前々回のクリスマス・ソング・サンプラーは、25日いっぱいでアクセスがゼロになるだろうと思っていました。31日まで有効とはしたものの、その必要もなく、それ以前にアクセスはなくなると予想していたのです。
しかし、今日見たら、まだアクセスがあり、やっぱりChirstmas everydayという人もいらっしゃるんだなとニヤニヤしてしまいました。いちおう、最後に、大晦日の歌であるWhat Are Doing New Year's Eveと、元旦の歌であるLet's Start the New Year Rightも入れてあるので(欧米文化の文脈では正月もクリスマスの最中だから、大晦日や元旦の歌はクリスマス・ソング)、「まだ間に合うクリスマス・ソング集」「いまからでも遅くないクリスマス・ソング集」になっています。
大晦日の歌の定番は、ご存知のようにAuld Lang Syne、すなわち「蛍の光」です。これもクリスマス・アルバムにはなんらかのヴァージョンが収録されていることが多いようです。うちには一握りしかないのですが、面白いものがあれば、一両日中にサンプルにするかもしれません。
◆ Do you hear what I hear? ◆◆
ローラ・ニーロのR&Bカヴァー、今回はA面の二曲目、またはメドレーと考えるなら、アルバム・オープナーの後半であるThe Bellsです。クリップは前回すでに貼り付けてありますが、コピーするだけのことなので、もう一度どうぞ。
ローラ・ニーロ&ラベル I Met Him on a Sunday~Bells
「I'll never hear the bells if you leave me」とファースト・ラインにあるように(というか、厳密にはコーラスから入っているのだが)、メドレーの前半であるI Met Him on a Sundayとは打って変わって、生きるの死ぬのという修羅場になりかねないエモーションを歌っています。
「Do you hear what I hear/When your lips are kissing mine」というラインから、ふと、三島由紀夫の長編『音楽』を思い出しました。わたしが聴いているものが聴こえるか、とは三島の『音楽』の文脈では性的な暗喩です。三島の『音楽』は「音楽が聴こえない」という若い女性の治癒の物語でした。そういう方向で解釈するかどうかは、案外、この曲の印象を左右するかもしれません。
◆ オリジナルズのオリジナル ◆◆
The Bellsのオリジナルは、モータウンのヴォーカル・グループ、オリジナルズです。ややこしくて困ります。
サンプル The Originals "The Bells"
さらに話をややこしくするようですが、はじめてこれを聴いたときは、これがモータウンかよ、まるでフィリーじゃないか、と思いました。オリジナルズはヒットがあまりなくて、ビルボード・トップ40に届いたのは、The Bellsのほかにはあと一曲だけです。
オリジナルズ Baby I'm for Real
The Bellsと似たような手ざわりの曲で、これまたモータウンというよりフィリー、わたしはハロルド・メルヴィンを連想しました。
ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルーノーツ If You Don't Know Me by Now
なんでしょうかね。オリジナルズがヒットを放ったのはフィリーが台頭してきたタイミングなので、万一フィリー・サウンドにコテンパンにやられた場合の保険として、モータウンはフィリー風のアーティストをつくっておいた、なんていうのはうがちすぎでしょうか。アップテンポの曲がないわけではないのですが、やはりモータウン味は稀薄なのです。
オリジナルズ Good Lovin' Is Just a Dime Away
なかなかけっこうな曲ですが、これを聴いて、ブラインドでレーベルを当てられる人はそれほど多くないと思います。オリジナルズはモータウンのなかのフィリー的鬼子として生き、鬼子として葬られてしまった、というと、やっぱりうがちすぎかもしれませんが。
◆ 男ぶり、女ぶり ◆◆
フィリーで録音されたローラ・ニーロのGonna Take a Miracleに、モータウンの曲でありながら、強いフィリー・フレイヴァーを放つオリジナルズのThe Bellsが収録されたというのは、なんだか妙な感じがするのですが、まあ、そのへんは考えすぎずにおきます。
ローラ・ニーロとラベルのヴォーカル・レンディションは、そういうこととは関係なく、この曲でもおおいなる魅力を放っています。あくまでもローラ・ニーロ中心の静かな前半、ハティー・ラベルとラベルも前に出てきて、ローラ・ニーロと丁々発止のインターアクションをする後半、ともにすばらしい出来で、Gonna Take a Miracleというアルバムのひとつの山場、ハイライトになっています。
歌詞のいっていることから、以前は単純に、これは女の歌じゃないか、男がやると、演歌のコーラス・グループが女言葉の曲を歌うみたいで奇妙だ、と考えていました。こういう強く深いエモーションは女のものではないかと感じたのです。
でも、三島由紀夫の『音楽』のように、ベルの音に性的な含意があるとしたら、逆に女の歌ではありえないことになります。この音が聴こえないのかい、というのは、男が性的に未成熟の女に云う言葉です。
いや、今日は表面的なところで引き上げます。第一印象では、The Bellsは女が歌う曲であり、ローラ・ニーロとラベルはみごとに歌った、でした。じっさい、歌詞を弄り回して考えなければ、それでいいはず、この勝負、ローラ・ニーロの判定勝ちだと思います。
ローラ・ニーロ
Gonna Take a Miracle
オリジナルズ
Very Best of
ハロルド・メルヴィン&ザ・ブルーノーツ
Harold Melvin & The Bluenotes - Greatest Hits