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Distant Shores by Chad & Jeremy
タイトル
Distant Shores
アーティスト
Chad & Jeremy
ライター
James William Guercio
収録アルバム
Distant Shores
リリース年
1966年
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ついさっきまで、今日は同じチャド&ジェレミーでも、この曲ではなく、夏の曲を集めた編集盤にしばしば採られている秀作、A Summer Songをやるつもりでいました。A Summer Songのほうがわかりやすく、訳しやすい歌詞だし、チャートでも上位にいったからです。

でも、わたしが熱心に音楽を聴きはじめたときには、A Summer Songはすでに過去の曲で、はじめてリアルタイムで聴いたこのデュオの曲はDistant Shoresのほうでした。サウンドとしてもA Summer Songより複雑で、全体としてはDistant Shoresのほうが好みに合っているのです。

あわててウェブで検索したところ、ちゃんとオフィシャル・サイトがあり、しかも、現役のわりにはきちんとしたつくりだったので、助かりました。ご存知の方も多いでしょうが、現役のアーティストのオフィシャル・サイトは、ツアー・スケデュールとストアばかりに力を入れ、過去のことはネグッてしまうことが多く、調べものの役には立たなかったりするのです(ヴェンチャーズに代表されるように、過去のことを根掘り葉掘りしてほしくないグループもたくさんありますし!)。

◆ 前 史 ◆◆
Distant Shores by Chad & Jeremy_f0147840_23364165.jpg大ヒット曲A Summer Songを収録した彼らのデビュー盤は、ジェイムズ・ボンドのヒットで日の出の勢いだったジョン・バリーと、バリーがエンバーを去ってからは、ザ・フーで有名なシェル・タルミーのプロデュースのもと、ロンドンで録音されましたが、ビートルズが蹴破ったドアからなだれをうってアメリカに乱入した、デイヴ・クラーク5、ハーマンズ・ハーミッツ、ピーター&ゴードンなどの他のブリティッシュ・グループ同様、彼らもアメリカでのほうが人気があったので、たぶん、イギリスに帰っているひまがなかったという理由からでしょう、セカンド・アルバムはアメリカで録音されます。

チャド・ステュワートのセカンド・アルバムに関する回想はあいまいな書き方で、ニューヨーク滞在中の録音というように読めますが、プロデューサーはジミー・ハスケルだったといっています。彼らのツアー・スケデュールに合わせるために、ハスケルがわざわざニューヨークまで出向いたようで、異例のことです(といっておきますが、わたしは、そうは思っていません。ハリウッド録音でしょう。ハスケルを何日か拘束してNYに呼ぶには金がかかります。ワールド・アーティスツのように吹けば飛ぶようなレーベルがそんなことをするとは、ちょっと考えにくいのです。録音する土地の人間を起用するのが一般的なあり方です。いや、例外もいくつかあるのですが)。

この盤を録音するころから、彼らは所属レーベルに大きな不満をもつようになり、悪名高きアレン・クラインに出会ったことによって、またたくまに話がつき(だから、いくら評判が悪くても、彼を頼りにするアーティストがつぎからつぎへとあらわれたのでしょう)、CBSに移籍することになります。3枚目のBefore and Afterはニューヨーク、4枚目のI Don't Want to Lose You Babyはロンドンで録音されたようです。

Distant Shores by Chad & Jeremy_f0147840_2340274.jpgこのころ、二人はフィル・スペクターのYou've Lost That Lovin' Feelin'のセッションを見学し、チャドは強い感銘を受けたようです。「あとになって、自分が同じようなことを試みることになるとは、このときは思ってもみなかった」といっていますが、これを読んでわたしは、やっぱりね、と思いました。チャド&ジェレミーの60年代終わりの音楽的な大混乱は、ひとつにはスペクターに端を発していたのでしょう(もうひとつは、いうまでもなく、だれひとりとして被害を受けなかった者はなかった「ペパーズ・ショック」です)。

Distant Shores by Chad & Jeremy_f0147840_2342056.jpgブライアン・ウィルソンですら、スペクターを知ったがゆえに、歴史に残る大方向転換をやったくらいなので、チャド&ジェレミーが足取りを乱されても不思議でもなんでもありませんが、やはり、器に合わないことはするものではありません。いや、あの出来の悪い60年代終わりの2枚のアルバムを「幻の名盤」といっている人たちもいるので、これはわたしの意見、それも少数派意見かもしれませんが、サウンド作りはともかく、マテリアルの貧弱さは目を覆うばかりで、あれが彼らの命取りになったのは当然でしょう。あの程度のものがヒットしてしまっては、血反吐を吐きながら書いているソングライターたちが浮かばれません。サウンドはきわめて重要ですが、すぐれた楽曲を前提にしなければ、なんの意味もないのです。

