いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その7 Let's Go Away for Awhileセッション
 
わたしは断じて知り合いではないので(つきあいのある編集者が担当だったため、気をつかっている)、あくまでも公人あつかい、敬称はつけませんが、矢作俊彦までSmileについてツイートしていて驚きました。

考えてみると、初期の長篇『マイク・ハマーへ伝言』では、警察無線を乗っ取って、ビーチボーイズのCatch a Waveを流した作家ですから、Smileに関心があっても不思議はないようなものですが、ファンというほどではないだろうと思っていたので、少々驚きました。

まあ、わたしはThe Pet Sounds Sessionsのときほど興奮はしていないので、さあて、そろそろ聴くか、と思うだけで、まだ一音も聴いていません。

なんせ、さんざんろくでもないブートを買った(いま、投下資本の総計を計算しそうになって、思いとどまった。「この盤はあなたの健康を著しく害する場合があります」と警告のステッカーを貼るように法律で定めるべきだ!)ばかりでなく、何度も聴いてしまったので、そう簡単には御輿が持ち上がらないのです。

今日も「BeachBoysさん」がアップロードしたSmile紹介動画を紹介します。デカ箱もあるのだ!



ライトアップもできちゃうんだぜ、というブライアン・ウィルソンさんの紹介でした!

アフィリエイトではないので、注文してくださっても、こちらは一文にもなりませんが、いちおう、この謎のデカ箱の注文先を以下に書き写しておきます。ブライアン・ウィルソンのサイン入り、CD5枚、LP2枚、シングル2枚、〆て699ドル!

特製限定版The Smile Sessionsボックス

さて本日のPet Soundsは、残るもう一曲のインスト、Let's Go Away for Awhileです。

インストなので、ビーチボーイズの歌はありませんが、わたしは、ブライアン・ウィルソンの代表作のひとつと考えています。わたしばかりでなく、じつはこの曲が大好き、という方は多いだろうと思います。ブライアン・ウィルソンさん(今日は今風の不見識敬称付けをやってみるか! どれほどみっともないかの実例として)も、この曲はフェイヴだそうです。呵呵。

それではまず、オフィシャル・リリース、というか、正確にはファイナル・テイクの近年のステレオ・リミックスから。

The Beach Boys - Let's Go Away for Awhile (stereo)


しつこくいっておきますが、われわれがかつてこんな音を聴いていたと思ったら大間違い、LPのときとはまったく異なるミックスです。

ヴォーカル曲はちょっとちがうのですが、インスト曲のいいものは、ほとんどすべてといっていいほど、視覚的な要素を包含し、われわれは音の刺激によって、脳裏になんらかの像を形作ります。

これは以前にも書いたと思うのですが、この映画を見たとき、Let's Go Away for Awhileを思いだしました。

Star Trek the Motion Picture


これはカーク提督が現場復帰することになり、新しいエンタープライズをはじめて見るシークェンスです。音楽監督のジェリー・ゴールドスミスさん(なれなれしく、さん付け失礼)には申し訳ありませんが、ちがうでしょう、巨匠、ここはブライアン・ウィルソンさん(しつこい)の曲を流す場面でしょうに、と、映画館でツッコミを入れました。

Let's Go Away for Awhileは、どういうわけか、Unsurpassed Mastersにはファイナル・テイクしか収録されていません。したがって、セッションを伺い知るよすがとなるのは、The Pet Sounds Sessionsボックスに収録された、セッション抄録ぐらいです。

つぎのクリップはThe Pet Sounds Sessionsボックスのものとは微妙に異なるようですが、おおむねアイデンティカルです。

The Beach Boys - Let's Go Away for Awhile (some takes, edited)


パーカッションのジュリアス・ウェクターのカラー写真なんて見た覚えがないなあ、と思ったのですが、でも、判別がつかないだけで、バハ・マリンバ・バンドの盤のジャケットには顔を出しているのだろうと思います。

Julius Wechter & the Baja Marimba Band - I'll Marimba You


ジュリアス・ウェクター&ザ・バハ・マリンバ・バンドは、ハーブ・アルパート&ザ・ティファナ・ブラスのスピンオフなので、ハル・ブレインをはじめ、メンバーはほぼ同じ、要するにレッキング・クルーの仮面のひとつでした。

いや、この人たちがPet Soundsをつくったのかと思うと、妙な気分になるかも知れないので、バハ・マリンバ・バンドのことは忘れてください!

