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The Best of Jim Gordon その3

先週のはじめに新しいHDDのトラブルのことを書きましたが、結局、モーターも回転しなくなり、初期不良であえなくおシャカ。本日、代替品が届き、インストール完了、ファイルのコピー完了、あとはOSをコピーしたパーティションを「イキ」にして、接続先を変更して再起動すればすべて完了、というところまできました。

ずいぶん長いことAT互換機を使っているので、パーツ交換は無数にやりました。つらつら考えると、どうやら、初期不良パーツだけを集めて一台つくれそうです。って、初期不良パーツを五万と集めても、動かないPCができるだけ、どう逆立ちしても、動くPCはつくれないのですが!

いや、まあ、そのへんはいいとして、ファイルのコピーに要する時間はどうにかならないものでしょうかねえ。今回は200GBほどコピーしましたが、3時間近くかかりました。ほかのものは劇的に改善しているのに、HDD間のファイル転送速度は、初期の数倍がいいところでしょう。HDDの回転数だって、3300回転から7200回転だから、たったの2倍強です。

それに対して、扱うファイルの大きさは、飛躍的な増大を遂げました。最初に買ったHDDのサイズが40MBですよ。40GBのまちがいではありません。MBです。いまどき、40MBでできることなんかほとんどなにもありませんよ。最初にATを組み立てたときのHDDだって、330MBが2台でした。GBという単位が登場したのは、その半年後です。いまや、わが家のPCもあと少しでテラバイト、ついにTBという見慣れない単位へ移行です。それなのに、転送速度はほとんど改善していないのだから、この先、どうなるのだろうと思います。回転するものでの速度の改善はとうに頭打ちだから、やっぱりディスクリートなものにせざるをえないのでしょうかねえ。

ともあれ、これで大幅に余裕ができたので、いろいろなことがやりやすくなります。がしかし、今日はHDDにかかりきりだったので(いや、じつは誘惑抗しがたく、『マタンゴ』の冒頭を見てしまった)、またしても記事を書く時間は微少になってしまいました。いい加減な枕を書くのは楽勝ですが、記事本体は気を遣うので、まあ、最近のような短さで、負担になるまえに切り上げるのが「セルフ敬老精神」というべきかもしれません。

◆ Glen Campbell - Wichita Lineman ◆◆
さて、ベスト・オヴ・ジム・ゴードンのつづきです。今日のトップはおそろしく地味なプレイです。しかし、歌伴のときのドラマーというのは、本来はこういう存在だったわけで、このようなきわめて匿名的なプレイも、サンプルとして押さえておきたいわけですな。それになんたって、ジミー・ウェブの代表作ですし、アレンジよし、レンディションよし、パフォーマンスよし、プレイよし、録音よしてなもんで、ほとんど完璧なトラックですから、たとえドラマーのキャリアという文脈にあっても、こういう曲も無視するべきではないのです。

わたしの知るかぎり、このトラックのパーソネルが書かれた盤はありません。うちにあるものでいうと、オリジナルのLPにも、後年のベストCD、Essential Glen Campbellにもメンバーの記載はありません。では、耳で聴いてまちがいなくジム・ゴードンと断定したのかというと、そんなことでもないのです。なんたって、わたしはこの曲のドラマーはハル・ブレインだと思いこんでいたくらいでしてね、ぜんぜんわかっちゃいなかったのです。

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では、なぜわかったかといえば、以前にもちょっとふれたとおり、この曲でベースをプレイしたキャロル・ケイが教えてくれたからです。ゴードン、ケイのほかに、作者のジム・ウェブがピアノ、グレン自身がCKさんのダンエレクトロ6弦ベースを拝借して間奏をプレイしたそうです。アコースティック・ギターもグレン自身じゃないでしょうか。

この曲についてCKさんがいっていたことで、なーる、とうなったのは、アレンジャー/プロデューサーのアル・ディローリーが、彼女のベース・ラインを土台にして、うまくストリングスをアレンジした、と賞賛していたことです。彼女は、あとでオーヴァーダブされるはずのストリングスをイメージしながら、ベース・ラインをつくることがある、というのです。ベース・プレイヤーとアレンジャーの意図がうまくかみ合って、いいサウンドがつくれたケースといっていいでしょう。

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スタジオのアル・ディローリー(手前)とグレン・キャンベル

で、ここでの主役たるジム・ゴードンのプレイはどうかというと、これがまた、若さに似合わぬ超渋渋で、年寄りとしてはシビれますなあ。こういうときに、その人のもっている体質というか、生来のタイム感がモロに出ちゃうんですよねえ。つまり、美人はスッピンがいい、というあれですわ。飾りようがないから、もって生まれた美しさが際だっちゃうのであります。なにもしないからこそ、素のタイムが露呈し、「やっぱ、元がちがうもん、がんばったんじゃなくて、生まれたときからうまいのよ、努力の人じゃないもんねー」と納得するわけですな。努力するような人間には、いい音楽はつくれません。

