Fools Fall in Love by the Drifters
タイトル
Fools Fall in Love
アーティスト
The Drifters
ライター
Jerry Leiber, Mike Stoller
収録アルバム
Let the Boogie-Woogie Roll: Greatest Hits 1953-1958
リリース年
1957年
他のヴァージョン
Elvis Presley
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四月になにをやるか、というクイズもあるが、当てられちゃうと悲惨だから、なにもいわないでね、とお願いしておいたところ、心優しいTonieさんは、私信で秘かに回答を寄せられました。その回答はずばり「馬鹿特集」。こいつは恐れ入谷の馬鹿当たり、外角低めに外したつもりが、踏み込まれてしまったというところ。予想の当たり外れの「対戦成績」は五分というあたりでしょう。

ということで、今月いっぱい、馬鹿ソング特集をします。題して「愚者の船」。

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ノーマルな四月の曲というのもあるのですが、ほら、April ShowerとかApril in Parisとか、変わり映えのしないスタンダードばかりで、ぜんぜん気が乗らないのです。それに対して、馬鹿ソングのすごいこと、昔から好きな曲がぞろぞろぞろぞろ、どこまでつづくのか、列の尻尾は春霞のなかに消えてわからないほど、大群となって押し寄せるのです。となりゃ、話は決まり、四月の雨もパリの四月も知ったことか、四月は馬鹿にかぎる、です。

しかし、これだけ多いと、選択もけっこうむずかしくて、曲順なんていうのも、いちおう考えることは考えたのですが、疲れたので放棄しました。思いつきで、適当に好きな曲を取り上げます。エイプリル・フールを題材にした曲もあるのですが、秀作汗牛充棟押し合いへし合い満員電車の一般馬鹿ソングにくらべると、下の下のくだらなさなので、すべて無視し、本日からさっそく、ウソはなし、金無垢(音楽の場合、やっぱり「ソリッド・ゴールド」というべきか)の馬鹿ソングに突進します。

以前、Tonieさんと、「世界三大馬鹿ソング」はなにか、という馬鹿話をしたことがあるのですが(これのせいで大当たりされたのか?)、本日は、そのときにもリストアップした、そろいもそろって馬鹿ぞろい、ちがった、そろいもそろって秀作ぞろいの馬鹿ソングのなかでも、昔から大好きなFools Fall in Loveです。

◆ スターダスト・メロディーをうたえば ◆◆
それでは歌詞の検討に移ります。ドリフターズ盤とエルヴィス・プレスリー盤では異同がありますが、ここではオリジナルのドリフターズ盤にしたがいます。

Fools fall in love in a hurry
Fools give their hearts much too soon
Just play them two bars of "Stardust"
Just hang out one silly moon
Oh, oh, They've got their love torches burning
When they should be playing it cool
I used to laugh but now I understand
Shake the hand of a brand new fool

「愚か者はあわてて恋に落ちる、愚か者はひどくあっさり恋をしてしまう、『スターダスト』を2小節もかけてやり、馬鹿げたひと月の付き合いでもすれば、それで十分、ああ、なんてことだ、冷静にならなければいけないときに、愚か者は恋の炎を燃やす、以前はぼくも彼らのことを笑ったものだけど、やっとわかった、パリパリの新米の愚か者と握手してくれ」

なかなか楽しい歌詞で、ノヴェルティー・ソングで売ったジェリー・リーバーだけのことはあります。じつにウィッティーで、ニヤニヤしたり、ゲラゲラ笑ったりで、退屈しません。とりわけ、「スターダストを2小節もやれば」がケッサク。

実証主義精神に則って、「Stardustの2小節」はどれだけの量になるか計量しようとしたのですが、いきなり蹉跌しました。歌いだしをどこにするか判断がつかないのです。最初はナット・コール盤をかけたのですが、これは前付けヴァースありのヴァージョンでした。ビング・クロスビー盤は、例の有名なところからはじまっていて、こちらの場合は「Sometimes I wonder why I sp」で2小節です。歌い方にもよりますが、spendの後半の-endは3小節目にかかってしまうのです。

ザ・ピーナツはうたわなかった前付けヴァースなら、もうすこしマシです。And now the purple dusk of twilight timeまでうたえるので(厳密には、Andはイントロの最後の小節の尻尾なので、nowからうたうことになるが)、意味のあるフレーズになります。「Stardustの2小節」で勝負したい方は、前付けヴァースのほうを選択するべきでしょう。

こういう馬鹿なことをやっているから、時間がなくなってしまうのですが、とにかく、現実には、いくらStardustでも、たった2小節でフォールにもちこむのは、ナット・コールやビング・クロスビーのちからをもってしても不可能だとわかりました。ジョークなんだから、理屈をこねちゃいかんということもよくわかりました! わて、パアでんねん。

moonは、わずか一カ月の付き合いという「月」ですが、Stardustの星の縁語なのでしょうし、恋人たちといえば月は付きものということで出てきたのでしょうが、それにfoolの「縁語」であるsilly「馬鹿げた」がついているところが、リーバーらしいところ。

