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ローラ・ニーロのR&Bカヴァーとオリジナル1 I Met Him on a Sunday
 
ニック・デカーロのItalian Graffitiのオリジナル探しはまだ完了していないのですが、もう飽きてしまったので、投げ出します。

残る二曲のうち、Angie Girlはスティーヴィー・ワンダーがオリジナルです。この曲を飛ばしたのは、ニック・デカーロ盤はなにも加えていないからです。むしろ、歌が下手な分、オリジナルよりつまらなくなっています。ドラムもスティーヴィー・ワンダー盤のほうが好みです。

ニック・デカーロ Angie Girl


スティーヴィー・ワンダー Angie Girl


むろん、わたしのようにスティーヴー・ワンダーにうんざりした人間は、ニュートラルでクセのないニック・デカーロ盤のほうが疲れなくて助かりますが、それは好き嫌いの問題にすぎません。アレンジとサウンドの工夫によって、カヴァーとして価値のあるものになったとはいいかねます。そもそも、スティーヴィー・ワンダーのものを二曲もカヴァーする意味があるのか、とも感じます。

最後の曲、Tapestryは、オリジナルを突き止められませんでした。オリジナルもなにも、そもそも、この曲の他のヴァージョンというのが見つからないのです。もちろん、わたしの探索が甘いのかもしれません。しかし、ニック・デカーロがつくったのではないものの、ニック・デカーロ・ヴァージョンがオリジナルである可能性が高いと考えています。

ニック・デカーロ Tapestry


以上、しまらない締めくくりですが、ニック・デカーロ企画終了の弁でした。

◆ 奇蹟が起きないかぎりは ◆◆
今回から、ニック・デカーロという思いつきの脇道に入る前に、これをやろうと思っていた盤に移ります。ローラ・ニーロのGonna Take a Miracleという、R&Bカヴァー集です。

フィラデルフィア録音らしく、サウンド面ではとくに出来のいい盤ではありませんが、ローラ・ニーロとラベルのヴォーカル・レンディションについては、すばらしい曲がいくつかあります。

アル・クーパーのR&Bカヴァーとは異なり、だれでも知っているような曲も歌っていて、オリジナル探求という面では、難度はすこし落ちます。それでも、いったいこんな曲、どこから出てきたのだというものもあり、全部聴いてみようと思い立って、それが満願になるまでにはずいぶん時間がかかりました。

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今回もオリジナル重視で、ローラ・ニーロのカヴァーについては、できるだけクリップを貼り付ける方針でいきます。

ご存知ないと混乱する恐れがあるので、はじめに注釈しておきます。このGonna Take a Miracleというアルバムでローラ・ニーロと共演したラベルというのは、シンギング・グループの名前です。問題はリーダーの名前もパティー・ラベルだということです。彼女のバッキング・グループとして生まれたのです。

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このシリーズでは、ラベルといえばグループを指し、リーダーをいう場合は、パティーまたはパティー・ラベルとフルネームを書くことにします。

◆ ローラ・ニーロのカヴァー ◆◆
アルバム・オープナーからしてメドレーで、ちょっと不都合なのですが、とにかく、ローラ・ニーロのカヴァーからどうぞ。

ローラ・ニーロ&ラベル I Met Him on a Sunday~Bells


トッド・ラングレンのR&Bメドレーと同じように、接続する二曲のキーをそろえるのではなく、遷移部をつくって、そこでトランスポーズをしていますが、なんとなくローラ・ニーロのスタイルに合っていて(よくこういう歌い方をする)、無理やりな印象はありません。

トラック・リスティングスも、CDのトラックの切り方も、この二曲はメドレーの扱いではなく、別個のトラックとして扱っていますが、これはやはりつなげるべきでしょう。二曲が合体して、ひとつのイメージを形成しています。

歌詞の面でも、はじめからこの二つをつなげて考え、接続方法をつくってから録音したのだろうと思います。ミドル・ティーンの一週間の恋(I Met Him on a Sunday)と、ハイティーンないしは二十歳前後の、永遠の愛を誓う恋(The Bells)の対比です。両方とも経験あり、という方も多いのでは?

