ボビー・ヴィーのひとり2パート・ハーモニー
 
前回まで、19回にわたって長々と続いた「大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー」シリーズで、最後までもやもやしていた、

「エヴァリーズのストレートなハーモニーが、なぜ初期ブリティッシュ・ビートのイレギュラーなハーモニーに化けたか」

という問題について、最後の最後に、この人を忘れていたと、クリップを貼り付けておいた。その後、やはりこれがミッシング・リンクかもしれない、という気がしてきた。いや、気がしなくもない、ぐらいだが。

Bobby Vee - Rubber Ball


これは日本でもリリースされた。それどころか、わが家にもこのシングルはあった。とりたてて音楽ファンでもない愚兄が買ってきたほどなので、それなりに人気があったのだろう。

東芝音工がリバティーの配給権を得て最初にリリースした盤の一枚だった。マトリクスはLib-0006といった感じの、恐ろしく若い番号だった。そして赤盤だった。

プロデューサーはスナッフ・ギャレット。この当時のギャレットのチームはほぼ固定されていて、この曲のクレジットはわからないものの、レギュラー・メンバーを書いておく。

アレンジ、ピアノ、指揮……アーニー・フリーマン
ドラム……アール・パーマー
ベース……ジョージ・“レッド”・カレンダー
ギター……ハワード・ロバーツまたはジョー・メイフィス

使用コードは、A、D、E、F#mの4種のみ、シンプルなコード進行だが、ハーモニーは、おや、と耳を引っ張る。

コーラスから入るShe Loves You型で、その部分の音程を以下に書いた。上から歌詞、メロディー、ハーモニーの順。例によって音程の細かいことは気にしないでいただきたい。あとで説明する。

Rubber ball, I come bouncin' back to you,
Db-B-A-A-E-F#-A-Ab-B-A
E-D-Db-Db-Db-D-D-E-D-Db

メロディーはDbから下のEまで大きく上下しているのに対して、ハーモニーは上のE、D、Dbという、接近した3音のわずかな高低差を行き来しているだけだ。

メロディーに対して3度の音、たとえばCメイジャーなら、ルートのドとミの関係や、5度の音、つまりソというように、3和音を構成する音で、メロディーに対して平行に移動するハーモニー・ラインをつくると、きれいな、とがったところのない音になる。

ひとりでギターのコード・プレイをすると、運指の関係で、平行した音の流れになるのがふつうなので、そのような響きになる。

季節はずれなのだが、典型的なギターのコード・プレイを、と考えて、とっさに思い浮かんだのが以下の曲だったので、あしからず。

ご存知の方も多いだろうが、ヴェンチャーズのツアー・メンバーは60年代にはスタジオではあまりプレイしなかった。このアルバムのリード・ギターはトミー・オールサップという説が有力。また、ドラムについては、フランク・デヴィートがそのオフィシャル・サイトで、みずからのディスコグラフィーにリストアップしている。

The Ventures - White Christmas


こういうなだらかなものが、歌のハーモニーでも圧倒的な多数派を占めている。だからこそ、ピーター&ゴードンや大滝詠一のような、メロディーに対して、3度なら3度、5度なら5度の同じ間隔を保つ動き方から逸脱したハーモニー・ラインは、おおいに目立ち、われわれの耳を引っ張る「質」を獲得することになる。

ボビー・ヴィーに戻る。

Rubber Ballはボビーにとって通算で5枚目のシングルであり、前作Devil or Angelにつづくトップ10ヒットになった。

では、このようなハーモニー・スタイル、つまり、1)ひとりで多重録音し、2)変則的なハーモニー・ラインをフックとして利用するスタイルは、いつ生まれたのか? じつは、このRubber Ballでのことだった。

その直前のDevil or Angelにも、部分的に2パートが出てくるのだが、変則的ハーモニー・ラインではないし、多重録音ではなく、バックグラウンド・シンガーがハーモニーを歌っている。

ちょっと面白いミックスの仕方で、Rubber Ballへの助走になった気配もあるし、スナッフ・ギャレットのプロダクション・テクニックもうかがえるので、クリップを貼り付ける。

Bobby Vee - Devil or Angel


ときおり、ハーモニー・シンガーのひとりが、ボビーの相方にまわり、すぐにまたコーラス集団に戻るというスタイルで、めったにお目にかかれるやり方ではない。

思うに、スナッフ・ギャレットは、なにか耳を引っ張るハーモニーを探し求めて、アレンジャーのアーニー・フリーマンに、アイディアを出せと云ったのではないだろうか。

ギャレットは、俺は音符なんかひとつもわからん、と公言する人間で、自分でなにかする気遣いはないのだから、誰かスタッフがやったにちがいない(いや、それでいながらヒットを連発し、リバティー・レコードの屋台骨を支えたのだから、プロデューサーの鑑なのだが)。

