カテゴリ:Exotica( 12 )
宵待草、ラテンでやるせなさも中ぐらい哉──またもエキゾティカ・ジャポネ
 
いつもかわりばえのしない書き出しで恐縮ですが、散歩ブログを更新しました。

「コアラのサービス・ショットとウォンバットのスキル──金沢動物園オセアニア区」

◆ けっこうやるせないヴァージョン ◆◆
今日はヴァン・モリソンを聴いていたのですが、そのことはまた後日書かせていただくことにして、ここでは、「宵待ち草のやるせなさ、といって、俺のことではなし」という記事でチラッとふれたまま、宙ぶらりんになってしまった話を終わらせます。

竹久夢二作詞、西條八十補詞、多忠亮(おおの・ただすけ、大変な家系だが、その話は長くなるのでべつの機会に)作曲のこの「宵待草」のもっとも有名なヴァージョンは、たぶん昭和13年に映画化された際に、主演女優によって歌われたものでしょう。

高峰三枝子 宵待草


こんなヴァージョンもありました。

李香蘭 宵待草


リーガル・ジャズ・バンド 宵待草


リーガル・ジャズ・バンドというのは、リーガル・レーベルのハウス・バンドという意味でしょう。実体はフリーランスのプレイヤーかもしれませんが、戦前の日本のそういう方面については知識がありません。

◆ それほどやるせなくもないヴァージョン ◆◆
ここまではノーマルな、「宵待草」という曲の、いわば「表の顔」でした。当然ながら、当家の場合、主役は、そういうものとは異なる、王道を行かない変なヴァージョンです。

先日、「ここに幸あり、どこにあり──再びポール・マークのエキゾティカ・ジャポネ」という記事で、「会津磐梯山」をご紹介した、オール・スター・オーケストラのヴァージョンがあるのです。

サンプル All-Star Orchestra "Yoimachi-Guza (bolero)"

ピアノとパーカッションの使い方が好ましいアレンジで、ほう、と思いました。どういうわけか、このアルバム「A Far East Fantasy」(いやはや、なんとも胡散臭いタイトル)には、二種類の「宵待草」が収録されています。

サンプル All-Star Orchestra "Yoimachi-Guza Variation (Cugat Style)"

「クガート・スタイル」と注記が入っていますが、銅鑼の鳴るイントロは、由緒正しい「エキゾティカ・ジャポネ」です。いや、こんなものに由緒もなにもあるわけではござんせんが!

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オール・スター・オーケストラについては、さっぱりわかりませんでした。国籍すら不明なので、日本製スタジオ・プロジェクトの可能性もあります。ステレオなので、50年代末以降のものでしょう。どなたかご存知の方がいらしたらご教示を願います。

デザインや編集をなさる方はご存知でしょうが、このオール・スター・オーケストラのアルバムに使われているフォントは、Japanという名で呼ばれることがあります。ついでなので、フォント関係のサイトをいくつかあげておきます。

Japanフォントセット

日本語フォント・セット

フリー・フォント「Karate」「Shanghai」ほか

Karate dingbat

フォントの世界にも、けっこうエキゾティカ・ジャポネがあるのだな、と感心してしまったのでした。


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高峰三枝子
高峰三枝子/湖畔の宿
高峰三枝子/湖畔の宿


李香蘭
決定盤 李香蘭(山口淑子)大全集
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by songsf4s | 2011-05-28 23:49 | Exotica
ここに幸あり、どこにあり──再びポール・マークのエキゾティカ・ジャポネ
 
前回、つぎはトミー・テデスコの続きをやるようなことを書きましたが、例によって気が変わり、今回はエキゾティカ・シリーズの続きをやります。

『紳士は金髪がお好き』も途中になっているし、いろいろなものが宙ぶらりんですが、だいたい、フィクションとちがって、現実世界は万事つねに宙ぶらりんなものだから、しかたがないのです(と居直る)。どのほつれ糸も、思い出したように結びなおすときがあるかもしれません。

◆ エキゾティカの灰色領域 ◆◆
先週、「To Ryan Seとは俺のことかと「通りゃんせ」いい──ポール・マークのエキゾティカ・ジャポネ」という記事を書き、ポール・マークのアルバム、East to Westに収録されたAizu Ban Dai San、すなわち、「会津磐梯山」をサンプルにしました。

今日、box.netアカウントをチェックしたら、この曲にアクセスが集まっていて、驚きました。さんざん調べてもキャリアがさっぱりわからないぐらいなので、ポール・マークという名前で聴かれているとは思えません。なにかべつの理由によるのでしょう。

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会津だから聴かれているだけで、それ以上の意味はないのかも知れず、だとしたら、ほかの曲をアップしても意味はないでしょうが、会津磐梯山をお聴きになった方の半分ぐらいは関心をもたれるかもしれないので、同じアルバムEast to Westから、もう一曲どうぞ。

サンプル Paul Mark "Kokoni Sachiari" (ここに幸あり)

とくにアレンジがすぐれているとか、興味深いということではなく、楽曲として好きだという理由で選びました。こういうオルガンのサウンドは、すぐに陳腐化するのですが、この時点では、まだ新鮮だったのだろうと想像します。

オリジナルの映画ヴァージョンかどうかは不明ですが、ユーチューブにあったものでは最古と思われるものを貼り付けておきます。

大津美子 ここに幸あり


この曲を主題歌とした同題の松竹映画は昭和31年の封切だそうです。いかにもあの時代を感じさせる音で、イントロを聴いていると、小津映画がはじまりそうな気分になってきます。

「ここに幸あり」は、海外の日本人、ないしは日系人のあいだで人気があったのか、ほかにもアメリカ種の録音があります。

サンプル Spanky Iwamoto "Koko ni Sachi Ari"

スパンキー・イワモトというシンガーについてはまったく知識がないのですが、ハワイの日系二世なのでしょう。このあと、70年代にハワイでは英語詞による「ここに幸あり」がヒットし(Here Is My Happinessという英訳題はそのときのものか)、そのせいもあって、いまでも人気のある曲だそうです。

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アメリカ人が日本の曲をプレイするのは、エキゾティカといって差し支えないと思うのですが、ハワイ生まれとはいえ、日本人がカヴァーするのは、どういったものかな、と戸惑います。まあ、考えはじめるとよくわからなくなるところが、エキゾティカとその周辺音楽を追求する楽しみのだいじな一部なのですが。

さて、時間切れになりつつあるので、あれこれゴタクを並べずに、もう一曲、サンプルを貼り付けようと思います。先日、ポール・マーク盤をご紹介したAizu Ban Dai Sanの、またべつのアメリカ産カヴァーです。

サンプル All-Star Orchestra "Aizu Ban Dai San"

ポール・マーク同様、こちらもバイオを発見できませんでした。ルンバと注記が入っているように、ストレートなラテン・アレンジで、なにやら、妙にしっくり感じます。こういうセンスは、わたしが子供のころの日本の音楽には偏在していました。小林旭の民謡などは、その時代の気分のあらわれでしょう。

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このオール・スター・オーケストラのヴァージョンが、日本のラテン音楽ブームを意識していたとは考えられず、やはり、これは同時代的な「気分」の結果と考えるべきでしょう。アメリカが経験したラテン・ブームを、日本が追いかけたのであり、その結果、たとえば、日活映画のナイトクラブのシーンでは、かならずラテンが流れるパターンができあがったのです。

今日も予定した曲の半分しかご紹介できず、この項も『紳士は金髪がお好き』や「Remembering Tommy Tedesco」同様、さらに延長させていただきます。といっても、次回はどの続きをやるか、まだわかりません。