◆ いわゆる「アーティスティック・フリーダム」! ◆◆
ちょっとお先走りと寄り道をしてしまいましたが、これでやっと、今回の主役、Distant Shoresにたどり着きました。

チャドはこの4枚目のLPについて、65年のロンドン・セッションの残りものと、新録音のごった煮だが、にもかかわらず、このアルバムは自分たちの歴史の里程標になった、なぜならば、タイトル・カットをふくむ3曲は、ウェストコースト・セッションだったからであり、みずからの裁量でトラックをつくること許されたからだといっています。

CBSが彼らに割り当てた新しいプロデューサー、ラリー・マークスは、そのまえのロア・クレインよりも若く、チャドにトラックをアレンジすることを許したそうで、チャドはその新しい権利を縦横に行使して、タイトル・カットのDistant Shoresについては、5種類のテンポの異なるヴァージョンをつくり、最終的にもっともテンポの速いものをリリースしたそうです。

この曲を書いたのは、のちにバッキンガムズ、シカゴ、BS&Tなどをプロデュースして一世を風靡することになる、ジェイムズ・ウィリアム・グェルシーオです。といっても、このときはまったくのペエペエで、チャド&ジェレミーのツアー・バンドのベーシストにすぎなかったのだから、彼の名前が歴史にはじめて記されたのがこの曲だったことになります。オフィシャル・サイトでの扱いも、いたって軽いもので、たぶん、ツアー・バンドの在籍期間も長くなかったのでしょう。この曲をリリースしたころがちょうど運勢の潮目になって、グェルシーオは昇竜の勢い、チャド&ジェレミーは飛び降り自殺同然の急降下をするわけで、あまり思いだしたくない人物なのかもしれません。

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というわけで、グェルシーオの代表作2枚のジャケットを並べておきますが、どちらもあまり好みじゃなくて……。

◆ 夏の終わりのそよ風が…… ◆◆
たいしたものではありませんし、大人が聴くには甘すぎる歌詞ですし、それに日本語にしにくいところがあって、あまりやりたくないのですが、まあ、どんどん端折ってしまうことにして、慣例どおり、歌詞をみていくことにします。

Sweet soft summer nights
Dancing shadows in the distant lights
You came for me to follow
And we kissed on distant shores

ここで気になるのは最後のライン、「そしてぼくたちは遠い岸辺でキスをした」だけです。ここまでのライン同様、ちょっとこっ恥ずかしいといえばこっ恥ずかしいのですが、「遙かなる岸辺で」というところに、若い恋人たちの気分が濃厚にあらわれていると感じます。「ここではないどこか」にいくのが恋というものなのですが、その場所を「遙かなる岸辺」と表現したことに、この歌の成功は依っていると思います。

あとは意味がとりにくかったり、あまり面白くなかったりするので、省略したいところですが、アクセス解析をみると、なにかの曲と「歌詞」というキーワードの組み合わせで当ブログを発見なさった方がかなりいらっしゃるので、そういう方たちのために、いちおう、残るすべてを以下にペーストします。

そのまえに、よけいなお世話のミニ・ティップス。たとえば、Distant Shoresの歌詞を検索なさりたいのなら、「"Distant Shores" 歌詞」というキーワードでは、当ブログのようなところにたどり着いてしまいます。そうではなく、「"Distant Shores" lyrics」とすれば、わたしのところではなく、専門の歌詞サイトにたどり着きます。もちろん、「日本語のページを検索」ではなく、「ウェブ全体から検索」にチェックを入れる必要もあります。グーグルが「歌詞」という日本語を勝手に英訳して、英語の歌詞サイトをあなたのために見つけてくれるようになるまでには、すくなくともあと数週間、ひょっとしたらあと数年はかかるでしょう!

Long quiet hours of play
Sounds of tomorrow from yesterday
Love came for me to follow
And we kissed on distant shores

The careful glance of children playing
Raindrops fall as if they're saying
Quiet thoughts of you caressed by time

The breeze of summer's gone
Whispered memories as nights grow long
You came for me to follow
And we kissed on distant shores

最後のヴァースはちょっといい……かもしれません。「日が短くなり、夏の終わりを告げるそよ風が想い出をささやきかける」、いや、やっぱり、この年になると、ちょっと赤面ものの甘さですね。でも、若いころをチラッと思いださないでもありません。いやはや、思わず声をひそめてしまいました。

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昔見たパブ・ショットでは、チャド・ステュワートはいつもギブソンSGのダブル・ネックをもっているのが印象的だった。ジェレミー・クライドのほうは、ジョン・レノンと同じギブソンJ-160E。当時の定番で、わたしも所持。わたしが買ったころに生産中止になり、いまはレプリカが出まわっているだけなので、ミントならけっこうな値段がつくのだが、飾っておくためではなく、弾くために買ったので……。


