ドリフターズのUp on the Roofが大ヒットした直後のようですが、イギリスでもローカル盤がリリースされたそうです。
ケニー・リンチ
英語で歌っているのだから、オリジナルのドリフターズ盤を聴けばいいじゃないか、と思うのですが、独立戦争の恨みを忘れていないのか、イギリス人はイギリス人が歌ったアメリカのヒット曲を好むようです。悪くはありませんが、とくにこちらのほうがいいとも感じません。まあ、ヴィオラだかチェロだかの頓狂なアクセントは笑えますし、カラヴェリ・ストリングス風にリヴァーブがかかった弦は、ほうほう、と思いますが。
あとはライヴものばかりで、スタジオ録音のクリップはあまりいいものがありません。やむをえず唯一のインスト、パーシー・フェイス盤を貼り付けてみました。
パーシー・フェイス
うーん、これはちょっと微妙なレンディション。Up on the Roofという曲になんの思い入れもなければ、これはこれでいいか、と思うかもしれませんが、多少とも歌詞を記憶していると、この解釈には違和感があります。
◆ クライアン・シェイムズ ◆◆
いっそ、もっと強い違和感のあるヴァージョンにいってみましょうか。ニューヨークのクライアン・シェイムズのヴァージョンです。彼らのUp on the Roofは山ほどクリップがあるのですが、すべて最近のライヴのようで、問題外の愚音楽、よってサンプルをアップしました。
サンプル The Cryan' Shames "Up on the Roof" (stereo album ver.)
クライアン・シェイムズはフォーク・ロックに傾斜していたグループで、ルーツのひとつはサーチャーズであることはまちがいありません。このグループの代表作はサーチャーズのヒットをカヴァーしたSugar and Spice(作者の片割れはトニー・ハッチ)なのです。
Up on the Roofもファンのあいだでは人気があるらしく、その結果、ユーチューブに困ったライヴ・クリップが溢れかえり、肝心の盤ヴァージョンがアップされない結果になったようです。
お聞きになればわかるように、現実を逃避する孤独な魂を歌った曲にはふさわしくない、元気のよすぎるドラムが入ってくるまでの、ギターとヴォーカルだけのファースト・ヴァースは非常にいいムードで、ドラムさえなければなあ、と地団太踏みます。また、ファースト・ヴァースでは、背後で薄く、薄く、かすかに聞こえる程度に弓弾きのベースを入れていて、これがまたクールです。
いまだに名前を記憶できないのですが、クライアン・シェイムズのリード・ヴォーカルの声は好みで、Sugar and Spiceも、サーチャーズ盤があれば十分じゃないかと思いながら、つい聴いてしまうのは声のよさのせいです。
ドラマーは片腕だそうで、義手にスティックをはめて叩いていたようです。そのせいなのか、ドラムはセッション・プレイヤーではなく、素人だろうという音になっていて、じっさいにメンバーのプレイかもしれません。でも、ほかについては、さあてね、です。Up on the Roofにはかなりの数の楽器が使われていて、ギターも、地味ながら正確な、プロフェッショナルらしいプレイをしています。
Up on the Roofでは、ハーモニーはアソシエイションの完全ないただき(Cherishを参考にした)ですが、いつもそうだというわけではありません。
クライアン・シェイムズ Sugar and Spice
やっぱりこの曲はけっこうですなあ。サーチャーズも聴きたくなります。アレンジは同じようなものですが、ハーモニーのアプローチが異なります。
サーチャーズ Sugar and Spice
音はよくないのですが、当時のイギリスのコンソール(インプットはたった4チャンネル!)とカッティング・レイズ(おいおい、テープに記録しながら同時にカッティングもやるのかてなもので、完璧な「やらせ」)が見られる、ちょっとめずらしいクリップです。
わたしがアップしたものではありませんが、4sharedにステレオ・ミックスがあったので貼り付けておきます。
サンプル The Searchers - Sugar and Spice (Rare Stereo Mix).mp3
◆ カヴァー大喜利 ◆◆
ジェイムズ・テイラーのカヴァーもビルボードにチャート・インしたと思いますが、ライヴ・クリップしかないので貼り付けません。わたしはあまり好きではありませんが、ジェイムズ・テイラーがお好きな方なら、楽しめるでしょう。