そういう技巧も使ってはいますが、ソングライターにとってもっとも当たり前で、もっとも重要な手法である、韻を踏んでいないことがこのヴァースの大きな特長です。明らかに意識的に韻を排除しているのです。ティンパン・アリー流のクリシェに対する批判、もっといえば、ロックンロールの「独立宣言」なのではないでしょうか。

これだけ恋人たちを馬鹿にしておいて、最後で、じつは、俺もついに馬鹿の仲間入りだ、よろしくな、というのがまた笑えます。リーバーとストーラーが、アメリカを象徴するソングライター・チームといわれる理由が、このヴァースだけでもおわかりになるでしょう。なんたって、ときには「ロックンロールを創った」とまでいわれる人たちなんですから。

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◆ 希望の楼閣 ◆◆
つづいてセカンド・ヴァース。

Well, fools fall in love just like schoolgirls
Blinded by rose colored dreams
They build their castles on wishes
With only rainbows for beams
Oh! They're making plans for the future
When they should be right back at school
I used to laugh but now I understand
Shake the hand of a bland new fool

「愚か者は薔薇色の夢に目がくらみ、まるで女学生のようにあっさり恋をする、彼らは希望を土台に、虹だけを梁にして城を築く、彼らは学業に精を出さなければいけないときに、未来のプランなど立てている、以前はぼくも彼らのことを笑ったものだが、やっとわかった、パリパリの新米の馬鹿と握手してくれ」

学校に戻らなければいけないときに、というくだりで、この曲がどういう年齢層をターゲットにして書かれたかがわかります。もちろん、年をとってから聴いても、すばらしいものはやっぱりすばらしいのですけれどね。

このヴァースのポイントは「城」のくだりでしょう。当然、castle in the air「空中楼閣」や、castle in the sandないしはcastle made of sand「砂の城」からの連想でしょうが、土台が希望なのはともかくとして、梁[はり]が虹だっていうのが、ヨッ、待ってましたのリーバー節、笑わせてくれます。

このあと、間奏があり、セカンド・ヴァースの後半を繰り返してエンディングとなるので、もう新しい言葉は出てきません。

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コースターズの録音で。左端がジェリー・リーバー、背中を向けているのがマイク・ストーラー。

◆ 昇竜の時代 ◆◆
ドリフターズには、ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーが「座付きソングライター」兼プロデューサーとしてついていただけでなく、ドク・ポーマスとモート・シューマンのような一流、あるいはジェリー・ゴーフィンとキャロル・キングのようなもっと若い世代も、活きのいい楽曲を提供したので、すぐれたトラックがたくさんあります。昔、LPでベスト盤を買ったら、12曲すべてが面白く、世にも稀なことと驚きました。

しかし、結局、Under the Boardwalkよりも、Up on the Roofよりも、Sweets for My Sweetよりも、This Magic Momentよりも、On Broadwayよりも、Some Kind of Woderfulよりも、ほかのなによりも、わたしはこのFools Fall in Loveが好きです。明瞭に言語化して提出できる理由があるわけではありません。たぶん、ロックンロールもまだ生まれたて、ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーもまだ若く、まさに昇竜の勢い、ドリフターズも若くて無我夢中、というように、すべてが若かったからではないかという気がします。

f0147840_0455194.jpgWhite Christmasのときに、クライド・マクファーターの節回しにふれましたが、この曲(リードはジョニー・ムーア)でも、すごく好きなところがあります。when they should be playing it coolのところです。音符とシラブルの関係からやむをえずそうなったのかもしれませんが、「プレイニット・クール」ではなく、「プレイー・イニット・クール」とうたっているのです。ここが、なんといっても、この曲でハッとさせられるパッセージです。

◆ ロックンロール・ブラシ ◆◆
曲調からしてそうなのですが、バッキングにも、もはや50年代前半ではなく、ロックンロール時代のはじまったことが色濃くあらわれています。残念ながらパーソネルはわかりませんが、ドラムとスタンダップ・ベースのグルーヴは文句なしです。

とくにドラムですね。ずっとブラシでスネアを叩くだけで、フィルインといえるようなものは僅少、タムタムどころか、キックもライドもハイハットすらも使っていない地味なプレイですが、うなってしまう正確さです。名のある人にちがいありません。候補としては、もちろん、リーバー&ストーラー・セッションの常連、ゲーリー・チェスターが筆頭に上がります。

このFools Fall in Loveのブラシは、ジャズのブラシ・ワークとは明確に一線を画した、「ロックンロール・ブラシ・ワーク」と呼んでいいくらい、輪郭のはっきりしたもので、廻すの、こするのと、惰弱な使い道のある道具とは思えないくらいです。この曲は8ビートではありませんが、スピリットとしては、清く凛たるロックンロールなのです。

考えてみると、この時期、「ロックンロール・ビートを発明した男」アール・パーマーはまだハリウッドにたどり着いていなくて、故郷のニューオーリンズで、ファッツ・ドミノやリトル・リチャードのバッキングをやっていたわけで、こういうトラックを聴いたら、早く音楽の中心地に引っ越さなければ、俺の出番がなくなる、と焦ったのじゃないでしょうか。

