大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その9
 
このシリーズの最初の記事に、再びtonieさんがコメントを寄せてくださった。コメントをお読みになる方は少ないので、あえて申し上げるが、これは面白い。

大滝詠一が自分のラジオ番組で、このシリーズで取り上げた曲やグループについて、どのようなコメントをしたかを拾ってくださったものである。

いろいろ感ずるところが多いが、サーチャーズが登場した時、ジョン・レノンが絶賛したというのは知らなかった。ジョン・レノンにそういう面(ソフトなコーラス・グループに対する嗜好)がなかったとはいわないが、そのように公言するほど気に入っていたというのはやや意外である。

このシリーズの「その5」で、初期ブリティッシュ・ビート(tonieさんがお書きになっているように、当時は一般に「リヴァプール・サウンズ」と云われた)とアメリカのガール・グループ/シンガーの関係を書いたが、大滝詠一が、サーチャーズとの関係で言及しているバーバラ・ルイスもその文脈に収まる。

大滝詠一の初期の音楽に影響を与えた可能性は小さいけれど、自分が聴きたくなったので、ちらっとバーバラ・ルイス連打を。

Barbara Lewis - Make Me Your Baby (1965)


ドラムはゲーリー・チェスター、つまりNY録音。これはMIDIで完全コピーをやったが、サウンドの要は、2を飛ばし、4のみを叩いているスネア(Be My Babyでのハル・ブレインのドラミングに対するうなずき。アンサー・ソングのつもりだったのかもしれない。もう一度タイトルをご覧あれw)にタンバリンを重ねることと、いいところを狙ったゴングのライン。あ、それから、すごく薄くミックスしてある、中低音ブラスのカウンター・メロディー。ポップ・オーケストレーションを学ぶには最適の教材である。

以下二曲は、バーバラ・ルイスのオリジナルと、イギリス勢によるカヴァーを並べる。両方ともヴァン・“ザ・ハッスル”・マコーイの曲だったと思う。

Barbara Lewis - Baby, I'm Yours


Peter & Gordon - Baby, I'm Yours


Barbara Lewis - Someday We're Gonna Love Again


The Searchers - Someday We're Gonna Love Again (alt. take)


サーチャーズのSomeday We're Gonna Love Againはこのシリーズの一回目で貼り付けたので、今回は別テイクにした。

大滝詠一は、イギリス勢のカヴァーから入って、バーバラ・ルイスへとさかのぼっていったのではないかと想像する。直接の関係性を言語化することはできないが、こういう集合体のもやもやしたハーモニック・センスの雲の中から、はっぴいえんどが出てきて、われわれもその雲の中で彼らの音を受容したのだな、といまさらのように思う。

さて、さんざん遠回りしたが、今日は「しんしんしん」における、大滝詠一のハーモニー・パートの詳細。


はっぴいえんど「はっぴいえんど」(1970年)フルアルバム。「しんしんしん」は8:54からスタートする。

今回もコードはとらなかったので、気になる方は以下を参照されたい。

「しんしんしん」コード譜

ファースト・ヴァースは細野晴臣単独で、ハーモニーはない。セカンド・ヴァースから大滝詠一が入ってくる。

以下、部分的にセカンドのメロディー(細野晴臣)とハーモニー(大滝詠一)の音程を書いてみたが、細かいことは気にせずに、読み流していただきたい。どこが問題かは、あとで改めて書く。メロディーしか書いてない行はユニゾンである。

な   に   も    か    も
メロディー
シ♭ シ♭ ファ♯ ファ♯ ファ♯

いや  に   な   り
メロディー
ファ♯ ファ♯ ファ♯ ラ♭

じ   ぶん  さ   え
メロディー
ファ♯ ファ♯ ファ♯ ラ♭

よ  ご   れ   た   ゆ   き   の
メロディー
シ♭ レ♭  レ♭  レ♭  レ♭  レ♭  シ♭
ハーモニー
レ♭ ファ♯ ファ♯ ファ♯ ファ♯ ファ♯ レ♯

な   か   に   き   え   て
メロディー
ファ♯ ファ♯ ファ♯ ファ♯ ファ♯ ラ♭
ハーモニー
シ♭  シ♭  シ♭  シ♭  シ♭ シ♭

ぬ  か  る  み  に  い
メロディー
シ♭ シ♭ ラ♭ ラ♭ ラ♭ ミ♭
ハーモニー
レ♭ レ♭ シ♭ シ♭ シ♭ シ


「なればいい」のところはコピーに難渋しているうちに時間がなくなってしまったので割愛した。

コピーなんかしなくても、はじめから変なハーモニーだと思っていたが、「半採譜」(リズムはとらないので!)をやってみたら、いよいよ謎だらけ、猫灰だらけだった。

ポイントは「汚れた雪の上に落ちて」で、そこまでユニゾンだったのが、いきなり大滝詠一のラインがファ♯までジャンプして、耳を引っ張る。

そして、そこにしばらく留まって、ようやくシ♭(ここの数音はよくわからなくて、自信なし)に降りてきたかと思うと、またその音を連発するという、ピーター&ゴードンやデイヴ・クラーク5の特長だったワン・ノートの「お経ライン」を再現している。

1970年にはそれが当たり前だったのだろう、と思った人は大はずれ。こんなことをやっていたのは、わたしが知るかぎり、大滝詠一だけだった。

はっぴいえんどというのは、多元的な体験である。特異な歌詞、サウンド、各楽器の使い方、その向こう側にある、英米音楽の基盤、そういうものが重層的に聞こえてくるのだが、まず最初に、これは変だ、ふつうじゃない、と思ったのはハーモニーだった。

そして、とくに耳を引っ張られた「12月の雨の日」と「しんしんしん」を改めて聴き直してみて、うわあ、いままで思っていたより、実体はさらに変だ、と呆れた。

そもそも、いまさらだが、こうして半採譜をやってみると、メロディーからしてかなりお経だということがよくわかり、はっぴいえんどいえども、やはりロックンロールの子供だったのか、と思う。

高校生の時の経験を、理屈を使って検証してみて、それなりに満足したのだが、ここまで来たのだから、もう少しはっぴいえんど、そして大滝詠一のハーモニー感覚を見ようと思う。

つぎは『風街ろまん』へ。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう
[PR]
by songsf4s | 2014-01-13 22:47 | 60年代