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The Best of Jim Gordon その7

近所にライヴ・ジョイントがあるのですが、先日、その前を通りかかったら、「想い出の渚」のインストが流れてきました。一瞬でなぜインストだと判断したかというと、ギターのトーンです。例のリヴァーブ深め、トレモロもちょい深めという、インスト・バンドのリードらしいサウンドだったのです。

しかし、ですね、数歩あゆんだところで、思わず笑ってしまいました。向こうからだれもこなかったのはラッキーでした。夜、ひとりで笑いながら向こうから来る人間を見たら、近ごろは警戒しまさあね。

The Best of Jim Gordon その7_f0147840_01596.jpgなぜ笑ったかというと、「想い出の渚」と見たは大誤解、じつはBlue Starだったのです。この両方をご存知の方なら、この誤解がほとんど理解に近いことがおわかりでしょう。コードもメロディーも似ているのです。

また、そういってはなんですが、ギターのプレイにどことなく哀愁があり、スプートニクスがワイルド・ワンズをカヴァーしたみたいなムードが横溢していたのです。C-Am-F(Dm7)-Gという循環コードの曲をやると、どういうわけか、アメリカ人はメイジャー的に響かせるのに対して、日本人はマイナー的に響かせる傾向があるように、わたしには思えます(話はあらぬほうへいくが、岸井明というシンガーが面白いと思うのは、日本人にはめずらしく、マイナーをメイジャー的に響かせてしまうタイプだからである。これほど湿度の低いシンガーは日本人にはきわめて稀だろう)。

大昔、ワイルド・ワンズの「想い出の渚」は、もちろん、アメリカのポップ・チューンのようには響きませんでした。湘南ボーイもジトーッと湿っていたのです。あれから、エーともう40年以上たつというのに、日本では、やっぱりC-Am-F-Gがマイナー的、歌謡曲的に響いてしまうだから、おやおや、でした。

近ごろはずいぶん変わったと思っていましたが、やっぱり、民族の血と風土が僅々半世紀やそこらで一変するものかよ、と自分の愚かさを笑い飛ばしたましたねえ。日本はラップをやっても、祭文やらチョボクレ節やら三河万歳やら、ああいうものが混入しますものね。

本邦戦後ラップの源流を知りたい方は、小津安二郎の『長屋紳士録』(たしか戦後の第一作)で、笠智衆扮する大道易者が酔余歌う「不如帰」(例の逗子の海岸で武雄と浪子がというやつ。徳富どっちでしたっけ? 蘆花? ただし、ここで披露される歌は、この物語をベースにした覗き機関、すなわち本朝で生まれた原始的ニケロディオンのようなもののBGMとして使われた曲だと、劇中、笠智衆が紹介する)をお聴きになるといいでしょう。じつにいいグルーヴで、仰天しますぜ。思わず、コピーしようかな、なんて考えましたもんね。

◆ Alice Cooper - I'm The Coolest ◆◆
さてベスト・オヴ・ジム・ゴードン後半戦の第2ラウンドです。

このアリス・クーパーの曲は、チェンジアップとして、ここらでテンポゆるめでムーディーなのがほしい、という編集上の都合から、手持ち曲をダダアと数秒ずつ流して、これだ、とあっさり決めてしまったものです。スロウでムーディーな曲を探していて、なんでよりによってアリス・クーパーなんだよ、というご意見があろうことは百も承知、しかし、われわれの人生の相当部分は、ことの成り行き、ものの弾みで構成されているのでありましてな、世の中、そういうものと思ってあきらめてもらいましょう。

The Best of Jim Gordon その7_f0147840_062942.jpgま、要するに、この曲がそこそこ好きなのです。ドラミングというやつは、単独で立つことができず、楽曲次第、上もののパフォーマンスしだいといった、行き先はウナギに聞いてくれの素人ウナギ、明日は明日の風まかせのところがあって、それがこういうプログラムを組むときには手かせ足かせとなったり、あるいは逆に、助けとなってくれたりします。つまらない曲は、ドラムが面白くても、痛し痒しなのです。

ドラミング的立場からいっても、I'm The Coolestはなかなか楽しめます。リラックスしたブラシのバックビートもけっこうですが、中間部で一瞬だけ盛り上げるところがあり、ジム・ゴードンもきれいなタムのフィルインをキメています。こういう東映任侠映画的我慢も、いくぶん倒錯的ではありますが、なかなか面白いものです。プロコール・ハルムのSalty Dogでわかるじゃないですか、あのヴァースの我慢がコーラスの爆発力を倍加するのです。

一説によると、70年代後半になると、ジム・ゴードンは薬物中毒の結果、奇妙な言動をするようになり、さらに悪いことに、テンポをはずすことさえあったという話もあります。まあ、事件のあとになると、そういうことをいわれがちですから、鵜呑みにするわけにはいきません。わたしにとっては、ドラマーとしてどうだったのか、ということだけが重要です。このGoes to Hellというアルバムは76年のものですが、まだ悪い兆候は感じません。ただし、かつてのように、このうえなく美しいビートとは、残念ながら感じませんが。でも、腐っても鯛、凡人の絶好調時より数段いいプレイです。

◆ George Harrison - You ◆◆
スロウでムーディーな曲のあとは、当然、速くてにぎやかな曲です。今回の編集では、ここのつなぎがうまくいったと自賛しています。ほうっておくときれいにつながらないので、両者の無音部を詰めたんですがね。どんな世界でもそうですが、たとえ遊びであろうと、懐手の肘枕ではいい仕事はできません。バックステージは火の車の大車輪で、やっと、ふつうのものができたように見えるのでありましてな、と近ごろ年をとって、いうことが未練たらしい!