◆ 稚さ、拙さの魅力 ◆◆
I Met Him on a Sundayのオリジナルはシレルズです。作者はシレルズのメンバー四人、彼女たちのデビュー曲です。つまり、まだWill You Love Me Tomorrowの大ヒットはなく、無名でした。

サンプル The Shirelles "I Met Him on a Sunday"

落語でいうところの「とんとんオチ」というやつで、ものごとが順番どおりに進んで、ストンと終わっているところに愛嬌があり、シレルズの友だちのお母さんも、素人の曲にしては面白いかも、とプレスしたのでしょう。

通りがかりの侍「ちと、ものを尋ねる。そこの稲荷の縁日はいつか?」
店の手代「へい、よく存知ませんが、六日だったと思います」
侍、礼を言って去る。
番頭「おい、嘘を教えちゃいけないよ。ご縁日は九日と十日だよ」
手代、あわてて表に出て、さっきの侍を捜す。
手代「あの、そこをいく人、って、みんなそこを行くなあ。あの、さっきのお侍様!」
侍「なぬかようか?」
手代「九日、十日」

はじめの「いつか?」から勘定してくださいね。これがとんとんオチの典型例だそうです。

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I Met Him on a Sundayはそういう感じで、日曜に彼に出会い、月曜にはまた会いたくなり、火曜に彼のいどころを見つけ、水曜にはデートをし、木曜にはキスしたけれど、金曜には彼は待ちぼうけを食わせ、土曜にはバイバイとわかれた、という歌詞しかなく、それをドゥーランデ、ランデ、ランデ、パパドゥーランなどのドゥーワップ・ナンセンス・シラブルズで引き伸ばしているだけです。

よくある、目立たないけれど、ちょっとチャーミングなドゥーワップ・ソングという感じで、これはこれで悪くないと思いますが、たいしたヒット・ポテンシャルがあるようには聞こえません。よくまあ、デッカがマスターのリースを受けたものだと思います。

そもそも、歌がどうの、ヴォーカル・アンサンブルがどうの、などというグループではなく、ベンチの楽曲選択がよかっただけなので、セプターに移ってゴーフィン=キングの出来のいいもの(ティーネイジャーの心理から万古不易の真理を抽出したジェリー・ゴーフィンの手腕がチャート・トッパーになった最大の理由だろう)にあたるという幸運がなければ、あえなくノン・ヒット・アーティストの墓場に直行したのではないでしょうか。A&Rのルーサー・ディクソンのおかげです。

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左からルーサー・ディクソン、セプター・レコードのフローレンス・グリーンバーグ、チャック・ジャクソン

◆ ローラ・ニーロ盤の工夫 ◆◆
オリジナルと比較してみると、ローラ・ニーロ盤の美点が明瞭になります。シレルズがストレートにやっているのに対して、ローラ・ニーロ盤は構成を一工夫しています。

ローラ・ニーロ盤が、歌詞のあるところはア・カペラのリード持ちまわりにしたのは、けっこうなアイディアだったと思います。ペラペラした軽い曲だったものに、オープナーらしいウェイトを加える役割を果たしています。ラベルの三人のブラック・シンガーらしい濃さと、ローラ・ニーロの澄んだ声の対比も、ア・カペラのおかげで強調されています。

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いえ、べつにア・カペラが好きなわけではないのです。逆にそれほど好きではないから、このアレンジはいいと感じます。頭から尻尾までぎっしり百パーセントのア・カペラだとはじめからわかっている場合はべつですが(そういうのはぜったいに聴かない!)、そうではないケースでは、ア・カペラが出てくると、サスペンドされた感覚が生まれます。この状態はいつ終わり、ノーマルなパートがはじまるのだろうか、と頭の片隅で考えながら聴いてしまうのです。

健さんがドスを抜くまでの我慢のようなサスペンドです。あるいは、たとえば、プロコール・ハルムのA Salty Dogのヴァースにおける、B・J・ウィルソンの我慢にも似ています。ドラマーはしばしば、ああいう我慢をしなければならないハメに立ち至ります。

プロコール・ハルム A Salty Dog (lip-sync video)


しかし、我慢のおかげで、ピアノやカウベルが入ってきて、ノーマルになった瞬間(話はすでにローラ・ニーロに戻っている)、サウナから外に飛び出したような快感があります。ローラ・ニーロ盤のシレルズ盤とのもっとも大きな違いは、この緊張と解放のメリハリです(なんだか桂枝雀の受け売りみたいだ!)。

高校生が自作曲を、友だちのお母さんの小さな会社のために録音するという、いたって賭金の低い状況で生まれた、カジュアルな、あるいはノンシャランな曲に、構成を工夫することである格を与えることに成功した「ベンチワークの勝利」といえるでしょう。

いずれべつの曲で説明しますが、このトラックがドラムレスで、カウベルが入っているだけだったことも成功に寄与した、と嫌味をいっておきます。

ほんとうはつながって出てくるBellsも、ここでいっしょに扱ったほうがいいのでしょうが、その余裕はないので、次回に先送りとします。


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Gonna Take a Miracle
Gonna Take a Miracle


ライノ Best of The Girl Groups(シレルズは再録音ベスト盤という偽商品があるので、聴いたことのない盤は怖くて選べず、オリジナル録音のI Met Him on a Sundayが収録されているとわかっている、このライノによるガール・グループ・アンソロジーをあげおく)
The Best Of The Girl Groups, Vol. 2
The Best Of The Girl Groups, Vol. 2
by songsf4s | 2010-12-26 22:42