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ポール・マーク&ヒズ・オーケストラ(MP3)
East To West
East To West


クラブ二世オーケストラ(スパンキー・イワモトの「ここに幸あり」を収録)
Club Nisei
Club Nisei
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by songsf4s | 2011-05-19 23:59 | Exotica
フジヤマ・ママが芸者ツイストを歌うとき
 
おはようございます(といってみる。Twitterじゃないから時刻センシティヴではないのだが)。

金曜の夜に更新しようとしたのですが、下調べだけで時間がなくなり、書くには至りませんでした。週末に更新しないのは申し訳ないのですが、好天の週末は家にいないのでして。

前回の宵待ち草の記事につけられたk_guncontrolさんのコメントに、以下のクリップが紹介されていました。

Korla Pandit


k_guncontrolさんがおっしゃるように、エキゾティカの一般的な概念とはやや距離があります。狭義としては、レス・バクスターを創始者とするジャンルなので、お呼びでないというくらい遠いサウンドです。

が、しかし、エキゾティカの概念自体が、本質的に「非genuine」であり「非オーセンティック」だとわたしは考えています。「オーセンティシティー」という概念そのものに対して、疑義をとなえるものといえるでしょう。だから、「ジャングル・エキゾティカ」のようなサブ・ジャンルも成立したわけです。

エキゾティカという概念は、このコーラ・パンディットなるインチキな、大道香具師のような男のつたない芸をも飲み込むだけの度量をもっているのではないでしょうか。

k_guncontrolさんが紹介されていたもうひとつのクリップも興味深いものです。

Yvonne Carre - Geisha Twist


ここから連想したのはこの曲。

ワンダ・ジャクソン Fujiyama Mama


これまたエキゾティカではないのですが、やはり、どこかでレス・バクスターに通底しているような気がします。エキゾティズムが根底にあるのはまちがいなく、その像の結び方が異なるだけではないでしょうか。

あわよくば宵待ち草に行き着こうかと思ったのですが、もはや時間切れ。出発の時刻なので、今日はここまでで失礼。


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コーラ・パンディット(MP3)
Korla Pandit's Musical Gems (Digitally Remastered)
Korla Pandit's Musical Gems (Digitally Remastered)


ワンダ・ジャクソン
Ultimate Collection
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by songsf4s | 2011-05-15 09:36 | Exotica
To Ryan Seとは俺のことかと「通りゃんせ」いい──ポール・マークのエキゾティカ・ジャポネ
 
今夜も散歩ブログを更新しました。外題は、

もみじは青葉より麗し

といっても、自分のデスクトップ用に加工した写真をただ並べただけです。それも、めずらしいものではなく、ふつうの楓、しかも、紅葉すらしていない、新緑の楓です。いや、それでも十分に美しいから、写真をアップしたのですが。

◆ Oedo Mehon Bashi? ◆◆
わたしは音楽的に中庸のサウンドを好むほうで(とーんでもない! という声が空耳した)、極端なものは聴かないのですが、ただし、nobody's perfect、思いだしたように、ときおりゲテに手を出してしまう悪癖があります。

とくにエキゾティカ系に弱点があり、その方面の、すくなくとも東洋人には奇妙に見える欧米人の東洋趣味が濃厚にあらわれたものには、ころりとやられてしまいます。

今夜、聴いていたのは、こんなジャケットの代物。

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もうジャケットからして高純度のバッド・テイストが横溢し、これを聴かずにいたら、これまでの人生が無駄になってしまうという焦燥感に駆られました!

そのような衝動を共有する方がいらっしゃるかどうかは知りませんが、ここはわたしのブログ、勝手にやらせていただきます。

サンプル Paul Mark & His Orchestra "Aizu Ban Dai San"(会津磐梯山)

いやあ、この曲のこういうアレンジというのは、日本人の発想にはありませんなあ。いや、われわれ日本人だって、手をこまねいて見ていたわけではないのですがねえ。たとえば、こういう試みがあります。

小林旭「アキラの会津磐梯山」


女声コーラスが風変わりでありながらキュートで、えもいわれぬ魅力があります。

ポール・マーク・オーケストラのEast to Westというアルバムは、ソング・リスティングまでヘンテコリンで、二度おいしいアルバムです。

Hietsuki Bushi
Kokoni Sachiare
Oedo Mehon Bashi
Children's Medley
Ringo O Iwake
Akai Rampu No Shu Resha
Itsuki Komori Uta
Chakkiari Bushi
Hana Kota Ba No Uta
Aizu Ban Dai San
To Ryan Se
Hana Gasa Dochi
Wakare No Isochidori
Sakura Fantasy Medley

Oedo Mehon Bashiはもちろんお江戸日本橋、りんご追分=Ringo O Iwakeの語の切り方が変ですし、Hana Kota Ba No Utaも同断。Aizu Ban Dai Sanだって、こんなに細かく切ることはないでしょうに。

もう一曲ぐらいいこうかと思ったのですが、ポール・マークのキャリアを調べているうちに時間がなくなってしまったので、べつの機会に。


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ポール・マーク&ヒズ・オーケストラ(MP3)
East To West
East To West


小林旭
小林旭マイトガイトラックス VOL.1
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by songsf4s | 2011-05-12 00:05 | Exotica
サンプラー11のB レス・バクスターのQuiet Village
タイトル
Quiet Village
アーティスト
Les Baxter
ライター
Les Baxter
収録アルバム
Ritual of the Savage
リリース年
1951年
他のヴァージョン
多数
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やっとつぎの映画を3本まで絞り込んだところで、まだ再見すらしていないため、今日も映画に戻ることができませんでした。あまりいろいろなものを宙ぶらりんにしておくのはぐあいが悪いので、今日はQuiet Villageの後編をやります。

Quiet Villageというと、近年ではマーティン・デニーということになっているようです。シングル・ヒットもしているので、無理もないとは思うのですが、これはそれこそ、あそこにもある、ここにもあるという代物で、いまさら気は動きません。

もっとも、マーティン・デニーも、代表作だから、何度も形を変えて録音していて、それなりにヴァリエーションがあります。チャチャ・アレンジなんていう珍なものもあるのですが、同じように珍ではあるものの、録音し直す意義がそれなりにあると感じるのは、ムーグ・ヴァージョンです。

マーティン・デニー ムーグ・ヴァージョン


改めて聴くと、ムーグの音の太さにギョッとします。ムーグだアープだと、アナログ・シンセサイザーしかなかった時代は、のちのように、シンセだからダメとは思いませんでした。シンセが音楽の質を落とすようになるのは、ディジタルになってからのことです。

デニーはずっとハワイで録音していたわけではなく、後年はハリウッドで録音していたようで、このムーグ版Quiet Villageもハリウッドだと思います。これが収録されたアルバムには、ハル・ブレインやキャロル・ケイに聞こえるトラックがいくつか収録されています。エレクトリック・ギターも使った、かなりロック寄りのアルバムなのです。

◆ レス・バクスターのリマスタード・モノ ◆◆
さて、自前のサンプル。またかよ、といわれそうですが、変わり種も面白いものの、やはりオーセンティシティーも重要なので、まずレス・バクスターのオリジナル・ヴァージョン、ただし、前回サンプルにしたデュオフォニック盤ではなく、モノーラル盤です。

サンプル Les Baxter "Quiet Village" (remastered mono)

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これはリマスター・ベスト盤、The Exotic Moods of Les Baxterという2枚組からとったもので、目下入手可能な最善のヴァージョンです。ほんとうはFlacでお聴きいただければと思うのですが、そこまでやるとサンプルという建前が崩れてしまうので、MP3でご勘弁願います。モノ・エンコードの上限である160Kbpsです。

