- タイトル
- Summertime
- アーティスト
- Anybody
- ライター
- lyrics by Ira Gershwin and Du Bose Heyward, music by George Gershwin
- 収録アルバム
- Any Album
- リリース年
- 1933年初演
- 他のヴァージョン
- EVERYBODY!!!
◆ 出来のよいヴォーカル・ヴァージョン ◆◆
今回は、Summertimeの残る12ヴァージョンを一気に駆け抜けることにします。
ビリー・ステュワートのヴァージョンは大ヒットしていますし、編集盤にもよく採られています。むちゃくちゃにオフビートなアレンジで、だれでも知っている曲を再ヒットさせるには、こういう荒技が必要だということが証明されています(ちなみに、そういう意味で、こりゃスゲエと賛嘆したのは、殺人教唆を疑われたサム・クック未亡人と、喪が明けるのも待たずに結婚したボビー・ウォマック歌うFly Me to the Moonです)。
こういうおっかない声でこんな大騒ぎをしては、赤ん坊は眠るどころか、泣き叫び、しまいにはひきつけを起こすのではないでしょうか。本来は子守唄だなんてことは、四次元の彼方にすっ飛んでいます。でも、ヴォーカルのノリのよさは他のヴァージョンにはないもので(ドラムは好みではありませんが)、こうでもしないかぎり、この曲が大ヒットする可能性はないでしょう。これは55年以降、唯一トップ40入りしたSummertimeですが、それも当然と感じます。
マーセルズは、Blue Moonのとんでもないドゥーワップ・レンディションをヒットさせたことで有名で、ご記憶の方も多いでしょう。Blue Moonにくらべれば、彼らのSummertimeは穏当なアレンジですし、この曲の各種ヴァージョンのなかでは例外的にアッパーな明るいノリで、楽しめる仕上がりになっています。だいぶコードを変えていて、マイナーであるべきところを、メイジャーでやっているみたいですが、これまた、そうでもしないかぎりこの曲はヒットしないだろうと納得してしまいます。さすがは、珍なアレンジを売りものにしていたグループだけのことはあります。マーセルズ盤はトップ40にはとどかなかったものの、ホット100入りしました。
リック・ネルソンを聴く楽しみの半分ぐらいは、ジェイムズ・バートン、および彼の参加以前の、バーニー・ケッセル、ハワード・ロバーツ、ジョー・メイフィスといったハリウッド・シニア・ギタリスト軍団(というほどの年齢ではなかったので、ハリウッド第一世代ギタリスト集団というべきかもしれません。ビリー・ストレンジ、トミー・テデスコらに先行する人たちです)のプレイにありますが、1960年ごろからは、バートンの幼なじみ、ジョー・オズボーンのフェンダー・ベースというお楽しみも加わります。この曲のオズボーンは、ゲラゲラ笑ってしまうほどブンブンいっていて、おかげで退屈しないですみます。これまたホット100ヒット。
ゾンビーズ・ヴァージョンはデビュー盤のアルバム・トラックです。ミディアム・ワルツ・アレンジで、スロウではないところが救いになっています。コリン・ブランストーンの声は子どものころから好きだったし、この曲にも向いていると感じます。案外な拾いものではないでしょうか。
◆ あまり出来のよくないヴォーカル・ヴァージョン ◆◆
シャロン・マリーは、熱心なブライアン・ウィルソン・ファンしかご存知ないでしょうが、後年、ビーチボーイズがDarlin'として歌った曲の原曲、Thinking 'bout You Babyを、ブライアンのプロデュースで歌った人です。この時期のブライアンは、ビーチボーイズではやりにくいアレンジやサウンド・メイキングの実験を、アウトサイド・プロダクションで試していたようで、いくつかバランスの悪い、デモみたいな出来のものを残しています。
シャロン・マリーのSummertimeはその最たるもので、なんだか珍な音です。実験台にされたシャロン・マリーこそいい面の皮ですが、ブライアンがいなければデビューできたかどうかすら怪しいので、いいようにオモチャにされても(といっても、性的な含意はゼロですよ)文句はいえないでしょう。
ライチャウス・ブラザーズ盤は、フィル・スペクターの時代に録音されたものですが、アルバム・トラックなので、例によって巨匠は出馬せず、ビル・メドリーあたりがプロデュースしたのでしょう。立体的で、奥行きのあるサウンドにいくぶん魅力がありますが、しかし、あまり出来がよいとはいいかねます。ドラマーはアール・パーマーでしょうが、とくに活躍はしていません。
