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【ブリティッシュ・ビート根問い】サーチャーズ篇9 1963年の9
 
マーク・ルーイソンのThe Beatles Complete Recording Sessionsには、序文がわりにポール・マッカートニー・インタヴューが収録されている。

そのなかで、まだライヴ・バンドだったころ、将来をどう考えていたかという質問に、ポールは、レコーディング・アーティストになることが目標だったと答え、さらにこう云っている。

It was the currency of music: records. That's where we got our repertoire from, the B-sides, the 'Shot Of Rhythm And Blues', the lesser known stuff that we helped bring to the fore, the R&B stuff.

細かいことはどうでもよくて、「たとえばShot Of Rhythm And Bluesのように、われわれはB面からレパートリーを見つけた」と云っていることと、lesser known stuff、あまり知られていない曲、と云っていることが目を惹く。

なぜB面なのかということを、ポールは説明していないが、それは了解事項だからだろう。A面またはヒット曲をカヴァーするのは垢抜けないことだったからに決まっている。

わたしだって、中学の時ですら、B面やアルバム・トラックをやろうという意識はあったくらいで、すでにヒットした曲をカヴァーするのは野暮、というのは、バンドをやった人間の多くが思っていたことだ。

むろん、ヒットしたばかりの曲は、聴き手の誰にでもすぐ了解できるので、そういう曲もやるべきであり、レパートリーは単純な構成にはならないのだが、しかし、B面曲、アルバム・トラック、lesser known stuffはつねにヒット曲以上の価値があった。

サーチャーズも当然、ポール・マッカートニーと(そして、しいて云うなら、我々日本の子供とも)同じ感覚を共有していたに違いない。

プレイする人間というのは、多くの場合、ヴェテランのリスナー、根性の入ったリスナーである。ふつうの音楽ファンより深く音楽に入り込んだ結果として、自分でもやってみようと思い立つ。

だから、当然、ふつうのリスナーが知らないような曲をやるのは、プライドの問題として、きわめて大事なことだった。

◆ Hey Joe ◆◆
Hey Joeといったって、ジミ・ヘンドリクスが有名にした、ビリー・ロバーツの曲ではない。ケイデンス時代のエヴァリー・ブラザーズの「座付き作者」同然だったブードロー・ブライアント作で、オリジナルは1953年のカール・スミス盤らしい。

サーチャーズ盤のクリップはないので、サンプルにした。イントロがWhat'd I Sayそっくりだが、ちゃんとHey Joeになるので、ご心配なく!

サンプル The Searchers - Hey Joe

Carl Smith - Hey, Joe!


カール・スミス盤は大ヒットしたそうだが、どうもピンとこない曲で、じゃあ、歌詞かな、と思うのだが、これが面白いかなあ、昔は面白く感じたのか、という微妙な話だ。

ジョーという友だちに向かって、その娘はすごいな、どうだ、俺に譲らないか、とかなんとかいう品のない歌詞で、その品のなさがウケたのか、なんだったのか。

カール・スミス盤がアメリカでヒットしたのと同じ1953年に、イギリスではつぎのヴァージョンが大ヒットしたのだそうな。

Frankie Laine - Hey Joe


こちらのほうが、きちんとアレンジされていて(プロデューサーのミッチ・ミラーのアレンジか)、華やかな雰囲気があり、まだしも納得のいく「ヒット曲」である。ペダル・スティールの間奏も魅力的だし、バッキング・コーラスも、おお、いいな、と思う一瞬がある。

たんなる状況からの判断だが、サーチャーズは、オリジナルのカール・スミス盤ではなく、フランキー・レイン盤か、またはいまでは忘れられてしまったイギリスのローカル盤を元にしたのではないかと想像する。

◆ Always It's You ◆◆
もう一曲つづけて、ブードロー・ブライアントの曲で、こちらはHey Joeより新しく、オリジナルはエヴァリー・ブラザーズ。

サーチャーズ盤は、一応クリップはあるのだが、エンベッド不可なので、サンプルにした。

サンプル The Searchers - Always It's You

The Everly Brothers - Always It's You


この曲についてはややこしいことも、紆余曲折もなく、うちのHDDを検索しても、エヴァリーズ盤が数種類と、サーチャーズ盤しか出てこない。

エヴァリーズのオリジナルは、WB移籍後2枚目のアルバム、A Date with The Everly Brothersに収録されたもので、シングル・カットはされていない。WB移籍後にしては、作者もケイデンス時代と同じブライアント夫妻、サウンドもケイデンス時代のようにシンプルで、WBのアルバムのなかではちょっと据わりが悪い。アウトテイクを利用したのか?

