- タイトル
- Sleigh Ride
- アーティスト
- Avalanches
- ライター
- Leroy Anderson, Mitchell Parish
- 収録アルバム
- Ski Surfin'
- リリース年
- 1964年
- 他のヴァージョン
- The Ronettes, the Ventures, Herb Alpert & the Tijuana Brass, Johnny Mathis, Andy Williams, Jack Jones, the Three Suns, Ferrante & Teicher with Les Baxter, Leroy Anderson, America, Chicago, Ray Conniff, the California Raisins, Ella Fitzgerald
本日から年内いっぱい、あるいは年を越してクリスマス飾りを片づける新年七日あたりまでは、当たり前ながら、クリスマス・ソング特集をします。例によって、60年代のポップ/ロック系のもの、(ときにはおそろしく)古いスタンダード、さらには日本のものもまじえて、ごたまぜ状態になるはずです。
トップをどれにするかはさんざん悩みましたが、このところ、ハル・ブレインが登場していないことに気づき、彼が叩いたトラックを選びました。この曲に関しては、アヴァランシェーズのほかに、ロネッツおよびハーブ・アルパート&TJBのヴァージョンでもハルがプレイしたことがわかっています。
このSleigh Rideが収録されたアヴァランシェーズの唯一のアルバム、Ski Surfin'は、右のリンクからいけるAdd More Music to Your Dayの「レア・インスト」ページで入手することができます。LPリップで、192KbpsのMP3です。最近、ようやくCD化もされたようです。
◆ クリスマスらしい脳天気な歌詞 ◆◆
アヴァランシェーズはインストゥルメンタルでやっていますが、有名な曲なので、いちおう歌詞をざっと見ておきます。たいした意味はないし、むやみに長いので、すべてのヴァースは見ません。これだけヴァージョンが多いと、そちらにエネルギーをとられるわけでして。
ジェンダーをどちらにするかという問題もありますが、わたしは男なので、男が女の子に呼びかけるということにさせていただきます。女性シンガーが歌ったほうがいいようにも思うのですが、何度か文章上の性転換をやって、もう懲りているのです!
Come on, it's lovely weather for a sleigh ride together with you
Outside the snow is falling and friends are calling "yoo hoo"
Come on, it's lovely weather for a sleigh ride together with you
「スレイ・ベルがチリンチリンと鳴っているよ、さあ行こう、きみと橇滑りをするにはもってこいの天気だ、外は雪が降って、友だち連中がヤッホーと呼んでいる」
べつに問題になる箇所はないでしょう。そのまんまの歌詞です。歌詞からいって、サウンドはノリがよく、勢いのあるものにする必要があることがよくわかります。スロウ・バラッドにはぜったいにならないでしょう。
コーラス。
Let's go, Let's look at the show
We're riding in a wonderland of snow
Giddy yap, giddy yap, gidd yap
It's grand, just holding your hand
We're gliding along with a song of a wintry fairy land
「ほら、ほら、ほら、さあ行こう、雪を見よう、雪のワンダーランドで橇滑りさ、きみの手を握っているだけですごくいい気分だ、冬のフェアリー・ランドの歌に合わせて橇滑り」
馬鹿馬鹿しくなってきたので、つぎのヴァースまで見て、あとは略します。どちらにしろ、このへんまでしか歌わないシンガーも多いのです。残りのヴァースは「品川心中」の後編状態で、60年代以降、歌っている人はほとんどいないでしょう。
We're snuggled up together like two birds of a feather would be
Let's take that road before us and sing a chorus or two