ライチャウスは不思議なデュオで、片方だけのソロという曲がけっこうあり、この曲ではボビー・ハットフィールドの声しか聞こえません。You've Lost That Lovin' Feelin'では、ハットフィールドの出番がほとんどなかったことの埋め合わせでしょうか。
バッキンガムズのヴァージョンは、デビュー盤のアルバム・トラックで、ギターとベースのタイムがずれていて、どうにも乗れないグルーヴです。とくにリズム・ギターのプレイとミックスのバランスがよくないと感じます。セカンド・アルバム(わがオール・タイム・フェイヴァリット、Don't You Careを収録)からはハリウッド録音になり、もうすこしましになるのですが。いや、シカゴ録音ということになっているデビュー盤からして、すでにハリウッド録音の可能性もあると昔から疑っているのですが、セカンドほど出来がよくないのも事実なので、ずっと保留しています。
◆ インスト・ヴァージョンひとまとめ ◆◆
最後にインスト盤をまとめてご紹介します。
ヴェンチャーズ盤はなかなかけっこうな出来です。ビリー・ストレンジ時代のヴェンチャーズも、後半になるとダブル・リードが増え、ゴージャスなギターのからみが聴けるようになるのですが、Summertimeが収録されたMashed Potatoes And Gravyは、そのダブル・リード時代のピークに録音されているのです。Lucille、Poison Ivy、The Wah-Watusi、Spudnik(のちにSurf Riderと改題される)と、ダブル・リードの傑作トラックが目白押しです。
ビリー・ストレンジの相方であるセカンド・リードはいまだに不明ですが、わたしはトミー・テデスコだろうと推測しています。音からの判断では、このアルバムのドラマーはハル・ブレイン、ベースはレイ・ポールマンです。リズム・ギターはわかりませんが、いつものようにキャロル・ケイだと思っておけば安全でしょう。
Summertimeでのハルは、Spudnik/Surf Riderと似たようなパターンで叩いています。この曲でのダブル・リードは、ハモったりはしないので、Lucilleなどに肩を並べるような出来ではありませんが、それでもけっこうなプレイで、今回聴いたすべてのSummertimeのなかで、もっとも楽しめました。
MG's盤は、彼らのクリスマス・アルバムを思いだす、静かなアレンジのオルガン曲という感じで、ブッカー・T・ジョーンズ以外の3人はあまり活躍しません。今回取り上げた各種ヴァージョンのなかではもっとも子守唄らしいサウンドですが、MG'sの血が騒ぐグルーヴを好む人間としては、あまり聴きどころがありません。
デイヴ・“ベイビー”・コルテスは、The Happy OrganのやRinky Dinkなどのヒットで知られるオルガン・プレイヤーですが、この曲はやや珍な出来です。左手の低音部が変なライン、変な音で、なんとなく葬送曲を思わせます。「死ぬまでは生きるであろう」という、この曲の変な歌詞に合っているといえば合っているのですが……。The Happy Organでは、呆れるほど脳天気なサウンドをつくったコルテスですら、ダウナーなノリになってしまうのだから、恐るべし、Summertime!
ストリング・アロングズは、バディー・ホリーのプロデューサー、ノーマン・ペティーがプロデュースした(たぶんテキサスの)ギター・インスト・グループで、Wheelsのヒットが知られています。この曲は、アレンジまたはプレイがピシッとしていなくて、あまり出来はよくありません。リズム・ギターがバランスを欠いて大きくミックスされているのがわかりませんし、まして、そのステレオ定位を左右に揺らすにいたっては、鬱陶しいだけです。派手さはないものの、ツアー用ヴェンチャーズなどより腕は上だと思いますが、この曲のアレンジはいただけません。
以上、わが家にあるSummertimeをすべて聴いてみました(と思うのですが)。二度とこんな馬鹿なことはしたくない気分です。有名なエラ・フィッツジェラルド盤がわが家にはなくて、幸いでした! うまさを前面に押し立てる人はもともと苦手ですし、夏にはぜったいに聴きたくありません。うまさ控えめ、これが夏の歌のポイントです。