘する場面で、この典型的なスパイ・アクション・ギター・インストが流れます。典型的過ぎて、半歩パロディーに踏み込んでいるところがこのトラックの魅力ですが、そのあたりを意識していたのか、無意識だったのか、微妙なところです。

f0147840_072410.jpg
この鉄頭、殴られても痛くない、などというくだらない用途しかないだけでなく、最後は電磁石に頭が貼りついてしまうという情けない事態になる。

いうまでもなく、この曲もドラムはハル・ブレインと一小節でわかります。ギターは、12弦だけでなく、6弦も重ねられているのかもしれませんが、だれでしょうねえ。クレジットがあるのはトミー・テデスコとハワード・ロバーツのみ。この二人のデュオでしょうか。

映画としては、とくにすぐれているわけではないのですが、音楽を聴くと、やはりどれも捨てがたく、まだ佳曲があるので、次回はラウンジ的なものを中心に、さらに『サイレンサー殺人部隊』をつづけます。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



マット・ヘルム・シリーズ(DVDボックス)
サイレンサー コンプリートBOX-マット・ヘルムシリーズ- [DVD]
サイレンサー コンプリートBOX-マット・ヘルムシリーズ- [DVD]


サイレンサー殺人部隊(DVD)
サイレンサー 第2弾 殺人部隊 [DVD]
[PR]
by songsf4s | 2011-07-08 23:23 | 映画・TV音楽
ラロ・シフリン・フィルモグラフィー1 ピーター・イエイツ監督『ブリット』後篇
 
『ブリット』でもっとも印象が強かったのは、もちろん、カー・チェイス・シークェンスですが、あれが印象に残らなかったらどうかしていることになるので、ノー・カウントという感じがします。

もうひとつ、その後もずっと忘れなかったショットは、じつに地味なもので、おそらく、たいていの人は気にもとめないだろうと思います。

f0147840_23283661.jpg

というショットです。これは食料品店で買物をしたブリットが道路を横断するだけの、とくに重要ではないショットですが、子どものわたしには、紙袋の口をあけたまま胸のところに抱えてもつのが、なんとも粋に感じられました。

いまでも、男が食料品を買うなら、あのようにもつべきであって、いわゆるレジ袋は、人間の尊厳を損ねる代物と感じます。一定以上の年齢の方は、かつて、どこのスーパーもあのような紙袋を使っていたことをご記憶でしょう。あれにもどせばいいんです。

しかし、映画の記憶というのはじつに奇妙だと思います。ほかの重要なショットは忘れたのに、スティーヴ・マクウィーンが食料品を抱えて歩く姿が非常によかった、ということはついに忘れませんでした。

f0147840_23295171.jpg
前述の道路を横断するショットのつぎに出てくる、ブリットがアパートの階段を上る場面。この映画で唯一の、サイケデリックの時代らしい意匠は、このアパートの廊下に張られたポスター。

たとえば、ジャン=ピエール・メルヴィルの『サムライ』で忘れがたいのは、Tシャツ一枚のアラン・ドロンが撃たれた傷の手当てをするショットです。鏡に映ったドロンのTシャツが見慣れぬものだったのです。

f0147840_23325123.jpg

いえ、いまではあたりまえのTシャツです。しかし、あの映画を見たとき、中学生のわたしはランニング・シャツかVネックの半袖シャツを着ていました。あのようなデザインのアンダーシャツがあることに驚いたのでした。

映画というのは、ともすれば、そのような重要性の低いショットで記憶されてしまうものなのではないでしょうか。

◆ 現実音3種 ◆◆
アクション映画といえども、当然ながら、アクション・シーンだけで成り立っているわけではなく、スコアもタイプの異なるものが使われますし、放送やクラブなどの現実音もあります。

以下は、開巻まもなく、ブリットが恋人(ジャクリーン・ビセット)と食事にいった店で流れている音楽ですが、ライヴ・バンドが入っている店という設定で、むろんじっさいにプレイしたメンバーとは異なるものの、バンドの姿もフィルムに捉えられています。以下のクリップは、盤ヴァージョンではなく、オリジナルの映画ヴァージョンを使っています。

『ブリット』より A Song for Cathy


やはり1968年という時代を反映して、木管プラス3リズム(この編成はいい。ピアノではなく、ギターなのが好み。ギターとフルートは相性がいい)という、比較的ノーマルなジャズ・コンボの形式をとりながら、全体としては、かすかなサイケデリック味のある、ポップ・チューンになっています。

わたしがあのとき大人で、1968年に映画のなかでこの曲にぶつかれば、これは、と思って、音楽監督の名前を記憶したにちがいありません。あの時代にしか生まれないような、折衷的サウンドです。

これがもうちょっとあとになると、この種の曲をやるなら、ベースはスタンダップではなく、フェンダーでしょう。1967年にはスタンダップしかプレイしていなかったスティーヴ・スワローが、1971年の日比谷公会堂では、半分ほどはフェンダーを使ったことを思い起こします。そういう転換期だったことの、この曲はドキュメントになっているように感じます。

