大滝詠一、フィル・エヴァリー、そして2パート・ハーモニー その3
 
前回は、タイトルに名前をかかげている大滝詠一の曲にも、フィル・エヴァリーすなわちエヴァリー・ブラザーズの曲にもふれず、看板に偽りありだったが、それは時間を遡行し、わたしの目から見た「中継点」を示すためだった。

今回は水源地の話、ドンとフィルのエヴァリー兄弟のハーモニーについてであるが、ここでもまた、カヴァーからエヴァリーズのオリジナルへとたどって、時間を遡行してみる。

Simon & Garfunkel - Bye Bye Love


The Everly Brothers - Bye Bye Love


サイモン&ガーファンクルのカヴァーは、アルバム Bridge Over Troubled Water の最後から二番目に置かれていて、そのつぎのSong for the Askingは拍手のあとに登場することもあって、アンコールのニュアンスがあり、Bye Bye Loveは事実上のエンディング曲と意図されたように感じる。アルバムの終わりであり、このアルバムのリリース直後に解散を宣言した、このデュオの終幕を意味していた。

サイモン&ガーファンクルは、おそらくはディランの影響でモダン・フォークへとシフトする以前の、トム&ジェリーと名乗っていた時代には、明らかなエヴァリー・ブラザーズ・フォロワーのポップ・デュオだったので、ごく初期からこの曲をやっていたのだろう。

最後のアルバムの事実上のエンディングの位置にこの曲を置いたのは、出発点に戻り、円環を閉じて、デュオとしてのキャリアを終えようと云う意味だと思われる。

シングル・カットはされなかったものの、FENではしじゅう流れていて、ほとんどヒット曲同然だった。ポップ・チャートの世界ではよく起こる、いわば「借景」のような現象で、かつての大ヒット曲、大スターへのノスタルジー、とりわけ、50年代の音楽を体験したDJたちの記憶を刺激した結果のエアプレイだったのだろう。

そのオリジナルであるエヴァリー・ブラザーズのBye Bye Loveは、彼らのケイデンスからのデビュー・シングルであり、ビルボード・チャートの2位まで行く大ヒットになった。

エヴァリーズのオリジナルと比較すると、S&Gのカヴァーは楽器が多く、サウンドに厚みがあるが、基本的にはストレート・カヴァーであり、コピーといってよいだろう。

エヴァリーズのヴァージョンについていえば、ビートルズのShe Loves Youに似て、いきなりバイ・バイ・ラヴというコーラス・パートから入り、そのハーモニーの響きでリスナーの耳を引っ張っている点が印象的だ。

片や「イエー、イエー、イエー」、片や「バイ・バイ」と、聞き間違えようもなければ、誤解のしようもない、シンプルな言葉を投げつけてくる点にも、強い近縁性を感じる。

ジョン・レノンとポール・マッカートニーは、このような、気持のよいハーモニーの響き、シンプルで「強い」言葉、という二つの要素のコンビネーションを、曲の冒頭でいきなりぶつける、という「つかみ方」をエヴァリーズから学んだのではないだろうか。

他のカヴァーとしては、レイ・チャールズ、ボビー・ヴィー、ロイ・オービソン、デイル&グレイス、リッキー・ネルソン&ドン・エヴァリー、ジョージ・ハリソンのものをもっているが、ここでは略す。しいて云えば、ボビー・ヴィー盤は好ましい。ジョージ・ハリソンは、メロディーも歌詞もほとんど赤の他人のような、不思議な解釈をしている。

Grateful Dead - Wake Up Little Susie


The Everly Brothers - Wake Up Little Susie


1969年、グレイトフル・デッドは、彼らの家に居候してリハーサルをしていた、デイヴィッド・クロスビー、スティーヴ・スティルズ、グレアム・ナッシュの三人の、ヴォーカル・ハーモニーを中心にしたアコースティック・サウンドというアイディアに刺激され、自分たちもかつてのアコースティックなバンドへの回帰を試みた。

その結果、アコースティック・ギターを大々的に利用した(そしてペダル・スティールを導入した)、Workingman's DeadとAmerican Beautyという2枚のスタジオ・アルバムが生まれたが、それと並行して、ライヴでも、第一部をアコースティック・セットとし、旧来の彼らのスタイルは第二部に集中する、という形でツアーをおこなった。

アコースティック・セットで歌われた曲は、デッドのオリジナルは少なく、大部分がブルース、トラッドだった。そのなかにあっては、エヴァリー・ブラザーズの大ヒット曲であるWake Up Little Susieはきわめて例外的な、ポップ・フィールドからの選曲である。

S&Gの場合もそうだが、これはつまり、ジェリー・ガルシアやボブ・ウィアもまた、少年時代、ギターを手にし、ろくにコードも知らないまま、これならできると、ラジオから流れるエヴァリーズに合わせてギターを弾き、歌ったことのあらわれに違いない。

