いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その9 Here Todayセッション
 
今日はいろいろトラブルがあったりで、まったく余裕がなく、いきなり本題です。本日のPet SoundsトラックはHere Today、またしてもハル・ブレインのいない曲、いや、キャロル・ケイもいないリズム・セクションです。

さっそく完成品から。

The Beach Boys - Here Today (stereo)


またまた変なリズム・アレンジです。いや、Pet Soundsのなかで、このHere Todayがもっとも奇妙なドラム・アレンジといえるでしょう。いったいどうなっているのかと思います。

トラック・オンリーを聴くと、すこしわかってきます。

The Beach Boys- Here Today (track only, stereo)


例によってブラッド・エリオットによるパーソネルを書き写します。

ドラムズ……ニック・マーティニス
パーカッション……フランク・キャップ
タンバリン……テリー・メルチャー
アップライト・ベース……ライル・リッツ
エレクトリック・ベース……レイ・ポールマン
ギター……アル・ケイシー、マイク・デイシー
ピアノ……ドン・ランディー
オルガン……ラリー・ネクテル
バリトン・サックス……ジェイ・ミグリオーリ、ジャック・ニミッツ
トロンボーン……ゲイル・マーティン
ベース・トロンボーン……アーニー・タック

Pet Soundsはまったく同じメンバーの曲というのがない不思議なアルバムですが、なかでもHere Todayは異色です。

遊びに来た友だちのプレイというのもないアルバムですが、唯一、この曲でテリー・メルチャー(ブライアンのことを直接にも知っていただろうが、ブルース&テリー時代の相棒、ブルース・ジョンストンがちょうどビーチボーイズに加わったところだった)がタンバリンをプレイしています。

ベースはキャロル・ケイではなく、レイ・ポールマン。しかし、CKさんが何度もおっしゃっているように、はじめのころはビーチボーイズのベースはほとんどレイ・ポールマンがプレイし、彼女はギターだったのが、途中で交代したのであり、レイ・ポールマンがビーチボーイズのセッションでベースをプレイするのは異例ではありません。たんに、このころはギターのほうが多かっただけです。

ニック・マーティニスという人は、うちにあるものでは、ピアニストのピート・ジョリー(セッション・ワークとしては、クリス・モンテイズのA&Mのアルバムが有名)の盤でプレイしています。Pet Soundsに時期的に近いものとしては、1965年のToo Muchというピート・ジョリーのアルバムにクレジットされています。

ユーチューブで検索したら、オオノさんがアップしておいてくれた、トミー・テデスコとピート・ジョリー・トリオ(ベースはチャック・バーグホーファー)が共演したトラックがありました(助かりました>オオノさん)。

Tommy Tedesco with the Pete Jolly Trio (Nick Martinis on drums) - Dee Dee's Dilemma


ということで、瞠目するほどのテクニックの持ち主ではないものの、タイムはまずまず安定しています。ディスコグラフィーにはほかにドン・エリスだとかジャック・モントローズといった名前があるので、基本的にはジャズ・プレイヤーなのでしょう。ポップ系のセッションではPet Sounds以外で名前を見た記憶はありません。

Pet Soundsでは例外的なことですが、このトラックのパーソネルはほとんど疑問が残りません。セッションを聴くと、たしかにギターは、エレクトリックとアコースティックの二本です。

レイ・ポールマンはベースとありますが、フェンダー・ベースではなく、ダンエレクトロ6弦ベース(ダノ)をプレイしたのだろうと思います。ギターのように聞こえるのはダノでしょう。ギターは二本ともコード・ストロークだと思います。

ということで、ここにある以外の楽器が鳴っている、ということはありません。わからないのは、フランク・キャップのパーカッションとはなにか、だけです。初期テイクを聴きながら考えました。

サンプル The Beach Boys - "Here Today" (take 1 through 3)

ヴォーカルがないと、ドラムの変なパターンがいっそう奇妙に聞こえてきますが、だんだん、これはひとりのプレイではない、と思えてきました。ニック・マーティニスとフランク・キャップが分担して、このドラム・フレーズをプレイしているのではないでしょうか。

f0147840_0143750.jpg

冒頭のパターンは複雑ですが、フロアタム、スネア、フロアタム、タムタム、フロアタム、タムタム、フロアタム、タムタムといったパターンでやっているように思えます(この分担はあとのほうのテイクでは変更される)。

ひょっとしたら、このフロアタムに聞こえるものが、径の小さいコンサート・ベースドラム(要するに大太鼓)である可能性もあると思います。つまり、他の曲ではティンパニーとドラムのコンビネーションでやったことを、すこし変更したのではないかと感じます。フランク・キャップは、この曲ではベースドラムをスティックで叩くといった、変則的なことをやったのではないでしょうか。

この曲のドラムのパターンは、ひとりでやるより、二人で分担するほうがむずかしいので、もしもそういう変則的なことをしたのなら、あくまでも音色の問題でしょう。フロアタムのかわりにコンサート・ベースドラムを使った例としては、フィル・スペクターのDr. Kaplan's Officeがあります。

