- タイトル
- Out of Limits
- アーティスト
- The Marketts
- ライター
- Michael Z. Gordon
- 収録アルバム
- Out of Limits
- リリース年
- 1963年
- 他のヴァージョン
- The Ventures, the Challengers, the Pyramids
本日の曲、Out of Limitsついては、すでにTwilight Zoneの記事で簡単にふれています。ということはつまり、その時点ではこの曲を改めて取り上げるつもりはなかったのです。しかし、よくよく考えると、この曲にある程度の重要性があることは認めざるをえず、明日の記事への「経過音」として、取り上げておくべきだという気がしてきました。したがって、今日の記事は、Twilight Zoneの記事とやや重なることをあらかじめお断りしておきます。
◆ まぎらわしい出自 ◆◆
最初に聴いたこの曲のヴァージョンは、ヴェンチャーズ盤、それもThe Ventures in Space収録のスタジオ録音ではなく、Ventures in Japan Vol.2(定冠詞が抜けているのはわたしの責任ではない。盤にそう書いてあるのだ!)収録のライヴ録音です。そのあとでIn Space収録のスタジオ盤を聴き、ずっと後年、マーケッツのオリジナルを手に入れる、という順序でした。
この順序になにか意味があるわけではありません。意味があるのは、1965年に聴いた、ということです。このとき、なにを思ったかというと、1)曲はTwilight Zone(邦題「ミステリー・ゾーン」)のテーマに似ている、2)タイトルはドラマの「アウター・リミッツ」に似ている、3)ドラマの「ミステリー・ゾーン」と「アウター・リミッツ」はよく似ている、4)こうしたもろもろの近縁関係はどういうことなのだ? たんなる偶然なのか、それとも意味があるのか? といったことでした。
Twilight Zoneのときに書きましたが、ドラマのほうは、「アウター・リミッツ」のほうが後発で、1965年にはまだ放送中だったと思います。同じファンタスティックな話柄のドラマ・シリーズですが、「アウター・リミッツ」のほうがSF寄りで、しかも、下品というか、直截でした。いまでも覚えているエピソードに、宇宙からやってきた岩石型の生物が人を襲うというものがありましたが、こういうのが典型的な「アウター・リミッツ」的話柄で、ファンタシー寄りの「ミステリー・ゾーン」は取り上げないタイプのものです。
いや、そんなことはどうでもいいのです。小学生のわたしは、Out of Limitsという曲が、Twilight Zoneのテーマのリフを利用しているのに、Twilight Zoneというタイトルではなく、Out of Limitsというタイトルになっているのが、なんともまぎらわしく、どうなっているのだろうかと、すごく気になりました。
◆ 商機ここにあり ◆◆
いまにして思えば、マーケッツのベンチ、すなわちジョー・サラシーノの思惑は、まさにそこにあったのだろうと思います。Twilight Zoneのテーマはだれでも知っているが、首尾一貫した「楽曲」とはいえず、シングル・カットのしようがなかった、Outer Limitsは、ドラマはヒットしているのに、テーマはほとんどアヴァンギャルドで、メロディーらしいメロディーもなく、だれにも覚えられない……ここに掘るべき金脈があるではないか、というわけです。
結果として、Twilight Zoneに似た曲と、Outer Limitsというタイトルをそのままいただいた、だれもが、なんとなく、ふたつの大ヒット・ドラマの「両方の」テーマと誤認識するのを妨げる意図をまったく持たないシングルができあがったのでしょう。つまり、誤認識大歓迎、まちがえて買ってね、勘違いして聴いてね、という無茶苦茶な企画なのです。
Outer Limitsを放送していたABCから訴訟も辞さずと威されたとかで、Outer Limitsというタイトルは、Out of Limitsに変更せざるをえなくなりましたが(Ventures in Japan Vol.2では、MCはThe Outer Limitsとまちがったタイトルで紹介している)、サラシーノとしては、それくらいは想定の範囲内だったのでしょう。どうであれ、ビルボード3位にまでのぼる大ヒットになったのだから、タイトル変更はなんの害も及ぼさなかったにちがいありません。
ジョー・サラシーノは、いわば「便乗の帝王」です。ニッチを見つけ、金のにおいを嗅ぎわける鼻のよさは、じつにもって天晴れ、見上げたものだよカエルのなんとかです。ふたつのよく似たヒット・ドラマのテーマ曲が、どちらも親しみにくく、ヒットを金に結びつけるのに失敗している、この二つの「両方に同時に」便乗してやれ、なんて、ふつうは思いつきませんよ。ここまでくれば、便乗も芸術、いや、そこまでいかなくても、「技」といっていいでしょう。
◆ 各ヴァージョン ◆◆
ジョー・サラシーノの商売のうまさについては、つぎに予定している曲にも関係があるので、今日はそちらには踏み込まずにおきます。
オリジナルのマーケッツ盤のドラムはもちろんハル・ブレイン、リードギターはおそらくトミー・テデスコでしょう。トミーは譜面どおりに弾いただけで、どうというプレイではありませんが、ハルは派手に叩いています。でも、マーケッツ盤Out of Limitsのもっとも魅力的なところはフレンチ・ホルンだと感じます。
チャレンジャーズ盤Out of Limitsも、ドラムはハル・ブレインですが、アレンジにとりたてて工夫がなく、あまり面白いカヴァーではありません。
Penetrationで知られるピラミッズのヴァージョンは、意外に悪くない出来です。かなりパンクなバンドで、タイムなんかクソ食らえという、ひどい出来のトラックがたくさんあるのですが、Out of Limitsは、そこそこまとまっているのです。ドラムがばたつかないのがじつにもって意外千万。キックがやや遅れ気味ですが、けっして突っ込まないのは賞美に値します。
ヴェンチャーズは、例のE-G-Ab-Gというリフをやっている楽器(オンディオリン?)のトーンが面白く、そこがいちばん印象に残ります。ライヴ・ヴァージョンについては、とくにいうべきことはありません。
Out of Limitsは、Twilight Zoneのテーマでもなければ、Outer Limitsのテーマでもなく、どんなテレビドラマのテーマでもありませんでしたが、つぎは、ジョー・サラシーノがこんどはまちがいなくあるドラマのテーマ曲で成功する話へと進む予定です。