まだほかになんの音もない状態で、ドラマーが単独で最初の音を出す、というのは、ポップ・ミュージックではよくあることです。子どものころは、そういうところには着目しませんでしたが、馬齢を重ねて、最初の数打というのは、航空機の離陸並みに危険なクリティカル・パスなのだということが、やっとわかってきました。このYouみたいな冒頭の数打を試験問題にすれば、ドラマーの等級分けは簡単にできるでしょう。一流プレイヤーは、こういうドラムリック・イントロを一発でピシッとキメられるのです。

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このような数打、いや正確には、4分-8分×2-4分という4打ですが、こういうシンプルなリックを美しく響かせる要素はたった二つ、タイムと強弱のイントネーションです。よく、センスといいますが、ドラミングの場合、センスのように見えるものの実態は、おおむねイントネーションのつけ方ではないでしょうか(もっと大局的に、どのようにドラミングを設計するかというデザイン能力が、センスの善し悪しとして認識されることもあるが)。

もちろん、本体でも正確かつ華麗なビートを提供していますが、極端な言い方をするなら、イントロの4打をきれいにキメてくれたことで、この日、ジム・ゴードンに支払われたであろう数十ドルから百数十ドルのギャラは正当化されたといえます。シングル曲にとっては、イントロはそれほど重要なのです。

◆ Seals & Crofts - Hummingbird ◆◆
本人としては、ロックバンドでホットなプレイをするほうが楽しかったのでしょうが、ハリウッドのセッション・プレイヤーとして、アール・パーマー、ハル・ブレインの遺産を継承する「プリンス」と見なされていたころのジム・ゴードンのもうひとつの側面も、それはそれで魅力があります。

60年代、ツアーに出る以前のジム・ゴードンは、遺産継承者どころか、ハル・ブレインの影武者といいたくなるほどで、バーズなど、一部の録音をのぞけば、猫をかぶっていたとしか思えない仕事をあちこちに残しています。本特集ですでに取り上げたものでいえば、グレン・キャンベルのWichita Linemanが典型でしょう。

それが、時代も変わったのかもしれませんが、ディレイニー&ボニー、ジョー・コッカー、ドミノーズといったツアーを経験するうちに、歌伴でも必要なら派手に叩くという考え方に変わっていったように感じます。やはり時代の変化のほうが重要でしょうかね……。60年代的な歌伴は古くなったのでしょう。

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70年代になると、楽しめる歌伴が増えるのは、そういうことなのではないかとわたしは考えています。この73年のHummingbirdは、60年代に録音したら、もっとおとなしいプレイをしたタイプの曲ですが、強めのビートとフィルインに、ドラマーから見た70年代らしさのようなものが、端的にあらわれたように感じます。

なお、百パーセントの確信はもてませんが、シールズ&クロフツの最初のヒット、Summer Breezeもジム・ゴードンのプレイだろうと考えています。

◆ Tom Scott - Blues for Hari ◆◆
アール・パーマーやハル・ブレインと異なって、ジム・ゴードンはジャズ系統の盤をほとんど残していません。わたしが知るかぎりでは、ガーボウア・サボーのWind, Sky And Diamonds、このトム・スコットのBlues for Hariを収録したThe Honeysuckle Breeze、そして、しいていえば、先日、ご紹介した Children And All That Jazzはじめとする、ジョーン・バエズの一連のA&M録音のトラックもジャズ的ムードです。この三種類しか、とりあえず思いつきません。

サボーとスコットのアルバムは、インパルスがロックに色目を使った時代(同情的にいえば、時期としては早いので、目先は利いた)にきびすを接してリリースされたもので、サボーのものはまったく問題外のサウンドでしたが(ジム・ゴードンが下手くそに聞こえるのはどういわけだ!)、トム・スコットのほうは少しマシで、この方面のサンプルをということなら、 Children And All That JazzとこのBlues for Hariだろうと思います。

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しかし、67年9月という早い段階(つまり、バーズの8 Miles Highなど、例外はあったが、基本的にはまだ歌伴のドラマーだった)で、ジム・ゴードンにこれだけ自由なプレイをさせたということで特筆に値するでしょう。ただし、チューニングの低さは気に入りません。この時期のジム・ゴードンは、よそではもっと高いピッチ(60年代育ちにいわせれば、高いのではなく、「標準的ピッチ」だが!)なので、これはプロデューサーないしはトム・スコットの注文ではないでしょうか。ピッチを落としたら、ドラマーのタイムはボケます。そこが気に入りませんが、この傾向のものとしては、このBlues for Hariがもっとも楽しめる出来になっているのはたしかです。


by songsf4s | 2008-09-25 23:54 | ドラマー特集