相変わらずジム・ゴードンのプレイを聴きつづけているのですが、そのからみで、ビーチボーイズの20/20とFriendsも聴き直しました。
Smileが空中分解したあと、その残骸を集めてSmiley Smileというアルバムがつくられました。Smileの残光、とりわけGood Vibrationsのせいで、このアルバムを重視するビーチボーイズ・ファンはいますが、わたしはあまり好みません。どうとりつくろっても、かなりダウナーなアルバムです。
そのつぎのWild Honeyも印象散漫です。R&B的なものを目指したのでしょうが、そういうものを聴きたければ、べつのアーティストのほうがいいと思います。Darlin'のアレンジ、サウンドはおおいに好みでしたが、それだけではアルバム全体の印象を左右しはしません。
少数派意見なのだろうと思いますが、わたしはそのつぎのFriends、そして翌年の20/20が、Smile分解後のアルバムとしてはもっとも好ましく感じます。70年のSunflowerとくらべてもそう思います。
今回、聴き直しても、Friendsについては「放心の果ての心地よい弛緩」とでもいったグッド・フィーリンに、20/20については、シンプル&ストレートフォーワードへの回帰(サイケデリックは終わったと感じている人々の間では、あの時代のグローバルな気分でもあった)に魅力を感じます。もうホームランは狙っていないのです。きれいなミートでセカンドの頭を越そうという打ち方です。
20/20はともかくとして、Friendsについては、ジム・ゴードンがプレイしたという確たる裏づけがあるわけではなく、ジム・ゴードン・ディスコグラフィー・ブログスポット関係者の推測ではないかと思われます。
たしかに、ハル・ブレインの可能性を感じるトラックは一握りですし、だれだとはっきりイメージできるドラミングはないので、とりあえず、反対する理由はありません。
ジム・ゴードンであるとも、ないとも判断できませんが、こういうリラックスしたサウンドがFriendsというアルバムの特徴です。
The Beach Boys - Busy Doin' Nothin'
複雑精緻なPet Soundsにくらべれば、三桁ほどスケールダウンした単純さですが、これはこれでグッド・フィーリンがあって、好ましい音楽だと感じます。スパニッシュ・ギターはだれでしょうか、端正なピッキングにニコニコしてしまいます。ドラムも、サイドスティックのサウンドがきれいで、けっこうなプレイです。いや、地味ですけれどね。
つぎの曲のドラムも好ましいプレイですし、デニス・ウィルソン・ファンのわたしは、もっとデニスの歌を聴こうじゃないか、と訴えたくなります。
The Beach Boys - Little Bird
Pet Soundsは遙かな高みを目指した巨大プロジェクトでしたが、Friendsは、旅から帰った男が、ポーチに出したイージー・チェアに坐って、秋の海の静かに寄せては返す波を、日がな一日眺めているような心地よさがあります。
それにしても、60年代のジム・ゴードンはよくわかりません。粘っているうちに聞こえるようになると期待しているのですが……。
◆ 自我こそすべて ◆◆
本日のPet Soundsトラックは、I Know There's an Answerです。まずは完成品から。
The Beach Boys - I Know There's an Answer
何度も書いているように、Pet Soundsというアルバムは、変な音がいっぱい鳴っていて、ただのロック小僧の狭小な見聞の範囲に収まろうはずもなく、いったい、この音はどうやってつくったのだと、ほとんど一曲ごとに首を傾げていました。
いまでは、すべて解明され、考えるまでもなく、ライナーを読めばわかるのですが、それが楽しいことかどうかはなんともいえません。何十年も首を傾げて、解決篇を読めたわれわれのほうが幸福だったように思いますが、まあ、いきなりすべてがわかるのも、あながち不幸とはいえないでしょう。
ブラッド・エリオット作成のパーソネルを見れば、この曲での摩訶不思議サウンドの解答がわかります。
ドラムズ……ハル・ブレイン
パーカッション……ジュリアス・ウェクター
アップライト・ベース……ライル・リッツ
フェンダー・ベース……レイ・ポールマン
ギター……グレン・キャンベル、バーニー・ケッセル
タック・ピアノ……アル・ディローリー
オルガン……ラリー・ネクテル
ハーモニカ……トミー・モーガン
サックス……スティーヴ・ダグラス、ジム・ホーン、ポール・ホーン、ボビー・クライン
バリトン・サックス……ジェイ・ミグリオーリ
オーヴァーダブ・セッション
ギター……グレン・キャンベル
昔は、間奏の楽器がわからなくて思いきり悩みました。いわれてみれば、たしかにベース・ハーモニカだ、と思うのですが、こんな楽器は、ビートルズのFool on the Hillぐらいしかほかに使用例を知らず、しかも、ちょっと変な使い方なので、ずっと、なんだろう、と首を傾げっぱなしでした。
