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The Best of Jim Gordon その9

ベスト・オヴ・ジム・ゴードンも、ここから先は補遺のようなものですが、それでもすばらしいトラックが多くて、ちょいちょいと片づけるわけにはいかず、今回とさらにもう一回、二度に分けて書くことにします。

◆ The Everly Brothers - untitled instrumental ◆◆
プロとしてスタートしたころのジム・ゴードンのことはよくわかりません。なんせ、ご本人が塀の向こうなので、オフィシャル・サイトもなければ、インタヴューもないのです。80年代なかばから、芸能人本ではない研究書があらわれはじめるので、事件が起きたのが90年代だったら、だれかが取材し、なにか材料があっただろうにと残念でなりません。まあ、彼の出獄が楽しみだということにしておきましょう。

乏しい資料をあれこれ繰っていくと、どうやら、エヴァリー・ブラザーズのツアー・バンドが彼のプロとしてのスタートだったといっても大間違いではない、という中間的な結論が得られます。ドラマーワールドのミニバイオでは、1963年、17歳でエヴァリーズの仕事をはじめたとなっています。

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このトラックは、友人からもらったファイルで、くわしいことはわからないのですが、ドン・エヴァリーのナレーションが入っているので、ラジオ放送用のスタジオ・ライヴと考えられます。

この曲の冒頭(といっても、じっさいには前のトラックの末尾に収録されているのだが!)では、ドンが「これでぼくたちがどれほどこのバンドとやるのを楽しんでいるかがおわかりになったでしょう。でも、バンドにスポットライトを当てようとすると、だれかひとりに偏るわけにもいかなくて、困ってしまうことがあります。(ここでドラムが入ってくる)おっと、ドラマーがなにかいっているので、この曲では彼をフィーチャーすることにしましょう。彼の名前はジム・ゴードン、すばらしいドラマーです」と紹介しています。ドンとフィルがいかにこのワンダー・ボーイを可愛がっていたかがうかがえます。

タイトルも不明のギターを中心としたインプロヴですが、それだけにドラムの力量は明瞭に見えます。とても十代の少年とは思えないすばらしいグルーヴです、っていわずもがなですが。ドラム・ソロまであるのは、ドンとフィルの厚意なのでしょう。後年とちがってミスの散見するプレイですが、ドラマーとしての基本的な「姿形」はすでに完成に近く、後年のマスターフルなドラマーの姿と違和感なくきれいに合致する「若き日の肖像」となっています。

◆ The City - Snow Queen ◆◆
この曲でのジム・ゴードンのプレイのすごさは、すでにSnow Queen その2で、記事を丸ごと使って書いているので、今回はあまり付け加えることはありません。ジミーはワルツがものすごくうまいのに、残されているのはカントリー系の控えめなものばかりで、ドラマーの代表作、といえるレベルにあるのはこのトラックぐらいではないかと思います。

これを本編からはずしたのは、以前にも書いたように、盤がヘタってノイズが出てしまったからです。盤面の汚れが原因ではなく、経年劣化なので、どうにもなりません。アルミが錆びたCDほど役に立たないものはありませんな。LPなら、いろいろな手当ができるんですけれどねえ。

で、3カ所の劣化部分のうち、1カ所がひどいので、以前つくった192KbpsのOggファイルをデコードしてWAVファイルをつくり、これを今回新たに吸い出したWAVファイルの事故部分に貼り付けてみました。そうしたら、あららの現象がおきました。いや、わかっていたことなのですが、これだけ明瞭に結果が出ると、へへえ、なのです。

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圧縮ファイルの問題はいろいろありますが、よくやり玉にあげられるのはステレオの分離、定位の問題です。ここがあまり忠実にはいかないのです。じっさい、今回OggからWAVをつくって、CDから吸い出したWAVのノイズ部分に貼り付けたら、その部分だけヴォーカルがセンターから右に移動してしまったのです。あちゃあ、でした。

