いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その13 You Still Believe in Meセッション
 
Pet Sounds再訪、あと二曲まできて長らく足踏みしてしまいました。立ち向かうには気力の必要なアルバムで、ちょっと気を抜くと、戻れなくなってしまいます。

かくてはならじ、今日は残った二曲のうち、相対的に楽なほうを検討します。さっそく完成版のステレオ・ミックス。

The Beach Boys - You Still Believe in Me


何度も書いているように、Pet Soundsの特徴のひとつは、耳慣れない音が聞こえることです。このYou Still Believe In Meも例外ではありません。

なんのヴィデオだったか、ブライアン・ウィルソンが、フィル・スペクターからなにを学んだか、ということを、明解に語っていました。ブライアン曰く、スペクターが呈示したことでなによりも重要なのは「第三の音」なのだそうです。

第三の音とはなにか? ギターとピアノをいっしょに鳴らす、このとき、われわれの耳に響くのは「ギターの音」と「ピアノの音」という二種類の別々の音ではない、この二つが合成されたべつの音、「第三の音」である、とブライアンは説明していました。

スペクターはカスタネットだ、と考えた愚人や、スペクターはエコーだ、という凡人とは、やっぱり、ブライアン・ウィルソンは出来がちがいます。

たとえば、ブライアン・ウィルソンが昔も今も愛してやまないBe My Babyはどうなっているでしょうか。

The Ronettes - Be My Baby


人それぞれ異なるでしょうが、わたしが最初に感じるのは、コードです。昔から、Be My Babyを聴くと、まずそのことを感じてきました。

最初はよくわからなかったのですが、必死で聴き、また、スペクターの汎用的手法がわかってきた現在の場所でいうなら、複数のアコースティック・ギター(12弦もあるかもしれない)、ピアノ、それにひょっとしたらハープシコード、という組み合わせだと想像します。

ブライアンも、このモワモワしたスープ状の音を分析したのだと思います。そして、この「第三の音」をスペクター以上に大々的に利用したアルバムがPet Soundsなのだ、といっていいでしょう。

Pet Soundsではつねにそうだといっていいでしょうが、You Still Believe in Meも、はじめから「第三の音」が利用されています。

イントロの楽器は、作詞のトニー・エイシャーがピアノの弦にクリップをとめて鳴り方を変え、ブライアン自身がプレイしたと伝えられています。ブライアンは、それだけではなく、ここにヴォーカルを重ねて、独特の響きをつくっています。

音の重なり方を解きほぐす参考に、パーソネルを書き写しておきます。

ドラムズ……ハル・ブレイン
パーカッション……ジェリー・ウィリアムズ
ティンパニー、ラテン・パーカッション……ジュリアス・ウェクター
アップライト・ベース……ライル・リッツ
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ギター……ジェリー・コール、バーニー・ケッセル、ビリー・ストレンジ
ハープシコード……アル・ディローリー
ベース・クラリネット……ジェイ・ミグリオーリ
サックス……ビル・グリーン、ジム・ホーン、プラズ・ジョンソン

歌がはじまったときに背後で鳴っているのも「第三の音」です。アル・ディローリーのハープシコードがいちばん目立つ音ですが、そのすぐ上に接着するように、ハープシコードと一体になって、ひとつの構造物を構成するかのごとき形で、ギターがおかれています。二本かと思ったのですが、このクレジットでは三本になっています。

Pet Soundsの異常さには馴れてしまったので、改めて、この違和感、いや、そういうネガティヴな意味ではなく、「異質感」とでもいえばいいのか、それまでに経験したことのないものに出合った感覚を思いだすのはむずかしくなってしまいました。

しかし、あの時代、いや、いまでもそうかもしれませんが、ポップ・フィールドで、このようなギターの使い方をしていたのは、ブライアン・ウィルソンただひとりではないでしょうか。

ポップ/ロックの世界では、ギターというのは、コードを弾くものであり、単独でオブリガートを入れるものであり、そしてなによりも、ソロをとるものでした。これはいまでもほとんど変わっていないでしょう。

しかし、ブライアンのPet Soundsでのギターの使い方は、アンサンブルを構成する楽器のひとつとして、隅々までアレンジして、全体のなかにとけ込ませる、というものでした。

これはやはりノーマルではありません。ブライアンはそのことを明確に意識していたにちがいありませんし、そういうギターの使い方にさまざまな工夫を凝らしています。

この曲で気になるのは、あとはパーカッションと管です。

調べてデータを起こしてくれたのに、こんなことをいっては申し訳ないのですが、こういう風にデータを書いていて、それでなにも疑問に思わないのかなあ、と文句をいいたくなってしまいます。

この曲にドラムといえるようなものは入っていないので、ハル・ブレインがプレイしたのは、たぶんパーカッションでしょう。

とはいえ、いっぽうで、ジュリアス・ウェクターがプレイした「ラテン・パーカッション」ってなんだよ、とも思います。そんなものも見あたりません。

目立つのは自転車のベルのような音。これはチーンとやるだけのものと、チリリンとやるものの二種類のように聞こえます。ただし、チンと一発だけのほうは、ひょっとしたら、パーカッションなのかもしれません。

ひとつはつぎの曲と同じ楽器かもしれず、だとしたら、自転車のベルではなく、なにかのパーカッションかもしれません。

The Beach Boys - She Knows Me Too Well


しかし、チリリンのほうはまちがいなく自転車のベル、だれがプレイしたのやら、です。

結局、ジュリアス・ウェクターはティンパニー、ハル・ブレインは得体の知れないチリン、ジェリー・ウィリアムズが自転車のベル、という役割分担でしょうか。

エンディングの豆腐屋のラッパみたいなものは、昔読んだものではオーボエと書かれていた記憶があるのですが、このクレジットではどうもそうではないようです。昔の車のクラクション? いや、スティーヴ・ダグラスのクラリネット、と考えておきます。

時間切れなので、ホーンについては簡単に。

ハリウッドには、ビリー・メイやショーティー・ロジャーズやニール・ヘフティーのように、ホーン・アレンジの世界ではそれと知られた人がたくさんいました。ブライアン・ウィルソンのホーン・アレンジは、そういうビッグ・ネームたちのものとは性質が異なります。

ブライアンのホーン・アレンジは、ちょうどオーティス・レディングのように、コーラス・グループのヴォーカル・アレンジャーが、歌の延長線上でつくるタイプのものでした。

だから、ビリー・メイのアレンジのように、スウィング感を追求するわけではなく、和声的な響きの美しさを主眼としたものでした。このYou Still Believe in Meは、そうした「歌うホーン・アレンジ」の典型で、何度か、うーむ、美しいなあ、という瞬間があります。

もう置き場所をつくっている余裕がなくなってしまったので、脈絡もなく、最後に、あとで置こうと思ってアップしておいたサンプルを貼りつけておきます。

トラッキング・セッションのテイク9から22までです。ブレイクダウンやホールドが多いのですが、その理由がそれぞれに異なっていて、音楽が生まれていく過程の面白みに満ちた断片です。

サンプル The Beach Boys "You Still Believe in Me" (take 9 through 22)


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by songsf4s | 2011-11-24 23:54 | 60年代