Come on, it's lovely weather for a sleigh ride together with you
「ぼくらの頬はすっかり薔薇色、暖かくて気持ちがいい、同じ仲間の二羽の鳥みたいにくっついている」
すでに見たのと同じラインは略しました。まあ、意味については見ての通りのたわいのないものです。ただし、音韻としては歌っていて気持ちがよく、昔のプロフェッショナルらしい歌詞といえるでしょう。
◆ 大雪崩プロジェクト ◆◆
アヴァランシェーズはスタジオ・プロジェクトで、このSleigh Rideが収録されたSki Surfin'というアルバムがあるだけです。
クレジットは以下の通り。
Wayne Shanklin, Jr.……producer
Al Delory……piano
Billy Strange……guitar
Tommy Tedesco……guitar
Wayne Burdick……guitar
David Gates……Fender bass
Hal Blaine……drums
Engineer……Stan Ross, Gold Star Studio, California
ビリー・ストレンジはおそらくダンエレクトロ6弦ベース(ダノ)もプレイしています。ウェイン・バーディックという人は、ギターとなっていますが、ペダル・スティールのほうで、ギター・ソロはとっていないでしょう。アル・ディローリーは、ピアノ、フェンダー・ピアノ、オルガンをプレイしています。
わたしはギター・インストが大好きなのですが、なかでも、このアヴァランシェーズのSki Surfin'は三本指に入ると考えています。ビリー&トミーという最強のギター・デュオが豪快にプレイし、ハル・ブレインが遠慮なしに叩きまくっているのだから、文句がありません。
また、アル・ディローリーがかなりいいプレイヤーであることが、この盤でわかります。アル・ディローリーは数多くのセッションに参加していますが、彼がソロをとったことが確実にわかっているものはすくなく、このアルバムを聴いて、手数は少ないものの、じつにいいラインを弾く人だとわかりました。このセンスが、のちにグレン・キャンベルのヒット曲における、アル・ディローリー節とでもいいたくなる、上品なアレンジメントにつながったと思います
Ski Surfin'というアルバムの最大の魅力はビリー&トミーという、一時期のヴェンチャーズを支えた二人が顔をそろえたことですが、アル・ディローリーが随所でいいプレイをしていることが変化をもたらし、このアルバムを飽きのこないものにしています。このSleigh Rideで主としてリードをとるのはアル・ディローリーです。
ビリー&トミーのコンビがギターだと書きましたが、三回のセットのうち、両者がともに弾いたのは二回だけで、残りはどちらか一方だけではないかと思われます(三時間のセットを三回やって、九時間でアルバム一枚を録音するのが当時のハリウッドの常識だったことは、すでに何度かふれています)。おそらく、ビリー・ストレンジが二セットしかやっていないのだとわたしは考えています。
このSleigh Rideも、オブリガートやソロを弾いているときは、カッティングが聞こえなくなるので、ギターはひとりだと推測されます。トミー・テデスコではないでしょうか。アタッチメントを使ったのではない、自然な歪み(矛盾した表現であることは承知しているのですが、ほかにいいようがないのです!)を利用した音色で、ワイルドなオブリガートを入れているのがなかなか魅力的です。64年の録音ですから、キンクスのYou Really Got Meと同じ年です。ほぼ同時期に、同じようなギター・スタイルが英米で生みだされていたことになります。
アヴァランシェーズのSki Surfin'は、ある一点でちょっとした歴史的重要性があるのですが、それについては後述します。
◆ ハル・ブレインならではのブラシ ◆◆
他のヴァージョンの検討に移りますが、まずはハル・ブレインがプレイした残りの二曲。最初はロネッツ盤。もちろん、いまでは大古典となったフィル・スペクターのクリスマス・アルバムに収録されたトラックです。
フィル・スペクターが一曲一曲、それぞれをシングルのように精魂傾けてつくったアルバムなので、悪いトラックがあろうはずがなく、ロネッツのSleigh Rideもなかなか魅力的です。ハル・ブレインはこの曲ではブラシを使っていますが、よくあるソフトなブラシのプレイではなく、ハード・ヒットしているところが、いかにも彼らしいところです。
