アル・クーパーのR&Bカヴァーと異なり、アルバム"Gonna Take a Miracle"でカヴァーされた曲の多くは出所がわかりやすいのですが、例外が二曲だけあります。ひとつはDesiree、もうひとつは今回のThe Windです。
まずはローラ・ニーロのカヴァーから。
ローラ・ニーロ The Wind
これについてはあとで書くことにして、オリジナルへと移動します。
◆ ミッシング・リンク ◆◆
オリジナルはノーラン・ストロング&ザ・ディアブロズというコーラス・グループの1954年の録音です。これにたどり着くまでにエラい手間がかかったのですが、それは愚痴というもの。つべクリップすらあるものに気づかなかったこちらの手際が悪かったのでしょう。
ノーラン・ストロング&ザ・ディアブロズ The Wind
まだドゥーワップという分野ないしはスタイルが確立される前の録音なので、やはり微妙に異なった雰囲気で、「プロト・ドゥーワップ」とでもいうべきスタイルだと感じます。ノーラン・ストロング&ザ・ディアブロズは、ドゥーワップ全盛期にも活躍するので、その時期の録音はやはり中道を行く音になっています。
聴いた瞬間、スモーキー・ロビンソンを思い浮かべました。じっさい、ノーラン・ストロングはデトロイト・ベースのアーティストで、スモーキー・ロビンソンに強い影響を与えたのだそうです。
さらに興味深いことに、ノーラン・ストロングはクライド・マクファーター(ドリフターズの初代リード・テナー)に強い影響を受けたといわれています。クライド・マクファーターとスモーキー・ロビンソンという、わたしの好きな二人のブラック・シンガーが、ノーラン・ストロングを介してひとつの系譜としてつながり、すっきり気分爽快でした。このつながりは、スタイルの類縁性としてはっきりとあらわれています。
このところ、地味なものばかりで恐縮ですが、ほかのものはみなクリップがあるので、ノーラン・ストロング&ザ・ディアブロズのThe Windの別テイクをサンプルにしました。
サンプル Nolan Strong & the Diablos "The Wind" (outtake)
こちらのほうがリリース・ヴァージョンより微妙にテンポが速くなっています。
◆ ジェスターズ ◆◆
ノーラン・ストロングにたどり着く以前に、これがオリジナルかと誤解したヴァージョンがありました。
ジェスターズ The Wind
ファルセット・ヴォーカルがないのが、ノーラン・ストロング盤との目立った相違で、そのために、オーセンティックなドゥーワップの感覚があります。
もうひとつの大きな違いは、スネアのバックビートです。ノーラン・ストロングとジェスターズのあいだには、リトル・リチャード、チャック・ベリー、エルヴィスという大峡谷が横たわっているのです。
ローラ・ニーロ盤に戻ります。ドゥーワップをカヴァーしたDesiree同様、オリジナルは様式化されているのに対して、ローラ・ニーロのヴァージョンはよりプライヴェートかつインティミットなレンディションになっています。
それがローラ・ニーロのスタイルだともいえますし、視野を広げてみるなら、それが彼女の時代のパラダイムだったともいえます。かつて様式化された歌を書いていたニール・セダカやキャロル・キングでさえ、プライヴェートでインティミットなほうへと移行した時代だったのですから。
ローラ・ニーロ
Gonna Take a Miracle
ジェスターズ
Doo Wop Box