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グレイトフル・デッドの早死にトラック群 その2 Europe '72のクールな熱さ
 
今日、ひょんなことから、おや、というクリップに遭遇したので、貼り付けておきます。

星野みよ子 Somebody Bad Stole de Wedding Bell


星野みよ子というシンガーは、ヒット曲もなく、キャリアも不明ですが、当家では、(仮)丘のホテル by 星野みよ子 (OST 『ゴジラの逆襲』より)という記事で、彼女の歌う挿入歌「湖畔のふたり」をご紹介しました。

さらに、「湖畔のふたり by 星野みよ子」という記事では、その後、三河のOさんからご喜捨を受けたゴジラ・ボックス収録の高音質ヴァージョンもご紹介しました。たぶん、当家の全サンプルのなかで、最多アクセスの曲です。

どういう人気なのか、はかりかねるのですが、しいていうなら、かなり魅力的な曲なのに、ふつうの『ゴジラの逆襲』サントラCDには収録されていないからではないでしょうか。キャリアがよくわからないという点も、この場合、魅力を増す要素かもしれません。

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今日もいちおう検索してみましたが、バイオのようなものは見つかりませんでした。コロムビアの通販のみのボックスに、彼女の歌が数曲収録されているようですが、いずれも聴いたことはありません。

テレビ・ドラマ・データベースの星野みよ子の項

日本映画データベースの『俺の拳銃は早いぜ』の項

日活初期のアクション映画のようで、監督は野口博志、助監督は鈴木清太郎、すなわちのちの鈴木清順です。配役のトップには河津清三郎の名前があって、あらま、です。のちに悪役で売った人も、若いころは二枚目の善玉をやっていたのでしょうか。当家では「木村威夫追悼 鈴木清順監督『刺青一代』その3」で河津清三郎にふれています。

◆ この門をくぐる者、希望を捨てよ ◆◆
さて、前回、話がどこにも行き着かず、まったく中途半端なところで終わってしまったグレイトフル・デッド一件です。今日もどこにも行き着かないようなことになってはまずいので、簡単そうな設問から。

Live/Deadはデッド入門に適しているのか、言い換えるなら、デッドの代表作なのか?

Live/Deadがデッド入門に適切だとおっしゃる方は、古くからのデッドのファンか、あるいは、そういう人たちに追随する新しいファンなのでしょう。そのような立場があっても不思議はないし、否定的に見たりもしません。わたし自身も、Live/Deadによって、デッドというバンドのほんとうの力を知った、というように、当時は思いました。

しかし、ガルシアがいた時代だけにかぎっても、30年の長きに渡って活動したグループを、一枚のアルバムで代表させられるなどと考えるほど、わたしは楽観的な人間ではありません。だから、いまの時点でいうなら、せいぜい「Live/Deadは、グレイトフル・デッドに強い関心を持つ人が多数生まれるきっかけになったアルバムだった」ぐらいのところだと思います。

わたしが読んだでバイオ本では、デッドが有名になったのはそのつぎのアルバム、はじめてスタジオ録音がうまくいった(とわたしは考える)Workingman's Deadのヒットのおかげだそうです。わたし自身も、このときから、デッドのアルバムが出れば、迷わずに買うようになったのだから、Workingman's Deadによってファン層が一気に膨れ上がったというバイオ本の記述は納得がいきます。

では、Live/Deadより、Workingman's Deadを、デッド入門に最適の一枚とするべきか? ここがむずかしいのです。Workingman's Deadは、アコースティック・アルバムです。これと同系統といえるのは、同じ年にリリースされたAmerican Beautyだけといっていいでしょう。同系統のアルバムが二枚しかないもので、そのバンドの音楽を代表させていいのか、と自問せざるをえません。

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American Beauty タイトルはAmerican Realityとも読めるようにデザインされている。

以前、American BeautyのHDCDをMP3にしたものをサンプルとしてアップしたので、再度、それを貼り付けておきます。HDCDのマスタリングのデモとしてアップしたものなので、かつてのマスタリングとは音の感触が大きく異なるトラックを選んでいます。

サンプル Grateful Dead "Friend of the Devil" (HDCD)

サンプル Grateful Dead "Brokedown Palace" (HDCD)

なんとも判断がむずかしいのですが、この二枚がデッドのカタログのなかでも抜きん出ているのは、やはりたしかです。Live/Dead以降のデッドはつぎつぎと聴くに値するアルバムをリリースしていきますが、そのなかでもWorkingman's DeadとAmerican Beautyは突出していると思います。

このあたりのデッドは変貌はげしく、翌71年にリリースしたダブル・ライヴ・アルバムGrateful Dead(ジャケット・デザインからSkull & Rosesと通称される)は、アコースティック・デッドとはあまり関係ないところで成立しています。しいていうなら、カントリー系の曲が多少収録されている点が、アコースティック・デッドとの連関といえます。その系統の曲を。

グレイトフル・デッド Mama Tried (Skull & Roses ver.)