◆ ヘンリー・マンシーニ盤 ◆◆
つぎはヘンリー・マンシーニ盤です。1966年のアルバム、Music Of Hawai収録のトラックです。

サンプル Henry Mancini "Quiet Village"

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毎度、ハリウッドのサウンドは、この土地が培ってきた分厚い音楽インフラストラクチャーが支えているのだと申し上げていますが、それはそれとして、個々のアレンジャーの技量というのはもちろん無視できません。星の数ほどいるハリウッドのアレンジャーのなかでも、ヘンリー・マンシーニはクリーム・オヴ・ザ・クロップ、上位の一握りに入る人です。

オリジナル記事に書いたように、ヘンリー・マンシーニのQuiet Villageは、いかにもハリウッドらしい、そしてまた、いかにもマンシーニらしい、広がりと奥行きのあるサウンドで、文句のない出来です。退屈するほど単純ではないものの、複雑すぎることもない音の構築で、この「ほどのよさ」もマンシーニの持ち味といえるでしょう。

◆ ビル・ジャスティス盤 ◆◆
つづいてビル・ジャスティス盤。

サンプル Bill Justis "Quiet Village"

レコーディング・アーティスト、サックス・プレイヤーとしてのビル・ジャスティスは、Raunchyの大ヒットで知られます(アーニー・フリーマンのカヴァーもヒットした)。裏方としては、まずはメンフィスのサン・レコードで、ジェリー・リー・ルイス、ジョニー・キャッシュ、ロイ・オービソンといったこのレーベルのスターたちのアレンジャー、A&Rとしてスタートし、60年代にナッシュヴィルに移り、チャーリー・リッチなどのカントリー・スターのアレンジやプロデュースをします。その後、60年代の後半あたりと思われますが、ハリウッドに移ってアレンジの仕事を続けます。

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ナッシュヴィルだかハリウッドだかは不明ですが、ジャスティスがアレンジを担当したアーティストをあげると、ロジャー・ミラー、ドン・マクリーン、B・J・トーマス、ディーン・マーティン、ケニー・ロジャーズ、ボビー・ゴールズボロ、トミー・ロー、マール・ハガード、ボビー・ヴィントン、エヴァリー・ブラザーズ、タミー・ウィネット、アル・ハート、ディノ・ディジ&ビリー、ロニー・ダヴ、フロイド・クレイマー、コニー・フランシス、アンディー・ウィリアムズ、パッツィー・クラインなどなど、長いリストになります。

確たる裏づけはないのですが、ビル・ジャスティスがハリウッドに移ったのは60年代終わりのことのように思われるので(ジャスティスのクレジットがあり、ハリウッド録音だったエキゾティック・ギターズのデビューは1968年)、この1965年リリースのQuiet Villageは、ナッシュヴィルで録音されたのかもしれません。

まず冒頭、左チャンネルのベースの上に、チェロ、ヴィオラなどであろう低めの弦の持続音を載せる技に、ムム、ただ者ではない、と感心してしまいます。途中から、その場所にホーンをもってくるのですが、弦ほどではないにしても、これはこれで味があります。パーカッションの使い方がエキゾティカというよりラテンですが、大オーケストラのQuiet Villageを聴いたあとだと、いいチェンジアップに感じられます。

◆ オマケ ◆◆
前回のヴォーカル・カヴァー特集のつづきで、Quiet Villageも歌ものをあげておきます。2種類の歌詞のちがうヴァージョンを聴いたことがありますが、ここでは比較的近年の1996年にリリースされたものを。

サンプル The Ensemble of Seven "Quiet Village"

このアンサンブル・オヴ・セヴンというグループについてはなにも知りません。90年代なかばのリリースなのに、アナログだというところに方向性が示されています。このEPに収録されている他の曲がTabooにCaravanというのを見ても、それがわかります。最初はスペイン語のナレーションですが、途中から英語歌詞の歌になります。なんだかBrazilみたいにreturnを繰り返しています。時間がないので歌詞の聴き取りはやりませんが、わかりやすいディクションなので、耳で聴いても意味はつかめるでしょう。いや、たいしたことはいっていません。

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ここではあげませんでしたが、キムラさんのAdd More Music(当ページの右のメニューにリンクあり)では、50ギターズ(独立ページ)とエキゾティック・ギターズ(レア・インスト・ページ)で、それぞれのQuiet VillageのLPリップを聴くことができます。どちらもなかなか楽しめます。


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The Exotic Mood
The Exotic Mood

レス・バクスター Ritual of the Savage
Ritual of the Savage/The Passions (With Bas Sheva)
Ritual of the Savage/The Passions (With Bas Sheva)


Music of Hawaii
Music of Hawaii
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by songsf4s | 2010-06-12 23:56 | Exotica
サンプラー11のA レス・バクスターのQuiet Village
タイトル
Quiet Village
アーティスト
Les Baxter
ライター
Les Baxter
収録アルバム
Ritual of the Savage
リリース年
1951年
他のヴァージョン
多数
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今日はちょっと力仕事などしたら、たちまち流汗淋漓。こういう季節になると、やっぱりエキゾティカだなあと思ったので、昨日考えていたキース・ゴッドショー時代のグレイトフル・デッドのトラックというのはやめて、「近代エキゾティカ」の嚆矢、Quiet Villageをいってみようという気になりました。

しかし、この曲、ちょっと弾みをつけないと取り上げられないのです。オリジナル記事に書いたように、60種ほどのヴァージョンが確認されていて、わが家にも相当数があり、ただ聴くだけでも数時間はかかってしまうのです。

よって、オリジナル記事で褒めていないものは適当に端折って20種ほどを聴き直し、そこから選ぶことにしました。まずは、オリジナル記事一覧から。

Quiet Village その1 by Les Baxter
Quiet Village その2:the 50 Guitars
Quiet Village その3:Martin Denny

サンプラーをやっていて苦労するのは、YouTubeのチェックです。近ごろは、有名曲ならたいていはクリップがあるので、検索してみて気勢を殺がれることたびたびです。Quiet Villageも、こちらが狙っているものがほとんどある場合は中止と思ったのですが、いまどき、ティキ・サークルの外ではエキゾティカなど流行らないのか、マーティン・デニーほか数種があるだけでした。こうなりゃこっちのもの、やったろうじゃないか、です。

まずはやはりオリジネーターであるレス・バクスターからいくのが本寸法、ではありますが、オリジナルでは曲がないような気もするので、直球ではなく、スライダーから入ります。

サンプル Les Baxter "Quiet Village" (duophonic)

要するに、後年の疑似ステレオ、リプロセスト・ステレオ・ヴァージョンなのですが、これが案外悪くないマスタリングなのです。ミュージカル映画はテクニカラーがいちばん好ましいように、エキゾティカ、それもオーセンティックなオーケストラものの場合、やはり音像に広がりのあるほうがはるかに気分が出るのです。

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つづいて、ハーマン・クレバノフ盤。これは正攻法でバクスターを超えようとしたヴァージョンで、ちょっとしたものです。

サンプル Clebanoff Strings "Quiet Village"

オリジナル記事にも書きましたが、ハーマン・クレバノフ・ストリングスのQuiet Villageは、この曲のアインデンティファイアのひとつである、G-C-G-Bb-G-C-Bbというベースラインを、ティンパニーでやっちゃったところに特長があります。フィーリクス・スラトキンのI Got a Kick Out of You同様、やっぱり笑ってしまうのですよ。ティンパニーで有名な音階を叩くと、どうして頬がゆるむのでしょうかね。理由は自分でもわからないのですが、とにかく可笑しいのです。