いつもはひどいプレイで腹の立つラス・カンケルが、我慢できる程度の仕事をしている珍しいトラックでもあります(エンディングのフィルインはダサダサで、やっぱりお里が出たな、と苦笑する)。リー・スクラーはいつものとおりで、ムッとなります。あのずるずる引きずるような音はなんとかならんのでしょうかね。たまにはパシッとピッキングしたらどうだ>スクラー。やっぱりできないんだろうな。ジョー・オズボーンの爪の垢でも煎じて飲みやがれ。
ああだこうだいいつつも、エンディングにかけてのストリングスは妙に印象に残り、しばらく頭にこびりついて困りました。アレンジとコンダクトはアリフ・マーディン。
キャロル・キングも、Writerでセルフ・カヴァーしています。この人のピッチとリズム感の悪さが露骨に出たトラックで、わたしはご免こうむりますが、世の中にはバッド・グルーヴに強い耐性を持っている健康自慢の方もいらっしゃるので、そういう方には面白いのかもしれません。わたしはひ弱なので、こういうのを聴いていると鬱病になり、自殺してしまいます(ならさっさとやれ、というご意見もございましょうが)。
トニー・オーランド&ドーンのヴァージョンというのもあります。例によってノーテンキな大馬鹿サウンドですが、ジェイムズ・テイラーやキャロル・キングを聴くぐらいだったら、わたしはトニー・オーランドのアホな歌のほうをとります。しかし、あの内向的な歌詞から、どうやってこのアレンジが出てきたのかと思います。ぜんぜん歌詞なんか知ったことではないのでしょう。
あんまり馬鹿馬鹿しいから、座布団一枚、サンプルにしちゃいます。聴いたあとで、馬鹿馬鹿しいなんて抗議しても無駄です。あらかじめ馬鹿馬鹿しいと明言したのですから。
サンプル Tony Orlando & Dawn "Up on the Roof"
人混みのなかで知り合いの後姿を見たように、このスネアのバックビートは聴き覚えがあるなあ、とは思うのですが、だれなのかわからず、いらいらしてしまいました。判明したところで、別の曲のバックビートにそっくりだというだけで、名前までわかる保証はないのですが……。うん? スティーヴ・ジョーダン? 連想でたどり着いたのは、Felix CavariereのCastle in the Airでした。
ドラムのタイムについては留保するとして(2&4はいいが、フィルインがややearlyで、寸詰まってしまったものがある)、ベースとアコースティック・リズムが作るグルーヴはなかなかけっこうだと思います。それで、つい、この馬鹿ヴァージョンを聴いてしまうのでしょう。こういうのにあわせて一緒にギターをストロークすると、トランス状態に入って気持よかったりします。
いったい、いつのものかわかりませんが、ビリー・ジョー・ロイヤルのものもあります。これはもうひどさもひどし、聴いて損したというやつです。なんでこんなリズム・アレンジにしたのやら、チープで涙が出ます。
もっとひどいのがニール・ダイアモンドの1995年のアルバム、Up on the Roof: Songs from the Brill Buildingに収録されたヴァージョンです。タイトルに惹かれて、ノスタルジーから聴いてみたくなる方もいらっしゃるかもしれませんが、「振り込み詐欺の被害が増えています。あなたのちょっとした心がけで犯罪を防ぐことができます」てなもので、ちょっとした自制心を働かせれば、腹を立てずにすみ、結果的に健康な人生を送れるでしょう。
最後に、よりよってなぜこのわたしが二度も続けてダスティー・スプリングフィールドをほめるのだ、とボヤきつつ、クリップを貼り付けます。ひどいのを立て続けに聴くと、だんだん評価基準が下がってきてしまうのでしょう。
ダスティー・スプリングフィールド
あとでなにか思い出して補足するかもしれませんが、ファンファーレは抜きで、ローラ・ニーロのカヴァー曲のオリジナル探求はこれにて完了します。お退屈様でした。
ローラ・ニーロ
Gonna Take a Miracle
ローラ・ニーロ Christmas & Beads of Sweat国内盤
魂の叫び(紙ジャケット仕様)
ローラ・ニーロ Christmas & Beads of Sweat
Christmas & Beads of Sweat
クライアン・シェイムズ
Sugar & Spice
トニー・オーランド&ドーン
Candida/Dawn Featuring Tony Orlando
パーシー・フェイス Theme for Young Lovers
テーマ・フォー・ヤング・ラヴァーズ
ジェイムズ・テイラー
The Best of James Taylor
(中身より、クレジットを眺めて得るものがあった。リー・ハーシュバーグがユナイティッド・ウェスタン以外のスタジオで録音したものがある)
キャロル・キング
Writer (Dig)