もう一曲、同じシーンで使われるものですが、劇中では背景ノイズにまぎれてほとんど聴こえないトラックです。

『ブリット』より Cantata for Combo


これまた折衷的サウンドで、いまになると、いかにも転換期のトラックに感じられます。映画のなかではよく聴こえないのは、じつに残念です。

つぎは安ホテルの部屋に警護つきで閉じ込められた証人が、手持ちぶさたでラジオのスウィッチを入れる、というシーンで、ラジオから流れてくる、この映画で唯一の、折衷的ではない、ストレートなロック系の曲です。

『ブリット』より Hotel Daniels (Radio Source)


このメンバーなら、こういう曲は当然アール・パーマーであってしかるべきですが、そのようには聴こえません。あちこちで突っ込んでいて、まるでジョン・グェランのような、エースらしからぬプレイです。

ギターはハワード・ロバーツとボブ・ベインだけしか名前が挙がっていません。いくらセッション・ワークとはいえ、ロバーツやベインのようなヴェテランがこういうプレイをするかなあ、とも思います。

トミー・テデスコはあるとき、コンダクターに「ヴァン・ヘイレン風にやってくれ」といわれ、だれだそいつは、といったら、かたわらの若いギタリストに、デタラメに弾けばいいんだ、といわれ、デタラメに弾いたら、ワン・テイクでオーケイだった、といっています。ハワード・ロバーツも、クラプトン風に弾いてくれとかなんとかいわれて、だれだそいつは、ときいたら、デタラメにやればクラプトン風になるといわれて、デタラメに弾いたのかもしれません。

冗談はさておき、このトラックにかぎっては、オルガンはべつとして、あまりプロらしく聴こえません。どうせAMラジオから流れる設定、ダイナミック・レンジはうんと狭くすることになる、というので、よそでとった若いプレイヤーのトラックをもってきたのかもしれません。

◆ アクション、アゲイン ◆◆
映画から切り離し、盤で聴いても、『ブリット』は佳曲目白押しで、里程標的なアクション映画にふさわしいスコアだと感じます。

つぎはふたたびアクション映画らしいサウンドを。証人が死亡したことを隠すために、早朝、病院から遺体を運び出すシーンで流れる曲です。

『ブリット』より Quiet Morning


もったいない、これだってテーマに使えたのに、といいたくなります。一瞬しか流れないストリングスのアレンジとサウンドもおおいに好みです。

アコースティック・ギターのアルペジオが入って、後半はドラムレスのテーマの変奏曲になります(この部分は映画では流れない)。ギターは当然ハワード・ロバーツとボブ・ベインとして(リードは前者か)、フルートはバド・シャンク、テナー・サックスはプラズ・ジョンソン、ピアノはマイク・メルヴォインといったメンバーと考えられます。

久しぶりに『ブリット』を見て、ほうと思ったのは二点。このころからズーム・レンズが多用されるようになったと思うのですが、開巻まもなく、ビルの上から道路の車の行き来に、慌てず騒がずじりじりと寄っていくズームの使い方に感嘆しました。

自分でヴィデオカメラで撮影してみて、パーンとズームはゆっくりと、と言い聞かせても、やはり、下手くそなドラマーがフィルインで突っ込むようなタイミングになってしまうことが、骨身に徹してわかりました。ズーム・レンズは好きではないのですが、それでもなお、ズーム・レンズの使い方にも巧拙があり、この映画のオペレーターは第一級だと感じました。

f0147840_23402543.jpg

f0147840_23404080.jpg

f0147840_23404627.jpg
すでにアメリカン・ニュー・シネマの時代に突入していた。ニュー・シネマの視覚的な特徴はこうした望遠レンズによる絵だった。

また、スティーヴ・マクウィーンの演技も、今回の再見では興味深いものに感じられました。アクション映画のヒーローとはほど遠い、じつに言動の穏やかな男の像を手堅く作り上げています。最後に、チャーマーズ(ロバート・ヴォーン)に向かって、「知ったことか!」(Bullshit!)と怒りをぶつける場面を、強調したかったのでしょう。

犯人を射殺したヒーローは、未明に帰宅し、ガンベルトを置き、安らかに眠る恋人の姿をたしかめ、疲労もあらわな自分の顔を鏡で見ます。アクション映画の転換点になった作品らしいエンディングです。

『ブリット』より Ending Title



Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



ブリット(映画DVD)
ブリット [DVD]
ブリット [DVD]


ブリット(OST CD)
ブリット(Bullitt)
ブリット(Bullitt)
[PR]
by songsf4s | 2011-07-07 23:55 | 映画・TV音楽
ラロ・シフリン・フィルモグラフィー1 ピーター・イエイツ監督『ブリット』中篇
 
