いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その3 Trombone Dixieセッション
 
前回のSloop John B.では、最後は時間がなくてとんでもない駆け足になったことを反省して、今日はよけいなことをいわずに、本題へ。

といいつつ、また周囲をぐるぐるするというか、熱そうな温泉に足先をちょっと入れてみるようで恐縮ですが、今回は、完成されず、Trombone Dixieという仮題しかない曲です。

では、まずOKテイクから。ヴォーカルはありません。バッキング・トラックしかこの曲には存在しないのです。

The Beach Boys - Trombone Dixie


このトラックが最初にオフィシャル盤に収録されたのは、Pet Soundsの初CD化だった、東芝盤CDのボーナスとしてだと思います。ボーナスの、アウトテイクのといったって、その多くはボツ、期待するほうが馬鹿を見ますが、このトラックは、未完成とはじつに惜しい、と思いました。

イントロが8小節、ヴァースも8小節という構成ですが、ヴァースの5小節目、ティンパニーの二打とギターのスライド・ダウンの組み合わせによる風変わりなオブリガートが入っていて、最初に聴いたときは、うわあ、こんなのを思いつくのはブライアン・ウィルソンぐらいしかいないぜ、と感嘆しました。

こんな奇妙なオブリガート、しかもヴァースとコーラスのつなぎ目といったキリのいいところではなく、ヴァースの途中にはさみ、それきりで二度と出てこないものをおいた以上、すでにメロディーの、すくなくとも腹案ぐらいはできていたのではないかと思いますが、どのテイクを聴いても、まったくヒントはありません。

ギタリストのハワード・ロバーツは、フィル・スペクターのようなポップ系のプロデューサーは、スタジオでバンドを鳴らしながら音を作っていった、それ以前の巨匠たちは、スタジオに入る前にそういう作業を済ませていた、といった趣旨の批判をしています。

いいたいことはよくわかりますが、わたしは、そういう作り方だって、かならずしも悪いとはいえないと思います。プレイヤーとしてロバーツが、若いプロデューサーたちのそういう試行錯誤につきあうのはイヤだったというのは、容易に想像できますけれど。

コード・チェンジとサウンドのアイディアが先行し、メロディーができないまま、スタジオに入ってしまう、というのはありうることです。これだけいいサウンドとコード・チェンジがあれば、ほかならぬブライアン・ウィルソン、いいメロディーを載せるぐらいのことは朝飯前だったでしょうに。なぜ、ヴォーカルを載せないまま棚上げにされてしまったのか、謎です。

そうなると、後年、ここにメロディーを載せてみようという人があらわれても、なんの不思議もありません。

Sean Macreavy - Why Why Winona (Trombone Dixie) / Mona Kani


まったく知識がないのですが、ヴォーカルは女性なので、Mona Kaniという人がシンガーなのでしょう。ショーン・マクレヴィーのほうはソングライター、プロデューサーということでしょうか。

残念ながら、この時期のブライアン・ウィルソンらしいコード・チェンジの妙を生かしたメロディーとはいいかねますが(ブライアンはこういう平板凡庸なメロディーは書かない)、こういう試みがもっと増えてくれればいいのにと思います。

Unsurpassed Masstersによると、Trombone Dixieは11テイクで完成しています。ほとんどは途中でブレイク・ダウンしているか、ブライアンないしはプレイヤーがホールドしているので、二度目のコンプリート・テイクでOKになっています。

f0147840_23583417.jpgむろん、このまえにブライアンの長い「口移し」(各パートをまわって、どういうプレイをするかを指示する。譜面を書かない人だったので、歌ってきかせたらしい! キャロル・ケイだけは、譜面をもらったと証言している)とリハーサルがあるのですが、それにしても、テイクに突入してから完成までの早さは、それが仕事とはいえ、さすがはレッキング・クルーです。

ブライアンはテーブルを叩いて、あと1テイクの時間しかない、いいテイクを頼むよ、などとプレッシャーをかけますが、そんな状況は彼らにとっては日常茶飯事、いや、オーヴァータイムになれば割増料金、むしろ望むところ、いっこうに動ずる気配もなく、ふつうにプレイしています。

