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欧州ローカル線の旅 その3フランス シルヴィー・ヴァルタンの「アイドルを探せ」
 
また野暮天のエクサイトに文字を減らせとか云われたので、正しいタイトルをあげておきます。

欧州ローカル線の旅 その3フランス シルヴィー・ヴァルタンのLa Plus Belle pour Aller Danser(「アイドルを探せ」)

このシリーズでは、ビルボードにはチャートインしなかったけれど、日本ではヒットした60年代のヨーロッパのヒット曲をとりあげています。スウェーデンだ、デンマークだなんていうのならいいのですが、イギリス、フランス、イタリアとなると、この定義に当てはまる曲は山ほどあります。いや、じつは、あるのだと推測しているだけです。幼かったせいもあって、わたし自身が記憶しているのは一握りにすぎません。

60年代前半までは、日本の洋楽チャートは後年のように英米一辺倒ではなく、雑食的で、世界各国のヒット曲が混在していた、といわれますし、わたしもそのように認識していました。しかし、やはりアメリカの影響力は巨大です。

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その最大の証拠がビートルズです。1963年、イギリスでビートルマニアの嵐が吹き荒れたとき、日本ではなにも起こりませんでした。日本でビートルズがブームになったのは、1964年のアメリカでのビートルマニアの結果です。日本のチャートがヨーロッパに目配りしていたといっても、ビートルマニアの嵐にも反応しない程度のひどく鈍いものだったことになります。

その背景はなんとなく想像がつきます。ヨーロッパの音楽というのは非ロックンロール的で、女性シンガーが圧倒的に強かった、というのが第一点。日本のヨーロッパ大衆音楽通は、たぶん、ロックンロールなどには関心がなかったのです。

例外はクリフ・リチャードぐらいじゃないでしょうか。クリフにしたって日本でヒットしたのは「まっちにゆこーよサマーホリデイ」ですからね。エルヴィスのコピー商品だということすらわかりませんよ、あの曲では。いや、好きですけれどね。

クリフ・リチャード Summer Holiday(映画ヴァージョン)


もうひとつ、同じことの言い換えみたいなものですが、あの時代の日本人は、R&Bの臭みがあるものをあまり好まなかったということもいえるでしょう。エルヴィスを聴くのでも、Jailhouse RockやHound Dogよりも、Love Me Tenderだったわけで、ロック系といってもせいぜいReturn to Senderどまりでしょう。

わが愚兄は、わたしのようなヘヴィー・リスナーではなく、車にサイモン&ガーファンクルのCDをおいておくようなフツーの人ですが、そのフツーのリスナーが高校のころに買ってきた45の多くは、仏伊の女性シンガーの「歌謡曲」でした。

そのなかで(愚兄ではなく)「わたしが」もっともよく聴いたのは、当時を知る人なら、それが当たり前だというにちがいない、シルヴィー・ヴァルタンでした。

シルヴィー・ヴァルタン 映画『アイドルを探せ』よりLa Plus Belle pour Aller Danser


いま聴いてもやっぱり歌謡曲だと思いますが、でも、やはりイントロがすばらしいと感じます。子どものときは、このアップライト・ベースとキック・ドラムのコンビネーションがつくりだす深い音が大好きでした。

いまの耳で聴いても、タイムは精確、フィルインのパラディドルでもぜんぜん突っ込んでいなくて、フランスのセッション・ドラマーのキングなのではないかと感じさせます。このプレイヤーなら、ハリウッドでも一流になれたでしょう。アール・パーマー、ハル・ブレイン、ジム・ゴードン、ジム・ケルトナーには及びませんが、NYのゲーリー・チェスターとは互角、ジョン・グェランやラス・カンケルなどより数段上の技術を持っています。まあ、アメリカではもっとロック的なプレイ・スタイルを求められるので、現実にはタイム以外のことも重要ですが。

◆ 映画『アイドルを探せ』 ◆◆
わたしと同世代ないしは上の方はご記憶であろうように、『アイドルを探せ』という映画があり、ヴァルタンの同題の曲は、少なくとも日本ではその主題歌としてリリースされました。

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じつは、小学校六年のときだったと思いますが、わたしは『アイドルを探せ』を見ました。しかし、ガムでギターに宝石を貼りつけることと、ジョニー・アリデイってどこがいいんだろう、むちゃくちゃにカッコ悪いじゃん、と思ったこと以外、ほとんど記憶がありません。