いえ、ハーマン・クレバノフ盤Quiet Villageがお笑いヴァージョンだといっているわけではありません。レス・バクスター盤にはある「闇の奥」に分け入っていく隠微な感覚はありませんが、ストリングスのセンジュアルなアレンジとサウンドはみごとで、グイとその世界に引っ張り込まれます。

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つぎはどうしよう、ですが、あと十数分でシンデレラ・タイム、考えている暇はないので、エイやでヴィニー・ベル盤にしました。

サンプル Vinnie Bell "Quiet Village"

ヴィンセント(ヴィニー)・ベルは、アル・ネヴィンズ(ドン・カーシュナーとともにオールドン・ミュージックを設立した)の後がまとしてスリー・サンズでプレイしたあと、NYでセッション・ギタリストとして活躍しました。ベルの業績に関心のある方は、オフィシャル・サイトをご覧になってください。NYもハリウッドと同じで、みんなプロが影武者をやってたのねー、と納得します(ただし、異説のある曲もずいぶんあって、鵜呑みにするわけにはいかない。勘考を要す)。

ヴィニー・ベルのQuiet Villageは、ベルがしばしば使ったシタール・ギターをリード楽器にしています。そうするとどうなるか、というところが最大の興味です。これまたちょっと頬がゆるむのです。

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Quiet VillageはエキゾティカのAにしてZ、3曲で終わりというわけにはいかないので、次回、さらにつづけることにします。

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レス・バクスター Ritual of the Savage/The Passions
Ritual of the Savage/The Passions (With Bas Sheva)
Ritual of the Savage/The Passions (With Bas Sheva)

レス・バクスター ベスト盤(Quiet Villageはモノを収録)
The Exotic Moods of Les Baxter
The Exotic Moods of Les Baxter
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by songsf4s | 2010-06-10 23:57 | Exotica
ラウンジ春宵一刻

木村威夫追悼は二回やっただけで頓挫し、あれこれ野暮用に追われっぱなしです。今日はすこし時間があったのですが、忙しかった一週間のあいだにたまった用事を片づけたりしているうちに夜になっていました。

夕食後、必死に更新するという道もあったでしょうが、かわりに海岸の遊歩道を散歩してきました。まだ満開に近い桜はあるし、悪酔いしたか、はたまた心臓麻痺でも起こしたか、ベンチから転げ落ちて歩道に横たわる若者や、若い女のホームレスやら(近ごろ、何回か見ている。そういうこともめずらしくない国になってしまったらしい)、なんだかあれこれとことの多い散歩でした。

ともあれ、風はかすかで、いかにも春らしい暖かな宵の散歩でした。

◆ バディー・モロウのRib Joint ◆◆
ということで、あまり時間がないので、近ごろ聴いていたもののなかから、適当に選んでアップしてみました。

サンプル バディー・モロウのRib Joint

バディー・モロウはトロンボーン・プレイヤー、バンド・リーダーで、このRib Jointが収録されたアルバムNight Trainはシカゴのユニヴァーサル・レコーダーで録音されています(ユニヴァーサルについては後述)。

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Rib Joint単体では、ビッグバンドをバックにしたブルーズにしか思えないかもしれないので、このアルバム全体のムードを知ってもらうために、一曲目のMangosもサンプルにしました。

サンプル バディー・モロウのMangos

このMangosに代表されるように、ちょっとラテン味の混じったラウンジ・ミュージックというのがこのアルバムの支配的ムードです。ところが、Rib Jointだけ、あのようにやや尖鋭的なブルーズ・ギターがフィーチャーされているのです。そして、このアルバムのリリースは1957年なのです。

むむう。時期に配慮するなら、やや先鋭的どころか、きわめて先鋭的といえるような気がします。シカゴだから、だれか名前を知られたブルーズ・プレイヤーかもしれません。後年のロック系ギターのニュアンスがすでにたっぷりあって、B.B.キングあたりの古くさいスタイルとは明確に一線を画しているところが非常に魅力的なのですが、なによりも、ラウンジのアルバムに収録されているのが、じつに意外で、BGMとして流していて、ギョッとしました。

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◆ ウォーレン・バーカーの「京都メリーゴーラウンド」 ◆◆
バディー・モロウのNight Trainが録音されたシカゴのユニヴァーサルは、のちにハリウッドにユナイティッド・ウェスタン・レコーダーをつくるビル・パトナムが最初に設立したスタジオです。「歴史が作られた」重要なスタジオですし、アメリカ音楽史でもっとも重要なエンジニアを挙げるとしたら、多くの人がビル・パトナムを指名するでしょう。

バディー・モロウといっしょに流していた数枚のアルバムのなかに、ハリウッド・ベースのアレンジャー、ウォーレン・バーカーのアルバムA Musical Touch of Far Away Placesがありました。タイトルが示すとおり、エキゾティカ・アルバムです。やはり二曲アップしましょうか。

サンプル ウォーレン・バーカーのMalayan Nightbird
サンプル ウォーレン・バーカーのKyoto Merry-Go-Round

例によって、インチキな東洋趣味も横溢していますが、きっちりアレンジされているし、録音もちょっとしたもので、エキゾティカである以前に、趣味のよいオーケストラ・ミュージックになっています。

ジャケ写を検索していて、「Warner Bros.の贅沢なサウンドシステム」という文字が目に入ってしまいました。バーバンクにあるワーナーの映画スタジオ(音楽スタジオではない)にどれほどのシステムがあったのでしょうか。すんなりとは頷けない言葉です。

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ナット・キング・コールとビル・パトナム

ワーナー/リプリーズの盤の多くは、ビル・パトナムがシカゴのユニヴァーサル・レコーダーをたたんで、ハリウッドに進出してからつくった独立スタジオ、ユナイティッド・ウェスタン・レコーダーで録音されています。たとえば、フランク・シナトラは一時期、ビル・パトナムと個人的契約を結び、彼の録音ではパトナム自身が卓につくことになっていました。

もっとあとのリプリーズ盤、たとえばハーパーズ・ビザールを録音したのは、ユナイティッドでパトナムの薫陶を受けた、出藍の誉れ高き大エース、リー・ハーシュバーグです。

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ユナイティッド・ウェスタン・レコーダーのスタジオ1

ワーナー/リプリーズの質の高い録音を支えたのは、「バーバンクのワーナー・スタジオ」などではなく、ハリウッドのど真ん中、サンセット・ブルヴァードは6000番地にあったユナイティッド・ウェスタン・レコーダーです。「バーバンク・サウンド」と一部の人たちが呼ぶもののほとんどは、バーバンクから遠く離れたハリウッドで録音されています。バーバンクにあったのは、映画スタジオとワーナーの本社だけだということを念押ししておきます。
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by songsf4s | 2010-04-10 23:57 | Exotica
Adventures in Paradise その2 by Henry Mancini
タイトル
Adventures in Paradise
アーティスト
Henry Mancini
ライター
Dorcas Cochran, Lionel Newman
収録アルバム
Music of Hawaii
リリース年
1966年
他のヴァージョン
The Atlantics, Henry Mancini, Johnny Gibbs & Orchestra, Arthur Lyman, The Gene Rains Group, the Paradise Island Trio, Werner Muller
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このところ、日常生活でも、ブログでも、とんでもないミスをするので、すくなくとも一日一回は驚いています。年をとるのも思いのほか意外性に満ちていて、なかなかどうして退屈するどころではありません。