これはマール・ハガードのカントリー・チューンのカヴァーです。フィル・レッシュのベース・ラインとグルーヴが、まったくカントリー的ではないところに強くデッド的ニュアンスを感じますが、そうじゃなければ、デッドがやる意味がないのだから、当たり前です。

ビル・クルツマンはオーソドクスなドラミングをしていて、なんなら、ハガードその人のバッキングだってOKに聞こえますが、それでもなお、彼のタイムのよさが発揮された、気持のいいプレイです。デッドの大きな魅力は、レッシュ=クルツマンのグルーヴでした。

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この文脈では、Live/Deadとの比較が重要です。二年のあいだに、やはりかなり音が変化したと感じます。会場の違いもありますが、さらに加えるに、楽器ではなく、PAなどの機材と録音の変化が大きいのかもしれません。Live/Deadより「整理された」音になり、聴きやすくなっています。逆にいえば、Elevenのような「ワイルドでありながら、一体感のあるアンサンブル」といった味わいは、すでに稀薄になっています。

このあたりでジェリー・ガルシアは最初のソロ・アルバムGarciaをリリースし、つづいてボブ・ウィアもAceの録音に入ります。

そのせいか、デッドとしてのスタジオ録音はおあずけになり、72年にはまたライヴ、こんどはダブルでも足りなくなり、トリプル・アルバム・セットとして、ヨーロッパ・ツアーを記録したEurope '72がリリースされます(非デッド・ファンをゲンナリさせて申し訳ないが、現在ではツアーの全記録が72枚組CDボックスとしてリリースされている。タイポではない。72枚組!)。

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Europe '72は、それまでとはまた異なるサウンドで、穏やかで控えめな音ながら、デッドというバンドの印象がまた変化し、あとから振り返れば、ここで「物心がついた」といいたくなるようなある「基盤」、のちのち「デッドらしさ」と受け取られるなにものかを表出させたアルバムでした。

サンプル Grateful Dead "Cumberland Blues" (Europe '72 ver.)

Cumberland BluesはWorkingman's Deadでデビューした曲で、スタジオ録音もすばらしいのですが、このライヴ・ヴァージョンは、アルバム・オープナーだったこともあって、スタジオ盤より強く印象に残りました。

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デッドはどこかのハード・ロック・グループのように「狂熱のライヴ!!!」なんていう売り文句にはほど遠いサウンドのバンドですが、そのイメージは、わたしの場合、ここで確定しました。

Live/DeadのElevenには、まだ「ホット」という形容を使えましたが、アップテンポでホットなプレイをしているにもかかわらず、このCumberland Bluesはクールです。

その理由はやはり機材と録音にあるのかもしれませんし、同時に、デッド自身もホットではない方向へと変化したのだと思います。

単純明快な変化がふたつあります。ミッキー・ハートが抜けた結果、ドラムがビル・クルツマンひとりになって、彼のすぐれたタイムと、ベースのフィル・レッシュの独特のグルーヴが渾然一体となった、いかにもデッドらしいグルーヴが確立したことがひとつ。

もうひとつは、キース・ゴッドショーという卓越したピアノ・プレイヤーが加わったことで、ライヴのサウンドの手ざわりがアコースティックな方向に変化したことです。

機材の面でいうと、のちに有名になる、アレンビックによるモンスターPAが完成したことは大きかったでしょう。各チャンネルが相互干渉した結果の、混雑した音をを「ライヴらしさ」と考えていたわたしは、Europe '72のクリアな録音に驚きましたが、PAの変化も録音の変化に影響したことは間違いありません。

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まだスピーカーの数が少なめで、ドラムが1セットだけであることから、1970年代前半と推測できる。

いま手元に写真がないのですが、以前はSGやギブソン・セミアコなどを使っていたフィル・レッシュも、たしかこのツアーでは、最初のアレンビックのカスタムか、さもなければ、フェンダーを使ったのだったと思います。まだ翌年のWake of the Floodほどではありませんが、Live/Deadのころにくらべると、じつに軽い音に変化していて、レッシュが理想の音への道を歩みはじめたことがわかります。

また時間がなくなってきましたが、この時期のデッドは一枚一枚が独立しているといっていいほどで、Live/Deadだけが特殊というよりは、変化の速度が速かった結果として、Live/Deadは「置いていかれた」のではないかと思います。

もう一回、この項をつづけて、次回もさらなるデッドの変身を跡付けたいと思います。


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グレイトフル・デッド
Live/Dead
Live/Dead


グレイトフル・デッド
Workingman's Dead
Workingman's Dead


グレイトフル・デッド(DVD-A)
Workingman's Dead
Workingman's Dead


グレイトフル・デッド
アメリカン・ビューティ(デラックス・エディション)
アメリカン・ビューティ(デラックス・エディション)


グレイトフル・デッド
The Grateful Dead (Skull & Roses)
The Grateful Dead (Skull & Roses)


グレイトフル・デッド
Europe '72
Europe '72


グレイトフル・デッド
Warner Bros. Studio Albums Box Set [12 inch Analog]
Warner Bros. Studio Albums Box Set [12 inch Analog]


グレイトフル・デッド
Golden Road
Golden Road
(ワーナー時代の12枚組ボックス。ライノのマスタリング。現在はばら売りでもこのマスタリングが使われているらしい。いや、ひとつひとつ確認したわけではないが)


ジェリー・ガルシア
All Good Things: Jerry Garcia Studio Sessions
All Good Things: Jerry Garcia Studio Sessions
(大量のボーナス・トラックを加え、リマスターしたスタジオ録音のソロ・アルバム5種に、ボーナス・ディスクを付した6枚組ボックス)


ボブ・ウィア
Ace
Ace
by songsf4s | 2011-06-02 23:52