順序が前後してしまいましたが、今回はひとつ前にさかのぼって、タル・ファーロウの初リーダー・アルバム、Tal Farlow Quartetの曲を聴いてみます。
ドラムは、前回取り上げたThe Tal Farlow Albumと同じジョー・モレーロなので、それだけでも楽しめるアルバムだと保証されたようなものです。
セカンド・ギターはドン・アーナン、ベースはクライド・ロンバーディーと、セカンド・アルバムとは異なりますが、このあたりはドラマーとちがって、決定的な役割は果たさないので、わたしは気にしません。
まずは一曲。タル・ファーロウ自身のオリジナル曲です。
サンプル Tal Farlow "Rock 'n' Rye"
前回のThe Tal Farlow Albumには、遅めのいいトラックがなく、むやみに速いのが二曲になってしまったので、今回は意識的に遅くしてみました。といっても、ミディアム・アップないしはアップです。前回が超アップテンポだったのでありましてね。
Ronk 'n' Ryeは、これくらいのテンポがいちばん気持いいか、です。あまり速いとグルーヴもへったくれもなく、ただ精確にプレイするだけで精いっぱいになってしまいます。
よけいなつけたりですが、rock and ryeというのは、ライ・ウィスキーのオン・ザ・ロックではありません。氷砂糖入りのライ・ウィスキー・ベースのカクテルです。デイモン・ラニアンのどの短編だったか、クリスマスもののひとつ、ミンディーズ・バー・アンド・レストランか、グッド・タイム・チャーリー・バーンスティーンの店で、いつもの連中が飲んだくれているという出だしのものがありました(「ダンシング・ダンのクリスマス」?)。そのときに飲んでいるのが、「ロック・キャンディー入りのライ・ウィスキー」でした。ものを知らなかった学生のわたしは、「ロック・キャンディー」とはなんだろうと思って辞書を引き、氷砂糖と書いてあったので、ズルっとなりました。
ロック・アンド・ライなんていうカクテルは、わたし自身が飲んだことはないのはもちろん、だれかが飲んでいるのも見たことがありません。日本ではあまり飲まないものなのでしょうか。作り方は簡単で、材料はライ・ウィスキー、氷砂糖、レモンだけだそうです。フレッシュ・レモン・ジュースではなく、ライム・ジュースでもいいとありますが、こちらのほうが面倒でしょう。
デイモン・ラニアンの訳者はどうも苦手です。氷砂糖といえば簡単に意味がわかり、イメージもわくのに(寒いときにはうまいのだろう、とか)、ロック・キャンディーなんて言葉を使うので、とたんにわからなくなります。「片目のジャニー」なんかも、原題を見てひっくり返りました。One-Eyed Johnnyですからね! ペンギンに収まっているので、ラニアンは原書で読みましょう。
もう一曲、また似たようなテンポですが、こちらもすばらしいグルーヴが楽しめます。作者もやはりタル・ファーロウ自身。
サンプル Tal Farlow "Splash"
ギターの記事なのに、やはりドラムを聴いてしまいます。ジョー・モレーロのブラシはほんとうにきれいで、こういう味がわかるようになったのは、年をとることの数少ない利益だなあ、なんて思います。若いころはブラシなんか嫌いでしたものね。
時期はセカンドとほとんど変わらないのですが、スタジオの違いか、エンジニアリングの違いか、あるいはタル・ファーロウ自身の意気込み自体がちがっていたのか、このTal Farlow Quartetのほうが、音にエッジがあり、やはり昇竜の勢いにあるプレイヤーはいいなあ、と思いました。
以前はヴァーヴ時代ばかり聴いていましたが、将来は、最初の二枚だけを聴くようになるかもしれないなあ、とこの二日ですこし方向転換したのでした。
Tal Farlow MP3
Lover (1998 Digital Remaster)
Flamingo
Splash
Rock 'N' Rye
All Through The Night
Tina