◆ またまたいつものハリウッド・ギャング ◆◆
「ウェストコースト録音」というチャドの話から(やっぱり異邦人だと思います。せめて南カリフォルニアぐらいまで地域を限定してもらいたいものです。もちろん、「ハリウッド録音」がもっとも望ましい表現ですが)、またか、とお思いになった方も多いでしょうが、もちろん、この曲のドラムもいつものようにハル・ブレイン、これは銀行レースなみのガチガチ安全パイの推測、そして、おそらくベースはキャロル・ケイです。キャロル・ケイは、チャド&ジェレミーのなにかを録音したといっています(いちいち曲名まで覚えていないのは、めずらしいことではありません。一日にアルバム一枚分のトラック、それを週五日、10年もつづけたのだから、無理のないことです)。

ハル・ブレインの代表作というわけにはいきませんが、こういう静かなバラッドでもハード・ヒットしてくるところが、いかにもハルらしいですし(ハードに聞こえないのは、ミックスがオフ気味になっているからにすぎず、スタジオにいれば、ドカーンという音で聞こえたはずです)、ディレイをかけたと思われるサウンドもなかなか印象的です。

Distant Shores by Chad & Jeremy_f0147840_2356387.jpgこの曲はチャドが自分でアレンジしたそうですが、それがほんとうなら、アレンジャーとして、悪くない才能をもっていたと思います。イントロとアウトロのギター・リックは、彼自身がそこそこ弾けたのだから当然として、セカンド・ヴァースから入ってくる左チャンネルのストリングスと、右チャンネルのフレンチ・ホルンはなかなか効果的で、「遙かなる岸辺」の雰囲気がちゃんと音として具体化されています。

思うに、この曲は、グェルシーオが、チャド&ジェレミーの最大のヒットであるA Summer Songの続編というか、二匹目のドジョウとして書いたものなのでしょう。曲調も歌詞もよく似ています。ちがうのは、サウンドの奥行きです。A Summer Songは、フォーキー丸出しのシンプルなサウンドでしたが(いや、この曲も好きですが)、こちらは予算がちがうというか、プレイヤーのレベルがちがうというか、ま、その両方でしょうが、時間がたってみると、やはりDistant Shoresのほうが好ましいものと、わたしには感じられます。

◆ 階級社会の逆差別 ◆◆
チャド&ジェレミーは、またとりあげる機会がありそうなので(それも日をおかずに! なんなら、明日さっそく、A Summer Songをやってもいいのです!)、その後のキャリアというか、自殺的急降下ダイヴィングのことはそのときに書くことにさせていただくことにして、今夜はひとつだけ、オフィシャル・サイトを読んでいて、はじめて知ったささやかなエピソードを加えておきます。

Distant Shores by Chad & Jeremy_f0147840_2357371.jpgジェレミー・クライドはちょっとした良家のお坊ちゃんだったそうで、1952年、祖父の「侍童」として、古典的なヴェルヴェットの衣装で着飾り、エリザベス女王の戴冠式に出席したそうです。のちにデビュー・アルバムがリリースされたあとで、「デイリー・エクスプレス」紙が、このときの写真を掲載したために、ひどい目にあったとジェレミーはいっています。上流階級出身だから、労働者階級の「ロックンロール・プレイグラウンド」にいる資格はない、というレッテルを貼られてしまったというのです。

いやはや、聞きしにまさる階級社会。彼らがイギリスではまったく不人気で、途中からシングル・リリースもされなくなってしまったのは、たんにアメリカでばかり稼いでいて、イギリス・ツアーをしなかったということだけでなく、このあたりにも理由があったのかもしれません。アメリカ人は上流階級風英国人が大好きで、ピーター&ゴードンのピーター・エイシャーなんか、あの時代、イギリスのアーティストにとって、アメリカは天国のようだったといっています。


2007年8月30日補記

tonieさんのコメントにあるとおり、まちがってタイトルを単数形にしていたため、複数形に修正しました。

以下はtonieさんのコメントから。

「A Distant Shore」にせず、「Distant Shores」という複数形なのは、あちこちで何度もwe kissedなのでしょうか? それとも渚というのは、存在自体が一カ所でもshores的要素をもっているという理解なのでしょうか。nightなどにもsがついているのであちこちで何度もwe kissedな気がします。

「あちこちで何度もwe kissed」というtonieさんの見解にわたしも賛成です。こういうとき、ソングライターは、シラブルや口調のよさを考慮しているという側面もあるだろうとは思いますが。
by songsf4s | 2007-08-26 23:56 | 夏の歌