Ripple by Grateful Dead その2
タイトル
Ripple
アーティスト
Grateful Dead
ライター
Robert Hunter, Jerry Garcia
収録アルバム
Reckoning
リリース年
1971年(オリジナル・リリース)
他のヴァージョン
Jerry Garcia, Chris Hillman
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昨日のつづきで、今日は各ヴァージョンの検討です。まずは例によってヴァージョン一覧。

studio 1970……American Beauty
studio 1970……single ver. (remastered "American Beauty")
1971.04.29……Ladies And Gentlemen...The Grateful Dead
1980.09.26……Reckoning
1980.10.23……Reckoning (alternate take)

うちにはこれだけしかない、ということなのですが、盤としてリリースされたものも、LP、CDではほかにありません。Dead AheadというDVDに収録されたヴァージョンがあるだけです。

f0147840_23341787.jpgいっぽう、他人のカヴァーは10種以上あります。デッド自身のヴァージョンより、他人のカヴァー・ヴァージョンのほうが多いなんてことは、これだけアーカイヴ放出が進んだいま、ちょっと考えにくいことです。ジェリー・ガルシアのソロ・プロジェクトや、ロバート・ハンターのヴァージョンといったセルフ・カヴァーを繰り入れても、まだ他人のカヴァーにぜんぜん追いつきません。なにしろ、いつもはぞろぞろと並ぶ、Dick's Picksシリーズ収録ヴァージョンがゼロなんですからね、驚きますよ。最大級のアーカイヴ・テープ・サイトにいって検索しましたが、ヒット件数ゼロ。プライヴェート録音が存在する可能性もきわめて低いでしょう。

つまり、ライヴではあまりやらなかった曲ということになります。いや、人気はあるんですよ。わたしもAmerican Beautyでデビューしたときからこの曲が大好きでしたし、ライヴ・ヴァージョンを聴くと、イントロのギター・リックだけで、待ってました、今日はこの曲を聴きに来たんだぜ、ってくらいのものすごい大歓声が沸きます。

それなのにヴァージョン数が一握りだというのは、どういうことか? たぶん、純粋にアコースティックの曲だということです。デッドのライヴにアコースティック・セットがあったのはごく一時期だけだったため、この曲がプレイされることは稀だったのでしょう。

◆ シンガロング・ソング ◆◆
Rippleという曲は、ガルシアとハンターが書いた最高の「シンガロング・チューン」、つまり、オーディエンスがいっしょに歌える曲です。じっさい、デッドの曲でいっしょにうたって楽しめるものは、このRippleだけではないかと思うほどです。

シンガロング・ソングの特徴は、

1 コードがシンプル
2 メロディー・ラインがシンプルで、ピッチがジャンプしたり、半音進行があったりはしない
3 気持よくうたえる
4 歌詞や音符が混み合っていない(単位時間あたりのワード数、音符数が少ない)
5 覚えやすい(理想としては、簡単な事前の説明だけで記憶可能であること)

といったあたりではないでしょうか。もちろん、シンガロング・ソングといったって、明確な定義があったりするわけではないので、どうとでもいえますがね。要するに、簡単でうたいやすい曲、ということです。上記の条件のうち、Rippleにあてはまらないのは5だけでしょう。

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◆ オリジナル・スタジオ・ヴァージョン ◆◆
いちばん馴染んできたのは、もちろん、American Beauty収録のオリジナル・スタジオ・ヴァージョンです。American BeautyのB面はいい曲がいいぐあいに並んでいて、よくこちらの面だけ聴いたものです。CDになって、しかもボーナスがついちゃったりすると、トラック6から10まで聴く、となってしまい、意味不明で、つまらないですなあ。

いや、つまらないだけでなく、B面のトップ、そしてラストは特別な位置としての意味をもっていたのに、それがわからなくなってしまうのは、「実際的な問題」でもあるでしょう。RippleはB面のオープナーです。それだけのウェイトがかかっているという点を見逃すわけにはいかないのです。

さて、そのオリジナル・スタジオ・ヴァージョン。イントロからして好きでした。いま聴いてもグッド・フィーリンがあります。とくに、このやさしいサウンドのなかで、フィル・レッシュのややトレブルをきかせたトーンの、ラインが明確なベースが目立ちます。ビル・クルーズマンのめったにやらないブラシもなかなかよろしくて、当時は、意外に柔軟なプレイヤーなのだと認識を改めました(前作のWorkingman's Deadのときから、認識を改めていたが)。

ドラムとベースがドライヴするタイプの曲ではないのですが、Rippleもやはり、他のデッドの曲と同じように、レッシュ=クルーズマン・コンビが、グッド・フィーリンの基礎をつくっているのは明白です。とりわけレッシュのプレイは、昔から好んでいます。

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American Beauty タイトルはAmerican Realityとも読めるようにデザインされている。