ハル・ブレインは、チャンスさえあれば、つねに他人とはちがうことをしようとする人ですが、こういうブラシの使い方も、彼が発明したのだと考えています。ロックンロール時代にふさわしいブラシです。もちろん、ブラシでもハル・ブレインのグルーヴに変化はなく、楽しいプレイになっています。とくにイントロは、ブラシの「返り」を計算したきれいなスネアが聴けます。ときおり入れる強い「フラム」によるアクセントも文句なし。
ロニー・スペクターは元気のよさが身上の人なので、こういうアップテンポで明るい曲は合っています。もちろん、スペクターの判断なのでしょうが、このロネッツ・ヴァージョンはコーラスをまったく歌っていません。ヴァースだけなのです。かわりに、変化をつけるため(なにしろ、ヴァースだけだと、C-Am-F-Gとおそろしくシンプルなのです)、半音転調を繰り返して、どんどんキーが上がっていきます。Cではじまったものが、最後はFになっているのだから(そのときには、もうロニーの出番は終わって、バック・コーラスだけになっていますが)、馬鹿馬鹿しいくらいの転調です。
しかし、なんだってコーラスを切り捨ててしまったのか、だれか(下獄する前に!)スペクターに理由をたしかめてくれるといいのですが。
◆ ハーブ・アルパートおよびヴェンチャーズ ◆◆
ハル・ブレインが叩いたもう一曲、ハーブ・アルパート&TJBのヴァージョンは、あまりTJBっぽくない、聖歌隊風コーラスによるイントロがついています。ハル・ブレインが入ってくると、TJBらしくなるのですが、ストップ&スタートとそれに伴うテンポ・チェンジを繰り返すアレンジで、プロならでの「地味なうまさ」も聴きどころになっています。
しかし、このヴァージョン、あまりSleigh Rideに聞こえません。冒頭のフレーズだけを取り出して、それをテーマにべつの曲をつくった、という印象です。ハルの曲としてみるなら、キックのサウンドと正確さ、そしてテンポ・チェンジにおける、彼のいう「コマンド」、つまり、リーダーシップが注目でしょう。
インストを先に片づけてしまいます。有名なのはヴェンチャーズ・ヴァージョンです。これは65年にリリースされた、彼らのクリスマス・アルバムのオープナーで、あの年のクリスマスには、イヤってほど町じゅうで流れていましたし、いまでもよく耳にします。なかなか印象的な出来で、このアルバムが日本でヒットしたのも当然だと感じます(ビルボード・アルバム・チャートでも9位までいくヒット)。
このアルバムの特長は、各曲のイントロに、有名な曲のイントロをはめこんでいることです。Sleigh Rideはオープナーなので、彼ら自身の大ヒット曲であるWalk Don't Runのイントロが使われ、全体のアレンジもWalk Don't Runを彷彿させるものになっています。
この盤のパーソネルは、わたしにはよくわかりません。はっきりしているのは、ベースがデイヴィッド・ゲイツだということだけです。これはアヴァランシェーズと比較すれば、簡単にわかります。
しかし、ギターはだれでしょう。ビリー・ストレンジかと思った時期もあるのですが、最近はそうではないというほうに傾いています。かといって、ヴェンチャーズ・セッションに参加したことがわかっている他のプレイヤー、トミー・テデスコ、グレン・キャンベル、ジェイムズ・バートン、キャロル・ケイなどには聞こえません。
消去法でいくと、The Ventures Play the Country Classicsでリードをとったトミー・オールサップがいちばん近いような気がします。それは、主としてCountry ClassicsのPanhandle Ragが、Sleigh Rideのプレイに似ていると感じるためです。
ものを知らない小学生だったわたしは、たとえば、Rudolph the Red-Nosed ReindeerにI Feel Fineのイントロとアレンジを応用したことなどに、ひどく感心しました。しかし、大人になると、それほど単純な話ではないことがわかってきました。
まず第一に、過去のヒット曲のイントロやアレンジをクリスマス・ソングに応用する手法は、すでに63年にフィル・スペクターがやっています。たとえば、ロネッツが歌ったFrosty the Snowmanには、彼女たち自身の大ヒット曲、Be My Babyのイントロとアレンジが使われているのです。
では、フィル・スペクターから直接にヴェンチャーズにつながるかというと、そうではなかったと思われます。63年のスペクターのクリスマス・アルバムと、65年のヴェンチャーズのクリスマス・アルバムのあいだに、アヴァランシェーズのSki Surfin'があるのです。このアルバムはミッシング・リンクだと感じられます。なぜなら、アヴァランシェーズのSleigh Rideには、レイ・チャールズのWhat'd I Sayのイントロが利用されているのです。
