いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その11 Don't Talkセッション+付録Good Vibrations
 
本題に入る前に、相変わらずのジム・ゴードン三昧ネタを少々。今回もビーチボーイズがらみ、しかもSmileがらみです。

Good Vibrationsのドラムは、ずっとハル・ブレインのプレイだと思っていたのですが、いくつか、ジム・ゴードンが叩いたパートがあるというのをはじめて知りました。

Good Vibrationsは、一連のPet Soundsセッションの最後に録音されているのですが、おそろしく複雑かつ長大なセッションになり、ずるずるとSmileへつながってしまいます。だから、The Pet Sounds Sessionsではなく、The Smile Sessionsのほうに収録されているのです。

いまさらのような気もしますが、いちおう、記憶を新たにするために、完成品を。

The Beach Boys - Good Vibrations


まあ、「おおむねハル・ブレインがドラムをプレイした」といって大丈夫でしょう。しかし、ジム・ゴードンが叩いたところは、やはり、ディテールに富んでいて、なかなか面白いのです。

以下の部分はオフィシャル・リリースではオミットされたと思いますが、以前聴いた別エディット(Good Vibrations Boxに収録されたものだったか)では、最後の「グー、グー、グー、グッヴァイブレーションズ」コーラスに突入する直前に貼り込まれていたと思います。

サンプル The Beach Boys "Good Vibrations" part c

おお、やっぱりな、でした。ブライアンがドラムのフレーズを歌い、ジム・ゴードンに叩かせ、ちがうだろ、といっています。つまり、このフィルはジミーがつくったわけではなく、ブライアンがつくったものだということです。

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60年代のジム・ゴードンは、2タムタムのセット(+ハイピッチ・タムが1または2)だったので、ちょっと悩んでしまいますが、このフレーズは、フロアタムとタムタムを使ってやっているのだと思います。ピッチを大きく変えた二つのタムタムでやった可能性もチラッと感じますが……。

ハル・ブレインは自分で譜面を起こし、変更があればそこに書き込んでいきましたが、ジミーはおそらく譜面を書かなかっただろうと思います。それで、ブライアンの変なフレーズを暗譜でプレイするため、ちがうだろ、といわれてしまったのでしょう。

つまらないことですが、ハル・ブレインのカウントの声は無数の曲で聴くことができます。しかし、ジム・ゴードンのカウントはそれほどありません。貴重です!

それにしても、Smileセッションもやはり面白くて、いずれ、本気で取り組むか、などとあらぬことを口走りそうになります。いや、当面、その気はありません!

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◆ 遅ければ楽ともいえず ◆◆
本日のPet SoundsトラックはDon't Talk (Put Your Head on My Shoulder)です。

まずは完成品。ステレオ・ミックスで。

The Beach Boys - Don't Talk (Put Your Head on My Shoulder)


Pet Soundsは、全体がそうなっているといえなくもありませんが、そのなかでもとくにこの曲は、「ブライアン・ウィルソンのプライヴェートなバラッド」といえるでしょう。

Surfin' USAとか、Fun, Fun, Funとか、Help Me RhondaとかCalifornia Girlsといったような、アップテンポのシングルA面曲とは対極にある、たとえば、Please Let Me WonderやShe Knows Me Too Wellのような、ビーチボーイズといっしょに騒ぐのではない、静かにひとり黙考するようなタイプの曲のことです。ブライアンもそのつもりで書き、したがって、自分でリードを歌い、他のメンバーのハーモニーを入れなかったのでしょう。

こういう曲をアレンジするのはむずかしいと感じます。ブライアンもそれなりに悩んで、(Pet Soundsのなかにあっては相対的に)シンプルなアレンジを選んだのではないでしょうか。

この曲のアレンジで好きなのはヴィオラのラインです。とりわけ、1:00あたりからヴィオラが前に出てきて、ブライアンのヴォーカルにカウンターをつけるような形になり、おお、美しいな、と感嘆します。短いインストゥルメンタル・ブレイクでも、耳に立つのはヴィオラの音です。

サンプル The Beach Boys "Don't Talk (Put Your Head On My Shoulder)" (stereo backing track)

というように、バックトラックだけにすると、ヴィオラのラインがさらに明瞭に聞こえてきます。

ブラッド・エリオットの調査によるパーソネルを書き写します。

ドラムズ……ハル・ブレイン
パーカッション……スティーヴ・ダグラス
ヴァイブラフォーン、ティンパニー……フランク・キャップ
アップライト・ベース……ライル・リッツ
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
ギター……グレン・キャンベル、ビリー・ストレンジ
オルガン……アル・ディローリー

