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回想のビリー・ストレンジ、その音楽と時代 その3 ザ・ヴェンチャーズ・セッションズ
 
今日、ロマン・ポランスキーの『ゴースト・ライター』を見ていて、the begenningとthe begenningsの違い、という最後の謎解きの鍵を見た瞬間、俺も同じ経験をしたぜ、と思いました。

いや、ゴースト・ライターをしたこともありますが、その話ではありません。「冒頭」なのか「はじめのころ」なのかという違いです。いや、ご心配なく、あの映画のいうbeginningsは意味が違うので、映画を見る妨げにはならないでしょう。

キャロル・ケイさんに、あなたやあなたの同僚たちは、ヴェンチャーズのセッションでプレイしたことがあるでしょうか、とうかがったとき、彼女は、ハル・ブレインにこの質問を取り次いでくれました。

ハルの返事は、俺ははじめからヴェンチャーズのセッションでプレイした、のちにメル・テイラーが入ったとき、レパートリーを教えてあげた、というものでした。

このfrom the begenningはじつに悩ましいものでした。なぜなら、Walk Don't Runのドラミングは、わたしが徹底的に研究したハル・ブレインのドラミング・スタイルやサウンドとはかけ離れたものだったからです。

これは、基本的には時期の違いと、機材の違いに由来するものだと、あとでようやく理解できました。当初は、「はじめから」ではなく、無理に「はじめのころから」と拡大解釈したのですが、そうではなく、ハル・ブレインは文字通り「はじめから」ヴェンチャーズのレコーディングでドラムを叩いたのです。

では、ギターだって、はじめから、ハル・ブレインの仲間であるだれかにちがいありません。当然、ビリー・ストレンジ御大がディスコグラフィーにあげたものより、はるかに多くのトラックが、ハリウッドの若いセッション・プレイヤーたちによって録音されたと考えるのが自然です。

じっさい、The Ventures Play Country Classicsをのぞいて、1963年までのほとんどのアルバムの、多くのトラックがリード・ギターとしてビリー・ストレンジをフィーチャーしたものと、現在のわたしは考えています。

『急がば廻れ'99』という本を上梓したときには、そこまでの確信はありませんでした。Walk Don't Runのときからすでに、ハル・ブレインやビリー・ストレンジが「ヴェンチャーズ」だったのだ、という、たしかな手応えを得たのは、ずっとあとのことだったのです。

The Ventures - Walk, Don't Run


そのつぎのヒット。

The Ventures - Lullaby Of The Leaves


ビリー・ストレンジ特集で、ハル・ブレインのことをあれこれ書くのは気が引けますが、最初からヴェンチャーズなど存在しなかった、という確信を得られたのは、ハル・ブレインのおかげです。

この「急がば廻れ」や「木の葉の子守唄」のプレイでもわかります。これほどのプレイヤーが、ヴェンチャーズに首にされたくらいで、シーンから消えるでしょうか? ぜったいにネガティヴです。

これほどのプレイヤーが、のちに名を成さずにいるものでしょうか? 断じてノーです。かならず大成して、有名なプレイヤーになったにちがいありません。

では、1960年当時にハリウッドのスタジオでレギュラーだったドラマーに比定できるでしょうか? わたしには困難でした。アール・パーマーではないという確信はありましたが、たとえば、シェリー・マンやメル・ルイスが正解だったとしたら、わたしは異議を唱えず、そうか、と納得したでしょう。

ただ、ほんの感触にすぎないのですが、すでに名を成した人ではなく、有望な若手ではないかということは思いました。うしろに引っ込むつもりはなく、覇気横溢で、前に出ようとしているからです。

アルバムを順番に聴いていき、このドラマーがBe My Babyで叩くすがたが、しだいに見えてきました。スネアのサウンドも、プレイ・スタイルも異なりますが、タイムと生来の華やかさはやはりハル・ブレインのものだという気がしてきたのです。

こんどは少しタイプの違う曲、「セレソ・ローサ」を。

The Ventures - Cherry Pink And Apple Blossom White


読書百遍、その意自ずから通ず、といいます。音楽もそういうところがあって、Walk Don't Runを死ぬほど繰り返し聴いているうちに、ギター・プレイヤーのプロファイルが浮かんできました。

ミュージシャンシップに富むヴェテランで、あわてず騒がず、必要な音だけを、一音一音丁寧に弾くプレイヤー、という像です。ほんのちょっと前にギターを手にし、シアトルのクラブでプレイしていた若者、というボブ・ボーグルのプロファイルとはまったく一致点がありません。

ビリー・ストレンジのプレイであると最初に確信のもてた1963年ごろの録音からさかのぼっていき、Walk Don't Runまで行くと、やはり、これは同じプレイヤーだと納得がいきました。

つぎはビリー・ストレンジの、というより、ハリウッドのスタジオ・プレイヤーたちの傑出した技量を示すものとして、この曲を。ストイシズムとプロフェッショナリズムの極致。

The Ventures - Lolita Ya Ya


これが二十歳そこそこの素人同然の若者たちのプレイだとしたら、天地がひっくり返りますよ。「プロフェッショナル・プレイヤー」とは、こういうアンサンブルのできる人たちを云います。

だれも目立とうとしてはいませんが、全員が精確なプレイに徹していて、一糸乱れぬアンサンブルになっています。若者の「ロック・バンド」には無理なプレイです。

初期ヴェンチャーズ・セッションのレギュラーは、ビリー・ストレンジ、キャロル・ケイという二人のギターに、ベースがレイ・ポールマン、ドラムがハル・ブレイン、というのがわたしの想定です。ここに、トミー・テデスコ、グレン・キャンベル、さらにはジェイムズ・バートンといったギター陣が加わったり、入れ替わったりしたのだと思われます。

今回はあえてビリー・ストレンジ・ディスコグラフィーでコンファームされていない曲ばかりを選びましたが、次回は逆に、ボスが確認したヴェンチャーズのトラックを聴いてみるつもりです。

お別れはこの曲で。

The Ventures - Lonely Heart



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by songsf4s | 2012-02-25 23:53 | 60年代