サイモン&ガーファンクルThe Boxerはいかに録音されたか―Bridge Over Troubled Water40周年記念盤を巡って
 
(12月5日午前10:15追記 昨夜は急ぎに急いだので、省略したディテールが多く、本日、記事末尾に補足を加えました。)

以前、ツイッターである方と、サイモン&ガーファンクルの録音について細々とお話ししたことがあるのですが、そのときにお教えいただいたBridge Over Troubled Waterの40周年記念盤というのを聴き、付属DVDを見たので、本日はそのことを少々。ツイッターで箇条書きにしたことをまとめただけなので、重複はご容赦を。

この「デラックス版」というものは、Bridge Over Troubled Water、そしてライヴ、というCDに、The Making of Bridge Over Troubled WaterというDVDで構成されています。

以前、3枚組ボックスでもずいぶんとドラスティックなリマスターがおこなわれましたが、今回はさらに現代的なマスタリングになっています。当時の音にこだわる方には愉快な音ではないかもしれませんが、Pet Sounds SessionsのリマスタリングがOKという方には楽しめる音になっています。当時とは違うけれど、いい音である、という意味です。

ハル・ブレインというのは、わたしが子どものころからすでに伝説の人だったのですが、はじめて彼の名前が明記されているのを実物で見たのはこのBridge Over Troubled Waterだったと思います。

さらにいえば、ジョー・オズボーンも名前はすでに知っていて、じっさいに彼のプレイであることを知って音を聴いたのはこのときのことでした(むろん、それと知らずになら、すでに山ほどオズボーンのプレイを聴いていたのだが)。そして、ラリー・ネクテルも。

このアルバム、録音に関してはいろいろ面白いことがあるのですが、わたしが以前からずっと気にかけていたのは、The Boxerです。

Simon & Garfunkel - The Boxer


どこでどういうデータを見て、それをどうつなげて、なぜそういう解釈をしたのか、その過程を忘れてしまったのですが、この曲ではハル・ブレイン(ハリウッド)、バディー・ハーマン(ナッシュヴィル)、ゲーリー・チェスター(ニューヨーク)という、三大音楽都市を代表するエース・ドラマーが同時にプレイしたのだそうです。

たぶん、それぞれがそれぞれのディスコグラフィーにあげたり、コメントしたりしているのを読んだのだったと思います。ハル・ブレインははっきりと、スネアのオーヴァーダブをやったと云っています。

バディー・ハーマンもたしか、キック・ドラムをプレイしたとコメントしていたと思います。そして、ゲーリー・チェスターはディスコグラフィーにこの曲をリストアップしているのを見ました。引き算で、残るはボンゴのみ、よってチェスターはボンゴとみなしましたが、ここは確認がとれません。

三者それぞれが各都市の大エース、めったによそには行かないので、当然、テープが移動したのだろうと思いましたが、わたしが思うのはわたしの勝手、なんの意味もないので、なんとか確認したいと思っていました。

そして、今回、The Making of Bridge Over Troubled Waterを見て、いくつか細部がはっきりしました。

ヴィデオにはハル・ブレインが登場し、どのように録音したかを語っています。これは回想記にも出てくることで、他のインタヴューでも言及していますが、今回は一点だけ、いままで知らなかったことが出てきました。

場所はNYのコロンビア・スタジオ(二カ所あったと思うが、どちらかは不明瞭)。休日で、閑散としたCBSのビルのエレヴェーター・ホールにハルはドラムをセットし、ヘッドフォンでプレイバックを聴きながら、「ライレライ」のところのスネアのバックビートをオーヴァーダブしました。

ここまではわかっていた話です。エレヴェーター・ホールで録音したのは、自然なエコーを利用するためです。これは歴史を知っていると、ほほうなのです。

1940年代のことだったと思うのですが(確認の手間を略し、失礼)、コロンビアのエンジニアたちは、エコー研究の一環として、CBSビルの階段室(エレヴェーター・ホールではない)のあちこちにスピーカーとマイクをセットし、エコーのかかり具合を測定したのだそうです。そういうエコー実験の故地で、またしてもエコー実験が繰り返されたのです。

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さて、ここまではオーケーです。でも、ハル・ブレインは今回は、I was smashing those two drumsといっていました。drumはときにsnare drumのことを指します。ブライアン・ウィルソンはLet's Go Away for Awhileの録音で、ハルに「No drum」と指示しています。ドラムを入れるな、ではなく、スネアはいらない、という意味です。

