- タイトル
- Sommervind
- アーティスト
- Grethe Ingmann
- ライター
- Heinz Meier, Hans Bradtke
- 収録アルバム
- 不詳
- リリース年
- 不詳
- 他のヴァージョン
- Frank Sinatra, Wayne Newton
◆ Summer Windとは俺のことかとSommervindいい ◆◆
このブログをスタートして2カ月半ほどになりますが、そのあいだにもあれこれと手に入れ、これまでにとりあげた曲に補足を加えたい例が増えています。今日は、そのうち、ごく最近とりあげた2曲の補足をさせていただきます。
フランク・シナトラのSummer Windの記事をご覧になった方はおわかりでしょうが、今回、看板に立てたのはその原曲、デンマークのグレタ・イングマン(You Tubeで見た映像で、司会者の発音がそのように聞こえました。グレタ・ガルボとはスペルが異なるのですが)のSommervindです。
といっても、結局、データは拾えず(いや、拾うだけはたくさん拾ったのです。たんに読めなかっただけです!)、書くべきことはほとんどありません。ウェブ上にはいくつか、英語による短い記述があったので、それだけはいちおう読みました。
嘘かホントか判然としないデータがわかったところで、音楽だから、音を聴かなければなんにもなりません。赤剥けになったウサギを助けたとか、子どもにいじめられている亀を放してやったとか、先祖がそういう善行をしたおかげか、はたまた、わたし自身の陰徳(そんなことをした記憶はありませんが)の報いか、原曲はどういうものだろう、と叫んだら、匿名の方の「ご喜捨」によって、ちゃんと音を聴くことができました。そのご報告を少々。
インストゥルメンタル盤以外では、すくなくとも歌詞の一部の検討をしてきました。しかし、Sommervindはデンマーク語ですから、自慢じゃないですが(考えようによっては、ありがたいことに)一行もわかりません。よって、歌詞は無視します。
フランク・シナトラやウェイン・ニュートンよりいくぶんテンポが遅く、フロイド・クレイマーを思いだすような(ということは、ややカントリーっぽい)ピアノ・イントロで、グレタ・イングマンのSommervindははじまります。ドラム、スタンダップ・ベース、ピアノ、そしてたぶんギターというリズム・セクションは、おそらくジャズ出身でしょう。
グレタ・イングマンの歌い方は、とくに好きでもなければ、とりたててイヤでもなく、言葉に窮します。曲は悪くないし、歌も悪いわけではないので、デンマークではそれなりにヒットしたのだろうと想像します。しかし、途中から入ってくるオーケストラ、とくにハープが大げさすぎて、このままアメリカでリリースしても、ヒットはむずかしかっただろうとも感じます。
◆ レス・ポール喰わばメアリー・フォードまで ◆◆
ところで、グレタ・イングマンの写真を探しはじめたとたん、やっぱりそうだったか、と叫びました。彼女の名前を見たときに、ヨルゲン・イングマンと関係があるのではないかと思ったのですが、イングマンというのがめずらしい姓とは思えず、追求はしませんでした。今回は写真を探したので、たちどころにわかりました。グレタとヨルゲンは夫婦であり、仕事上のパートナーでもあったそうです。
ヨルゲンはギタリストで、われわれの世代は、シャドウズのApacheをカヴァーして、アメリカで大ヒット(ビルボード2位)させた人として知っています。当ブログで取り上げてきた曲の大半と同じように、彼らの代表作はYou Tubeで発見することができるので、ご興味がおありの方は検索してみてください。ユーロヴィジョン・コンテストでの優勝曲をプレイする彼らの動画がアップされています。
