2014年 01月 08日 ( 1 )
大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その4
 
ポップ、ロックの世界で、3コードや4コードの循環コードが多用されるのは、ブルースやヒルビリーが基礎になっているからだ、という説明を読んだことがある。これは説明になっているようで、なっていない。

「では、なぜブルースのコード進行はみなああいう風になっているのか?」という、さらなる疑問を引き出すだけでしかないからだ。

3コードの循環、たとえばCキーでのI-IV-V循環、じっさいのコードに置き換えると、C-F-Gの循環(FはしばしばDm7で代替される)には、ドレミファソラシドのCメイジャー・スケールの音がすべて含まれている。

これが、ポピュラーソングで、この三つのコードによる循環コードが多用される理由なのだ、という説明もある。このほうが納得がいく。C-Am-F-Gという4コードの循環コードも、C-F-Gと同じことだと考えていいらしい。

この説明に説得力があると感じるかどうかは人それぞれだろうが、ケイデンス時代のエヴァリー・ブラザーズのヒット曲の大部分を書いたブードロー&フェリス・ブライアントは、史上まれに見るほど徹底した「循環コード使い」のソングライター・チームだった。

前回とりあげた曲はいずれもブライアント夫妻の作で、みなシンプルな循環コードを利用した、不自然なところのまったくない、スムーズなメロディーラインをもつものばかりだった。

今日の一曲目もブードロー&フェリス・ブライアント作。クリップがないのだが、ないのならしかたない、ではすまされない重要な曲なので、box.netにサンプル音源をアップした。

Bob Dylan - Take a Message to Mary (サンプル)

The Everly Brothers - Take a Message to Mary


ブライアント夫妻がエヴァリーズに提供したもののなかでも、もっともコードが複雑な部類だと思うが、それでも、E、B7、C#m、G#m、F#、A、の6コード、メイジャー、マイナー、セヴンスしか使っていないし、キーがEなら、当然出てくるであろうコードばかりで、おやおや、そんなところに行くのか、という意外なものはない。

メロディー・ライン、ハーモニー・ラインともに、どちらがどちらなのかわからないほどスムーズで、じつは、わたしには、シャレでもなんでもなく、いまだにどちらがどっちなのか判断できない! たぶん、フィルが歌っている上の方がメロディーなのだと思うが、確信はない。

You can say she better not wait for meのラインの、B7→E→G#m→A→Eという早いコード・チェンジのところは、ブライアント夫妻の曲としては、やや強引な流れに感じられる。

しかし、そこがむしろこの曲の魅力のひとつになっていて、say she betterのフィルが歌う上のパートが、ちょっとだけジャンプする(最高音はミだが)ところに耳を引っ張られる。

ここはじつに面白い箇所で、フィルのパートは高くて明瞭に聴き取れ、これはまちがいなくハーモニー・ラインだと、一瞬は思う。

しかし、落ち着いて同じところのドンのラインを聴くと、こちらもメロディーではなく、ハーモニー・パートに聞こえて、見当識喪失に陥る。いや、失ったのは見当識ではなく、メロディーだ。メロディー・ラインはどこに消えた?

ボブ・ディランのカヴァーは、70年リリースのアルバム Self Portrait に収録された。ディラン・ショーヴィニストが蛇蝎のごとく嫌い、ディランのカタログから抹消したいとまで願っている盤だが、以前にも書いたように、ディランのアルバムのなかでは、Nashville Skylineと並ぶ四十数年来のわがフェイヴで、いまもしばしばプレイヤーにドラッグしている。最近のリマスターで一段と音がよくなり、慶賀に堪えない。

Self Portraitはカヴァーの多いアルバムで、そこに面白味もあるのだが、グレイトフル・デッドのWake Up Little Susie同様、ディランもまた、ふだん見せている顔に似合わず、十代の時にエヴァリーズをコピーしたことが、この選曲にあらわれたのだと考えている。

ディランはまた、同じSelf Portraitで、ブライアント夫妻の作でもないし、エヴァリーズがオリジナルでもないのだが、彼らのヴァージョンがもっともヒットした、ジルベール・ベコー作のLet It Be Meもカヴァーしている。

64年にはベティー・エヴァレット&ジェリー・バトラーのヴァージョンもヒットしているが、さして根拠のない山勘にすぎないものの、ディランはエヴァリーズを念頭にしてLet It Be Meをカヴァーしたのだと思う。