つまり、ハルがtwo drumsといっているのは「二つのスネア・ドラム」という意味です。なるほどねえ、と膝を叩きましたよ。

あれ以前にも、たとえば、フィル・スペクターのトラックなどではしばしば、スネアのバックビートに、タムタムないしはフロア・タムを重ねてプレイしたことがありますが、さすがのハル・ブレインも、スネアを二ついっぺんに叩いたのはこれが最初で最後ではないでしょうかね。

わたしは、こういう、強い音をつくるための小さな工夫というのが大好きなので、この2スネア・ドラムズにはほんとうにうれしくなりました。

ロイ・ハリー(しばしば「ヘイリー」と表記されるが、ポール・サイモンもハル・ブレインも「ハリー」と発音している)というエンジニア兼プロデューサーもじつに興味深い人物で、ヴィデオを見つつ、何度も「ほほう」とうなずきました。

バディー・ハーマンのコメントはなく、ゲーリー・チェスターはすでに故人なのは残念ですが、残る疑問は、あとはどこで録音したか、です。ポール・サイモンはこういっています。

That was recorded all over the places.

これは打楽器にかぎったコメントではないのですが、つまり、それぞれのプレイヤーがいる町で録音したということになる、かどうか。ハル・ブレインはめずらしくNYにいって録音していますから(たぶんサイモン&ガーファンクルのツアーに帯同して、その途中だった)。

バディー・ハーマンもエルヴィスの録音でハリウッドにいったことがあるという話なので、このへんは結局、よくわかりません。

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もうひとつの謎は、なぜ、三人のドラマーにべつべつにプレイさせたのか、ということです。そんなことをしなくても、ハル・ブレイン、バディー・ハーマン、ゲーリー・チェスターなら、ひとりですべてできたに決まっています。

これについての解答は今回も得られませんでした。わたしの推測は「面白いからやってみた」「ファンは知らないだろうが、じつはこの三人が多くのヒット曲の向こう側にいたことを記録しておきたい」、といったあたりです。

The Making of Bridge Over Troubled Waterはなかなか面白いヴィデオで、他の曲についても興味深いことがあるのですが、本日は力つきたので、他日を期します。

(以下は12月5日午前10:15補足)
本文では、ドラム関係のことにしかふれませんでしたが、ヴィデオでは、さまざまなことに言及されています。

まず、イントロのギターは、先に行くアルペジオがフレッド・カーター・ジュニア、あとから行くのがポール・サイモンだそうです。イントロというか、全編を通じてこのギターはずっと流れつづけるのですが。

他のプレイヤーとしては、ベース・ハーモニカをプレイしたチャーリー・マコーイが言及されています。マコーイはナッシュヴィルのマルチプレイヤーで、ベース、ギター、ハーモニカをプレイしました。

チャーリー・マコーイはボブ・ディランのナッシュヴィル・セッションでリーダーをつとめました。また、エイリア・コード615というプロジェクト名でのアルバムもありますし、ハーモニカ・インストのアルバムもリリースしています。

Area Code 615(チャーリー・マコーイはヴォーカルとハーモニカ)


The Boxerでの、チャーリー・マコーイとバディー・ハーマンのプレイは、やはりナッシュヴィルで録音したのではないでしょうか。ディランだってBlond on Blondの録音は、ツアーの途中でナッシュヴィルに立ち寄ったときにやったそうですから。コロンビアはナッシュヴィルにスタジオを二つもっていて、大々的に活動していました。

The Boxerに話を戻します。ライレライという、深いエコーのかかったコーラスは、コロンビア教会だったか、名前は失念しましたが、教会に機材をセットアップして録音したそうです。

ポール・サイモンは、ロイ・ハリーをエコーの天才といっていますが、評価はどうであれ、このアルバムでは、さまざまなナチュラル・エコーを追求したことははっきりしています。

昔読んだもの(国内盤ライナーだったか、雑誌記事だったか)では、ポール・サイモンとアート・ガーファンクルは、フィル・スペクターの音を再現したくて、彼のミュージシャンたちを呼んだ、なんて書かれていました。

ハル・ブレインもジョー・オズボーンも、以前からサイモン&ガーファンクルのレコーディングでプレイしているし、オズボーンは「フィル・スペクターのミュージシャン」とはいえないので、これはやや見当はずれの言葉だったことになります。

しかし、The Boxerばかりでなく、Bridge Over Troubled Water収録曲には、エコーが気になるものがいくつかあって、昔の人がスペクターを連想したのはあながち間違いともいえないと思います。

その点を中心に、さらにこのアルバムについて書きたい気はあるのですが、目下風邪っぴき、治ったときには気が変わっているかもしれません。


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Bridge Over Troubled Water (Deluxe)
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by songsf4s | 2011-12-04 23:55 | 60年代