さっき思いついて、裏から手をまわして劣悪なTVリップを手に入れ、急いで早送りで見ただけですが、馬鹿映画ではあるものの、悪くはないことを確認しました。いや、間違えないでくださいよ。確実に馬鹿映画です。でも、馬鹿映画が好きな人にとっては楽しいフィルムであろうといっているだけで、馬鹿映画が嫌いな人が見たら怒ります。保証します。

ある男が馬鹿女にそそのかされて宝石泥棒をしたはいいけれど、警官に追われて楽器屋に飛び込み、セミアコのギターのボディーのなかに、ガムを使って宝石を貼りつけて逃げます。これだけですでに馬鹿映画らしさ横溢です。

翌日、馬鹿女が宝石をとりに楽器屋に行くと、すでにギターは売れていて、宝石はギターとともに消えたとわかります。男のほうは、愚かだったと反省し(当たり前だろ!)、宝石を持ち主に返そうと考え、ギター/宝石探しに出かけます。という設定で、つぎつぎに「アイドル」に会い、ギターのFホールのなかを探るという設定なので、その行脚にしたがって、じゃんじゃん歌が流れるというしだいです。

話としてはどうということはなく、国を問わず、あのころはよくあった低予算若者音楽映画に共通する手触りがありますが、おおむね音楽が楽しいので、それなりに面白く感じられます(いい映画などとは一言も云っていないので、そのへん、お間違えなきよう)。

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いうまでもなくシルヴィー・ヴァルタンの曲はけっこうなのですが、ほかにも面白い曲がありますし、スコアも悪くありません。いや、まあ、フランス語って、どうしてこう8ビートとケンカするのだろうと呆れますけれどね。昔、日本語は「ロック」には乗らないと断言し、はっぴいえんどに喧嘩を売った人がいましたが、フランス語のほうがよほど不似合いです。喧嘩を売るなら、相手はジョニー・アリデイにしておけばよかったのに。

TVリップから切り出したのでひどい音質ですが、オーケストラによるメイン・タイトルをサンプルとしてアップしました。「アイドルを探せ」にはじまって、複数の曲をつなげたメドレーになっています。ミュージカルの序曲によくある、これから登場する曲のコラージュという趣向なのだと思います。ほかの曲を知らないので、あてずっぽうで云っているだけですが。

サンプル OST "Cherchez l'idole"

ジェリー・リー・ルイスとアーサー・ブラウンとドラキュラを足して三で割ったようなシンガーも出てきて、パンクなパフォーマンスを見せ、ほうほう、と思いますが、どこかちぐはぐで、垢抜けません。フランスはやっぱり女性シンガーのほうが圧倒的に面白くて、男は願い下げだとつくづく思います。日本ではヴァルタンは大人気だったいっぽうで、ジョニー・アリデイは無視されたのも当然です。とにかく、女性陣はみなそれなりの魅力があるので、OST盤を探してみようという気になりました。

昔は客観的な見方はできませんでしたが、いまになると、フランスも結局、イギリスや日本と同じ、アメリカ文化の圧倒的な影響のもとにあったのだと確認できる映画でもあります。

60年代前半、日本の音楽シーンにはアメリカ音楽のコピー商品があふれていましたが、『アイドルを探せ』を見ていると、わが身を見るようで、気恥ずかしくなるほどアメリカ文化のコピーだらけです。カウボーイ映画の撮影シーンなんていうのがあって、(フランス的におそろしくバイアスのかかった)カントリー・ミュージック風のものが流れたりするんですからね。

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そういえば、ジョニー・アリデイがカウボーイの格好をする映画を見たことを思い出しました(相手役はたぶんシルヴィー・ヴァルタンで、それが理由で見たのだと思う)。あれは小林旭のノリだったことになりますな。

なんとなく、「だからわたしはフランス文化に興味がない」みたいな記事になってしまいました。アリデイ大嫌い、でも、ヴァルタン大好き、なのですが、中学に入学するとともにフランス音楽に対する関心はほぼゼロになり、ヴァルタンもフランス・ギャルもシェイラも忘却の彼方へと去って行ったのでした。


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シルヴィー・ヴァルタン
ベスト・オブ・シルヴィ・バルタン
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by songsf4s | 2011-02-21 23:38