昨日は、よしできた、といって、最後の確認をするまで、「他のヴァージョン」欄になにも書いていないことに気づませんでした。いや、それくらいのミスならよくあることなのですが、じつは、他のヴァージョンが存在していること自体、コロッと失念していたのです。

画像の貼り付けを終わって、もう一度、文字校をやっているときに、突然、ギャッ、うちにはヘンリー・マンシーニ盤Adventures in Paradiseがあったぞ、と思いだし、あわてて検索をかけたら(それすらやっていなかった)、マンシーニどころか、ぞろぞろヴァージョンが出てきて、あららー、でした。

ということで、今日は休むつもりだったのを変更し、軽く、短く、簡明に(いや、ホントに!)、他のヴァージョンのいくつかを見ていくことにします。

◆ オーケストラもの ◆◆
この曲は1959年から1962年まで、3シーズンにわたってつづいた、20世紀フォックスの制作になる同題のテレビドラマのテーマ曲だったのだそうです(50年代なかば、映画会社がつぎつぎとテレビ・ドラマの制作に乗りだしたことと、ハリウッド音楽界が隆盛を迎えることとのあいだには密接な関係があるが、その点については近々くわしく見る予定)。

f0147840_06665.jpg20世紀フォックス音楽部の名物ボス、ライオネル・ニューマンによるAdventures in Paradiseのオリジナル・ヴァージョンはわが家にはありませんが、この画像でチラッと聴くことができます。

ライオネル・ニューマンだから、そうだろうとは思っていましたが、なかなかゴージャスなオーケストレーションで、こういう曲はやっぱりオーケストラのほうがいいかな、という気がしてきます。

それにしても、たかがテレビドラマだっていうのに、当今では本編でも聴けないような、フルスケールのオーケストレーションで、昔は考え方が根本的にちがっていたのだな、と思います。どうであれ、盤になっているのなら、ぜひ手に入れたいと感じる出来です。

よけいなことですが、このドラマに登場する、主人公が乗りまわすスクーナーの名前が「ティキ」だっていうんで、やっぱりエキゾティカだなあ、と思っちゃいました。さらによけいなことをいうと、『ハワイアン・アイ』や『サーフサイド6』や『サンセット77』や『バークにまかせろ』といった、あの時代に見ていたドラマを片端から見たくなりました。

うちにあるオーケストラものAdventures in Paradiseというと、なんといってもヘンリー・マンシーニ盤です。とりわけ冒頭のストリングスのサウンドがすばらしいのですが、冒頭のみならず、全体に、ときおりチェンジアップを織り交ぜたストリングスの使い方は、さすがはマンシーニと納得のいくものです。またしても、例の未詳キーボード楽器が使われていて、少し意地になって調べたのですが、タック・ピアノまたはエレクトリック・カリオペの可能性あり、というところまでしか追い込めませんでした。宿題としておきます。

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ヘンリー・マンシーニが弾いているこの鍵盤楽器がなんのか、すごく気になるのだが……。

ウェブで遭遇しただけで、なんだか正体不明のヴァージョンなのですが、ジョニー・ギブズ&オーケストラという名義のAdventures in Paradiseは、ちょっとした出来です。テンポはやや速めですが、ストリングスと女声コーラスというコンビネーションがよく、最初の一分間ぐらいはおおいに楽しめます。しかし、チェンジアップの技をもっていないようで、残念ながら、最初の好印象はだんだん尻すぼみになってしまいます。このへんが、ヘンリー・マンシーニのような大家との差でしょう。

ウェルナー・ミューラーのヴァージョンは、エキゾティカ風味が薄くて、ちょっとちがうのでは、と感じます。テンポが速く、パーカッション・ドリヴンで、ノリはいいのですが、ここはノリを期待するところではなく、「遙かなる感覚」を期待するところのような気が……。

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◆ コンボもの ◆◆
f0147840_0173594.jpgコンボによるヴァージョンもいくつかあります。Board Boogie: Surf 'n' Twang from Down Underというサーフ・アンソロジーに収録されたプレイボーイズ(いくつあるかわからないくらいありふれた名前!)という正体不明のバンドのものは、アトランティックスに近い解釈です。

どこのプレイボーイズかアイデンティファイできず、材料がなにもないのですが、音を聴いたかぎりでは、ガレージ・サーフではありません。では、ハリウッドのプロフェッショナルによるものかというと、そうも聞こえません。下手ではないし、子どもを放し飼いにしてテープを回しただけ、というあの時代に濫造された、ローカル・ヒット狙いのLAガレージ・サーフとは異なるプレイで、それなりにアレンジもされ、いちおうのプロダクションの体はなしているのですが、とくにすぐれた仕上がりではなく、かえって、アトランティックスの出来のよさを確認できたりします。

アーサー・ライマンはそんなにいろいろなことをするバンド・リーダーではないので、Adventures in Paradiseも、いつものアーサー・ライマン、というアレンジとサウンドです。こういうヴァイブラフォーンによるエキゾティカというのは、あの時代にもすでにクリシェになっていたものですが、クリシェゆえにノスタルジックな響きがある、ということもいえます。よかれ悪しかれBGM的です。

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マーティン・デニー、アーサー・ライマンにつづく、ハワイ派エキゾティカの「第三の」バンド・リーダーが、アルフレッド・アパカにスカウトされたジーン・レインズです。レインズもアーサー・ライマンと同じヴァイブ奏者だし、似たようなコンテクストにあるので、音から受ける印象も似通っています。いまでも、世界中の海辺のホテルには、こういうバンドが出演していて、こういう曲を、こういう風にやっていることでしょう。そういうリゾート地BGMとしてなら、けっして悪いものではありませんが、とりたててイマジネーションを刺激される出来でもありません。

なんだか、うちにあるものより、未入手のライオネル・ニューマン盤のことが気になってしかたがありません。どうやらCDはないようなので、正攻法はダメとわかりました。蛇の道は蛇なので、いずれはなんとかなるものと期待しています。じつは、かなりそそられてしまい、落ち着かない気分なのです。
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by songsf4s | 2008-07-06 23:59 | Exotica
Adventures in Paradise その1 by the Atlantics
タイトル
Adventures in Paradise
アーティスト
The Atlantics
ライター
Dorcas Cochran, Lionel Newman
収録アルバム
Bombora
リリース年
1963年
他のヴァージョン
Henry Mancini, Johnny Gibbs & Orchestra, Arthur Lyman, The Gene Rains Group, the Paradise Island Trio, Werner Muller
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二十数年前、マーティン・デニーのQuiet Villageを聴いたときにはなにも思わなかったのですが、あとになって、すでに小学校のときにエキゾティカに遭遇していたことに気づきました。それが本日の曲、アトランティックスのAdventures in Paradiseです。もっとも、小学生だったわたしがほしかったのは、この曲ではなく、A面に入っていたBomboraのほうでした。

アトランティックスはオーストラリアのバンドです。じゃあ、パシフィックスだろうが、といいたくなりますが、大英帝国意識なのでしょう。じっさい、インスト・バンドといっても、アメリカ的ではなく、ヨーロッパ的で、シャドウズやスプートニクスを思わせるところはあっても、ヴェンチャーズのムードはありません。ビルボード・チャート上は存在しないも同然のバンドなのですが、サーフ・ミュージック・ファンの多くは、Bomboraをご存知でしょう。本国では大ヒットし、アメリカ以外の数カ国でもヒットしたようです。