さて、Unsurpassed Mastersのほうを聴いてみましょう、と最初のほうのテイクを聴いて、ありゃ、でした。昨日だったか、あれこれファイルの整理などしながら聴いていて、ブライアンがまたジェリー・コールをからかっている、などとツイートしたのですが、他の曲とまぎれて、いい加減なことをいってしまったようです。

この曲では、テイク1をホールドして、いまのはジェリーが入っていなかった、マイクがデッドだったのでやりなおし、といっているだけです。しかし、わからないのは、ジェリーがジェリー・コールで、彼がいつものようにギターを弾いているとしたら、デッド・マイクではない、ということです。テイク1でも、ギターは二本とも録れています。

ジェリーがコールではないか、またはギターを弾いていなかったとか? テイク1でオフマイクになっているのは、自転車のベルなのですが、ジェリー・コールはベルをやったのでしょうか?

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いわずもがなかもしれませんが、説明しておきます。ブライアンは自分の自転車のベルの音が気に入り、この時期、何度かパーカッションとしてそのベルを使っています。Trombone Dixieでも、そのベルが鳴っています。自転車ごとスタジオに入れたそうです。

どのテイクがいいか、ちょっと悩みました。アレンジの変更などはなく、たんにいいテイクが録れるまで繰り返すだけの直線的なセッションだからです。すぐにブレイクダウンしてしまったテイク8と、最初のコンプリートであるテイク9にしました。

サンプル The Beach Boys "Trombone Dixie" (take 8 and 9)

California Girlsが典型ですが、ブライアン・ウィルソンはいいイントロをたくさんつくっています。このTrombone Dixieのイントロも盛り上がります。片や管とアップライト・ベースのコンビネーション、片や自転車ベル、ジングルベル、カスタネット、ハル・ブレインのドラム、そしてギターを重ねたサウンドのなんたる心地よさ!

40周年記念盤の付属DVDにPet Storyというヴィデオが入っているのですが、そのなかで、ブライアンはこんなことをいっています。

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「いろいろな人が、Pet Soundsは史上最高のアルバムだといってくれるのは大変嬉しい。でも、自分にとっての史上最高のアルバムはフィル・スペクターのクリスマス・アルバムだ」といい、さらにつづけます。

「I liked the way he [Phil Spector] sat at the piano, I liked the way he talked, I liked his voice, I liked his face, I liked the way he looked, I liked him! What can I tell you?」

ブライアン・ウィルソンがフィル・スペクターに傾倒していた、いや、いまも傾倒しているのは有名なことですが、それにしても、そこまでいうかあ、です。

フィル・スペクターになりたくて、自分なりの新しいウォール・オヴ・サウンドをつくろうとした、それがPet Soundsだった、フィリップはすばらしいミュージシャンといっしょにやっていた、だから自分も同じミュージシャンでPet Soundsを録音した、とブライアンは明言しています。

ものをつくる人というのは、こういう影響関係というのを率直に語らない傾向があるのですが、ブライアンのなんと素直なこと、ファン気質丸出しで、率直に、スペクターごっこをしたかったのだと明かしてしまうのだから、驚くというか、惚れ直します。

しかし、ブライアン・ウィルソンの名誉のためにいっておきます。フィル・スペクターになりたい一心でつくったアルバムかもしれませんが、やはり飛び抜けた才能のある人が物真似をすると、物真似を超えてしまうということを、Pet Soundsは証明しています。

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左からブライアン・ウィルソン、ひとりおいてフィル・スペクター、その背後にサングラスをかけて顔が半分隠れているのがジャック・ニーチー、ひとりおいてマイク・ラヴ、ボビー・ハットフィールド。1965年、ゴールド・スター・スタジオで。

スペクターから出発して、ブライアン・ウィルソンは、スペクターがたどり着けなかった場所まで(結果的に、かもしれないが)行ってしまったのです。そういうことは、作者自身には見えないものです。

たとえば、ブライアン・ウィルソンのパーカッションの使い方は、フィル・スペクターより複雑で、深みのあるものへと変化していきます。その一例がTrombone Dixieのパーカッション・アレンジです。

フィル・スペクターについてブライアン・ウィルソンが語っていることのなかには、もう一点、重要な概念があるのですが、それはべつの機会に、べつの曲で。


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by songsf4s | 2011-10-25 23:17 | 60年代