- タイトル
- Summer Means Fun
- アーティスト
- The Fantastic Baggys
- ライター
- Phil Sloan, Steve Barri
- 収録アルバム
- Surfin' Craze
- リリース年
- 1964年
- 他のヴァージョン
- Bruce & Terry, Jan & Dean
◆ ユナイティッド・ウェスタン・スタジオ物語 ◆◆
ハリウッドはサンセット通り6050番地にあるユナイティッド・ウェスタンでは、夜のセッションがはじまろうとしている。スタジオは熱気に満ちて……いなかった。
ハル・ブレイン「(腕組みして天井をにらみ)まえのと同じでいいんなら、どうってことはないけれど……ヘイ、ジャン。テンポを変えてくれないと、また同じになっちゃうぞ」
ジャン・ベリー「いいよ、同じで。軽快に頼むよ。ノリがすべてなんだから。でも、ハル、またってどういうこと? この曲をやるのははじめてだけれど?」
ハル「ブルースとテリーのときも同じになっちゃったんだよ。聴いてないのか?」
ジャン「ラジオで一度……そういえば、同じだったね」
レイ・ポールマン「ジャン、オレは?」
ジャン「(ため息をつき)いいよ、同じで。もしも変えてくれたら、すごくうれしいけれどね、すこしでいいから」
レイ「いいラインはもう使っちゃったからなあ。まあ、ラインは変えてみるよ。でも、リズム・パターンはテンポを変えてくれないと……」
ジャン「ラインだけで十分だよ。よろしく」
ボーンズ・ハウ「なあ、ジャン。これって、無駄じゃないか。スティーヴにテープを借りればいいじゃないか。イコライジングを変えれば、べつのトラックにきこえるぞ。いや、まあ、同じトラックだから、まったくちがうってわけにはいかないけれど……」
ジャン「(トークバックのスウィッチを切り)いいんだよ。どうせ税金でもっていかれるんだ。彼らに楽に稼いでもらって、機嫌よくやってもらったほうがいい。つぎのはキツいことになるのがわかっているしね」
ボーンズ「なるほど。でも、オレだけはやらせてもらうよ。チャックとはちがう音にしてみせる」
ジャン「ああ、頼むよ。手ざわりだけ、ちょっとちがえば十分だよ。イコライジングでね」
キャロル・ケイ「(コードを弾きながら)いつもいつも、G7の代用がD♭7+フラット・フィフスじゃ退屈よね。せめてキーだけでも変えてくれればいいのに、またGじゃないの。テンションつけちゃおうかな。(となりのトミー・テデスコに)あんた、どうしてそうお気楽なの。いつも同じコードばっかで、悔しくないの?」
トミー「悔しい? どうして? 同じコードを弾いても、ちがうコードを弾いても、同じ50ドルじゃないか。忘れたのか、オレたちは食うためにギターを弾いてるんだぜ」
キャロル「だって――」
トミー「勘弁しろよ。オレはちゃんと仕事をしている。あれを見ろよ」
と背後を振り返る。退屈したグレン・キャンベルが、「プレイボーイ」からはぎ取り、壁に貼りつけたミス・ジュライのセンターフォールドに向かって、ダートを投げつけている。
ジャン「オーケイ。じゃあ、いこうか。今夜は長いから、これは3テイクぐらいでよろしく。きみたちにはパイみたいに楽なもんだろ?」
ボーンズ「ジャン&ディーン、Summer Means Fun、テイク1」
トミー「そりゃどうかな、ボーンズ。バギーズから勘定して、ブルースたちのも入れれば、そろそろテイク20だ」
ボーンズ「テープは廻ってるぞ!」
ハル「(スティックを強く叩き合わせて静粛を促しながら)ワン-トゥー、ワン-トゥー-スリー」
ユナイティッド・ウェスタン・リコーダーでは、独創的で革新的なサウンドへのあくなき挑戦――ではなく、お気楽な音楽をきまじめにつくる、世にもつらい仕事がまた今夜もはじまった。
(この物語はフィクションです。実在の人物や事実に合致する点があったとしても、たんなる偶然に過ぎません。)
◆ ティーネイジャーの夏休み讃歌 ◆◆
今回は、友人のMashi☆Toshiさんのブログ「3連のバラード・コレクション」(旧名「3連ロッカ・バラード」)との協賛企画です。まあ、わたしが勝手に「協賛」しただけですが。
そういう趣旨から、ヒット・ヴァージョンであるブルース&テリー盤ではなく、オリジナルと思われるファンタスティック・バギーズ盤を先に立てました。うちにはもうひとつ、ジャン&ディーン盤があります。
この3ヴァージョンはほぼ同時期(1964年)に、ハリウッドのきわめて狭い一区画で録音されましたが、そのへんの検討はあとまわしにします。冒頭においた駄話の意味は追々わかるので、これもあとまわしにして、まずは歌詞の検討から。お気楽な歌詞なので、いつものような七面倒なことは申しません。以下はファースト・ヴァース。
Neath the warm California sun
No more books, no more homework to do now
Summer means fun
マリブはLA郊外の土地で、富裕層の別荘やビーチハウスがあるそうですが、この曲でわかるようにサーフ・ポイントでもあり、サーフ・ミュージックには何度か登場しています。教科書も宿題ももうない、夏だ、楽しいな、というような、大人にはどうでもいいようなことが歌われていますが、これだけで、ティーネイジャーは、自分たちに呼びかけていることが了解できます。じっさい、この曲の共作者、フィル・フリップ・スローンはこのときはまだティーネイジャーだったそうです。
(以下、Summer Means Funその2につづく)