The Beach Boys - Devoted to You


大滝詠一&山下達郎 - Devoted to You


The Everly Brothers - Devoted to You


ビーチボーイズのDevoted to Youは、Pet Soundsの準備中で多忙なブライアン・ウィルソンが、リリース・スケジュールに追われ、苦しまぎれの時間稼ぎに考え出した、いわばやっつけのアルバム、スタジオ・ライヴのようなThe Beach Boys Party!に収録されたもの。

しかし、人間、冴えているときは怖いものなしの無敵、このときのブライアン・ウィルソンはまさにその状態で、時間稼ぎの誤魔化しだったアルバムは、ヒットしたばかりでなく、リラックスしたビーチボーイズの心地よいハーモニーを記録した好ましい盤になった。

ドンのパート(下)はブライアン・ウィルソン、フィルのパート(上)はカール・ウィルソンだろうか。ウィルソン兄弟も、エヴァリー兄弟に勝るとも劣らぬ、きれいにミックスした美しいハーモニーを聴かせてくれる。ま、当然だが!

この記事の主役のひとりである大滝詠一のものは、盤としてリリースしたものではなく、ラジオ番組でのライヴで、じつはこの曲ばかりではなく、All I Have to Do Is Dreamをはじめ、ベスト・オヴ・エヴァリーズかというくらいたくさん歌っているのだが、この曲は特別だからおいてみた。

しかし、これはフィル・エヴァリーのパートを歌っている人(呵々)がちょっと苦しそうで(じつは音域が狭いのか、それとも、苦しそうにみせるのがスタイルなのか)、大滝詠一だけが気持よさそうに歌っている。いや、この際、それでかまわないのだが。

エヴァリーズのオリジナルは文句なし、彼らのバラッド系の代表作である。フィル・エヴァリーの死を悼むにふさわしい。

つぎは、ブライアント夫妻ではなく、ほかならぬフィル・エヴァリー自身が書いた曲。エヴァリーズのビート系の曲では、これがもっとも好ましい。

Linda Ronstadt - When Will I Be Loved


The Everly Brothers - When Will I Be Loved


リンダ・ロンスタットのカヴァーは、だれだか知らないがドラムのタイムが悪くて、四分三連のフィルはひどいし、グルーヴも嫌いだが、間奏のギター・アンサンブルは、おそらくアンドルー・ゴールドの多重録音で、わたしのような、ギター・オン・ギターが好きな人間にはエクスタシーものである。ここだけはすごいと思う。

リンダ・ロンスタットは好きでも嫌いでもなく、フィル・エヴァリーのために印税をたくさん稼いでくれてありがとう、と思うのみ。こういう風にカヴァーがヒットしないと、昔の人は忘れられてしまうことがあるので、その点でもありがたい。いや、どうも相済まぬ。>リンダ・ロンスタット・ファン諸兄姉。

エヴァリーズのオリジナルは、これまた云うことなし、すばらしい。ナッシュヴィル時代の彼らのサウンドはおおむねシンプルで、ヴォーカルに耳が集中するようにつくられているのだが、ドラムのバディー・ハーマンをはじめ、上手い人ばかりなので、派手なことをしなくても、気持のよいトラックが多い。

しかし、この曲は、ハーマンのフロアタムが、エルヴィスの時のような音で、おお、と思うし、アップライト・ベースの下降ラインも気持がいい。WB時代のゴージャスなサウンドの予告編といった趣である。

つぎはまた、ブードロー&フェリス・ブライアントの曲に戻る。

Gram Parsons & Emmylou Harris - Sleepless Nights


The Everly Brothers - Sleepless Nights


これはシングル曲ではない。よくまあグラム・パーソンズは自分にぴったりの曲を見つけだしたものだと思う。むろん、この曲に関しては、出来は伯仲、というか、感傷の深さにおいて、GPとエミールーのデュエットの勝ちではないかと思う。はじめて聴いたときは、なぜこれがお蔵入りしたのだと驚いた。おそらく、自作の曲を優先したためであって、出来に不満足だったわけではないだろう。

エヴァリーズのオリジナルも悪いわけではない。いい出来である。たんに、グラム・パーソンズがすごかったにすぎない。

今回はこれでおしまい。冒頭でふれたブライアント夫妻のソングライティング・スタイル、そしてTake a Message to Maryの、ドンとフィルのどちらもハーモニー・ラインを歌っているように聞こえる部分、これがエヴァリーズ、ブリティッシュ・ビート、大滝詠一を結ぶ隠れた糸なのだが、それは大滝詠一の曲に戻る次回に再検討する。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう
[PR]
by songsf4s | 2014-01-08 22:43 | 60年代