もうひとつ面白いのはギターの間奏です。メロディーをなぞっただけといってもいいほどシンプルなものですが、2本のギターでハモらせているところがけっこう。目立たない小さな工夫ですが、耳をつかまれます。

この曲のプロデューサーは、アーメット・アーティガンとジェリー・ウェクスラーとクレジットされていますが(エンジニアはトム・ダウド)、どうなんでしょうか。リーバーとストーラーの立場がまだ弱くて、クレジットをもらえなかっただけのような気もします。

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ピアノの前にジェリー・リーバー(左)とマイク・ストーラー。右端は社長のアーメット・アーティガン。コースターズの広告より。

彼らは多くの場合、自分たちの曲のレコーディングに立ち会い、マイク・ストーラーはスタジオに下りてピアノを弾き、ジェリー・リーバーはブースで指示を出したそうです。エルヴィスのセッション(リーバーとストーラーはHound DogやJailhouse Rockの作者)でも、彼らは録音に立ち会い、実質的にプロデュースもしたといわれています。

リーバーだったか、ストーラーだったか、「われわれは歌は書かない、レコードを書くのだ」といったそうです。楽曲ができただけでは道半ばどころか、まだ歩きはじめたばかり、サウンドができて、はじめてレコーディッド・ミュージックという商品の価値が決まるのです。彼らがすぐそばにいて、Fools Fall in Loveを「書く」作業に参加しなかったとは思えません。

◆ エルヴィスのカヴァー ◆◆
リーバーとストーラーにとっても意外だったのではないかと思うのですが、この曲のカヴァーはあまりありません。うちにあるのはエルヴィス・プレスリーのヴァージョンだけです。

これだけの材料にだれも目をつけなかったのは、不思議というしかありません。ドリフターズ盤はトップ40に届かなかったのだから、カヴァー盤という「白いハイエナ」が群がってもおかしくないのにと思ったのですが、考えてみると、カヴァー屋というのは、自分では楽曲の善し悪しを判断できず、R&B市場のヒット曲を白人市場に「直輸入」するだけだから、マイナー・ヒットは無視したのかもしれません。チャートは魔物、縁起をかつぐこともよくありますしね。そういうことを気にしないでいい人となると、やっぱりエルヴィスが筆頭でしょう。

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Elvis Presley Sings Leiber & Stoller エルヴィスによるリーバー&ストーラー・ソングブック。もちろん、Fools Fall in Loveも収録されている。

ボックスに付されたセッショノグラフィーによると、この曲は66年5月にナッシュヴィルで録音され(昨年取り上げたBeyond the Reefと同じ一連のセッション)、翌67年1月、Indescribably BlueのB面としてリリースされています。

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ドラムはD・J・フォンタナとバディー・ハーマンとなっていますが、4分3連のフィルインは正確なので、ミックスが大きいのはハーマンのほうでしょう。エルヴィスは妙に気弱なところがあったそうで、デビューのときからいっしょにやってきたフォンタナを首にできず、しばしばハーマンと併用していますが、もちろん、頼りにしていたのはハーマンのほうです。だからこそ、60年代に入って、エルヴィスのバッキングに背骨が通ったのです。映画サントラはハリウッドでハル・ブレイン、それ以外はナッシュヴィルでバディー・ハーマンというのが60年代のエルヴィスの基本です。

しかし、そういってはなんですが、67年は「第二の夜明け前」、すなわち、NBCの特別番組による復活の直前なのです。復活前ということは、すなわち死に体ということです。死んでいなければ、復活もできない道理でして。はっきりいって、どん底です。これ以下はない、あとは上昇するか、完全消滅かのふたつにひとつしかない、というくらいの底です。どん底でも、これだけのものができたのだから、やっぱり腐っても鯛といえますが。

f0147840_1212948.jpgそもそも、なんだってこんなにスピード・アップしたのか、そこがよくわかりません。ドリフターズ盤だって、シャッフルといっていいのか、と躊躇うほど高速のシャッフルなのに、それより速いのだから、もうなにがなんだかわかりません。さすがのバディー・ハーマンもやりようがなかったのか、ただバタバタやっています。この速度になったら、ドラマーはメトロノームをやるのが精いっぱいで、それ以上のことを望まれても困ります。ハーマンが悪いわけではなく、その点には同情します。

ただ、ここで思うのは、ドリフターズ盤におけるブラシの使用という選択の正しさです。スティックでやると、この速度ではドタバタドタバタうるさくて、なにをそんなに急ぐ、どうせ最後はみんな棺桶のなか、といいたくなります。どん底のエルヴィスがどうこうという以前に、アレンジ段階での大失策でしょう。

毎度、毎度、エルヴィスが登場するのは、あまり褒められない曲ばかりで、エルヴィス・ファンの方には申し訳ないことと思っています。でも、ほら、どなたもご存知のあの馬鹿名曲があるでしょ? この特集でちゃんと取り上げる予定なので、安心なされよ。
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by songsf4s | 2008-03-31 23:56 | 愚者の船