ご存知の方には話が簡単に通じると思うのですが、Bomboraという曲はむやみにスピードが速く、その疾走感だけが魅力です。わたしはスティックなんかさわったこともないときから、すでにドラム・クレイジーだったので、幼いわたしの心中を忖度するに、おそらく、この叩きっぱなしのパアでんねんなドラミングが気に入って、このシングルを買ったのだろうと思います。いや、いまとなっては面白くもなんともなくて、なんだってこんな曲を買ったのか、動機なんかさっぱり思いだせないので、なんとか想像をめぐらしてみただけのことですがね。でも、まあ、子どもが好みそうな曲だと、年寄りのわたしも思います。

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The Explosive Sound of the Atlantics
Bomboraのシングルはなくしてしまったが、記憶では、このジャケットをアレンジしたデザインのスリーヴだった。まだCBSが日本コロムビアを通じて配給されていた古代のお話。

当時のことをちゃんと思いだせないくらいで、Bomboraという曲は、すぐに聴かなくなってしまい、それきりで、記憶の井戸の深いところに落ち込んでしまいました。

◆ マルセル・プルースト的盤漁り ◆◆
ずっと後年、80年代の終わりか、90年代のはじめ、どこぞのCDショップの店頭でアトランティックスを見かけたときには、Bomboraはタイトルだけの曲にまで退化し、どんなものだったか、さっぱり思いだせませんでした。しかし、B面の曲が面白かった、という記憶がボンヤリとよみがえりました。でも、こちらはタイトルを思いだせませんでした。トラック・リスティングを全部読んでみても、なにも記憶を刺激されませんでした。

あのころは、ビルボード・トップ40ヒットを集めていたので、ビルボード・チャートをプリントアウトした(ドットマトリクス・プリンターで!)ものをつねにバッグに入れていました。ちゃんとリレーショナル・データベースを使って、買い物のあとはデータをアップデートしていました。ダブり買い防止のために、入手済みの曲にはフラグを立て、以後、「未入手曲」サーチの際に検索されないようにしたのです。新たに検索しなおしたリストをプリントアウトすれば、つねに未入手の曲だけのリストを携帯することができる、という仕組みです。

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Joel Whitburn "Top Pop Singles 1955-1986" トップ40集めの必需品のひとつ。1955年から1986年までのビルボード・ホット100にチャートインした曲をアーティスト単位でリストアップしたデータベース本。このほかに年度単位のものや、R&Bチャートや、アルバム・チャートや、その他いろいろあるので、盤を買う前に資料をそろえるだけで破産しそうになる! わたしがどれほどこの本を利用してきたかの証拠として、手垢や破れのところもレタッチしなかった。

その結果、わたしが買い物する姿は奇妙なものに見えたようです。三度ばかり、店員とまちがえられました。リストをもって在庫チェックでもしているように見えたのだと思います。気になる盤のトラック・リスティングと、自分のデータを比較して、買うか買わないかを決めていただけなんですがね。

だから、ビルボード・チャートに登場した曲については、20年前でも、出先でデータを確認することができたのですが(ケータイ用植物検索サイトというのは知っているが、ケータイ用ビルボード・チャート・サイトというのはまだないのでは? もっとも、いまは、わたしのような買い方をするなら、ウェブでトラックを確認して注文すればいいだけのことだが)、それ以外は記憶と勘に頼るしかなかったのです。

たとえば、アメリカではヒットしなかった、Days of Pearly Spencer「パーリー・スペンサーの日々」なんて曲は、アーティスト名を忘れてしまったので、探すに探せなくて困ったものです(その後、Add More Musicの木村さんに、デイヴィッド・マクウィリアムズという名前だと教えていただいた)。あるいは、Stop the Musicなんていう曲も、長いあいだ謎でした(こちらはWall of HoundのO旦那こと大嶽さんに教えていただいたが、また忘れてしまった。レニー&ザ・リー・キングスといったと思うのだが……)。

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The Days of David McWilliams
昔はいくら探しても見つからなかったが、いつのまにかCD化されていた。もっとも、Days of Pearly Spencerがあれば十分で、ほかにはたいした曲はない。いや、それをいうなら、Days of Pearly Spencerだって、たいした曲でもないのだが、いかにもあの時代らしい音で、あとになるとノスタルジーから聴きたくなるタイプ。

脱線してばかりですが、話をアトランティックスに戻します。いまなら「疑わしきは買わず」ルールを適用しますが、あのころは「疑わしきは購入」ルールだったので、あのB面曲が入っているかどうかはわからなかったものの、エイやで買ってしまいました。Now It's Stompin' TimeというCDです。

結論を言えば、この丁半バクチは当たりでした。ちゃんと、あのB面曲が入っていたのです。

◆ またもバードコール、またも半音進行 ◆◆
BomboraのB面は面白かった、と記憶していただけで、どんな曲だったかという記憶はありませんでした。だから、たとえその曲が入っていても、それを聴いて記憶がよみがえるかどうか、やや不安だったのですが、イントロが流れた瞬間、これだ、と即座に思いだしました。バードコールで記憶がよみがえったのです。

書物とちがってウェブは不便で、当ブログのお客さんのことだけを考えるわけにはいかず、検索エンジン経由でいらして、この記事だけをご覧になる方への配慮もしなければいけません。定期的にいらっしゃるお客さんはすでにご存知ですが、「バードコール」とは、鳥の啼き声の物真似だということは、つい先日、Quiet Village その3 by Martin Dennyのときに書きました。

で、うん、そうだそうだ、この曲だ、Bomboraにはすぐに飽きて、あのころはこのAdventures in Paradiseのほうばかり聴いていたっけと、うれしくなりました。そして、曲が進むうちに、なんだよ、そうだったか、と納得しました。これは明らかにギターインスト版エキゾティカとしてつくられたことがわかったのです。

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The Atlantics "Now It's Stompin' Time" Adventures in Paradiseはデビュー・アルバムのBomboraに収録されたものだから、この独レパートワーからのCDにはボーナスとして収録されている。つまり、アルバムBomboraのストレート・リイシューはしなかったということだ。だが、わたしが聴いたかぎりでは、アトランティックスのアルバムでストレート・リイシューに値するのは、むしろBomboraのほうであり、それ以外のアルバムは一段落ちる。

小学校のときには、マーティン・デニーのQuiet Villageなんか知りませんでしたからねえ。たんに、鳥の啼き声までふくめて、なかなか楽しい曲だと思って聴いていただけです。でも、マーティン・デニーのQuiet Villageを聴いたあとでは、どこからどう見ても、このAdventures in Paradiseという曲は、Quiet Villagをギターインストに翻案しようという意図で選択されたものだということは、疑いようがありませんでした。

曲調としても、どことなくQuiet Villageに通じるものがあります。ヴァースのコードはG(ないしはEm7)-Dm7-G-Dといった単純なものですが、Gのところのメロディーが、low D-high D-D-D-B-C-Eb-D-C-B-Bですからね。C-Eb-D-Cのパッセージが奇妙な響きで、Misirloo的というか、国境の南的というか、なんであれ、西洋音楽的響きではないのです。本来、GのメイジャースケールにはないEbの音が、きわめてエキゾティカ的なのです。

コードがDm7(ないしはF)にいっても、やはりややイレギュラーなメロディーで、G-F#-F-Eなんていう半音進行(おなじところを、B-Bb-A-Gと弾いたりもする)があり、エキゾティカ的色合いで統一された曲です。

◆ 怪しいドラム ◆◆
アトランティックスというのは、大束な言い方をすると、シャドウズの素行不良の弟が学校をサボってサーフィンに出かけたようなバンドです。どこが「素行不良」かというと、もちろん、シャドウズほど端正なプレイはしていないという点です。

いや、明らかにシャドウズのハンク・マーヴィンをロール・モデルとしたリードギターはまずまずのレベルで、ボケッと聴いていると、アトランティックスをかけていたということを忘れ、シャドウズだと思いこんでいたりします。