わたしはヨルゲン・イングマンの盤をもっているわけではなく、Apache以外に聴いたことがあるのは一曲だけですが、それを聴いて、ああ、そうか、と思いました。テープ操作によるピッチの移動、多重録音というのは、明らかにレス・ポールのスタイルです。ヨルゲン・イングマンというのは、デンマークのレス・ポールなのだと理解しました。で、そのヨルゲンが、嫁さんに歌わせて夫婦デュオをやっているというのだから、あっはっは、デンマークのレス・ポールとメアリー・フォードか、となったのです。映像を見ると、ギターはフルアコースティックのジャズ・ギター(ギルド製らしい)、プレイ・スタイルもジャズ・ギタリストのものです。さすがに、ちゃんと弾ける人でした。
グレタとヨルゲンは70年代に離婚し、グレタのほうは1990年、五十二歳で亡くなったと、あまり当てにならないソースに書いてありました。
◆ ひと口に素晴らしい夏といっても、中身はいろいろ ◆◆
もう一曲、ロビン・ウォードのWonderful Summerについて補足しておきます。以前にも聴いたことがあり、このあいだ記事を書くときにも、当然、思いだしてしかるべきだったのに、脳軟化のせいで、だいじなヴァージョンのことを書き落としてしまいました。
この曲には、45回転ヴァージョン(以下、「45」と略)とLPヴァージョン(以下、「LP版」と略)があり、現在広く出まわっているものは、LP版のほうなのです。これまた匿名の方からの、「また忘れちゃったの、しようがないなあ」といわんばかりのご喜捨をいただき、雷のごとく記憶がよみがえりました。
45はモノラル・ミックスですし、アルバム・ヴァージョンとはエディットが異なります(テイク自体はおそらく同一)。Ogg VorbisやMP3に圧縮したもので、録音やミックスの細部を比較するのは粗雑な行為といわざるをえませんが、それを承知であえて書きます。
45の特長は、LP版ではドライ・スタートするアレンのコーラスが、ゆっくりフェイドインしてくるのと、ミックスが薄くて、入ってきてからもほとんど聞こえないこと、低音部がいくぶん強調されていること(45回転盤の一般的特性ですが)、なんだかむやみに波の音がうるさい(!)ということです。LP版とくらべて、「もやもや度」が高く、なにがなんだかよくわからないまま、霧の彼方の少女の声が誘いかける、といった雰囲気で、これはこれでけっこうなヴァージョンかと思います。
対するLP版。各種編集盤にもステレオ・ミックスが採用されることがほとんどなので、多くの方がお聴きになっているのはこのヴァージョンですが、このステレオ・ミックスも、じつは一種類ではありません。わが家には、3種類の盤に収録されたWonderful Summerがあります。そのうち、オリジナルLPのストレート・リイシュー盤(日本)と、米ライノのThe Best of the Girl Groups Vol.2に収録されたステレオ・ミックスは、アイデンティカルなミックスです。
しかし、MCA(日本)による編集盤Pixie Girls収録のWonderful Summerは、他の2種とはステレオ定位が異なり、ハル・ブレインのブラシによるハード・ヒットは右チャンネルに配され、しかも、ウォードとアレンのヴォーカルがほぼ同じような位置、左寄りに配されています。他の2種では、ウォードの定位は左寄りと変わりませんが、アレンの声は右チャンネルのかなり「遠く」に振ってあり、二人の声は完全に分離されています。
べつに、どれがいいというつもりもありませんし、すべてそろえて検証したいわけでもありません。一種類もっていれば、それで十分だと思います。しかし、「あの曲はよかったよねえ」などというとき、われわれは同じ曲の印象を語っているのかどうか、じつは心許ないのだということも思います。
いや、人間どうしの理解というのは、異なった「ヴァージョン」を見聞したのであっても、そういう誤差を強引に「補正」してしまうことを前提に成立しているのだからして、たかが音盤の微細なちがいぐらい、軽く乗り越えてしまうのでしょう。われわれの社会が「なあなあ」の人間関係をその基礎においてしまったのはこれが理由だったのか、などと、くだらない洞察に落ちたところで、お休みなさい。