ライヴ録音でこの曲のイントロが流れたときの客の反応にも、彼らもまたデッド同様、少年時代にエヴァリーズに親しんだことを示す喜びが感じられる。

自分の経験をいうと、S&Gの時より、デッドがカヴァーしたことのほうが、のちにエヴァリーズを聴こうと思い立つ動機になった。

そのエヴァリーズのオリジナルは、Bye Bye Love以上に強く、「エヴァリーズ的ななにものか」を感じさせる。説明はあとまわしにして、キーワードだけいえば、3度のハーモニー、シンプルな循環コード、ブードローとフェリスのブライアント夫妻のソングライティング・スタイル、である。

なお、ほかにジョー・メルソン(ロイ・オービソンのソングライティング・パートナー)とフランキー・ライモン&ザ・ティーネイジャーズのヴァージョンがある。フランキー・ライモンは2パート・アレンジだが、彼自身のダブル・トラックに聞こえる。なかなか好ましいヴォーカル・レンディションである。

Glen Campbell & Bobbie Gentry - All I Have to Do Is Dream


The Everly Brothers - All I Have to Do Is Dream


グレン・キャンベルとボビー・ジェントリーの共演アルバムは1968年のリリースだが、グレンがBy the Time I Get to Phoenix以下のヒットを連発した結果、ボビーとのアルバムもあとになって売れはじめ、それを受けて、再度デュオを組み、シングルとしてリリースされたのが、エヴァリーズの大ヒット曲のカヴァーである、このAll I Have to Do Is Dreamだった。

アルバムのクレジットではドラムはハル・ブレイン、ベースはジョー・オズボーンになっているが、このシングルのほうのベースはキャロル・ケイのように思える。

カヴァーの多い曲なのだが、やはりヒットしただけあって、ほかのヴァージョンとは異なり、いいサウンドをつくっている。共演だから、クレジットには、ケリー・ゴードンとアル・ディローリーというそれぞれのプロデューサーが併記されているものの、基本的にはグレン・キャンベルが主体で、このサウンドもグレンのプロデューサー兼アレンジャーとして大ヒットを生み出していた、アル・ディローリーがつくったものだろう。

エヴァリーズのオリジナルについていえば、わたしは、これこそがオーセンティックなエヴァリー・ブラザーズ・スタイルなのだとみなしている。

・循環コードに載せた、無理のない自然なメロディーの流れ、
・それを背景とした、メロディー・ラインにしか思えないハーモニー・ライン、
・年齢の近い同性の肉親だけがもっている、区別ができないほど似た声、
・以上によって生み出される、きわめて心地のよい、ユートピア的な音像

といったことが、エヴァリーズのオーセンティシティーだとわたしは考えている。

これは、ケイデンス時代のエヴァリーズのほとんどの曲に当てはまることなのだが、なかでもAll I Have to Do Is Dreamは、すべての要素が百パーセントの濃度で含有された「エヴァリーズ的ななにものか」の化身のように思える。

ためしに、歌ってみると了解できるはずだ。メロディーである下のドンのパートは当然、楽に歌えるのだが、上のハーモニーであるフィルのパートも、ハーモニーを歌っている感覚はなく、ちょっと音域の高いところで動くメロディー・ラインを歌っているような気分になる。

歌ったときのこの感覚こそが、エヴァリーズなのだ。

ほかに、ゲーリー・ルイス&ザ・プレイボーイズ、ロイ・オービソン、ニティー・グリティー・ダート・バンド、ジェフ・ブリッジズ&カレン・アレン(映画『スターマン』の挿入曲)、リンダ・ロンスタット&カーミット(つまり、セサミ・ストリートかなにかに出演したときのものだろう!)、ウィリアム・ベル&カーラ・トーマス(わが家にある唯一のソウル・レンディションw)、ヒューゴー・モンテネグロ・オーケストラ、ジャン&ディーン、サイモン&ガーファンクルなどのカヴァーがある。自分たちのスタイルに引っ張り込んでいるニティー・グリティー・ダート・バンド盤がもっとも好ましい。

なお、The Beatles at the Boobという、ラジオ番組でのプレイを収録したブートに、エヴァリーズがこの番組に出演した時のものがあるのだが、DJは「これはポールの選曲」といってから、All I Have to Do Is Dreamを流している。いきなりポールの名前が出てくるのだが、これはポール・マッカートニーと考えてよいだろう。

手を付けたときは三回ぐらいで終わるかと思ったが、今日はエヴァリーズの代表作を三曲並べただけになってしまった。この分ではあと三回ぐらいはつづきそうな気配である。次回はさらにエヴァリーズのヒット曲とその余波を聴く。


Click and follow Songs for 4 Seasons/metalside on Twitter
metalsideをフォローしましょう
[PR]
by songsf4s | 2014-01-07 23:15 | 60年代