問題はドラムです。これが微妙なんです。Cherry Pink and Apple Blossom White その1 by the 50 Guitars of Tommy Garrettのときにふれたように、信じられないほどひどいプレイがあるのです。では、すべてメチャメチャかというと、これが、そんなことはないのです。うまいといってもいいぐらいのプレイもあるのです。

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この矛盾に対する唯一の論理的な解は、いうまでもないでしょう。バンドのドラマーは下手だから、スタジオで叩くことはめったになかった、大部分はスタジオ・プレイヤーの仕事である、です。オーストラリアでも、アメリカやイギリスのような影武者方式を採用していたかどうかは知りません。でも、日本でもそのたぐいのことはたくさんあったと漏れ聞くくらいで、60年代には、どこの国の音楽界/芸能界でも、「顔と手の分離」の必要性があったのだろうと想像します。

わざわざ買って聴くほどのものではないかもしれませんが、60年代初期のLAのお子様サーフ・グループ(プロフェッショナルなプレイヤーによるスタジオ・プロジェクトも多かったが、それ以上に、ホンモノの連中がやり散らかした非音楽的ゴミの山のほうが圧倒的に多い)なんかよりは、よほどマシなプレイをしています。パンクなサーフ・グループを好む方は、音楽よりノイズというかエネルギーというか、そういうものを好んでいるのだろうから、関係ないかもしれませんが、わたしだったら、LAのサーフ・レアリティーズなんかにうつつを抜かさず、アトランティックスのほうを聴きます。いや、それよりもシャドウズのほうを聴きますがね。

◆ ギミックもまたサウンドなり ◆◆
Quiet Village その3 by Martin Dennyで書いたことを、自分で肯定しちゃいますが、Adventures in Paradiseの場合も、バードコール(マーティン・デニーとは異なり、こちらはバードコールではなく、じっさいの鳥の啼き声のライブラリー音源を使ったのかもしれないが)がきわめて重要だと感じます。バードコールがなかったら魅力半減です。

バードコールなんていうのは、たんなるギミックにすぎないはずなのですが、ギミックがその曲の重要な一部になってしまうのは、それほどめずらしいことではありません。たとえば、あの電子音のイントロ/アウトロなしのトーネイドーズのTelstarなんて考えられません。昔、MIDIでコピーしたときも、さまざまなインストゥルメントをかき集め、あれこれと加工して、ジョー・ミークの足もとににじり寄るぐらいの「アヴァンギャルド・イントロ」を自分でもつくりました。

そういうことをやってみてわかったのは、音楽より、このSEのほうがよほど手間がかかるということです。そして、ミークがTelstarを録音したときも、わたしの場合と同じだったのではないか、という洞察にいたったわけですわ。SEは簡単ではないのです。

つくるのがむずかしかったから、あるいは手間がかかったから、それで面白いものができるのかといえば、そんなことはありません。ただ、たんなるSEだ、ただのギミックだと、まるで添え物のように足蹴にするのはおかしい、ということはいっていいと思います。音楽とはサウンドです。SEだって音なのだから、音楽の一部であり、メロディーやリズムやハーモニーと同等の役割を負っています。Telstarをコピーしてみて、そう思うようになりました。

まあ、半分は、バードコールが大好き、という自分の子どもっぽさを正当化したいだけなのですが、でも、半分はまじめに、SEに正当な評価をあたえようではないか、と思っています。
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by songsf4s | 2008-07-05 23:58 | Exotica
Quiet Village その3 by Martin Denny
タイトル
Quiet Village
アーティスト
Martin Denny
ライター
Les Baxter
収録アルバム
Exotica
リリース年
1956年
他のヴァージョン
別掲
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今日はべつのヴァージョンを看板に立てようかと思ったのですが、エルヴィス以後の時代に、エキゾティカとしては最大のヒット(ビルボード・チャート4位。ただし、オリジナルではなく、ステレオ・リメイク・ヴァージョンだろう)を記録したヴァージョンを外すのは、いかになんでもひねくれすぎていると思い直しました。

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マーティン・デニー盤Quiet Villageは数種類あるので、区別が面倒なのですが、とりあえず、1956年録音のモノーラル・ヴァージョンから。わたし自身、最初に聴いたQuiet Villageは、デニーのこのヴァージョンでした。これはハワイでのライヴ録音ということになっています。アルミ製ドームのなかにあるラウンジという環境だったので、独特のリヴァーブがかかったのだそうですが、とくにリヴァーブに特徴のあるサウンドには思えません。

またしても極端なことをいいますが、このヴァージョンでもっとも好きなのは、パーカッションのオージー・コロンがやったバードコール、鳥の啼き声の物真似です。ハワイで生まれ育ったコロンは、子どものころからバードコールが得意だったといっていますが、たしかに、じつになんともヴァラエティーに富んだ啼き声をつくっていて、そこらのライブラリー盤なんかより、よほどリアリティーがあります。

マーティン・デニー盤Quiet Villageはバードコールがすべてである、なんていっちゃうと、それはないだろー、といわれそうですが、バードコールをとったら、とくにうまくもなければ、特徴的なプレイをするわけでもない平凡なピアニストが率いる、二流どころのジャズ・コンボにすぎません。

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じっさい、後半、それまでパーカッションをやっていたのであろうアーサー・ライマンが、ヴァイブラフォーンをプレイする都合なのか、玉突きが起きて、コロンが本来のパーカッションに戻る必要が生じたらしく、バードコールはなくなってしまいます。そこからは、わたしの耳には、名曲の二番煎じをやっている退屈なローカル・バンドにしか聞こえません。

マーティン・デニーが売れたのは、彼のピアノの腕や、他のメンバーの卓越したミュージシャンシップのおかげではありません。「コンボによるエキゾティカ」を発明したおかげです。そして、そのエキゾティズムの最大の供給源が、オージー・コロンのバードコールなのだから、このヴァージョンはバードコールに尽きる、と断言してはばかるところはありません(とはいえ、自分自身のコピーをしただけのステレオ・リメイク・ヴァージョンを聴くと、プレイそのものはオリジナルのほうがいいと感じる)。

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ネガティヴに受け取られると困るのですが、わたしがいいたいのは、バードコールが「すばらしい」というポジティヴなことです。子どもっぽい気分を刺激されているような気がしないでもありませんが、でも、いいなあ、と思うのだからしかたありません。

エキゾティカがストレート・ロックンロールと決定的にちがうところは、エキゾティカにおいては、「そこにある音そのものはかならずしも決定的な重要性をもたない」という点です。なにが重要かといえば、音がトリガーを引くわれわれのイマジネーションなのです。イマジネーションを点火するなにものかがあるか否かが、決定的に重要です。マーティン・デニー盤Quiet Villageにおけるオージー・コロンのバードコールは、その起爆剤として十分な役割を果たしています。

f0147840_0174446.jpgマーティン・デニー盤Quiet Villageは、このほかにBaked Alaska収録のライヴ・ヴァージョン、アップテンポにアレンジし直したQuiet Village Bossa Nova、そして、Exotic Moog収録のムーグ・ヴァージョンがあります。

Baked Alaskaヴァージョンは、プレイも荒っぽく、機材トラブルがあったのか、途中からバランスがおかしくなったりして(ドラム以外はオフになる)、商品にするのはどんなものかという出来です。ボサノヴァ・ヴァージョンは、ふつうなら、チャチャチャと呼ぶであろうアレンジで、むやみにテンポが速く、Quiet Villageらしい味わいに欠けます。