しかし、元のままではノイズがひどいし、どうしたものかねえ、この曲はあきらめるかなあ、と思いつつ、ともあれ、このWAVをMP3にしてみました。そうしたら、Oggから戻した断片を貼り付けたのがどこなのかわからなくなってしまいました。ステレオ定位はノーマルにもどったのです。へえ、そうなってるわけねー、でしたよ。いやまあ、単なる偶然かもしれませんが、いったんWAVに戻したあとで再度圧縮すると、狂った定位も正常化しちゃうのだから、あれれ、ですよ。

この修繕遊びはなかなか面白かったので、腹は立たないのですが、じつは、脇から320Kbpsのノーマルなファイルを入手できたので、この作業はみな「なかったこと」になってしまいました!

◆ Alice Cooper - Road Rats ◆◆
I'm The Coolestがふつうにイメージするアリス・クーパーの曲という感じではなく、ジム・ゴードンの観点からは、ごくノーマルなドラミングだったので、もうすこしアリス・クーパーらしい曲を入れておこうか、ということで選びました。半分は冗談みたいなものなので、本編からはずして、ここに繰り込んだ次第です。

ジム・ゴードンのドラミングはいたってストレートで端正なので、アリス・クーパーのようにねじってくる上ものとはあまり合いそうもないのですが、まずまずのところに落ち着いたように感じます。純粋な仕事というより、「これもなにかの経験」と思ってプレイしたのではないでしょうか。まあ、ザッパやジャック・ブルースにいくぶん近いところがあるのですがね。

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◆ Steely Dan - Parker's Band ◆◆
スティーリー・ダンは大の苦手で、Reelin' in the Yearsの間奏だけが聴きたくてベスト盤を買いましたが、改めて聴くと、ジム・ゴードンがすごいのです。となると、いくつか聴かないわけにはいかなくなるわけで、結局、どの方面へ踏み込んでも、ドラマー研究は遅かれ早かれ茨の道にいたってしまうのです。

The Best of Jim Gordon その9_f0147840_05271.jpgスティーリー・ダンのくだらなさ、とんでもない勘違い、聴くに堪えないヴォーカルに対する大不快感はとりあえず棚上げにし、この曲に関するジェフ・ポーカロのコメントを、それに先立つジム・ケルトナーのコメントともども以下に貼り付けます。

According to Keltner, "When he was on, he exuded confidence of the highest level-incredible time, great feel, and a good sound. He had everything." "On Pretzel," says Porcaro, I played on 'Night by Night' and Gordon and I played double drums on 'Parker's Band.' Gordon was my idol. Playing with him was like going to school. Keltner was the bandito in town. Gordon was the heir to Hale Blaine. His playing was the textbook for me. No one ever had finer-sounding cymbals or drums, or played his kit so beautifully and balanced. And nobody had that particular groove. Plus his physical appearance - the dream size for a drummer - he lurched over his set of Camcos."

ケルトナーの「信じがたい〔ほど正確な〕タイム、圧倒的なフィール、すばらしいサウンド、ジム・ゴードンはすべてをもっていた」という評は、名人、名人を知るというべき、簡潔にして欠けるところのないコメントです。「When he was on」つまり「彼が乗ったら」と限定しているところも行き届いた配慮で、だれだってそうですが、とりわけジム・ゴードンはオンとオフの差が大きいのです。対照的なのはハル・ブレインで、好不調の波が小さく、つねにアヴェレージ以上の仕事をしています。

いや、ここで問題なのは、アルバムPretzel Ligicに関するポーカロのコメントです。Parker's Bandでは、ポーカロがジム・ゴードンとダブルをやったことが、このコメントでわかります。それが、この曲をここに置いた理由です。

みなさんはどう考えるか知りませんが、わたしは数小節聴いて、左がジム・ゴードンと判断しました。理由はふたつ。左のドラマーは16分のパラディドルがハイパー・スムーズで、ジム・ゴードンという仮定とまったく矛盾しない、右のドラマーはキックが下手で、ジム・ゴードンという仮定と矛盾する、それだけです。