久しぶりにスタジオ盤に戻ってみると、ガルシアの声のおだやかさに、ちょっと驚きます。デッドはどんな意味でも「ヴォーカル・グループ」ではなく、ガルシアとボブ・ウィアの歌が下手だとそしる人はいても、デッドのヴォーカルがいいと褒めた人はいないはずです。

しかし、いまになって考えてみると、結局、わたしはデッド、とくにガルシアのヴォーカルが好きだったようです。ほかの曲でもそうですが、Rippleのカヴァーを聴くと、この曲はデッドじゃなければダメだと感じます。それは、レッシュ=クルーズマンのグッド・グルーヴではなく、ガルシアのヴォーカルのせいです。歌というのは、うまいか下手かではなく、relateできるか否かなのだ、ということかもしれません。

◆ シングル・ヴァージョン ◆◆
デッドを聴く人間というのは、シングル盤を買うタイプではありません。これははっきりしています。デッドのチャート・ヒットというのはごく一握りにすぎませんし、そもそもシングル・カットに適した曲ですら少ないのです。

f0147840_2354797.jpgしかし、ちゃんとシングル盤はリリースされています。もっとも、わたしはスリーヴを見せられても、へえ、そんなデザインだったのか、なんて思うくらいで、ほとんど記憶がないほどで、関心をもったこともありませんでしたし、シングル・ヴァージョンがラジオから流れたなんて記憶すらありません。70年ごろ、FENが夜中の番組でLive/Deadを全曲かけたのは記憶していますが。昔からもっているのは、ベスト盤に収録された、Dark Starのシングル・ヴァージョンだけです。

だから、いまになってシングル・テイクがボーナス・トラックとしてCDに収録されると、へえ、というだけで、あとは口ごもってしまいます。Rippleのシングル・ヴァージョンは、アルバム・ヴァージョンとはミックスが異なりますが、どうも、テイクそのものは同一ではないかという気がします。ランニング・タイムが異なるので、当然、編集がおこなわれていることになります。調べると、セカンドとサードのふたつのヴァース、およびコーラスがひとつ切られていました。

たしかに切るならここだろうと思います。切るのは惜しいな、と思うのは、Let there be songs to fill the airのラインだけです。しかし、歌詞のあるヴァースを切って、最後のラララーというナンセンス・シラブルのシンガロング・パートを残したのは正解でしょう。切りにくい箇所だったということもあるでしょうが、デッドが、この曲のポイントは、シンガロングできることだと考えていたからでもあるでしょう。

しかし、結論としては、このヴァージョンはいりません。やはり、フル・ヴァースうたうべきだし、そもそも、コーラスが一度しか出てこないのは納得がいきません。ほとんどのデッドヘッズはシングルを聴いたことがないものなので、ボーナスとして入っているぶんには、へへえ、ではありますがね。

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◆ デッドのライヴ・ヴァージョン ◆◆
まず、Ladies And Gentlemen...The Grateful Dead収録の1971年ヴァージョン。スタジオ録音とほぼ同時期に録音されたもの。デッドのアコースティック・セットは、70年から71年ごろまでおこなわれていたということですが、このヴァージョンの録音はその時期にあたり、しかも、アコースティック・セットにふさわしい曲でありながら、エレクトリックでやっています。

イントロの冒頭ですでに受けていますが、わたしにはどうもピンと来ないヴァージョンです。テンポが遅すぎるし、クルーズマンがスティックで軽くバックビートを入れているのも気に入りません。スタジオ同様、ブラシでやるべき曲だと思います。しかし、リリースされてまもない時期に、ちゃんとウケているのは、どういうことでしょうね。デビューと同時に、「俺たちの曲」と位置づけられた?

つぎは10年近く飛んで、1980年の15周年ツアーの復活アコースティック・セットを記録したダブル・アルバム、Reckoningヴァージョンです。わたしは、世評に反して、このツアーを記録した盤は、アコースティックのReckoningも、エレクトリックのDead Setも、ぜんぜんいいと思いません。デッドのもっとも好かないアルバムといってもいいほどです。

その理由は明白で、まず、ピアノのキース・ゴッドショーが抜けて、ブレント・ミドランドが加入したことです。デッドの歴史で、こんなにガッカリした「事件」はありません。このとき、デッドヘッズとしてのわたしは一度死んだといっていいくらいで、このアルバムで関心を失いました。
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いや、じつはそれ以前に、アリスタに移籍して以降のデッドのスタジオ盤にはずっと違和感がありました。Terrapin Stationも、Shakedown Streetも、Go to Heavenも、みんな「なんだかなあ」「どうしちゃったんだ」でした。76年にミッキー・ハートが復帰したのも気に入りませんでした。ドラムはひとりのほうがいいのです。まして、そのひとりが、ビル・クルーズマンのようにタイムのいいドラマーで、あとから来たのがあまりタイムがよくない場合は!