言及するに足るのはムーグ・ヴァージョンでしょう。何度か書いていますが、そこらじゅうディジタル・シンセサイザーばかりになった時代に生きていると、たまにアナログ・シンセの太い音を聴くと、ムーグの音をはじめて聴いたときの気分を小規模に追体験できます。この楽器が多くの人のイマジネーションを捉えたのも当然でしょう。マーティン・デニーが、ムーグのサウンドに「つぎのエキゾティカ」を見たであろうことは、容易に想像がつきます。モノーラル・ヴァージョン以外で聴くに足るデニーのQuiet Villageは、このムーグ・ヴァージョンでしょう。

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◆ 「原理の発明」と「普及品の開発」 ◆◆
レス・バクスターは、マーティン・デニーのことを褒めていません。ただのコンボのプレイではないか、あんなもののどこが面白いのだ、と音そのものへの否定的意見を述べたあとで、デニーは当初、Quiet Villageは自分の曲だと偽っていた、わたしがそれをやめさせたのだ、といっています。もちろん、印税が入るのだから、デニーのヴァージョンは、わたしにはなんの害も及ぼさなかったが、といっています。

これはつまるところ、オリジネイターの模倣者への軽侮があらわれた言葉でしょう。バクスターは、それまでだれも思いつかなかったコンセプトを生みだし、認知させ、普及させた人です。それに対して、むくつけにいえば、デニーはそのおこぼれにあずかったにすぎません。オリジネイターが模倣者の頭を撫でることはあっても、尊敬することは永遠にないのです。

f0147840_033991.jpgバクスターのそうした立場、見方はそれとして、独創であるか、模倣であるかということから離れても、わたしはレス・バクスターとマーティン・デニーのあいだには、無限の距離があると考えています。

後年、レス・バクスターはハリウッドの主みたいな存在になっていくのですが、インタヴューのなかで、わたしがもっとも気にかけていたことに言及していました。後年、エキゾティカと呼ばれることになるサウンドをつくるにあたって、じっさいに、南米ないしはポリネシアなどの音楽を参考にしたのか、ということです。

答は明白なノーでした。「あの時代には、グレンデイルより遠くへ行ったことがなかった」といっています。この場合、アリゾナのグレンデイルのことではなく、LA近郊のグレンデイルのほうでしょう。昔の江戸っ子が「箱根の山よりむこうにいったことがない」というような意味で、「グレンデイルより遠く」にいったことがないといっているのです。

つまり、あの音は、純粋に、バクスターのスペキュレーションとイマジネーションの産物だということをいっているのです。レス・バクスターは、Quiet Villageによって、「どこでもない世界」の音楽を、虚空から取り出して見せたのです。

どれほど革命的な理論でも、いったん原理が解明されれば、それは自明のことになります。マーティン・デニーがやったことは、「原理の発明」ではなく、「既存製品の改良」ないしは「大量生産工程の開発」、革命の一般化、下流化にすぎません。根本原理の発明ができる人はごくかぎられていますが、こういう二次利用法の開発は、ささやかな才能と運があれば、多くの人にできることです。

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◆ NowhereとSomewhere ◆◆
いや、そういう手柄争いじみたことは、ささやかなゴシップのようなもので、つまるところ、たいして重要ではないのかもしれません。

もっと重要なことは、音がなにをもたらすかです。わたしは先にマーティン・デニー盤を聴き、あとからレス・バクスターのオリジナルを聴きました。そして、こりゃすげえや、と驚きました。

サウンドの作り方も規模も、当然、大きく異なるのですが、もっと重要なのは、こちらが受ける感覚がかけ離れていることです。マーティン・デニーのQuiet Villageは、簡単にいえば「ハワイっぽいけれど、現実のハワイアンとは異なる、キッチュな音楽」です。オーセンティックな音楽ではなく、フォニーだということです。

しかし、レス・バクスター盤は、なんといえばいいのかわからないのです。ハワイないしはポリネシアのムードなんか、レス・バクスター盤Quiet Villageにはありません。レス・バクスター盤Quiet Villageにポリネシア的なものを感じるとしたら、それはマーティン・デニー盤の響きが逆方向に「残響」したからにすぎません。

この「nowhereness」はすごいと思います。凡人のデニーは、「Somewhere, far-away」の音楽しかつくれなかったのに対して、レス・バクスターは「Nowhere, far-away」の音を生みだしたのです。Somewhereは「どこかにある」のですが、Nowhereは「どこにもない」のです。

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以前、わたしは、エキゾティカは本質的にフォニーだということを書きましたが、これは謬りだったと認めざるをえません。いや、マーティン・デニー以下のエキゾティカ類似音楽は、良くも悪くも本質的にフォニーです。しかし、レス・バクスターがQuiet Villageをつくったときには、エキゾティカ(まだそう名づけられてはいなかった)は、フォニーではなく、genuineでauthenticな音楽だったのです。どちらがいいとか悪いとかではなく、ここには大きな差異があるのだということを、はっきり認識するべきだと考えます。

◆ 他のオーケストラ・ヴァージョン(少々) ◆◆
もう残り時間わずかですが、すこしだけ他のヴァージョンを見てみます。

メロディーラインがメロディーラインなので、Quiet Villageは、やはりストリングスでやるのが王道だと感じます。オーケストラものカヴァーでまず「面白い」と感じるのは、クレバノフ・ストリングス盤です。いきなり、イントロから、一昨日ふれたG-C-G-Bb-G-C-Bbというベース・ラインを、ティンパニーでやっているのです。まるで、フィーリクス・スラトキンのI Get a Kick Out of Youです。

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そういうアレンジなので、冗談なのか本気なのかもよくわからないのですが、しかし、50ギターズ・ヴァージョンに通じる派手さがあり、ときおり笑いながら楽しんでしまいます。

ハーマン・クレバノフは、ロシア移民の子どもで、シカゴに生まれ、のちにハリウッドでオーケストレーター、オーケストラ・リーダーをした、とのことです。このExciting Soundsというアルバムのアレンジは、ウェイン・ロビンソンとシーザー・ジョヴァーニという人がやったそうですが、寡聞にしてどういうキャリアか知りません。

ヘンリー・マンシーニ盤もあります。当然ながら、マンシーニは70点を切る盤はつくりません。Quiet Villageは、ハーマン・クレバノフのような極端なところはなく、きれいにまとめています。Moon Riverに使われたのと同じ、あの妙なキーボード楽器(だろうと思う)も使われているところに、マンシーニらしさがちらっとのぞけますが、基本的には、良くも悪くもアノニマスな仕上がりです。フレンチ・ホルンとトロンボーンか、楽器を特定できないのですが、途中で右チャンネルで鳴る管のアンサンブルが好みです。

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Exodusのヒットで知られるピアノ・デュオ、ファランテ&タイチャーのヴァージョンは、ピアノよりもオーケストラのほうが印象的です。

昨日、ちょっとふれかけたビル・ジャスティス盤も、ピアノとオーケストラ、というか、ビッグバンドによるものです。管のアンサンブルをフィーチャーしたQuiet Villageというのは少ないので、変わり種として興味深くはあります。しかし、わたしの好みからいうと、ちょっとテンポが速すぎます。

時間切れなので、これにて打ち切りとします。アーサー・ライマンの数ヴァージョンにまったく言及しなかったのは、われながら手落ちだと思いますし、エディー・バクスター盤なんかも面白いと思うのですが、まあ、そういっていてはキリがありません。夏のあいだ、エキゾティカは何度も取り上げるつもりなので、アーサー・ライマンの話は後日に持ち越しとします。

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by songsf4s | 2008-07-03 23:57 | Exotica