- タイトル
- Summer Samba (So Nice)
- アーティスト
- Walter Wanderley
- ライター
- Marcos Valle, Paul Sergio Valle, Norman Gimbel(英語詞追加)
- 収録アルバム
- Rain Forrest
- リリース年
- 1966年
- 他のヴァージョン
- Billy May, Astrud Gilbert with Walter Wanderley, Connie Francis, Vicky Carr
今日はインストゥルメンタルでもあるし、手早くいきます。歌詞は、同じ曲の歌ものヴァージョンを扱う明日以降に検討します。といっても、どうという歌詞ではないのですが。
この曲のタイトルにはいろいろなヴァリエーションがあります。オリジナル・タイトルは"Samba de Verao"というそうで、deはofまたはinあたり、varaoはきっとsummerなのでしょう(当てずっぽう)。歌ものの場合は、"So Nice (Summer Samba)"と、ワルター・ワンダレイ盤とは逆にすることが多いようですし、"Summer Samba (Samba de Verao)"としているものもあります。
みな同じ曲なので、HDDに取り込んだ圧縮ファイルを検索するときには、高機能の検索ソフトを使うか、キーワードの工夫が必要になります。みなさんも盤をゴチャゴチャひっくり返さないですむように、ポータブルやHDDに取り込んでいらっしゃるでしょうが、これからはリッピングだの圧縮だのといった当たり前のことより、多元的に圧縮ファイルのタグ(わたしはMP3ではなく、Ogg Vorbisで圧縮していますが)を検索できるソフトウェアのほうが問題になるでしょう。急いでいるくせに、寄り道が多くて困ったものです。
◆ B-3はどこへいった? ◆◆
この曲も、パーシー・フェイスのThe Theme from a Summer Place同様、わたしが子どものころは典型的な「喫茶店音楽」で、あちこちでむやみに流れていました。三十代半ばまでは買おうなどという気はチラとも起きなかったのですが、買おうと思い立ったときには、いまとちがってCDリイシューでなんでもあるという時代ではなく、新品を手に入れることができず、中古LPを買うハメになりました(ただ同然の値段で買えましたが)。なんでもすぐに手に入るのはありがたいことですが、いっぽうで、ありがたみが薄くなったとも感じます。
なんで買う気になったかといえば、80年代なかごろになって、世の中がシンセサイザーで埋め尽くされたとき、ふと、マシュー・フィッシャーのソロ・アルバムを聴いていて、この地上からハモンド・オルガン、正確にはレズリー・スピーカー付きの(これがないと、ハモンドというのはどうしようもなく野暮な音なのです)ハモンドB-3の音が消えたことに気づいたからです。
そこに気づくと、もうハモンドはつぶれたとか、いや、つぶれてはいないけれど、B-3はつくっていないから、生き残ったハモンド・プレイヤーは、中古のB-3を買い集め、パーツをとって修理しているとか、ウソかほんとうかわからない話(たぶんデマでしょう)が聞こえてきて、そんな馬鹿なことがあっていいのか、と憤慨しました。シンセサイザーにはどうやってもあの音は出せません。本家のハモンドが発売したMIDI音源だって、なんだかチープな音で、とても買う気にはなれませんでした。
昔、お茶の水の楽器屋に中古のハモンドB-3がおいてありました。ほしいなあ、と思いながらボンヤリ見ていたら、電源ランプがついていることに気づき、「手を触れないでください」とも書いていないので、どうせレズリーはつなげてないだろう、と思いながら、キーを押したら、ノイジーでワイルドなレズリーのすさまじい音がドカーンと来て、仰天したことがあります。いい楽器というのは、鳴らした瞬間、魂が宙に飛ぶことがあるわけですが、あの店頭で聴いたレズリー付きハモンドB-3の「ド」の音は、一生忘れないでしょう。
◆ ドロウバー・セッティングに命をかける ◆◆
わたしが音を出してみたB-3は、しいていうと、フィルモアのライヴのときのスティーヴ・ウィンウッドみたいな、トレブルの強い、きつい音でした。しかし、レズリー付きハモンドの音は、ドロウバー・セッティングによって千変万化します。マシュー・フィッシャーは青い影のときはB-3ではなく、C-3か、なにかほかのモデルを使ったそうですが、いずれにしても、オルガン・プレイヤーの命はドロウバー・セッティングです。魅力ある自分の音色をつくれたプレイヤーが名を残すのです。
子どものころはいやっというほど聴いた、ワルター・ワンダレイのSummer Sambaの音は、20年後に、ものすごく貴重なものになっていました。ワンダレイの音色は、スティーヴ・ウィンウッドやブッカー・Tのような系統ではなく、ジミー・スミスやマシュー・フィッシャーの系統(後者はワンダレイよりずっとあとにデビューするわけですが)のクールなサウンドです。
曲がヒットするかどうかは、もちろん曲の出来ということが第一でしょうが、毎度申し上げるように、サウンドの手ざわりも同じように重要です。ワンダレイの成功の鍵もやはりドロウバー・セッティングにあったのではないかと思います。タイトル通り、夏に聴くには最適のクールなサウンドになっています。もっとも、リリースが遅かったのか、この曲がビルボード・チャートでピークに達したのは十月下旬のことだったのですが。
ワンダレイはブラジルの出身で、そちらですでに名を成してからアメリカにきて、この曲を含むアルバムRain Forrestが、最初のアメリカ録音だったそうです。録音はニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオ、エンジニアは当然、ルディー・ヴァン・ゲルダー、プロデューサーはクリード・テイラー、ま、そのへんはどうでもいいといえばどうでもいいのですが、この曲がシングル・カットされたのは、メンバーの強い反対があったにもかかわらず、「わたしは諸君よりこの市場のことをよく知っている」とテイラーが押し切ったおかげだったそうです。プロデューサーが「ちゃんと仕事をした」というべきでしょう。
このアルバムのドラムとパーカッションはボビー・ローゼンガーデンです。この人が東部に引っ越したおかげで、パティー・ペイジ・ショウのドラマーが不在になり、ジャック・エリオットの仲介で、ハル・ブレインがあと引き継ぐことになりました。以前にもちょっとふれましたが、パティーの夫君、チャールズ・オカーランはパラマウント映画の振付師で、彼がエルヴィスの『ブルー・ハワイ』の振り付けをすることになり、挿入曲のドラマーとしてハルを推薦したことから、ハル・ブレインの運も開けていきました。
◆ ビリー・メイ盤 ◆◆
この曲のカヴァーで、インストものとしては、あとはビリー・メイのヴァージョンをもっています。オーケストラ・リーダーであり、フランク・シナトラのアレンジャーをつとめた人です。しかし、彼の全盛期は40年代、50年代だったようで、この曲のカヴァーは、かつてのビリー・メイ・オーケストラのゴージャスなサウンドではなく、(もちろん曲調のせいもあったのでしょうが)ほぼワンダレイ盤を踏襲したもので、コピーといわれても反論はできないようなものです。
ただし、並べて聴くと、だれがプレイしたか知りませんが、ドロウバー・セッティングに工夫が感じられます。音色だけでいうなら、わたしはワンダレイよりこちらのほうが好みです。録音・リリース・デイトが不明なのですが、ワンダレイよりあと、それほど遅くない時期のはずで、60年代終わりではないでしょうか。ビリー・メイはハリウッドの人ですから、知っているプレイヤーがやっているかもしれないと思うものの、音からは判断できませんでした。