フィル・スペクターがはじめたことが、翌年、「スペクターのバンド」を形成していたプレイヤーたちのスタジオ・プロジェクトであるアヴァランシェーズに受け継がれ、さらに翌年、ヴェンチャーズのクリスマス・アルバムで、大々的に利用されることになった、という道筋が、アヴァランシェーズのアルバムを聴いたことで見えてきました。
しかし、このクリスマス・ソングのアレンジの問題には、まだつづきがあります。フィル・スペクターを創始者としたかつての判断は、いくぶん修正する必要があるのではないかと考えるようになってきたのです。そのへんについては、White Christmasを取り上げるときに、もう一度検討する予定です。
◆ その他のインスト・ヴァージョン ◆◆
残りのインストもので出来がよいのは、なんといっても、この曲の作者であるリロイ・アンダーソンのものです(リーロイと発音する場合はあるが、一般に使われている「ルロイ」の表記には賛成できない)。音像に広がりと奥行きがあり、派手で明るくて、わたしの好みであるばかりでなく、この曲にふさわしいアレンジになっています。
スリー・サンズ盤は、チューバなどが使われ、ちょっと珍なアレンジです。しかし、チューバが活躍しないところは、それなりに聴けます。アレンジが引っかかるだけで、ひとりひとりはうまいのです。しかし、このアレンジはいくらなんでもちょっと……。
ファランテ&タイチャーとレス・バクスター・オーケストラの共演盤は、可もなし不可もなしの出来。ピアノ・デュオというものが、そもそも、それほど面白いものではないだけかもしれませんが、レス・バクスター・オーケストラのほうも、とくに活躍しているわけではありません。
◆ ヴォーカル・ヴァージョン ◆◆
ヴォーカルものに移ります。とくに出来がよいと感じるのは、アンディー・ウィリアムズ盤です。いや、歌は知ったことじゃないのですが、サウンドの出来はこのヴァージョンが、ロネッツについでよいと感じます。アンディー・ウィリアムズはハリウッド以外の土地でも録音しているようですが、このスケール感はハリウッドのものでしょう。
つぎにサウンドがいいのは、ジャック・ジョーンズ盤。リロイ・アンダーソンについでスケール感のある大きなサウンドになっています。
カーペンターズは、悪くはないものの、とくに好きということもありません。
ジョニー・マティスのヴォーカル・スタイルは、こういう軽快で楽しい曲にはあまり向いていないと感じます。サウンドはとくにどうということなし。
レイ・コニフは、インストではなく、大人数のコーラスでやっています。オーケストラの派手なサウンドがないと、べつに面白くもない人で、これはご家庭向き安全安心ヴァージョンという印象。
いままでにちょっとほめたことが一度あるだけで、あとはボロクソにいっているエラ・フィッツジェラルド盤は、意外にいい出来です。たぶん、録音が古く、おばさんのねちっこい歌い方になる前だからでしょう。あまりいじらずに(でも、ちょっとだけ、曲を「いじめて」いるところもやはりある)、比較的(あくまでも比較的!)素直に歌っています。
アメリカとシカゴは、って、地理の話じゃなくて、グループ名ですが、両者ともにキャリア末期の悪あがきクリスマス・アルバムという印象で、割りたくなるような、火にくべたくなるような、ムッと不機嫌になり、額に青筋が立つような出来です。晩節をきれいにまっとうすることができないのは、人であれ、グループであれ、なんとも悲しいことです。まあ、もとからたいしたもんじゃないから、勢いがなくなると粗ばかりが目立つようになるだけですが。
ぐるっとまわってアンディー・ウィリアムズ盤にもどったら、やっぱり、イントロが流れた瞬間、お、これはいい音だ、と感じました。アンディー・ウィリアムズ盤の出来がいいのか、アメリカとシカゴがひどすぎるのか、そのへんはよくわかりませんが。
もうひとつ、カリフォルニア・レーズンズという、人を食ったというか、人に食われたというか、妙なアーティストのヴァージョンがまじっていますが、これはレーズン会社の宣伝用アニメのキャラクターです。まじめにやっているのですが、そこが問題で、たんなるいまどきのサウンドです。ふまじめにやれよ、ふまじめに。
アヴァランシェーズ、ロネッツ、ヴェンチャーズ、アンディー・ウィリアムズの4種があれば十分でしょう。よい子の皆さんと、堅気の大人は、わたしみたいに、こんなにたくさん集めて一晩で聴くような、ヤクザの真似はなさらないように。