ローラ・ニーロのR&Bカヴァーとオリジナル11 Up on the Roof 前篇
 
現在流布しているローラ・ニーロのGonna Take a MiracleのCDには、LPや初期のCDには収録されていなかった、Ain't Nothing Like The Real Thing(マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル)、(You Make Me Feel Like) A Natural Woman(アリサ・フランクリン)、O-o-h Child(ファイヴ・ステアステップス)など四曲が、ボーナスとして収録されています。

しかし、すべてライヴで、ローラ・ニーロのピアノだけ、Gonna Take a Miracleのアウトテイクではありません。したがって、音の手触りもまったく違います。とくに出来のいいものはないのですが、不思議に客には大ウケ。こういう客ばかりだとシンガーは楽です。わたしは、ドラムもベースもなしで思いきりがっかりした新宿厚生年金のローラ・ニーロを思い出し、暗い気分になりました。ともあれ、一曲いってみます。

ローラ・ニーロ Up on the Roof ライヴ


音楽を音のレイヤーとして捉えている人間としては、こういう奥行きも厚みもない音は、好きとか嫌いとかいう前に、守備範囲外です。

この曲がむやみに客にウケているのは、他の曲と違って、すでにスタジオ・ヴァージョンがあり、ファンにはおなじみのレパートリーだったからでしょう。スタジオ録音は一聴に値します。

ローラ・ニーロ Up on the Roof スタジオ


ライヴとは月とスッポン、こういう風に音が秩序だった層を成しているものがすなわち音楽であるというのがわたしの認識です。トラックのみならず、ローラ・ニーロ自身のオーヴァーダブと考えられるハーモニーもすばらしいの一言。アレンジ、コンダクト、プロデュースはアリフ・マーディン。

もう盤を叩き売ってしまったのでどれがだれやらわかりませんが、ドラマーはロジャー・ホーキンズまたはディノ・ダネリ、どちらに当たってもフィリーの録音のような悲惨なことには絶対になりません。どうしてフィリーくんだりにいったのか、愚策というべきでしょう。

この曲が非常にうまくいったので、ソングライターとして有名になった人にとってはややリスキーな、カヴァー曲だけで構成したアルバムを録音してみようという気になったと想像されます。Up on the Roofが収録されたChristmas and the Beads of Sweatのつぎに、Gonna Take a Miracleが録音されているのです。

◆ オリジナル、ヒット・ヴァージョン ◆◆
Up on the Roofは、じつはR&Bと呼んでいいかどうか微妙な境界線上にある曲です。作者はジェリー・ゴーフィンとキャロル・キングで、Loco-Motionのリトル・エヴァが最初に録音しています。クリップは見つからないので、久しぶりにサンプルをアップしました。

サンプル Little Eva "Up on the Roof"

似たようなスタッフだから当然といえば当然ですが、サウンドも歌い方も、たとえばクッキーズなどによく似た、いかにもNYガール・グループというムードで、これがヒットしなかったのはやや意外です。でも、調べてみたら、シングル・カットすらしていなくて、Loco-Motionのアルバム・トラックとしてリリースされただけのようです。なんとももったいないことをしたものです。

最初のヒットしたのは、リトル・エヴァ盤と同じころに録音された黒人コーラス・グループ、ジェリー・ゴーフィンとキャロル・キングにとってはお得意さんだったドリフターズ(というか、楽曲選びはかれらのプロデューサーだった、ジェリー・リーバー&マイク・ストーラーでしょうけれど)のヴァージョンです。

ドリフターズ


ドラムズはゲーリー・チェスターとしているソースがあります。NYにはちゃんとプレイできるプロが何人もいたのに、と、また死児の年を勘定するようにフィリーのドラマーへの不満がぶり返します。

ローラ・ニーロのほかのアルバムは、いいですか、ゲーリー・チェスターでしょ、バーナード・パーディーでしょ、ディノ・ダネリでしょ、みんなすばらしいドラマーです。LAでゴミ・ドラマーとやっていたキャロル・キングやジョニ・ミッチェルやジェイムズ・テイラーといった、だるくて死にそうになる駄目グルーヴ・シンガーたちとはわけが違うのです。

それが、フィリーなんぞにいったせいで、あのザマですからね。いまだに腹が立って仕方ありません。名盤になりえたかもしれないものが、キャロル・キングやジェイムズ・テイラーにすら劣るバッド・グルーヴになってしまったのだから、これを痛恨といわずになにを痛恨というのか、です。

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手前はリトル・エヴァ。うしろは、左から、楽曲出版社オールドン・ミュージックの共同経営者であるドン・カーシュナーとアル・ネヴィンズ、オールドンと出版契約をしていたジェリー・ゴーフィンとキャロル・キング夫妻。

◆ ジェリー・ゴーフィンぶり ◆◆
今日はもうこれ以上べつのヴァージョンを検討する余裕はないので、歌詞を貼り付けておきます。

When this old world starts getting me down
And people are just too much for me to face
I climb way up to the top of the stairs
And all my cares just drift right into space
On the roof, it's peaceful as can be
And there the world below can't bother me
Let me tell you now

When I come home feelin' tired and beat
I go up where the air is fresh and sweet (up on the roof)
I get away from the hustling crowd
And all that rat-race noise down in the street (up on the roof)
On the roof, the only place I know
Where you just have to wish to make it so
Let's go up on the roof (up on the roof)

At night the stars put on a show for free
And, darling, you can share it all with me
I keep a-tellin' you

Right smack dab in the middle of town
I've found a paradise that's trouble proof (up on the roof)
And if this world starts getting you down
There's room enough for two
Up on the roof (up on the roof)

ジェリー・ゴーフィンは、ロックンロール史上もっとも才能ある作詞家のひとりですが、この曲も彼の代表作のひとつに繰り入れていいでしょう。

美点はいくつもありますが、形式的な面では、ファースト・ヴァースのfor me to faceとright into spaceの韻は、さすがはゴーフィン、ハッとさせられます。凡愚には思いつかない組み合わせです。

ジョニー・マーサーは、韻にかけてはアメリカ音楽史上、右に出るものなし、という冴えを見せましたが、たぶん、そのへんも意識していたであろうロックンロール第一世代のジェリー・リーバーは、韻を踏まない作詞で一世を風靡しました。そのつぎの、というほども離れていない、すぐ直後に登場したジェリー・ゴーフィンは、隔世遺伝というか、先祖返りというか、ジョニー・マーサーばりの意外な韻を踏む歌詞を書いたわけで、このあたりの歴史の流れは興味深く感じます。

次回、もういくつかUp on the Roofを聴き、長かったローラ・ニーロ・シリーズを終えます。


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ローラ・ニーロ
Gonna Take a Miracle
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ローラ・ニーロ Christmas & Beads of Sweat国内盤
魂の叫び(紙ジャケット仕様)
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ローラ・ニーロ Christmas & Beads of Sweat
Christmas & Beads of Sweat
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リトル・エヴァ
Locomotion
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ドリフターズ
Up on the Roof / Under the Boardwalk
Up on the Roof / Under the Boardwalk
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by songsf4s | 2011-02-07 23:56