Phil Spector - Dr. Kaplan's Offic


この曲では、ハル・ブレインのスネアのバックビートに、コンサート・ベースドラム(ニーノ・テンポが、マレットではなく、スティックで叩いた)を重ねたそうです。

Here Todayに戻ります。ヴァースのパターンのいずれもがやっかいですが、この曲のハイライトは、風変わりなインストゥルメンタル・ブレイクです。そこだけを取り出したテイクが残されています。

サンプル The Beach Boys - "Here Today" (insert take 1 through 4)

よくこんなものを思いついたなあ、と感嘆しますが、はじめはブライアンも少し迷いがありますし、プレイヤーたち、とりわけダノも含む三人のギター陣が苦労しています。

とくにレイ・ポールマンは、弾きにくいダノで、高音部の16分のダブル・タイム・ピッキングをしなければならず、さらに、後半では低音弦と高音弦の速い往復もあり、うわあ、汗かいただろうなあ、です。

こういう無理を要求してかまわないのが、セッション・プレイヤーのありがたさ、ロックバンドでは、こうはいきません。テイク20までいってしまいますが、最後はきっちりまとめてくるハリウッドのスタジオ・プレイヤーのすごさ!

このシリーズでは、ヴォーカルはないものとして、トラックの検討ばかりやってきましたが、たまにはヴォーカルのほうのアウトテイクを聴いてみます。

完成品では主としてマイク・ラヴがリードを歌っています。しかし、初期テイクでは、いくつかブライアンが歌ったものがあります。最初のアテンプト、ダブルトラックにする以前の裸のヴォーカルをどうぞ。

サンプル The Beach Boys - "Here Today " (1st vocal overdubbing by Brian Wilson)

このトラックには、さらにあとでブライアン自身がヴォーカルを重ねています。よけいなことですが、そのときに、大きなゲップをしていて、ほかの曲でもそういうことがあったのを思いだしました。当てずっぽうですが、ブライアンは潰瘍を患っていたのではないかと思います。ドラッグ問題の淵源は案外そんなところにあったり、はしないかもしれませんが!

Pet Soundsのなかにあっては、Here Todayは重要な曲とは見なされていないようですが、リズム・アレンジに関するかぎり、やはり尋常一様ではありません。ドラマーはこんなアレンジは絶対にしないでしょう。

また、中間のインストゥルメンタル・ブレイクは、God Only Knowsのunusualなインストゥルメンタル・ブレイクと並べて論じられてしかるべきシークェンスだと考えます。ただごとじゃないですよ、こんなシークェンスをつくるセンスと脳髄は。

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ボツになったブライアンのヴォーカル・オーヴァーダブを聴いているうちに、なんだか、あまりの大きさと重さに呆然となってしまいました。

まず、メロディーか、すくなくともコード・チェンジのアイディアを得るのでしょう。すぐに、たとえばホーン・ラインの断片なり、ギターのオブリガートが思い浮かぶかも知れません。

頭で考えたり、ピアノに向かったりしながら、だんだんヴァース、コーラス、ブリッジが姿をあらわし、歌詞を依頼できる段階にたどりつきます。

このあと、あるいはすでにメロディーを整えている段階で並行して、アレンジの想を練らなければなりません。右から左に流す、クリシェ満載のイージーなアレンジではありません。だれも聴いたことがないような音を配した野心的なサウンド構築です。

ふつうのアレンジャーは、弦 and/or 管の譜面を書き、コピイスト(写符)にまわし、あとはセッションでコンダクトをするだけでおしまいです。

でも、ブライアンは、ギター、ベース、ピアノ、ドラム、複数のパーカッション、こうした、ふつうのアレンジャーなら手をつけないところまですべて自分でやりました。

また、通常なら、ヴォーカル・アレンジは、管や弦のアレンジャーではなく、専門のアレンジャーがおこないます。ブライアンはそれも自分でやりました。しかも、ビーチボーイズの五人が何度も繰り返しオーヴァーダブしなければならないほど複雑なヴォーカル・ハーモニーをつくったのです。

そして、こうしたパーツが意図どおりに完璧に組み上げられるように、セッションをスーパヴァイズしました。

これでもまだ終わりではありません。こんどは自分でリード・ヴォーカルを歌い、うまくいかなければ、あるいは気に入らなければ、弟なり、マイク・ラヴなりに、その役割を手渡すことを決断しなければなりませんでした。

ここまであらゆることをしたミュージシャンというのは、音楽史全体を見渡しても、ほかにいないのではないでしょうか。

Here Todayのセッションを聴きながら、ブライアン・ウィルソンは究極のサウンド・クリエイターだったのだと、改めて溜息をついたのでした。


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The Pet Sounds Sessions
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ピート・ジョリー
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by songsf4s | 2011-11-07 23:58 | 60年代