いまさらのようにPet Soundsを聴きなおしてみる その1
 
正直にいうと、60年代の音楽がいまも商品として売られているのは、どうも違和感があります。

自分が粗野であることをいいふらすようですが、高校までは、昔の音楽になどほとんど関心がありませんでした。日々サウンドが変化する忙しい時代を生きていたので、過去のことなどかまっていられなかったのです。

わずかに、中学三年のとき、チャック・ベリーのことが気になり、当時、日本では手に入らなかったので、横浜の日本楽器に輸入盤の注文したことがあった程度です。あとはひたすら「今日を生きよう」でした。

いま、古い音楽をお聴きになっている若い方のことをどうこうというわけではないので、そのあたりは誤解のないようにお願いしますが、古い音楽がこのようにいまも生きている状況を改めて認識するたびに、こんなはずではなかった、と思います。

ギター、ベース・プレイヤーのキャロル・ケイは、はっきりいっています。ああいう音楽を録音するのは、日々の仕事にすぎず、その場かぎりで忘れられるものをつくっているのだと思っていた、まさか、何十年もたって、歴史的な遺産とみなされるようになるとは想像もしなかった、と。

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これは、聴く側のわれわれも似たようなものでした。つくる側ではなく、聴く側なので、彼女よりは音楽的に重要性があると考えていたと思いますが、それも五十歩百歩、基本的には、毎日、ラジオから流れてきては、消えてゆくヒット曲、という見方であって、それ以上でも、それ以下でもありませんでした。

これからしばらく、ビーチボーイズの、というか、ブライアン・ウィルソンのPet Soundsのことを書こうと思います。

Pet Soundsは、リリースのときはシングルしか知らず、アルバムを買ったのはずっと後年、例のCarl & The Passions So Toughと抱き合わせの二枚組という、おそろしく変な版で買いました。72年、いや73年リリースでしたか。

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だから、アメリカの文化遺産になると予想するも、予想しないも、あったものではないようなものですが、しかし、73年の時点でもまだ、Pet Soundsは「ビーチボーイズのヒットしなかった地味なアルバム」だったのではないでしょうか。

一学年上の友人が、大学在学中から音楽評論を書いていて、ときおり原稿に詰まると電話してきました。あるとき、おまえ、Pet Soundsをどう思うというから、ビーチボーイズのアルバムのなかでいちばんいいと思う、と答えました。

彼は、俺はどうも好きじゃないな、管のアンサンブルとヴォーカル・ハーモニーが衝突して、音がスッキリしないのがイヤだ、といいました。

むろん、昔からサウンド・レイヤーの美を偏愛するわたしは、あの管のアレンジがいいのに、とぶんむくれました。じゃあ、どの盤が好きなの、ときいたら、そうだなあ、15 Big Onesなんかいいな、というので、ダアー、とコケました。

たとえば、LAを憎悪しているRoling Stone誌なんかも似たようなもので、昔出ていたBuyer's Guideとかなんとかいうものでは、Pet Soundsは、エーと星印だったか、ポイントだったか忘れましたが、たとえば65点とか、星二つ半とか、そういった調子の、凡庸なアルバムという評価になっていました。政治雑誌に転向して正解です。彼らにはタイムもピッチもサウンド・レイヤーも理解できないのです。

とまあ、かつてはその程度の評価だったので、Pet Sounds支持派はちょっと力みかえってしまいましたが、ピッチもタイムもわかーんない、ロックンロールはパワーコード一発ガーンだ、という方たちもいらっしゃれば、アイツはピッチが悪くて気持ち悪い、タイムがボロボロで聴いていると吐き気がする、なんていうわたしのような人間も片方にはいるのでして、あちらの人たちが洗練されたLAのサウンドを理解できなくても、まあ、お互い様というあたりでしょう。

f0147840_093097.jpgどこかで見かけたのですが、賢明なミュージシャンは、Pet Soundsについてあれこれ贅言を弄さない、たんに「いいアルバムだと思う」などと簡潔にいうだけで、深入りは避ける、なんて書いている人がいました。

これはよくわかります。キジも鳴かずば撃たれまいに、物言えば唇寒し、てな決まり文句が脳裏に浮かぶわけですよ。半端な気持で、ふつうより一層下を掘ったりすると、墓穴だったりするのがPet Soundsというアルバムです。研究者にとっては、ポップ史上もっとも手強いサウンドです。

一度もPet Soundsを正面から取り上げていないな、いろいろ書くべきことはあるのに、なんてことを思ったのですが、君子危うきに近寄らずだぞ(今日はクリシェ連打だ)とも思いました。

しかし、学術論文を書くわけではあるまいし、ちょっとぐらい間違いがあったって、仕事を失うわけではなし、ミュージシャンでもないのだから、見当違いなことをいって、あいつ、音痴なんじゃないの、などと面目を失墜することもありません。

ということで、いつものように、好きな音楽のことを、ちょっと斜めから眺めてみるというスタイルで、お気楽にやろうと決めました。

とはいえ、聴くべきソースは多く、この数日、暇をみて棚卸しをやっていたのですが、いまだ整理整頓にはいたらず、今日は一曲だけ、おやまあ、と思ったものを貼りつけるに留めます。いきなり、とくに重要ではない曲で、恐縮ですが。

サンプル The Beach Boys "That's Not Me" (mono, from "Pet Sounds 40th Anniversary Edition)

今回、いくつかのエディションを聴き直したのですが、いちばん変化が大きいのは、最新のエディションである(と思う)、40周年記念盤のCD(DVDもある)に収録された、このThat's Not Meのモノ・ミックスでした。

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一聴、この太いベースはどこから出てきたのよ、と思いました。イヤ、存在しないものが突然あらわれるはずがなく、どこかにあったはずですが、こんなものの記憶はありませんでした。

古いLPも、初期のCDももうもってはいないのですが、そんなところまで遡行しなくても、近年のマスタリングと比較するだけで違いがわかります。Pet Soundsの伝説化にもっとも大きな役割を果たした、The Pet Sounds Sessions収録の初のステレオ・ミックスをどうぞ。

サンプル The Beach Boys "That's Not Me" (stereo, from "The Pet Sounds Sessions")

40周年記念のモノの00:17あたり、「I could try to be big in the eyes of the world」のところのベースを聴いた瞬間、ギョッとしました。

以前のステレオ・ミックスの同じ部分をお聴きになっていただければ、はっきりおわかりと思います。こんなところで、ブーンとベースが入ってきたりはしないのです。

後半、ドラムレスになって、1:52あたりからのI once had以下の部分でも、40周年記念盤モノでは、ベースがブンブンいっています。こんなミックスは、LP以来、過去のPet Soundsにはまったくなかったものです。

おっと、時間切れなので、本日はここまでにします。先日のビートルズのときと同じように、Pet Soundsを隅から隅まで何度も聴いたことがないと、たぶん面白くもなんともない話になるだろうと思います。まあ、当家ではいつものことですが。


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ビーチボーイズ
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by songsf4s | 2011-10-22 23:57 | 60年代