どこかでジョージ・ハリソンがベース・ハーモニカを吹いている写真を見た記憶があったので、いま検索したのですが、イの一番に当家の「The River Kwai March/Colonel Bogey (OST) (『戦場にかける橋』より)」という記事が引っかかってしまい、あらら、でした。
しようがない、記憶を新たにするために、いちおう音だけ貼りつけておきます。
The Beatles - The Fool On The Hill
ポールはブライアン・ウィルソンの大ファンで、長い不遇の時代(ポールのではなく、Pet Soundsの)からずっと、「Pet Sounds大使」を務めてきたので(嘘)、ベース・ハーモニカを使ってみようと思ったのは、ひょっとしたら、I Know There's an Answerのせいかもしれません。
で、Fool on the Hillを聴けばわかりますが、これは穏当な使い方で、ギョッとしたりはしません。
トミー・モーガンはキャピトル・レコードのプロデューサーが本業というべきなのかも知れませんが、ハリウッドのスタジオでは、ハーモニカの第一人者であり、長年に渡って各種のセッションで活躍しました(The Official Tommy Morgan Website)。
当家ではかつて、「The High and the Mighty by The Shadows (『紅の翼』より その2)」という記事で、トミー・モーガンのTropicaleというアルバムをご紹介したことがありますし、何度か言及しています。
ヒューゴー・モンテネグロの大ヒットであるつぎの曲も、トミー・モーガンのプレイだそうです。ドラムはもちろんハル・ブレイン、ダンエレクトロ6弦ベースは、キャロル・ケイさんから、自分のプレイである、という確認の返事をいただきました。要するに、Pet Soundsのバンドがヒューゴー・モンテネグロ・オーケストラだったのです。
Hugo Montenegro - The Good, the Bad & the Ugly
Pet Soundsに戻ります。トミー・モーガンのコメントを二つつづけて。
Van Dyke Parks, Brian Wilson and Tommy Morgan talk
もうひとつのトミー・モーガンのコメントにいく前に、ごちゃごちゃやって、やっとジョージがベース・ハーモニカをプレイしている写真が出てくるクリップを見つけました。
Paul McCartney on Pet Sounds and Sgt. Peppers
おっと、こりゃ失礼をば。すでにMr. Kiteでベース・ハーモニカが使われていたことを失念していました。どうであれ、ポールは率直にブライアン・ウィルソンに傾倒していたことを語っています。やはり、ベース・ハーモニカを使おうというアイディアはPet Soundsからきたのでした。
Tommy Morgan section from The Pet Story
歌伴のセクションで低音部の補強にベース・ハーモニカを使っている部分は、すべてブライアンの指示どおりにプレイした、しかし、ソロはインプロヴだった、といったことを語っています。
いやはや、すごく低いところにいったときの音のすさまじいこと。ブロウ・テナーのような力強さで、そのことはブライアンも強調しています。
直接は関係ないのですが、最後にCKさんがいう、人柄なんかどうだっていいの、きっちり仕上げられる能力だけが重要、という台詞の重いこと!
わたしはこの曲のベース・ハーモニカの音にショックを受けました。それはわたしだけのことではなく、そもそも、ブライアンからして、この楽器に接して驚き、大々的に使ってみようと考えたのだとたしかめられ、嬉しくなりました。
Pet Soundsの向こうにある根元の音楽衝動はこれです。すごい音でみんなを驚かせてやろう!
ベース・ハーモニカ自体は昔から存在してましたが、その可能性の地平をここまで広げたアレンジャー、プロデューサーはブライアン・ウィルソンただひとりでしょう。
この曲につけられた最初の歌詞は、リリース盤とは異なり、タイトルもHang on to Your Egoだったことはよく知られています。
わたしは、この歌詞の変更をとくに重要とは思っていませんが、いちおう、当初の意図を知るために、はじめのヴァージョンを貼りつけて、本日の幕とします。
The Beach Boys - Hang on to Your Ego
イントロを聴き直していて、書き忘れていたことを思いだしました。
このイントロは大好きです。やはり、なにが鳴っているのかよくわからないところがあります。アル・ディローリーがプレイしたタック・ピアノ(ハンマーに釘を打って金属的な音にしたもの)はいいとして、もうひとつの支配的な楽器がわかりません。オルガンでしょうか。
I Know There's an Answerも、California Girls、Wouldn't It Be Niceなどと並ぶ、ブライアン・ウィルソンのイントロの代表作だと考えています。
あ、もうひとつ。この曲のバンジョーの使い方も意外でした。バンジョーのコードにベース・ハーモニカのインプロヴを載せる、この発想の異常さ!
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