◆ Hully Gully ◆◆
ほとんどがオブスキュアな曲で、タイトルを見ても、オリジナルがそらで出てきたりしないアルバムなので、昔からよく知っている曲が出てくると、ホッとする。

作者はフレッド・スミスとクリフ・ゴールドスミスで、オリンピックスを共同プロデュースしていたといった程度のことしか判明しなかった。後者はLAのワッツの生まれとあるから黒人だろう。のちにジョニー・テイラーをプロデュースしたこともあるとか。

オリジナルを歌ったのはスミス=ゴールドスミスのコンビがプロデュースしていたLAのオリンピックス。ヤング・ラスカルズのビルボード・チャート・トッパー、Good Lovin'のオリジナルを歌ったのも彼らだ。

The Searchers - Hully Gully (live)


The Olympics - Hully Gully


オリンピックスのオリジナルはたいしたヒットではなく、ホット100の下の方に潜り込んだ程度。それでもハリーガリーというダンスステップは流行し、多くのカヴァーが生まれた。

したがって、オリンピックスのHully GullyとサーチャーズのHully Gullyのあいだには多くのヴァージョンがあり、出自がはっきりしているわりには、考えどころには事欠かない。しかも、サーチャーズないしはイギリスのビート・グループが聴いていたであろうシンガーやグループが多い。

まずは前回も登場したこのスタジオ・グループ。

The Hollywood Argyles - Hully Gully


ハリウッド・アーガイルズと関係の深かったスキップ&フリップ(前者はのちにバーズでベースをプレイするスキップ・バッティン)のヴァージョンもあるが、クリップがないので飛ばし、つぎはトゥイストで売れに売れたこの人。

Chubby Checker - The Hully Gully


気になるのは、サーチャーズのライヴと同時期に、やはりハンブルクのスター・クラブで録音された、イギリスのグループ、クリフ・ベネット&ザ・レベル・ラウザーズのカヴァー。

Cliff Bennett & the Rebel Rousers


クリップは間違ってビートルズとクレジットしている。ビートルズのブートに収録されたかららしいが、これを聴いて、ビートルズじゃないとすぐにわからないのも、いわゆるひとつの才能かもしれない!

こういうライヴ向けの曲は、誰かが取り上げると、あっという間に他のバンドもレパートリーにしていくもので、イギリスのバンドでどこが最初にやったか、もはやなんとも言い難い。

イギリスで誰が最初にやったにせよ、まったくの山勘だが、ハリウッド・アーガイルズのヴァージョンが参照されたのではないか、と思う。

サーチャーズのこととは関係ないが、この曲がその後も聴かれたのは、つぎのカヴァーのおかげのような気がする。ボンゴはハル・ブレイン(ボンゴをやってもすごい!)、ベースはジョー・オズボーン。

The Beach Boys - Hully Gully


ドラムレスなのに、ざまざまなヴァージョンのなかでこれがもっともソリッドなビートで、なんだかなあ、と溜息が出る。

◆ What'd I Say ◆◆
なにも考えずにすむ曲は嬉しい。作者はレイ・チャールズ、オリジナルを歌ったのももちろん作者自身。わたしが子供のころは、しじゅうラジオから流れてきた。

サーチャーズのクリップは、63年のスター・クラブでのものはなかったので、別のもので代用した。

The Searchers - What'd I Say


Ray Charles - What'd I Say


山ほどカヴァーがあり、サーチャーズと同時代のブリティッシュ・ビート・グループに限っても、ビートルズ、ジェリー&ザ・ペースメイカーズ、ビッグ・スリーのヴァージョンがある。

あれこれ聴きはじめると話は長々しくなるだけなので、ひょっとしたら、イギリスの子供たちはこのヴァージョンではじめてこの曲を聴いたのかもしれない、というものだけを。

Cliff Richard & the Shadows - What'd I Say


ハンク・マーヴィンのギターがなかなか魅力的で、案外いいじゃないか、である。

わたしはレイ・チャールズのEPを買うはるか以前にこの曲を知っていたが、日本では誰が歌っていたのか、いちおう考えてみたものの、まったく思いだせなかった。


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by songsf4s | 2014-03-04 23:21 | ブリティシュ・インヴェイジョン