この超渋渋ソングにも、ドラマーの見せ場がないわけではありません。シナトラのStrangers in the Nightでハル・ブレインがやったように、ヴォーカルが消えたあと、エンディングで技術の片鱗をチラッと見え隠れさせるわけですな。ほんの一瞬のプレイですが、さすがはジム・ゴードン、やるべきことをきちんとやって、存在感を示しています。

◆ Dave Mason - Only You Know And I Know ◆◆
ブルー・サム・レコードからリリースされた、デイヴ・メイソンのソロ・デビュー盤のオープナー。この盤にはトラック単位のクレジットはなく、アルバム全体のものとして、ジム・ゴードン、ジム・ケルトナー、そしてメイソンとはトラフィックでバンドメイトだったジム・カパーディーの3人が、ドラマーとしてクレジットされています。なかにはゴードンかケルトナーか判断しにくいトラックもありますが、この曲は大丈夫、ガチガチでジム・ゴードンです。

ヴァースはシンバルを使わず、ほとんど両手でスネアを叩くという変則的なプレイですが、こういうのもできないと、プロとしては失格で、生涯ドサ廻りをするハメになります。もちろん、ジム・ゴードンはあざやかにこなしています。

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Only You Know and I Knowを収録したアルバムAlone Togetherのバカげた三つ折りLPジャケット

大ざっぱにいうと、両手で8分を叩きながら、2&4を中心として、適宜、非常に強いアクセントを入れるプレイ、ということになるのですが、うまい人は、こういうときに、どこにアクセントを入れるかいうそのセンスまでいいのです。

間奏などで、このパターンから逸脱し、スネアは左手だけにし、ライド・ベルを使ったりしていますが、ライド・ベルといえばジミーというぐらいで、いつだって文句のないプレイをします。ハル・ブレインやアール・パーマーだってライド・ベルを使わなかったわけではないのですが、ジム・ゴードンはハルやアールの数十倍は多用しています。よほど好きだったのでしょう。長いアウトロは、ライド・ベルとフィルインのコンビネーションで楽しませてくれます。

◆ Delaney & Bonnie & Friends - Only You Know And I Know ◆◆
同じ曲をライヴでやるとどうなるか、という興味です。ギター陣のひとりはデイヴ・メイソンですし、ベースもカール・レイドルと、メイソン盤Only You Know and I Knowに近いメンバーでのライヴ録音です。

The Best of Jim Gordon その3_f0147840_0121884.jpgいつも思うのですが、ジム・ゴードンはライヴでも心拍数が上がらないタイプのようです。ディレイニー&ボニー盤Only You know and I Knowが、スタジオ録音のデイヴ・メイソン盤よりテンポが遅いのは、ジム・ゴードンとは無関係なところでの意志決定でしょうが、それにしても、どこかですこし突っ込みそうになったり、ほんの気持ちだけ走りそうになったりするのが、よくいえば「ライヴらしさ」(ま、半分は下手なドラマーへの嫌み!)なのですが、ジム・ゴードンがそういう粗忽をしたのは聴いたことがありません。カール・レイドルとの相性もよかったのかもしれませんが。

◆ Bobby Whitlock - The Scenary Has Slowly Changed ◆◆
すでにこのベスト・オヴ・ジム・ゴードンで取り上げたSong for Paulaと並ぶ、ジミーが大活躍するボビー・ウィットロックのもう1曲のバラッドです。どちらの曲を先に出すかは悩ましいところで、まさしく五分と五分の勝負です。

The Best of Jim Gordon その3_f0147840_0154588.jpgこちらのThe Scenary Has Slowly Changedの場合、最大の魅力は、ジム・ゴードンがさまざまなフィルインをつぎつぎと繰り出す、スリリングな最後の一分間です。しかし、テクニカルなところに強く惹かれるかというと、正確にはちがうのです。フィルインを構成する数多くのビートの相当のパーセンテージが、どうしてそんな一瞬を狙えるのだ、と呆然とするほど、ミクロに微妙なタイミングでヒットすることに驚きと快感を味わう、その点こそ、ジム・ゴードンの最大の特徴なのです。ただたくさんのビートを叩けばいいのなら、ジンジャー・ベイカーですらいいドラマーになってしまうわけで、そんな馬鹿な話はないのです。すばらしいビートをどれほど多く、連続的にヒットできるか、という勝負なら、ジム・ゴードンはアメリカ音楽史上ナンバーワンのプレイヤーです。

この曲の最後の一分間に叩き出された多数のビートのうち、たとえていうなら、三割ぐらいはすばらしいポイントにきています。それほどの「高打率」を実現できたドラマーはジム・ゴードンしかいないでしょう。


by songsf4s | 2008-09-15 23:58 | ドラマー特集