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ジェフ・ポーカロはジム・ゴードンを崇拝していたというだけあって、初期はジミーそっくりのプレイをしています。ちょうど、駆け出しのころのジミーが、ハルそっくりのチューニングとプレイをしたように、ポーカロも迷惑なくらいそっくりなチューニングをしています。たとえば、ボズ・スキャグズのSilk Degreesを聴けば、ポーカロがどれほどジミーに傾倒していたかがはっきりわかります。

◆ Joe Cocker - The Letter ◆◆
いまとなっては記憶がややあいまいなのですが、ジム・ゴードンの名前(そしてジム・ケルトナーも)を記憶したのは、たぶん、ジョー・コッカーのダブル・ライヴ・アルバム、Mad Dogs & Englishmenでのことです。

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数年前に最初のベスト・オヴ・ジム・ゴードンを編んだとき、このアルバムから1曲入れようとしたのですが、録音とミックスが気に入らず、なんだ、ドラムを聴くにはいいアルバムではないのだな、と失望しました。ジム・ゴードンとジム・ケルトナーがダブル・ドラムを組んでいるのですが、二人のセットの分離が悪く、タイムのズレが気になったのです。

しかし、その後、同じツアーを記録したマルチディスク・セット、Mad Dogs & Englishmen At Fillmore Eastを聴くにおよんで、録音はよくないけれど、多少分離をよくすれば、すばらしいドラミングを聴くことができるツアーだったのだということがわかりました。そりゃそうですよ、史上最強コンビなのだから、すごくて当たり前、あんまり面白くないなあ、と思ったLP時代の選曲、ミックス、マスターのほうがおかしかったのです。

というわけで、今回は3曲とも、オリジナルのLPからではなく、新しいミキシングのCDからとったヴァージョンです。すごいプレイの自乗が目白押しのなかから精選した3曲です。

ダブルを組むと、ジム・ケルトナーというのは、バックビートに徹して、暴れるのは相方にまかせる傾向のあるプレイヤーです。しかし、まだ若かったからなのか、相手が他ならぬジム・ゴードンだったからなのか、このツアーでは、そういう一歩うしろに引いたプレイはしていません。ジム・ゴードンとジム・ケルトナーの二人がそろってホットにプレイしたのだから、結果はもういうまでもないのです。

ゴードン対ポーカロという、わかりやすい組み合わせのParker's Bandとちがって、こちらは武蔵と小次郎、実力伯仲の巌流島です。しかし、古来、ギャンブルは買ってでもしろというので(いわないってば)、当たるも八卦当たらぬも八卦でいってしまうと、右がゴードン、左がケルトナーだと思います。

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二人の相対的な比較にすぎませんが、ゴードンのほうがすこし早く、ケルトナーのほうがすこし遅く、って同じことですが、どちらも単独で聴くと非常に正確なタイムに聞こえるのに、二人並ぶと、やっぱり早い遅いがあるんだなあ、と感心したというか戸惑ったというか、そんなところです。まあ、バックビートにラベルを付けるなら、ケルトナー=重厚、ゴードン=軽快ですから、遅速があってあたりまえです。いや、たとえ二人とも軽快な組み合わせ、たとえばハルとジミーでも、人間だから遅速があるにちがいないのですが。

ケルトナーも引っ込んではいないと書きましたが、このトラックに関しては、派手なフィルインを叩いているのはジム・ゴードンでしょう。コーラスで連発されるフィルインは血がたぎりたちます。

カール・レイドルという人はクールなプレイをするという印象があるのですが、このツアーでは、ゴードン、ケルトナーばかりでなく、彼のベースもじつにホットで、この曲のコーラスのエクサイトメントの何割かはレイドルの力によるものでしょう。

ほんのつなぎのつもりはじめたジム・ゴードン特集なのに、意外に手間取り、長引いてしまいましたが、いよいよ次回で終了です。まだすごいトラックが残っています。


by songsf4s | 2008-09-27 23:58 | ドラマー特集