Let's Go Away for Awhileのパーソネルを書き写しておきます。例によってブラッド・エリオットの記述にもとづくものです。

ドラムズ……ハル・ブレイン
ティンパニー、ヴァイブラフォーン……ジュリアス・ウェクター
フェンダー・ベース……キャロル・ケイ
アップライト・ベース……ライル・リッツ
ギター……アル・ケイシー、バーニー・ケッセル
ピアノ……アル・ディローリー
テナー・サックス……スティーヴ・ダグラス、プラズ・ジョンソン
バリトン・サックス……ジム・ホーン、ジェイ・ミグリオーリ
トランペット……ロイ・ケイトン

のちに、べつのセッションでストリングスがオーヴァーダブされていますが、そちらのメンバーは略させていただきます。

上記のクリップでは、スライド・ギターはバーニー・ケッセルに違いない、などと書いていますが、そう決めつけられるだけの根拠はないと思います。ふつう、ジャズ・ギタリストはスライドなんかしません。有名なほうがリードをとる、なんていうのも考え違いです。リードをとりたがる人もいますが、そんなつまらないことには興味のない人もいます。

テイク1では、またいきなりホールド、ブライアンはハル・ブレインに、「No drums, Hal」と言い渡します。ドラムはいらない、といったわけではありません。正確にいうと「スネアのバックビートはなしだ」といったのです。

「その5 Wouldn't It Be Niceセッション」で書きましたが、ブライアン・ウィルソンという人は、ハーモニック・センスばかりでなく、リズミック・センスもあるアレンジャー/プロデューサーでした。

ハル・ブレインが、ドラマーのクリシェを持ち出すと、そうじゃなくて、といって彼が指示するのは、ドラマーにとっては自明ではないパターンなのです。

このLet's Go Away for Awhileについても、ブライアン・ウィルソンが考えたパターンは、スネア抜き、キック・ドラムのみ、という変なものですが、The Pet Sounds Sessionsでテイク1での修整を聴き、すばらしいアイディアだったと、改めて感嘆しました。

こういうささやかなディテールの、小さな工夫を山ほど積み上げた結果として、長い年月のあいだ聴いても陳腐化せず、つねに新しい発見のあるサウンドができあがるのだと思います。

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上掲のクリップに引用されていますが、67年にブライアン・ウィルソンは以下のように語ったそうです。

“I think that the track Let's Go Away For Awhile is the most satisfying piece of music I have ever made. I applied a certain set of dynamics through the arrangement and the mixing and got a full musical extension of what I'd planned during the earliest stages of the theme. The total effect is ... ‘let's go away for awhile,' which is something everyone in the world must have said at some time or another. Most of us don't go away, but it's still a nice thought. The track was supposed to be the backing for a vocal, but I decided to leave it alone. It stands up well alone.”

直接に訳すとニュアンスをそこなってしまうので、英語が苦にならない方はご自分でどうぞ。

重要なのは前半です。Let's Go Away For Awhileは、これまでに自分がつくったもののなかでもっとも満足のいく仕上がりになった、と明言し、アレンジとミックスに「a certain set of dynamics」を適用し、この「テーマ」の最初期の段階で考えたものを十全に実現することができた、といっています。

dynamicsをどう解釈するか、です。あまり考え込んでいる余裕はないので、あっさりいっちゃいますが、短い曲のなかで山あり谷ありのドラマを展開したといっているのでしょう。

リズム・セクションだけでそろりと入って、途中からストリングスが主役になり、狂言まわしのようなハル・ブレインの派手なフィルインで場面転換、スライド・ギターが全体のトーンを微妙に移行させ、またもとのレールにもどってエンディングへ、という、変化に富んだ、それでいて一瞬の遅滞もない、ハイパー・スムーズな音の流れをつくった、といっているのでしょう。

そういう「音のドラマ」をつくろうと意図して、それが思った通りに、あるいはそれ以上にうまくいき、おおいに満足した、ブライアンがいいたいはそういう意味だと考えます。

そして、われわれリスナーも、この稀有な音のドラマ、フィル・スペクターの言葉を援用するならば、「ポケット・シンフォニー」に深い満足を感じましたし、それがいまも変わらないことで、さらにブライアン・ウィルソンという才能に深い敬愛の念をいだきます。


[11/05 09:00付記]
書くつもりでいたのにひとつ忘れてしまったことがありました。

「その4 Pet Soundsセッション」で、Pet Soundsというトラックは、アルバム・クローザーなのだ、と書きました。また、「その2 Sloop John B.セッション」では、この曲はLPではA面の最後に置かれていた、たいていの場合、Let's Go Away for Awhileまででピックアップをあげていた、ということも書きました。

つまり、Pet SoundsというのはAB面がシンメトリカルにつくられているということです。アルバムとしてのPet Soundsは、A面についてはI’m Waiting For The Dayまででおしまい、B面については、I Just Wasn’t Made For These Timesまでで終わりであり、二つのインスト曲はコーダとして配されている、ということです。


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by songsf4s | 2011-11-04 23:55 | 60年代