オーヴァーダブ・セッション
ヴァイオリン……アーノルド・ベルニック、ラルフ・シェイファー、シド・シャープ、ティボー・ジーリグ
ヴィオラ……ノーマン・ボトニック
チェロ……ジョージフ・サクソン

ふと思います。ストリングスのアレンジはどうしていたのでしょうか? ブライアンは譜面を書くのが苦手で、ベース以外のパートはみなプレイヤーに歌ってみせたといわれています。

前回の「その9 I Know There's an Answerセッション」に貼りつけたクリップで、トミー・モーガンは、ブライアンが「dictate」したとおりにプレイした、といっていますが、つまり、それです。dictateというのは、一般に、口述して書き取らせることですが、この場合は「口頭での指示」といったあたりでしょう。

リズム・セクションはそれでいいのです。譜面なしのセッションというのはめずらしいことではないし、ほとんどは経験豊富な第一線のプレイヤー、口頭での指示で十分でしょう。

しかし、弦のプレイヤーというのはクラシック出身です。譜面がないとなにもできません。インプロヴもしません。ビートルズのA Day in the Lifeのエンディング、オーケストラ全体が揺れながら上昇していき、それぞれの最高音でフォルテシモになる、という有名なシークェンスがあります。

あのレコーディングには、もちろんジョージ・マーティンがいたのですが、譜面で表現のしようがなく、上述のようなことをdictateしたそうです。どの楽器だったか忘れましたが、有名なプレイヤーが、このセッションの途中で、マッカートニーのくだらない音楽なんかやってられるか、といって帰ってしまったといわれています。まあ、気持はわからなくもありませんがね。譜面なしのインプロヴなど、この人にとっては、教育のない下賤の輩のやることだったのでしょう。

ハリウッドのクラシック・プレイヤーは、映画とテレビで食っていたので、ポップ・セッションは慣れていたとはいえ、Don't Talk (Put Your Head On My Shoulder)のような曲を譜面なしでやるのはひどく厄介でしょう。

この録音のストリング・セクションのなかに、シド・シャープがいます。シャープはハリウッドのポップ・セッションのレギュラーで、しばしば、strings supervised by Sid Sharpeというクレジットを見かけます。あるいは、シド・シャープ・ストリングスというグループとしてのクレジットもあります。

案ずるに、ブライアンとストリング・セクションのあいだに、シド・シャープが入って、「ブライアン語」をノーマルな譜面に翻訳し、クラシックのプレイヤーにもわかる形にしたのではないでしょうか。

The Pet Sounds Sessionsのライナーに引用されていたのだと思いますが(あるいは、私信に書かれていたことかも知れない。キャロル・ケイさんと無数のメールを交換した時期ときびすを接してThe Pet Sounds Sessionsがリリースされたので、いつも記憶がごちゃごちゃになる)、キャロル・ケイさんがおっしゃっていたことで忘れられないことがあります。

ふつうは速いパッセージがむずかしいのだと考えるだろうが、じつは、遅い曲というのもむずかしい、Don't Talk (Put Your Head on My Shoulder)は、打楽器はシンバルが四分を刻んでいるのみ、それだけを頼りに、音数の少ないラインを精確なタイムで弾くのは、非常にむずかしかった、と彼女はいっていました。

これを読んで、わたしは、そりゃそうだ、と深く首肯しました。ただラインをなぞるだけならできます。しかし、グルーヴを失っては意味がないのです。遅くてもリズミカルに(小津映画!)プレイしなければいけないわけで、この曲はひどくむずかしかっただろうと思います。

星の数ほどいるビーチボーイズ・ファンのなかには、Carl & the Passionsに収められた、デニス・ウィルソンの曲を好む方もいらっしゃるのではないでしょうか。

The Beach Boys - Cuddle Up


The Beach Boys - Make It Good


こういうサウンドは、デニス・ウィルソンのソロ・アルバム、Pacific Ocean Blueに受け継がれます。デニスはワーグナーが好きで、それが彼の曲やアレンジに反映されたといわれています。

たしかにワグネリアンらしい音作りだと思います。しかし、そのいっぽうで、ブライアンの音作りにも大きな影響を受けているのはまちがいありません。とりわけ、ブライアンの"Don't Talk (Put Your Head On My Shoulder)と、デニスのCuddle UpやMake It Goodは、影響関係が明白だと感じます。


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by songsf4s | 2011-11-10 23:59 | 60年代