そして、つぎのシングルで、コーラス部の変則ハーモニーが誕生するわけだが、なぜ変則的になったのか。それはたぶん、メロディーの動きが大きいうえに、テンポが速めなので、平行して動かすと、忙しくて癇にさわるハーモニーになってしまったからだと想像する。

では、そのあとはどうなったか? Rubber Ballのつぎのつぎのシングル。

Bobby Vee - How Many Tears (1961)


多重録音によるひとり2パート・ハーモニーはボビー・ヴィーのトレイドマークになり、彼は長いあいだこのスタイルをつづけることになる。

しかし、イレギュラーなラインはどうかというと、ざっと聴き直したかぎり、あまり見あたらない。採譜する余裕がないのだが、このHow Many Tearsも、おおむね平行なラインで歌っているように聞こえ、変則的な響きはない。

そのつぎのシングルはジェリー・ゴーフィン=キャロル・キングの代表作。アール・パーマーのスネアのツツシャカ・プレイをお楽しみあれ。ピアノとストリングスのコンビネーションはアーニー・フリーマンの署名アレンジ。

Bobby Vee - Take Good Care of My Baby


ゴーフィンの歌詞といい、キングの曲といい、この(元)夫婦はまさしくアメリカを代表するソングライター・チームだったな、と納得する楽曲で、ビルボード・チャート・トッパーも当然といえる。

アーニー・フリーマンのアレンジなのか、ボビーのハーモニーの「出し入れ」もみごとで、素晴らしいシングルだと思うが、「出し入れ」そのものがやや変則的なだけであって、ラインはノーマルに聞こえる。

この曲は、ボビー・ヴィーの代表作としてではなく、有名な四人組がうまくできなかった曲として記憶されることになる。

The Beatles - Take Good Care of My Baby


どういうわけか、このころのビートルズはジョージをフロントにしていて、この曲もジョージがリード、ハーモニーがポールで、ジョンはまったく歌っていない。ジョンの曲だろうに、と思うのだが。三人の声を聴いて、ジョンを中心にする、と決定したのはジョージ・マーティンだった。

いや、それはべつの話。だいじなのは、ビートルズが、パーロフォンからのデビュー前に、すでにボビー・ヴィーをカヴァーしていたという、その事実のほうである。

いや、これがRubber Ballだったら、初期ブリティッシュ・ビートの変則ハーモニーの淵源はボビー・ヴィーである、と断言するのだが、ストレートなハーモニーのTake Good Care of My Babyなので、うーん、可能性はあるのだが、と言い淀んでしまう……。

参考までに、このころ、ボビー・ヴィーの強い影響下で、同じように、ひとりでヴォーカルを重ねて2パート・ハーモニーをやった日本のシンガーの曲をおく。映画から切り出したもので、音質は並。

サンプル 加山雄三「ブーメラン・ベイビー」映画用多重録音2パート・ハーモニー・ヴァージョン

この曲の背景その他については、「加山雄三「ブーメラン・ベイビー」映画ヴァージョン(東宝映画『海の若大将』より)」という記事に書いたので、気になる方はそちらをご参照あれ。

さて、またまたボビー・ヴィーに戻る。

もう数曲、スナッフ・ギャレットが組んだチームの素晴らしい音作りと、ギャレットが選んだ楽曲、そしてボビー・ヴィーのハーモニーを。つぎは、やや変則的な味があるが、あくまでも「やや」である。ブリッジにご注意。

Bobby Vee - Please Don't Ask About Barbara


つづいてもボビーの代表作。アーニー・フリーマンのアレンジとアール・パーマーのドラミングがおおいに魅力的。むろん、ダブル・トラック・ヴォーカルもやっている。なお、この曲ではハル・ブレインがティンパニーを叩いた。

Bobby Vee - The Night Has a Thousand Eyes


つぎはヒット曲ではないのだが、楽曲も、ボビーの歌も、アレンジも、アールのドラミングもなかなか魅力的で、埋没させるには惜しい出来。

Bobby Vee - Bobby Tomorrow


もうひとつ、つぎも同様の、目立たないが、あたくし好みの佳曲。たぶんコード進行のせいだろうが(デイヴ・クラークのBecauseのようにオーギュメントや「その場でマイナー」を使っている)、ちょっと変則的に響くハーモニーもあって、余裕ができたら採譜してみたい曲だ。

Bobby Vee - A Letter from Betty (1963)


例によって、明快な結論はない。イエスと思えばイエスのような気がするし、なんとも言い難いといえば、そのとおりで、いやはやである。

わたし自身はといえば、初期ブリティッシュ・ビートの誰かが、いつもとはちょっと違う、ひねりのきいたハーモニーをやりたいと思った時は、ボビー・ヴィーのRubber Ballを思いだして、ああ、ああいう感じでやってみよう、とイメージしたのだと想像している。


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by songsf4s | 2014-01-26 23:21 | ハーモニー