しかも、ReckoningとDead Setの選曲はかなり退屈なのです。とくにアコースティック・セットを記録したReckoningは、おなじみのアコースティック・デッド時代の曲はほとんどやらず、トラッド曲が多くて、ろくに聴きませんでした。

そのなかで、唯一気に入って、繰り返し聴いたのが最後に収録されたRippleでした。ピアノがゴッドショーなら、もっとすばらしいものになったのはいうまでもありませんが(ミドランドは死ぬほど退屈なフレーズしか弾けず、意外性もへったくれもあったものではない)、総じていい出来です。

いつもハーモニーを外すウィアの歌が、そこそこ合っているのも、distractされなくて、助かります。クルーズマンがスタジオと同じようにブラシでやっているのもけっこう(だから、そういったじゃないか>ビリー)。アコースティック・セットでは、ミッキー・ハートはパーカッションにまわっているので、二人のタイムのズレに頭が痛くなることもありません。

しかし、このウケ方はなんなんでしょう。ものすごい盛り上がり方。このツアーで評判になったのは、Rippleだったのかもしれません。なにしろ、ブック・チケット(ツアーの全公演を見られる)を買うファンが少なからずいるので、ツアーが進むにつれて、Rippleを待ちかまえるようになった可能性があります。ふつう、イントロだけでウケるといったって、1小節ぐらいはかかるはずなのに、ガルシアが冒頭の3音を弾いたころには、もう大歓声が沸き起こるのだから、なにごとだ、と思いますよ。

f0147840_025569.jpg二つめの12枚組ボックス・セット、アリスタ以降のアルバムを収録したBeyond Descriptionで、このツアーにおける、べつのRippleが陽の目を見ました(現在はばら売りのReckoningにも収録されている)。こちらは歓声が4分音符ひとつ分遅れていますし、本格的な大歓声になるのは、ガルシアのヴォーカルに入ってからです(って、そんなこと、どうでもいいか)。やっぱり、こちらも大ウケ大歓声です。わたしにいわせると、手拍子もけっこうだけれど、みんな、もっと大声でうたえよ、なんですがね。

オーディエンスからデッドのほうに注意を移すと、やはり、こちらのヴァージョンは劣っています。なによりも、ブレント・ミドランドのヴォーカルのミックスが大きいことに機嫌が悪くなります。ボーナスはボーナス。

◆ その他のカヴァー ◆◆
ジェリー・ガルシアによるセルフ・カヴァーは、うちにはひとつだけブートがあります。調べてみたところ、それほど何度もやったわけではなく、正規盤でも2種類しかないようです。これはジョン・カーンと二人でやったプロジェクトで、カーンはもちろんベース、ガルシアはアコースティック・ギターとヴォーカルです。

Rippleは、いきなりギターをミスり、やり直していて、ブートだなあ、と思います。出来はけっして悪くありません。でも、ぜひ聴きたいかというと、そういうこともありません。以前、この盤を取り上げたときにも書きましたが、こういうヴァージョンもあるんだなあ、と思うだけです。

もうひとつ、クリス・ヒルマンのカヴァーがあります。1982年のアルバム、Morning Skyで取り上げたものです。デッド関係のサイトで見るかぎり、これはデッド関係者以外による最古のRippleのカヴァーのようです。

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Hickory Windの記事を書いたときには忘れていたが、このアルバムにはクリス・ヒルマンによるHickory Windのセルフ・カヴァー(オリジナル盤でハーモニーをつけたのだからそういっていいのでは?)が収録されている。グラム・パーソンズのセルフ・カヴァーには敵するべくもないが、こちらはこちらで悪くはない。

デッドのスタジオ・ヴァージョンでは、ゲストのデイヴィッド・グリスマンがマンドリンをプレイしています。クリス・ヒルマンは、バーズ加入以前はブルーグラス・バンドのマンドリン・プレイヤーです。そういうことから、マンドリンを中心としたヴァージョンを想像するかもしれませんが、じっさいに目立っている音はアル・パーキンズのドブロです。

すごくいいヴァージョンというわけではありませんが、そこそこのグッド・フィーリンはあります。なによりも重要なのは、このヴァージョンが皮切りとなって、Rippleは古典化の道を歩みはじめたということです。以前にも書いたとおり、古典への第一歩は、作者から切り離された、「独立した作品」として扱われることだからです。

Rippleの「古典化」はまだ道半ばです。他人のカヴァーが出現するまでに10年以上かかっている、「ゆっくりした」曲なのです。しかし、着実に古典への道を歩んでいます。わたしは、デッドの曲のなかで、Rippleは、Uncke John's Bandと並んで、もっとも歌い継がれる可能性の高い曲だと思っています。数十年後にも、だれかがうたっているのではないでしょうか。

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参加ミュージシャンは、ハーブ・ペダーソン、バーニー・レドン、バイロン・バーライン、アル・パーキンズ、ケニー・ワーツ、エモリー・ゴーディーで、プロデューサーはジム・ディクソンと、80年代のアルバムにはめずらしく、「知っている」人たちばかり。カメラマンまで昔なじみのヘンリー・ディールズ。知らないのはエンジニアと犬(へザーという名だそうな)だけだった。

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by songsf4s | 2008-05-27 23:59 | 風の歌