前回は、『ブリット』という映画自体にはふれませんでした。アクション映画の里程標、転換点となった作品ですから、いまさら、という気もしますが、ごくかいつまんで書いておきます。

サンフランシスコ市警のフランク・ブリット警部補(スティーヴ・マクウィーン)は、上院議員(かなにからしい)のチャーマーズ(ロバート・ヴォーン)が小委員会の参考人として出席させようとしている男を、保護するように命じられます。

『ブリット』フル パート2


この証人は「組織」の金を盗んでシカゴから逃亡してきたギャングで、ブリットは男をホテルに閉じ込め、部下二人とともに警護にあたりますが、部下がシフトについている夜間に、二人組の襲撃を受けて、証人も警官も撃たれてしまいます。

ブリットは、証人がだれに、どのように襲撃されたかを追及しつつ、いっぽうで、襲撃後、まもなく病院で死亡した証人の遺体を隠し、捜査のために死を隠蔽します。死の前日、証人を乗せたタクシーの運転手(ロバート・デュヴァル)の証言などをヒントにし、やがて、証人と思われていた男が、じつは別人だとわかり……。

◆ 「例のあの場面」 ◆◆
映画のシーンのタイプとしての「カー・チェイス」という言葉が広く使われるようになったのは、『ブリット』以後のことだったという記憶があります。

『ブリット』 カー・チェイス・シークェンス


このフェンダー・ベースもやはりキャロル・ケイでしょう。本格的な追いかけっこがはじまるまでの、サスペンスを高めていく演出と編集もちょっとしたものですし、ラロ・シフリンも、サスペンスの醸成におおいに貢献しています。

なにしろこちらは十五歳だったので、むろん、大興奮でした。いまになると中程度の出来に見えるかもしれませんが、当時は、こんなものははじめて見た、とおおいに驚きました。

たとえばジェイムズ・ボンド・シリーズのなにかで、カー・チェイス・シーンというのをすでに見ていたはずですが、そういうものとはまったく異なるものと受け止めました。

その違いはなにか? ひとことでいえば、リアリズムです。撮影方法もディテールの演出も編集も、当時としては非常に先端的で、以後、こういうものを見るたびに、『ブリット』が切り拓いた土壌の上にできたものだと、つねに意識したほどです。

その後、驚くべきカー・チェイス・シーンはいくつも見ていますが、それでもなお、今回の再見でも、これはこれでよくできたシークェンスだと感嘆しました。坂の使い方は斬新ですし、カメラに車がぶつかってくるところにも、車載カメラの「一人称視点」にも、転がるホイール・キャップにも、転倒するバイクにも、すごい、すごい、とびっくりした記憶が、あざやかによみがえりました。カー・チェイスをこのように演出したのはピーター・イエイツをもって嚆矢とする、といって大丈夫でしょう。

◆ ヒットマンの影 ◆◆
『ブリット』にも当然ながらさまざまなタイプの音が使われていますが、たとえばラウンジ的なもの、ロック・ニュアンスの強い曲といったものは次回にまわすことにし、今回は、もうひとつサスペンスフルなタイプの音楽を貼りつけておきます。

『ブリット』よりIce Pick Mike


証言者が銃撃を生き延びたので、ヒットマンはこんどはひそかに病院で襲撃しようとしますが、この男に病室をきかれた医師がブリットに知らせたために、襲撃は失敗し、男は逃走します。ブリットが逃走するヒットマンを追う、夜の病院内でのシークェンスに使われたのがこの音楽です。

ただし、このクリップは盤にするために再録音されたステレオ・トラックを使っています。べつにこちらだって悪くはないのですが、しいて優劣をつけるなら、やはり映画用のオリジナル・レコーディングのほうが、強いエッジがあって、好ましく感じます。

そういうニュアンスの違いに関心をもたれる方は多くはいらっしゃらないでしょうが、いちおう、モノーラルの映画ヴァージョンもサンプルとしてアップしておきます。

サンプル Lalo Schifrin "Ice Pick Mike" (original mono recording)

ちらっと出てくるタムタムのプレイを頼りに卦を立てるだけですが、このドラムはアール・パーマーではないでしょうか。いや、ラリー・バンカーやスタン・リーヴィーのプレイに通じているわけではないので、たんなる山勘のようなものですが。

リード楽器に使うこともあれば、あるいはちょっとしたオブリガートのこともありますが、ラロ・シフリンはほんとうにフルートの好きな人だと、この曲を聴いても思います。

次回は、上述のように、いくつかタイプの異なる、非アクション映画的な曲をあげ、『ブリット』を終えるつもりですが、それにしては残った曲数が多く、「後篇」で終わらなかった場合はどういえばいいのかと悩みつつ、今回はおしまい。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう



ブリット(映画DVD)
ブリット [DVD]
ブリット [DVD]


ブリット(OST CD)
ブリット(Bullitt)
ブリット(Bullitt)
[PR]
by songsf4s | 2011-07-06 23:44 | 映画・TV音楽